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虹にのらなかった男

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P9

「撃て撃て撃てぇ‼ジオンを一歩も通すな!」

ホワイトベースの格納庫。

そこでは下士官がジオンの特殊部隊と交戦していた。

ガンダムの格闘戦データの解析やそれに伴うオーバーホール。

ルナツーにおいて拘束されなかった技術士官がそれらの作業を行っている時だ。

ルナツー司令の命令で━━反抗を防ぐ為かは定かではないのだが━━開放していた片側のMSデッキにジオン兵が侵入しようとしたのだ。

始めに気付いたのはガンダムのコックピットで制御系を弄っていたアオだ。

彼女は優秀だった。

『皆。驚かず、手を止めずに聞いて欲しいっす。
私は今ガンダムのコックピットで制御系の整備中なんすけど。
ジオン兵が侵入しているのをガンダムのカメラがとらえてるっす。
開放されたハッチの300メートル先。
潜入部隊みたいっす。
たぶん直ぐにはこないはず』

技術士官達は冷静に聞いていた。

『誰か武器を持ってきてほしいっす』

それに数人の技術士官がMSデッキ備え付けの武器庫からライフルを取り出す。

ルナツーの士官は反抗か、と顔を青くした。

彼らは事情もわからずエアロックに押し込まれた。

各々が整備を続ける━━━振りをしながら何時でも機体やパーツの影に隠れられるように構えていた。

開戦の狼煙は、ジオン兵が撃ったスモークグレネードだ。

下士官達が物陰に飛び込む。

斯くして、ホワイトベースMSデッキにおいて銃撃戦が繰り広げられる。

あるものは銃を手に取り、またあるものは工具を投げる。

交戦はマゼランが座礁するまで続いた。










side in

『なぁ中尉さんよ。俺達どうなるんだ?』

事前に渡されていたルナツーのゲートに向かう途中、カイ君に聞かれた。

「どう、とはどういう事だカイ君?」

『さっきからホワイトベースから全く返信ないけどよ、まさかあのマゼランに沈められてるんじゃないだろうな?
帰ったら味方の艦砲射撃でお出迎えってのぁゴメンだぜ?』

「それはないよ。流石に新鋭強襲揚陸艦を沈めはしないさ。
どうしても帰りたくないってんならサイド7に帰るかい?」

『そりゃ勘弁』

『お兄ちゃん、本当に大丈夫なの?』

「ああ、でも恐らくホワイトベースは拘留。
士官はAAA級戦犯で全員拘禁。
動けるのは下士官だけって所か…」

『な、なんでそんな事がわかるんだ』

とリュウが言った。

「第一に最高機密の試作機を実戦投入。
更にはその試作機には民間人の素人。
加えてルナツー宙域でCPに無断交戦。
何よりいらだたしいのはルナツーの事なかれ主義のアホ共からすれば最後が一番罪が重いって所だ」

『なんでボク達が悪者なんですか!
あと一歩で、中尉さんのミサイルを打ち落としたのはあのマゼランでしょう!
利敵行為をしたのはあっちですよ!』

ハヤトもかなりご立腹だ。

気持ちはわかる。

俺だって事前に『こう』なると知らなければ当たり散らしていただろう。

「ハヤト君。君は地政学というのを知っているかね?
地理と政治と書いて地政学だ」

『知ってますよそれくらい』

「で、地政学的に考えるとこのルナツーは連邦にとっては重要な場所な訳だけどもジオンにとっては戦略的価値皆無の拠点。
月と地球を挟んでジオンに最も遠い場所。
だが赤い彗星が沈んだとなればジオンはルナツーを重要視してここを攻めてくる。
連邦としてはルナツーには置物であって貰わないと困るんだよ」

『中尉さんは、納得してるんですか?』

「納得は出来ないがあのまま続けてたらマゼランに撃たれていた。
流石に味方の艦を沈めて宇宙海賊になるのは嫌なのでね」

やがて、光が見えた。

この真空の虚無の中、光は星か人工灯のどちらか。

太陽はルナツーの影であり、見えるのは当然文明の光だ。

ただ、その光が煙に乱反射しているとなれば、近付きたくはなくなる。

『なんだありゃ!? マゼランが港で沈んでやがる!』

ルナツーのゲートを覗き込んだカイ君の第一声はそれだった。

ああ…間に合わなかったか…

「ふむ…出港直後にミサイルかメガ粒子砲でも食らったか……それとも工作員が侵入したか…」

『工作員だって!? ルセーブル中尉!俺達はどうしたらいいんだ?』

「リュウ。とにかく全方位で呼び掛け続けろ。
俺はマゼランを見てくる」

『了解!』

side out






リュウとカイはアベルに言われた通り、ゲートの縁で母艦へのコールを続けていた。

『こちらホワイトベース』

『ありゃ、やっと繋がった……。
顔怖いよブライトさん』

『大至急戻ってこい。大仕事が待っているぞ』

アベルはソレを聞きながら、マゼランの検分を進めていた。

「メガ粒子砲…ミサイルの着弾はナシ…。
やっぱりジオンの工作員か…」

MS形態に変形させたアブルホールを座礁したマゼランの艦底に近付ける。

「めり込んではいないのか…」

『中尉さーん。帰投命令だぜ』

アベルはスピーカーから聞こえたカイの声に、検分を一時中断した。

「了解。ホワイトベースに帰投する」

アベルとローザがホワイトベースに着艦しようとすると、管制官…セイラに止められた。

『ルセーブル中尉。そちらのMSデッキはジオンの兵と白兵戦を行ったあとです。
後部デッキにはいってください』

「白兵戦!? ホワイトベースで!?
セイラさん俺の部下は無事なのか!?」

『軽傷者はいますが死者は出ていません』

「了解」

アベルはアブルホールを後部デッキに押し込んだ後、直ぐ様前方のデッキに走った。

前部デッキでは技術士官が器材の点検をしていた。

「あ!副所長!」

「アオ!何があった!」

「あ、ジオンの工作員と一戦交えて今は器材の点検中っす」

ケロッと答えるアオにアベルは若干冷静になった。

「いや…そうじゃなくてだな…」

「大丈夫っす。軽傷者はいますけど全員生きてるっすよ」

「や、だからさ…」

「いやぁ、びびったすよ。ガンダムのコックピットの配線弄ってたらモニターにジオン兵が写ってましたからね」

「もういいや…。なんも無いなら俺はマゼランの解体に行くけど?」

「あ、引き留めてすいません。どうぞ行ってくださいっす」











その後は忙しかった。

まずマゼランの解体。

座礁したマゼランをアブルホールのビームサーベルで解体してジェネレータをいただいたり無事だった艦砲を回収したりした。

その後はアムロ達をMSに乗せた件についての書類に追われた。

だがまぁ、それなりの結果が返ってきたのでよしとしよう。

自室の机の上。

そこに広げられた複数枚の書類。

アムロ達の仮入隊証だ。

日時が多少遡っている。

SEEDでマリューがやってた奴である。

本人達にも伝えていない。

俺とカシアス中佐とイシカワ大佐とワッケイン司令だけが知る書類。

何かしら問題が起こった時の保険で、問題がおこらなければこの部屋の金庫で終戦を迎える。

「保険は、かけた」

使う事の無いよう願おう。

そこで呼び出しのブザーが鳴った。

備え付けの直通回線を取る。

「はいルセーブル」

呼び出したのはセイラさんだった。

うん。すっげー美人。

『ルセーブル中尉。艦長がお呼びです。
今後の事でお話があると』

「了解。すぐいく」

書類を纏め、金庫に放り込んで士官服に着替える。

「お兄ちゃん。よびだし?」

ベッドで寝ていたローザが起き上がった。

「ああ、呼び出しだ。で、お前なんで裸なの?」

「シデンさんがこうしたらお兄ちゃんが喜ぶって言ってた」

「あのバカ後で絞める。ローザ服ちゃんと着とけよ」

「はーい」










「ルセーブル出頭しました」

「お呼びだてしてすいませんルセーブル中尉」

なんだろう彼に畏まられると変な気分だ。

「ノア中尉。ため口でいいよ?」

「いえ、技術士官とはいえ貴方は中尉、私は少尉ですので」

お堅いなぁ。

「いや命令系統違うでしょ?
アンタは指揮のプロ。俺は戦闘できるけど本来は技術のプロ。
あと艦長が敬語って示しつかないじゃん」

「そうではありますが…」

「じゃぁ命令。ため口で話せブライト」

「わかりまし…わかったルセーブル技術中尉」

ブリッジには床のモニターを囲むようにブライト少尉テムさんそして俺。

テムさんベッドにいなくていいの? とも思うが現在のホワイトベースの正規士官は俺達だけだ。

その士官三人の内二人が技術士官というどうしようもない状況だ。

タムラさん? あの人コックだし。

まぁ、他のオペレーターもいるけどそっちはそっちで忙しそうだ。

「では地球降下についてのミーティングを行いたいと思います」

モニターにルナツーから地球までの航路、更には降下予定ポイントが書かれている。

「我々はジャブローに向かいます。
降下は問題無いでしょうが、問題は地球ルナツー間で襲撃される可能性が有ることです」

「ブライト。降下こそが鬼門だと俺は考える」

「なぜだルセーブル技術中尉」

あ、その呼び方で固定なのね。

ブライトから指し棒を受けとる。

「えーと。まずジャブローは南米のアマゾン川流域」

ジャブローを示す光点を差す。

「でも北米はジオンの本拠地だ。仮にシャアが大気圏突入間近に攻めてきたら?
俺達は降下角度を曲げられ、北米に降りるかもしれない」

「バカな! 大気圏突入間近に攻めてくるなんてあり得ない!」

「アベル君。ザクに大気圏突入能力はない。
君も知っているだろう?」

ブライト、テムさん両名が否定する。

「ホワイトベースに一当てするくらいならできるでしょう?
その後はムサイに戻るなりコムサイに拾ってもらうなりすればいい」

「正気かルセーブル技術中尉?」

「正気? バカか。戦争だぞ? 戦争は人を狂気に陥れる。
それにシャアも今頃怒り心頭だろうよ。
なんせ三回もホワイトベースを取り逃がしているからな」

「そうか…」

「案としてはこちらから攻める、逃げ切る、と色々ありはする」

「逃げ切れるのか?」

「絶対とは言わんが。あとは、そうだな、大気圏突入しながらの戦闘も悪くはないだろう」

原作と同じように。

「そんな事出来る筈がない!」

「テムさん。ガンダムとガンキャノン三機、あとアブルホール二機。
いけるよね?」

「アブルホールは大気圏突入運用試験をやったが他はやってないだろうアベル君」

「なっ…MSでの大気圏突入が可能なのですか?」

「ああ、ガンダムのシールドがあればな。
あれは予備があったはずだ。
ガンキャノンに装備させれば単騎突入出来る。
君は何故ホワイトベースが『強襲揚陸艦』なのか知らないのかブライト」

「……………」

「最悪はホワイトベースの上部甲板に張り付けばいい。
いいかブライト。MSでの単騎突入。これはザクにはできない。
俺達の強みはそこだ」

「……わかった。その方向で対応策を考えよう」

斯くして、人類史上初の大気圏突入戦闘作戦案が組み上げられた。
 
 

 
後書き
取り敢えず、パオロ艦長やヴェルツ大尉などの負傷兵はルナツーでおろします。 
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