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才能売り~Is it really RIGHT choise?~

作者:流沢藍蓮
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Case3 七夕綺譚~やさしきいのちのものがたり
  Case3-1

〈Case3 七夕綺譚――やさしきいのちのものがたり〉――高梨裕理

 私には叶えたい願いがある。でもそれは私では叶えられない。私には今現在、力がないし、大人たちだって叶えられない。それだけ難しい願いがある。
 でも、でもだよ、もしも。もしもこの命を対価に、願いを叶えられたのならば。
――私はこの命なんて要らないって、そう、思ったんだ。

  ◇

 才能屋。その話を最初に聞いた時、私は夢かと思った。
 そこでは才能が取引の材料にされるという。しかし才能以外も取引の材料として選べるという。
――等価交換。
 ならばそこには、私の願いを叶える鍵がある。私が申し出る交換は命と命、ほら、等価でしょう?
 私の住んでいる町は戸賀谷。これまでその話を聞くまで、私はそんな店が自分の町にあるなんて知らなかった。地元ではあまり有名ではないのに、外部の人間からすると才能屋は「実在する都市伝説」として結構有名らしい。私にその話を教えてくれた大学医学部のクラスメートも、外部からの転校生だった。新しい環境に慣れぬ彼女に、私が積極的に話しかけたから彼女と私はすぐに仲良くなった。だから私は「委員長」って呼ばれるんだな。真面目だし、優しいし、困っている人を放っておけないし。
「裕ちゃん、知ってる?」
 最初はその一言からだった。転校生――南野愛華は、何げない調子で私にそう訊ねてきたのだ。私は「何?」と愛華に返す。すると彼女はこんな話を持ってきた。
「才能屋さんの、話。この町、戸賀谷にあるんだよ。えっ、もしかして知らないの? 自分の町のことなのに、ちょっと意外だなぁ」
 愛華は明るい子だった。転校して来た当初は緊張していたみたいだが、今こうして見ると彼女の明るさ、溌剌(はつらつ)さに、私の心まで温かくなる。愛華は明るい太陽のような女の子だった。
 そんな愛華は、みんなに愛される温かい華は、言うのだ。
「じゃ、説明してあげるね。ちなみに愛華は利用したことないよ。愛華、そこまでの願いなんてないし、代わりに差し出すものも持ってないんだからぁ」
 そして愛華は明るい声で、弾むように話してくれたのだ。戸賀谷の駅から歩いて十分ほど、木製の落ち着いた店のことを。そこの店主は自称「悪魔」で、訪れた人の願いを叶え、代わりに訪れた人の持つものの中から、願ったものと同じ程度のものを対価としてその人の中から奪っていく。才能屋、と銘打ってはいるが、実際才能以外のものを交換した客もいたらしい。その仕組みはどうであれ、等価交換なのだ、等価交換。……私は現実主義者である。そんな眉唾ものの話、信じたくはないけれど。あまりに現実味のあるその話を、いつしか私は本気で信じ始めていた。
 その話を聞いた時から、才能屋、等価交換の二つの言葉が私の頭の中から離れなくなった。私には叶えたい願いがあった。だから医学部に進んだけれど、自分で叶えてやりたいというプライドもあった。まだあの子には時間があったし、だから私は才能屋を想い焦がれつつも、医学部での勉強にひたすら励んだ。
 高梨裕斗。私の救いたい子の名前。彼は私、裕理の弟だ。生まれつき病弱でろくに学校に行ったこともないけれど、「将来は物語作家になりたい」という夢を持つ子。私は彼を救いたいから医学部に行った。いつかその病気が治るように、私の手で治せるように。私は彼のために自分の人生をささげたと言っても過言ではないから裕斗はそのことを悩んでいるようだったけれど、これが私の選んだ道なんだ、気にしなくていいのに、優しいあの子は気にしてしまう。私はそんな裕斗が愛おしくてたまらなかった。だから勉強を頑張れるんだ。
 愛華にも事情は話した。あの子が元気なときに、あの子の病室に連れていったこともあった。あの子は年がら年中ノートにお話を書いていて、私はそれを読むのが楽しみだった。身内贔屓と言われても構わない、あの子は文才があるよ、絶対。
 愛華はその辺りの事情をよく知っている。だから私にその話をした後、軽く釘を刺すように言った。
「裕ちゃん、裕斗くんのことがあるからって、早まって才能屋に駆け込むことはやめてね? 才能屋さんに頼っても、必ずいい結果につながるとは限らないんだから」
 そんな愛華にもちろん、と私は答えた。
「才能屋とやらに頼るよりもまず、私は私の手で裕斗の病気を治したい。才能屋に頼るのは最終手段だってば。安心していいよ?」
「愛華はあくまでもゴシップの一つとして話しただけだから」
「わかったってば」
 心配げな愛華にそう答えて、私はちらりと時計に目をやった。あ、まずい、授業が始まっちゃう。
「これから五限の授業が始まるから私は行くね。愛華は六限だっけ? じゃあ放課後また会おうよ。じゃあね」
 そして私は教科書やら何やらを持って教室へ急ぐ。根を詰めすぎないでねと、愛華の声が追いかけた。
 
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