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思えば昔のこと

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第二章

「戦場では次から次にです」
「人が死んだんですね」
「もうモスクワからベルリンまでは」
 そこまでの極めて広範囲な地域がというのだ。
「我々の死骸が転がっていました」
「とんでもない戦争でしたね」
「そして生き残って自分達が捨て石だった」
 ユーリィの瞳、右目だけが見えているがそれに今度は憎悪が宿った。しかし彼の左隣にいる青年には見えない。
「それがわかった時は」
「もう嫌になりますね」
「地雷原を歩かさせられた生き残りの人なんか凄かったですよ」
「そんな中で生きてですね」
「はい、もうどれだけ荒んで帰ってきたか」
「考えるだけで怖いですね」
「戦争が終わった後のソ連は凄かったですよ」
 かろうじて、捨て石にされながらも生きた彼等が戻ってきてだ。
「人心ですか。あれが荒廃しきっていて」
「そんなにですか」
「中にはそれで国家に、もっと言えばスターリンにですね」
「まさかと思いますが」
「ええ、賊になって」
 そうしてというのだ。
「逆らう人もです」
「出てきましたか」
「はい、人も誰も」
「そうした戦争だったんですね」
「生き残るべきだったか」
 ユーリィはこうも言った。
「果たして」
「そう思う位にですか」
「当時のソ連は酷かったです」
「ああした戦争をしていると」
「勝っても」
 実際にソ連は勝った、ベルリンを陥落させて。
「しかしです」
「それがいいかはですね」
「疑問ですね」
「難しいところですね、ですが当時のドイツが勝っても」
 ナチス=ドイツ。ヒトラーが率いるこの国がとだ。青年はユーリィに言葉を返した。
「どうなっていたか」
「ですから余計にです」
「難しいですよね」
「それこそユダヤ人もスラブ人も。ましてや亜人は」
「亜人もどんどん殺していましたからね、ナチスは」
「まあソ連もでしたが」
 平等を謳っていた筈のこの国もというのだ。
「トロッキーの同志に亜人がいて」
「それで、でしたね」
「亜人もどんどん殺していました」
 トロッキーがユダヤ系だったことからユダヤ系も多く殺していたがだ。
「そうもしていて戦争が起こって」
「亜人もでしたね」
「戦争に加わりましたが。次々にです」
 まさにというのだ。
「亜人も死んでいきました」
「多くの人が倒れて」
「はい、残ったのは」 
 まさにというのだ。
「僅かでした、そして残った者の中には」
「スターリンを、ソ連を憎み」
「陰で動く様になりました」
「そうした人達もいたんですか」
「そうでした、しかしその時ソ連が崩壊するとは」
「誰もですね」
「思いませんでした、確かに多くの犠牲を払いましたが」
 しかしというのだ。
「勝ったのですから」
「それならですね」
「崩壊するとは。しかし」
「ソ連は本当に崩壊しましたからね」
「今はロシアです。ですから」
 それでと言うのだった。
「あの戦争も今は」
「もうですね」
「昔のことです」
 そうなったというのだ。 
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