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国民

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第五章

「どう見てもな」
「あっちの文字だよね」
「韓国、それにな」
「北朝鮮のな」
「あれっ、あの人達国民って言ってるのに」
「何でハングル使ってるんだ?」
 二人はこのことにすぐに違和感を感じた。
「どうしてなんだ?」
「ちょっとおかしいよね」
「半端じゃなくおかしいだろ」
「そうだよね」
「国民ってな」
 大貴は怪訝な顔になって歩にまた囁いた。
「御前どういう人達だと思う?」
「日本人、だよね」
 歩はこう大貴に返した。
「やっぱり」
「そうだよな」
「それで何でかな」
「ハングル文字があるんだ?」
「漢字や平仮名が多いけれど」
「どうしてハングルも混ざってるんだ?」
「ええと、アメリカ軍は出て行けって言うからには」
 歩は彼等が今現在も叫んでいることから述べた。
「この場合は」
「アメリカと今ガチで揉めてる国でな」
「ハングル文字使う国って」
「一つしかないよな」
「北朝鮮じゃない」
 もうこの国しかないというのだ。
「それこそな」
「そうだよね」
「じゃああの人達ってな」
「北朝鮮の人達?」
「日本人じゃなくて」
「日本の国民じゃないのかよ」
「おいこら!」
 彼等が話しているとだ、デモ隊の方からだった。怒声が来た。
 そしてだ、彼等のうち数人がえらい剣幕で来た。もうその表情も歩き方も今まさに襲い掛からんばかりだった。
 それを見てだ、歩は大貴に顔を青くさせて言った。
「危ないよ、ここは」
「ああ、何か尋常な態度じゃないな」
「そうだね、じゃあね」
「逃げるか」
「そうしよう、すぐに」
「今のうちにな」
 大貴も応えてだ、そしてだった。
 二人はすぐにだ、迫る彼等から逃げ去った。それこそ脱兎の如き勢いだった。
 基地の方から逃げてそのまま駅の方まで逃げてだった、そのうえで。
 電車に乗ってようやく落ち着いた、そうして翌日鈴木と若井に自分達が見たものを話した。するとだった。
 サッカー部の二人は彼等にだ、こう言った。
「わかったな、よく」
「だからやばいって言ったんだよ」
「あの連中国民じゃないからな」
「まともな連中じゃないからな」
「ひょっとしなくてもね」 
 歩は自分達に言う鈴木と若井にあえて自分の推察を話した。
「あの人達の中に」
「北朝鮮の工作員いるんだよ」
「他の連中も大抵そのシンパだよ」
「御前等も北朝鮮のことは知ってるだろ」
「あそこがどんな国かってな」
「とんでもない国じゃない」
 歩は二人に真顔で返した。
「核兵器だの飢餓だの世襲の独裁だの拉致だの」
「そんな国の工作員なんてな」
 それこそとだ、大貴も言った。 
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