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英雄伝説~灰の軌跡~ 閃Ⅲ篇

作者:sorano
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外伝~カイエン公爵家の才女達~


~オルキスタワー~

それぞれの場所でそれぞれの戦いが始まっている中ミュゼはカイエン公爵令嬢姉妹と対面していた。
「ユーディット皇妃陛下、それにキュアさん。本日は私のような者の為に時間を取って頂き、心より感謝致しますわ。」
「え、えっと………」
「……貴女が私達との会談を望んだ要件を訊ねる前に一つ聞きたい事があります。―――――何故、リーゼアリア嬢をそそのかして、オルキスタワーから抜け出させたのですか?」
ミュゼに会釈をされたキュアが戸惑っている中ユーディットは真剣な表情でミュゼに問いかけた。
「そんな、そそのかすだなんて………私は女学院に通っていた頃にお世話になった恩を少しでも返す為にリーゼアリア先輩の悩みを解決する方法を提案しただけですわ。」
「それを”そそのかす”って言うんだけど…………――――って、”リーゼアリアさんが女学院――――聖アストライア女学院時代にお世話になった先輩”?――――!!まさか、貴女は………!」
「………やはり貴女は”私達の世界のミュゼ―――いえ、ミルディーヌ”ね?」
笑顔で答えを誤魔化そうとしているミュゼの答えに呆れた表情で溜息を吐いたキュアだったがある事に気づいて血相を変え、ユーディットは真剣な表情でミュゼに問いかけた。

「フフッ…………――――さすが、”才媛”と名高い”ユーディお姉様”とその妹であられるキュアさんですわね。お二人とも、お久しぶりですわ。祝福するのが遅くなりましたが、ユーディお姉様のご結婚とキュアさんの次期カイエン公爵家当主の内定、おめでとうございますわ♪」
「………こうして顔を合わせて、話をするのは本当に久しぶりね。まさか貴女が”並行世界の未来の貴女”と接触していた事―――いえ、”並行世界の未来の貴女が貴女に接触していた事”には驚いたけど………一体何の為に私達との会談をセッティングした理由は――――愚問だったわね。」
「ユーディと私、それぞれに当てた手紙の内容であるお願い――――エレボニア側のカイエン公爵家当主内定の為の力添えの件、だよね?」
ミュゼに微笑まれた二人はそれぞれ静かな表情を浮かべてミュゼを見つめ
「―――はい。手紙にも書いた通り、私達――――エレボニア帝国貴族の未来の為にもバラッド侯をエレボニア側のカイエン公爵にする訳にはいかなく、私が就かなければならないのです。ですがお恥ずかしい話、現状バラッド侯が優勢で私だけの力ではとてもバラッド侯を押しのけてエレボニア側の次期カイエン公爵に就任する事は厳しいのですわ。なので、是非お二人にも私に協力して頂きたいのですわ。」
二人に見つめられたミュゼは真剣な表情で頷いて説明をした。
「……貴女の事だから、他の”四大名門”――――アルバレア、ログナー、そしてハイアームズの当主達の協力を取り付けているのではないかしら?わざわざ外国―――それも、クロスベルに帰属した件でエレボニア貴族達から色々と怒りや恨みを買っている私達の力が必要な程、貴女の協力者は足りないのかしら?」
「ええ。ユーディお姉様もご存知の通り、”七日戦役”によってエレボニアは多くの領土を失いました。そしてその出来事によってハイアームズ候はともかくアルバレア侯――――ユーシスさんとログナー侯はかつての”四大名門”としての力や影響力は衰えていますわ。特にユーシスさんは当主に就任してまだ1年くらいしか経っていない上、父君―――前アルバレア公爵閣下が”七日戦役勃発の張本人”だった事による背負ってしまった”アルバレアの負債”がある為、戦力、財力、貴族としての影響力を含めたあらゆる方面でバラッド侯もそうですが他の”四大名門”と比べると劣っている状況ですし……こんな私に剣を捧げてくれた私にとって唯一の騎士である”羅刹”も”七日戦役”によって亡くなってしまいましたし………」
「”羅刹”ってもしかして………」
「………オーレリア将軍ね。まさかオーレリア将軍が貴女を”主”と認めていたとはね………」
ユーディットの指摘に対して静かな表情で答えたミュゼは僅かに悲しそうな表情を浮かべ、ミュゼの話で出て来た人物に心当たりがあるキュアは目を丸くし、ユーディットは重々しい様子を纏って呟いた後静かな表情でミュゼを見つめた。

「その………将軍が討たれた件で、ミルディーヌは将軍を討ったメンフィル帝国やメンフィル帝国に従順な態度を取った私達を恨んだりはしていないの……?」
「オーレリア将軍の件は本当に残念でしたが、”七日戦役”は我が国―――いえ、私達エレボニア帝国貴族に全面的な非があるのですし、キュアさん達は御自分達だけでなく、オルディス―――いえ、ラマールの貴族達を守る為にラマール統括領主の血を引くカイエン公爵家として当然の行動を取っただけですから、将軍や”七日戦役”の件でお二人もそうですがメンフィル帝国に対して思う所はありませんわ。」
「……………単刀直入に聞くわ。貴女の私達クロスベル側のカイエン公爵家―――いえ、メンフィル・クロスベル連合に対する要求はどんな内容かしら?そしてその要求に対して、貴女はどのような対価を提示するのかしら?」
キュアの質問に対して静かな表情で答えたミュゼの説明を聞いて目を伏せて黙り込んでいたユーディットは目を見開いてミュゼに問いかけた。
「……………ふふっ、さすがユーディお姉様。話が早くて助かりますわ。まずユーディお姉様達――――クロスベル側のカイエン公爵家に対してお願いしたいのは”カイエン公爵本家が保有している財産の一部”を私に贈与して頂く事ですわ。」
「え……わ、カイエン公爵家(私達)の財産の一部をミルディーヌに……?ミルディーヌって、そんなにお金に執着するような人には見えなかったけど………それに、アルフレッド伯父様達がミルディーヌの為に遺した遺産もミルディーヌが受け継いだはずだよね……?それでもお金が足りないの……?」
ミュゼの要求の内容が意外な内容である事に目を丸くしたキュアは戸惑いの表情でミュゼを見つめた。
「ふふっ、確かにお父様達が残してくれた遺産は莫大ですがキュアさん達が受け継いだ”本家”が所有している財産と比べると大した事はありませんわ。そして例え次期カイエン公爵に内定したとしても、先立つものが足りなければ、何も為す事はできず、お飾りの公爵ですわ。」
「……貴女が何を考えているのか知らないけど、貴女を含めた”四大名門”の協力に加えて貴女に味方する貴族達の協力があっても、貴女が為したいと思っている事は実現不可能なのかしら?」
「はい。私が打とうとしていた手は終焉を食い止める最悪にして最低の一手…………それは”二つに分かれた今のカイエン公爵家”では打つ事はできませんわ。」
「しゅ、”終焉を食い止める最悪にして最低の一手”………?あ、あれ……?”終焉”って確か並行世界の貴女達の話にも出て来ていたけど………」
「”最悪にして最低の一手”………――――!!ミルディーヌ、貴女まさか………帝国政府―――いえ、”エレボニア帝国”に対して反旗を翻すつもり……!?」
ミュゼの答えを聞いて戸惑っているキュアが考え込んでいる中ミュゼがやろうとしている事を察したユーディットは血相を変えて信じられない表情でミュゼを見つめて問いかけた。

「フフッ…………―――――”ヴァイスラント決起軍”。並行世界の私の話では”終焉”を利用しようとしているオズボーン宰相達に抗う勢力をそのような名をつけたとの事ですわ。」
「”ヴァイスラント”………”白の国”、ね。エレボニア―――いえ、オズボーン宰相に対してあらゆる意味で皮肉な名前を考えたものね………」
「そ、それよりも………確か並行世界のミルディーヌは”終焉”が起こった直後に私達の世界に来たって話だから、その”ヴァイスラント決起軍”を結成したのはそれよりも前って事になるから、まさか並行世界の貴女―――いえ、”貴女達”は”終焉が起こる事を予め悟っていたの”………!?」
ミュゼの説明を聞いたユーディットが考え込んでいる中ある事に気づいたキュアは驚きの表情でミュゼに訊ねた。
「フフ、それについてはご想像にお任せしますわ。それよりも、私が打とうとしている”一手”を知った聡明なお二人でしたら、私がメンフィル・クロスベル連合に求めたい内容がおわかりでしょう?」
「!あ………」
「父達が起こした愚かな1年半前の内戦―――いえ、それ以上の規模になるであろう内戦にメンフィル・クロスベル連合を介入させるつもりなの!?そんな事をすれば、例え勝てたとしてもエレボニアがどうなるか、貴女ならわかるでしょう!?」
ミュゼに話を振られ、ある事を察したキュアが不安そうな表情をしている中ユーディットは怒りの表情で声を上げてミュゼを睨んだ。
「勿論、理解しておりますわ。――――そしてそれが私がメンフィル・クロスベル連合に提示する唯一の”対価”でもありますわ。オズボーン宰相達を廃した後、ユーゲント皇帝陛下から”エレボニア皇帝”の地位を剥奪して代わりに新姫様―――リーゼロッテ皇女殿下を”新たなるエレボニア皇帝”に即位させて、緊張状態に陥りかけているエレボニアとメンフィル・クロスベル双帝国の関係を和解へと導きたいと思っていても、生まれ変わったエレボニア帝国の政府の人員や新姫様を支持する”後ろ盾”がない事にユーディお姉様達は困っていたのでしょう?私――いえ、エレボニア側のカイエン公爵家や私に協力する方々がその人員を用意しますし、新姫様の”後ろ盾”にもなりますわ。」
「!!そ、”その件”まで知っているなんて……!」
「ハア………どうやら”並行世界の未来の貴女”は世界は違えど、”自分”を勝利させる為に”自分の知る全て”を貴女に話したみたいね………そこまで知っているのだったら、私達は”終焉”―――いえ、”巨イナル黄昏”を未然に阻止する為の精鋭部隊を”黒キ星杯”が現れたその日に新旧Ⅶ組と共に送り込む事も聞いているはずよね?」
ミュゼの答えを聞いたキュアが驚いている中疲れた表情で溜息を吐いたユーディットはミュゼに確認した。

「ええ、勿論伺っておりますわ。”神殺し”、でしたか。俄かには信じられない存在ですが、”空の女神”すらも実際にゼムリア大陸に降臨したのですし、異世界―――ディル=リフィーナはゼムリア大陸にとっては幻想上の存在が多種多様存在している事に加えて複数の神々まで実際に存在しているのですから、そのような凄まじい存在がいる事にも納得していますわ。」
「その話も知っているのだったら、”ヴァイスラント決起軍”を結成する意味が無い事は貴女もわかっているんじゃないの?」
「例え勝率は高くても”備え”は必要ですし、”黒キ星杯”とやらが現れたその日は帝都(ヘイムダル)に幻獣や魔煌兵が現れるとの事なのですから、それらを鎮圧する為の戦力は必要ですわ。」
「そのくらいだったら、わざわざそのメンフィル・クロスベル連合を加勢させた”ヴァイスラント決起軍”を投入しなくても、正規軍が撃退するんじゃないの?確か当日帝都(ヘイムダル)を警備する正規軍は正規軍の中でも精鋭揃いの”第四機甲師団”だし、それに事件が起こる場所が帝都(ヘイムダル)なら”衛士隊”や”鉄道憲兵隊”も協力すると思うけど………」
「確かにキュアさんの仰る通り彼らに任せても問題はありませんが、果たして彼らは私達――――いえ、”新姫様の味方”といえる存在でしょうか?」
「それは…………―――――!も、もしかしてヴァイスラント決起軍を混乱が起こった帝都(ヘイムダル)を投入する”真の理由”は……!」
「かつて父達が帝都(ヘイムダル)を強襲してバルヘイム宮を占領したように、混乱のどさくさに紛れてバルヘイム宮を占領して、ユーゲント皇帝陛下達を”保護”して、”黒キ星杯”でオズボーン宰相達を廃した後抵抗してくるかもしれない正規軍を早急に鎮圧する為にヴァイスラント決起軍を帝都(ヘイムダル)に投入するつもりなのかしら?」
ミュゼの狙いをすぐに悟ったキュアは血相を変え、ユーディットは厳しい表情でミュゼに確認した。

「ふふっ、そんな怖い顔で睨まないでください。私達とメンフィル・クロスベル連合の利害や目的は一致しているのですから、オズボーン宰相達を廃してエレボニア―――いえ、西ゼムリア大陸に真の平和を訪れさせる為に是非、私達もメンフィル・クロスベル連合に加えて欲しいだけの話ではありませんか。」
「それは……………」
「………話は変わるけど、確か今の貴女が通っている第Ⅱ分校にはメンフィル皇家の一員であられるレン皇女殿下も”教官”として就任していて、レン皇女殿下は貴女にとっての担任教官でもあったわね。もしかして既にレン皇女殿下にも貴女達の目的を話して、レン皇女殿下を通してメンフィル帝国とも交渉をしているのかしら?」
ミュゼの指摘にキュアが複雑そうな表情で答えを濁している中ユーディットは静かな表情でミュゼに訊ねた。
「それとなく匂わせるような話はしていますが、まだ本格的な話や交渉はしていませんわ。リィン教官にもアプローチをしているのですが、さすが姫様を娶り、多くの魅力ある女性達と婚約しているだけあって、中々手強い相手で相手にしてもらえず私も少々困っているのですわ。シクシク………」
「リ、リィン様にアプローチしているって……ミルディーヌは本当にリィン様の伴侶の一人になるつもりなんだ………」
質問に答えた後わざとらしく嘘泣きをしたミュゼの行動にユーディットと共に冷や汗をかいて脱力したキュアは表情を引き攣らせてミュゼを見つめた。
「はい♪リィン教官が望むのでしたら、ユーディお姉様のようにいつでも私の純潔をリィン教官に捧げるつもりですわ♪―――あ、先にいっておきますがもし新姫様やリーゼアリア先輩もリィン教官の伴侶になる事を望むようでしたら勿論賛成しますし、序列もお二人よりも低くて構いませんし、教官が私や先輩達以外にも更に伴侶を増やす事も受け入れますわ♪」
「リィンさんとの結婚の件で私を例えに出したことは反論できないけど………リィンさんの件も含めて貴女が求めるメンフィル・クロスベル連合に対する要求はカイエン公爵本家の財産の一部の贈与を除けば、私達だけで判断できないから今この場で答える事はできないわよ。」
「それは勿論承知しておりますわ。ですが私の”読み”ではメンフィル・クロスベル連合はそれぞれの思惑によって、私の提案を受け入れてくださると思っておりますわ。」
「ミルディーヌ………」
「………貴女―――いえ、アルフレッド伯父様がお父様を押しのけるか、廃したりしてカイエン公爵家の当主に就任すれば、エレボニアは違う道を歩んだかもしれないわね…………」
ミュゼに隠された才能の凄まじさを改めて知ったキュアは驚きの表情でミュゼを見つめ、ユーディットは静かな表情で呟き
「……………………フフ、そうかもしれませんわね。」
ユーディットの話を聞いて幼い頃に亡くなった両親の顔を思い浮かべたミュゼは静かな笑みを浮かべて同意した。

「…………………わかったわ。ヴァイス様達に貴女の提案を話して、リーゼロッテ皇女殿下の”後ろ盾”は貴女達が最有力候補である事を私とキュア――――”カイエン公爵家当主代理兼クロスベル皇帝第1側妃”と”カイエン公爵家次期当主”の立場として推薦しておくわ。それとお父様から受け継いだカイエン公爵本家の財産の一部も貴女に贈与するわ。キュアもいいわね?」
「ユーディ………………うん、私もいいよ。財産に関しては元々ミルディーヌにも分配を主張する権利はあるのだし。」
少しの間考え込んで結論を出したユーディットに視線を向けられたキュアは目を丸くした後ユーディットのように少しの間考え込んでユーディットと同じ答えを出し
「お二人のご協力、心より感謝致しますわ♪めでたく話がまとまった所早速で恐縮なのですが、まずお姉様達には来月に行われる”領邦会議”に出席してもらいたく―――――」
二人の答えを知ったミュゼは笑顔を浮かべた後二人と今後の事についての打ち合わせをした。

こうして………ミュゼは人知れず、自分が想定していた以上の結果を出すことになる”一手”を打つ事に成功した――――――
 
 

 
後書き
今回のBGMは零の”黒の競売会”か閃Ⅲの”静かなる駆け引き”のどちらかだと思ってください♪ 
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