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戦国異伝供書

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第六話 都への道その八

「どうじゃ」
「茶ですか」
「うむ、わしが淹れた茶はどうじゃ。実はな」
「実はとは」
「平手殿に言われたが」
「あの方にですか」
「まだまだとな」
 どうにもと言われたというのだ。
「その様にな」
「そうですか、それがしはまだ」
「茶の味はか」
「わかるところまで至っておりませぬので」
「茶を飲みはじめたからか」
「とてもです」
 これまではというのだ。
「水しか飲めなかったので」
「まあそれが普通じゃな」
「はい、やはり」
「そうじゃな、しかし殿は茶の葉をどんどん植える様に言われておる」
 信長、彼がというのだ。
「それでじゃ」
「これからはですか」
「うむ、茶をこれまでとは比べものにらない位にな」
 そこまでというのだ。
「飲める様になるぞ」
「左様ですな、これからは」
「それも楽しみにしてな」
「生きていきますか」
「そうじゃ、酒もよいが」
「茶もまた、ですな」
「よいものじゃからな」
 だからだというのだ。
「それにどうも酒と違ってな」
「こうして茶を飲んでいますと」
「甘いものが欲しくなるのう」
「殿の甘いもの好きは知っておろう」
「はい、それがしもよく」
 信長は酒は飲めない、そのせいか昔から甘いものが好きだ。最近では南蛮の菓子も口にしている位だ。
「存じているつもりです」
「そうじゃな、果物だけでなくな」
「菓子もお好きですな」
「その菓子も天下に広く作らせたいとのことじゃ」
「ううむ、茶だけでなく」
「民百姓達に様々なものを作らせて儲けさせてな」
 そうしてというのだ。
「民達を豊かにしてな」
「民達が豊かになればその分銭も増えますし」
「その銭でじゃ」
 まさにそれでというのだ。
「殿は天下をより豊かにされたいとのことじゃ」
「だから茶にですか」
「菓子の材料にな」
「では小豆等を」
「その様じゃ、そしてそうしたもの以外にな」
 茶や小豆以外にもというのだ。
「先程言ったが様々なものと言ったな」
「では綿や菜種等も」
「あと甘いから果物もな」
「様々なものを作らせて」
「豊かにされたいとのことじゃ」
「米や麦だけでなくですか」
「そうお考えとのことじゃ」
 柴田自身茶を飲みつつ羽柴に話した。
「わしの様な無骨な者にも言われておる」
「どうもそこからも天下は変わりますな」
「そうじゃな、これまでは百姓は米や麦ばかりを作って年貢を収めるだけであったが」
「それがです」
「そうしたものまで作って豊かになれと言うなぞな」
 信長は言っているというのだ。
「型破りにも程がある」
「これまでと全く違いますな」
「例えば大和では素麺や紙も作らせ蜜柑や梅、塩等もな」
「実に様々なものをですな」
「作らせたいそうじゃ」
「塩もですか」
「そうじゃ、わしは最初殿がわからなかった」
 柴田はかつて信長が元服する前に奇矯な振る舞いばかり目立った頃のことを思い出していた、吉法師と言われていたその頃のことを。 
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