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獣篇Ⅲ

作者:Gabriella
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45 Have a nice dream*

一段落着いてから、(おもむろ)に彼女が口を開いた。

_「…久しぶりの再会ね、零。元気にしてた?」

ええ、そうね。と返し、私は座り方を崩した。

_「私は何だかんだで今は色々兼業してるわ。とりあえず今の拠点は鬼兵隊だけれども。…(あなた)は今までどうしてたの?…私がいなくなってから(やつ)が暴走した、とかいううわさも聞いたけど。」


すると彼女は暫くうつむいてしまった。それからしばらくしてやっと口を開いた。

_「…ええ。確かに(やつ)は暴走したわね。後は…(あのかた)が復活なされたわ。私も…あなたが抜けた後すぐに異三郎に着いていくことに決めたから…。」

_「…なるほど。で、今の状況なのね。…私も(かれ)に逢ったわ。…相変わらず今でも奈落(うえ)にレポート提出しなきゃいけなくて。それで仕方なく行ったら運悪く奴らに逢ってね。結局逃げ切れずに厄介な仕事を押し付けられて。」

_「将軍の暗殺…とか?」

_「そう。私の能力を買ってくれるのはありがたいけど、そんなことに使うな、って思うのよね。」

_「確かに。」

_「…でもね、骸。(あいつ)がこの世に戻ってきた元凶に、私がやらかしたことが大きく関わってるの。あれは人生最大の失敗だわ。…そのせいで私たちは攘夷戦争に首を突っ込むはめになってしまったの。(あいつ)は…」

_「…ええ。知っているわ。多重人格障害なのよ。(かれ)の本当の人格は『虚』…でも『松陽(かれ)』は虚という彼自身の人格に抗って生まれた人格…いや存在と言っても過言ではない。つまり…」

_「そう。私たちの師は『松陽』だったわ。でも松陽(かれ)奈落(うえ)に捕まり処刑されてしまったせいで、彼の中にいた元の人格…『虚』がまた再びこの世に戻ってきてしまった。…でも松陽(かれ)が捕まったのは、彼の存在が天導衆(うえ)にバレたから。…つまり(あにじゃ)天導衆(やつら)にバラしたから。…松下村塾(いばしょ)がバレたの。私がここにいることを知った(かれ)が私を連れ戻そうとしてやらかした、との情報を聞いてね。」

_「……そうだったの。零も大変だったわね。…ところで今度、『見廻組』という警察組織が新設されるの。私たちはそこの幹部を務めることになった。」

_「すごいじゃない!…ちなみにいつから?」

_「多分一年後くらい。…でね、今度私、そこの組織の副長になるらしい。」

_「副長!?…さすがだわ、骸。でもあなたは別の名前で就任するんじゃない?」

_「そう。『今井信女』っていう名前で就任するわ。」

_「そうなの…じゃあもしかしたら今度会うかもしれないわね。」

_「…零は、もしかして真選組にいるの?」

_「ええそうだけど…どうして分かったの?」

_「…なんとなくそんな気がした。」

_「…やっぱりあなたに隠すことなんてできないわね。」

_「当り前じゃない。奈落三羽(わたしたち)なんだから、お互い何を考えているか、くらいは理解できるものでしょう?」

_「…まぁね。」

_「で、今回あなたたちが来た理由(わけ)は、『鬼兵隊』に大きく関係しているから、よ。」

_「…どういう意味かしら?」

_「つまりね、…」


と言って信女(かのじょ)が耳を寄せる。

_「幕府の上の方が天導衆(やつら)に、『組織制度を変えろ』とか命令したらしいわ。それで、彼らが第一に狙うのは、『無理難題に対して抗った』やつら、なの。それで追々は鬼兵隊(あなたたち)にも依頼が行くと思うけど、その点は先に言っておくわ。…でね、今回異三郎が仕掛けるのが、異三郎の義弟(おとうと)を真選組に送り込むこと。そしてその義弟(おとうと)をかけて真選組(そちら)見廻組(こちら)で内部抗争を仕掛けて戦力を削った所に奈落(やつら)が介入する、という戦法らしいわ。…奈落(うえ)の卑怯さには前々からあきれていたけれど、ここまでバカだとは思わなかった。でも異三郎はなぜか、この話に乗ったの。何かがおかしいわ。」

_「…そう。なんか厄介なことになってきたわね。天導衆(うえ)は本当に地球(このくに)を乗っ取るつもりのようね。」

_「ええ、そうだわ。でもそしたらあなたは真選組(なかま)を失うことになるでしょう?」

_「そういうことになるわね。…でも私は負けない。あんな奴らになんか、私は負けない。」

_「…でもそんな重大情報を私なんかに流していいの?」

_「ええ。だって私はあなたくらいしかこんなことを相談できる相手がいないから。」


そう。と言って静けさが戻りかけた時、世話人の失礼します、という言葉が聞こえた。信女(かのじょ)がどうぞ、と言うと世話人(かのじょ)がお布団の支度が整いました。と言ってそのまま去ったので、私たちはその言葉に甘えて、寝室に行くことになった。案内されるともうすでにそこには佐々木と晋助(かれ)がいて、談笑している最中だった。

_「ああ、やっと来られましたか。もう夜が更けたので今日はここら辺にして、もう床に就くことにしましょう。私たちは自分たちの寝室に参りますので、高杉殿と零杏殿はこちらのゲストルームにお泊りください。では、いい夢を。」
 
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