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提督はBarにいる・外伝

作者:ごません
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提督、里帰りする。その2

 
前書き
 ここからは、所々に作者の注釈が入ります。かなりローカルな話も入ってきたりしますが、ご注意くださいm(_ _)m 

 
 八戸駅から八戸線に揺られて1時間程。ようやく目的の駅が見えてきた。

「この駅だ、降りるぞ」

 提督は手短にそう伝え、一行はそれぞれに荷物を抱える。

『種市駅~、種市駅です。お忘れ物ございませんよう、ご注意ください』

「ここが……darlingの故郷デスか」

「あぁ、洋野町(旧名種市町)だ」

※洋野町(ひろのちょう)

 岩手県最北端の町。2006年に旧種市町(たねいちまち)と旧大野村(おおのむら)が合併して出来た町である。海沿いの種市町と山間の大野村が合併した事により、漁業と農業、両面に多数の特産品のある町になった。作者は旧種市町出身であり、今も在住。



「さてと、とりあえず色々見て回るのは後回しにして家に挨拶しに行くか」

「い、いきなり行くの!?まだ心の準備が……」

「そうね、少し観光してから向かいたいです」

 珍しく陸奥と加賀の奴が弱気な発言。やっぱり実家への挨拶って緊張すんのか?……まぁ、金剛を含め6人中半分が指輪持ちの嫁って事になってるからなぁ。結婚して初めての旦那の実家、って事になればそりゃそうか。

「わかった、ちょうど昼飯時だしな。海の側に美味い飯屋がある。そこで昼飯食ってから家に行くか」

「やりぃ!勿論奢りだよね!?」

「仕方ねぇなぁ……」

 奢りで昼飯、と聞いて喜ぶ一同。とりあえず海の方に向かいますかねぇ。




 駅からまっすぐに商店街を抜けて、大通りに出る。20年以上帰って来てなかったが、シャッター商店街になっていて何か物悲しい物を感じる。大通りに出たら道なりに下り坂を下っていくと、左手に巨大な水門が見えてくる。

「お、おっきぃ……」

「立派な水門ねぇ」

「まぁな。高さ12mの防潮堤だ」

「何故にこんなに高い防潮堤が?」

 青葉が写真を撮りながら尋ねてくる。

「あぁ、それはな?昭和三陸津波の時に種市は壊滅的被害を被っててな。それを教訓に作られてるんだ」

※種市の防潮堤

 作者もぶっちゃけた話、こんなに高い防潮堤意味があるのか?と思っていたが、東日本大震災の際に起きた津波では防潮堤の内側の施設と川沿いの住宅数棟が倒壊した程度で死傷者・行方不明者は0。10m近い津波が押し寄せてきていたと聞いたので、先人の備えは無駄ではなかったんだなと実感した。



「さ、こっちだ」

 俺達は水門の横に建てられた鮮やかなオレンジ色のプレハブを目指して歩く。

「『はまなす……亭』?」

※はまなす亭

 種市の海産物を活かした料理が自慢の食堂。以前は防潮堤の内側に店舗があったが、東日本大震災の津波で建物が倒壊。土地と建物を売却して防潮堤の傍にプレハブで店を再建。ウニ・ホヤ・アワビ等の種市特産の海鮮は勿論、隣の八戸市名物のサバやイカも絶品。

「元々この辺は飯屋が少ないが、ここは絶品だぞ?」 

 そんな事を言いつつ、店に入る。

『いらっしゃいませ~!』

 というおばちゃん達の威勢のいい掛け声が飛んでくる。流石に見知った顔はいないか。適当に空いているテーブルに座り、メニューを開く。

「darlingは何にしますカー?」

「あぁ、俺はもう決まってるから。お前ら、好きなモン頼みな」

「……あ!ウニ丼900円だって!安っ!」

「あらほんと。私これにしようかしら」

「青葉もウニ丼にします!」

「……私はこの『いちご煮ラーメン』が気になるわ」

「わ、私はこの『日替わりお魚ランチ』に……する!」

「ン~……じゃあ私はこの『ウニ尽くし』にするネー!」

「おまっ!?本当に遠慮がねぇなオイ……まぁいいや。すいませ~ん!」

「は~い、ご注文は?」

「えぇと、ウニ丼が3つ、いちご煮ラーメンを1つ、日替わりランチを1つ、ウニ尽くしを1つに、ウニめし定食を白飯で」

「日替わりのメインは何にします?今日はナメタの煮付けと、サバの塩焼きと、イカの唐揚げになってますけど」

「山風、どうする?」

「あ、じゃあ……その、ナメタ?の煮付けで……」

「あいよ。にしてもお兄さん、ウニめし定食の白飯なんてよく知ってたね?」

「あぁ、俺ぁここの生まれでね。今日は里帰りなんだよ」

「成る程ねぇ。でも、こんなに別嬪さん連れてめごい(可愛い)わらしもせでったら(連れてきたら)親御さんもたまげるべぇ」

「あ~……まぁ、ね」

 ニヤニヤ笑うおばちゃんに、苦笑いを返しておく。一人は確かに嫁なんだが、残りの5人との関係性の説明って難しいんだよなぁ。そんな事をぼんやり考えていると、料理が続々と運ばれてくる。

「お~、きたきた!って、あれ?な~んか想像と違うんだけど」

 とジト目を向けてくる秋雲。

「奇遇ねぇ。私も今そう思ってたわ」

「青葉もです……」

「あ?どこに不満があんだよ」

「「「ウニが玉子とじされてる」」」

「そりゃそうだ。それがこの辺の『ウニ丼』だからな」

※ウニ丼の違い

 他の地域で『ウニ丼』と聞くと、白いご飯の上に生のウニがたっぷりと乗せられた物をイメージされると思うが、八戸~三陸沿岸北部地域だと『ウニ丼』は違うメニューになる。玉ねぎとウニを割下で煮込んで、それを玉子とじにしたのがこの辺でいう『ウニ丼』なのだ。元々は出荷できない規格外のウニを家庭で美味しく食べる為の家庭料理レシピ。白飯に生ウニの乗ったウニ丼が食べたければ、『生ウニ丼』と注文するべし。




「……騙された気分だわ」

「まぁまぁ、それでも中々美味いぞ?」

 意外と濃い目の甘辛い割下がウニの甘味を引き立ててくれるので美味しいんだよ。地元の食材を使った『地産地消給食』のメニューになったりもするしな。……ただ、大概のチビッ子は家で生のウニが食えるから火の通ったウニ出されてもあんまり有り難がらないんだよ(遠い目)。

「このラーメンのスープ、塩味でアッサリしてて美味しいわ」

「だろ?いちご煮って郷土料理をアレンジしてんだよ」

※いちご煮

 ウニとアワビの入った潮汁。具材が豪華な為、お盆や正月なんかの特別な日のご馳走。はまなす亭の『いちご煮ラーメン』はそれをラーメンのスープとして使用。勿論、ウニとアワビも具として入っている。名前の由来は具材のウニが木苺に見える為。決してイチゴを煮詰めた料理ではない。



 さて、俺も自分の分にありつくとしますかね。

※ウニめし定食

 はまなす亭の定食メニュー。ご飯はウニの炊き込みご飯か白飯に生のウニが乗ったウニめしのどちらかが選べる(時期によっては選べません)。そこに汁物、漬け物、野菜の小鉢が2つ、ウニ風味の卵焼き、イカの酢味噌あえ、季節の刺身が付いてくる豪華ぶり。そして値段は驚きの1080円。利益出てんのか?と疑いたくなる豪華さである。筆者のオススメ。



 ホカホカのご飯にサッと塩水で洗ったウニが乗せられてて、もう醤油とか要らんからそのまんま匙を使って頬張る。

「おほっ、これこれ。この味だよ……!」

 懐かしの味に思わず笑いがこみ上げてくる。最初は塩気が来るが、すぐに口一杯にウニの甘味が押し寄せてくる。ガキの頃は時期になるとリリース近所の漁師さんとかからウニを貰って、毎日のようにコレ食ってたんだからな。なんつう贅沢。

「ん~、最高デース!」

 一口食べる毎に悶えているのは金剛。

「そりゃそうだろ、1人前5000円もするメニューを頼みやがって……」

※ウニ尽くし

 はまなす亭最高価格を誇るメニュー。その年のウニの獲れ高で多少変動はするが、最低でも4500円は取られる高級メニュー。そのラインナップは生ウニにウニの姿焼き、汁物は勿論いちご煮と、ウニ尽くしの名に偽り無し。筆者はまだ食べた事が無いorz



「山風、どうだ?美味いか?」

「うん!このカレイ、肉厚でトロトロで美味しい!」

 山風の興奮ぶりが伝わってくる。うんうん、ナメタガレイの煮付けは美味いからなぁ。

※ナメタガレイ

 カレイの1種。他の地域ではババガレイやアブクガレイ、インドガレイ等と呼ばれる事もある。普通のカレイよりも若干四角い見た目をしている。身は肉厚で皮も分厚く、煮付けにするとコラーゲンが溶け出してトロットロになる。大晦日の年取りに食べる風習がある。個人的には煮付けにして食うと美味い魚ベスト3に入る。



そんな感じでワイワイ楽しく食事を終え、いよいよ俺の実家に向かう事になった。


 
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