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人徳?いいえモフ徳です。

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十七匹め

 
前書き
筆がノッて気付けば4000文字…。 

 
「よーし!スロータークエ開始!」

「テンション高いな、お前」

ギルドへの登録を終えたシラヌイとボーデンは王都城壁の外に出ていた。

フライハイト王国王都リベレーソ周辺は、王都を囲むように畑や牧場が配置されている。

「だって初クエストだよ!」

そのはしゃぎ様は年相応で、ボーデンはクスリと笑った。

「さて、じゃぁスライム討伐いこっか」

「本当ならとめるんだがなぁ…。
お前相手だとスライムの方が可哀想で仕方ないぜ」

ボーデンの目に映るシラヌイは丸腰だ。

ひらひらと風に揺れるワンピース。

戦いなんて考えてない可愛らしい靴。

一切の防具も武器も持っていない。

「ボーデン。スライムってどこら辺に出るの?」

「知らないで来たのかよ…」

「知識としては知ってるけど、僕お屋敷から出たこと無いんだよね」

「過保護すぎる…」

「だから出現ポイントまで連れてって?」

「はいはい…」

歩きだしたボーデンの後を、シラヌイは狐の姿となって追いかける。

シラヌイは初めての城壁外に興味深々だった。

ボーデンが足元できゅーきゅー言っている狐に目を向ける。

「……………」

ボーデンはシラヌイをヒョイと抱き上げ、その豊満な胸元にスポッと入れた。

「きゅー?」

「いいから。お前放っといたらどっか行くだろ」

「きゅー…?」

「お前は歩かなくていい。私はお前のもふもふを感じられる。
win-winってやつだ」

「きゅ…………きゅぃ?」

「おう。下着つけてねぇぞ」

「きゅ」

「誰が痴女だコラ」

「きゅー。きゅ。きゅー?」

「うるせー。おとなしくアタシのたわわな胸を堪能してろ」

「きゅぁ…………きゅぅ」

「怖い事言うなよ。お前がシェルム先生に言わなけりゃいいだけじゃねぇか」

「きゅぅー…」

「ま、おとなしくしとけ」

ボーデンはシラヌイを胸元に入れたまま歩きだした。

ボーデンの部下の錬金術師連中が見たら嫉妬心でダイナマイトを開発しかねない状況である。

四半刻ほど歩き農業エリアを抜けると、ボーデンが一度足を止めた。

「シラヌイ。見えるか?」

「きゅ」

ボーデンの指差す方にはうねうね動く一メートル程で不定形のナニカ。

某龍探しのような可愛らしい姿などではない。

目も口もない青い液体。

「あれがスライムだ。体は粘液でできていて、まとわりつかれると窒息しかねん。
あと粘液は酸だったり毒だったり媚薬だったりするからそこも気を付けろ。
弱点はスライム・コア。ソコを破壊すればすぐに形をうしなう。
あとコアは高値で売れるから余裕があるならコアだけ抜き取ってみるといい」

「きゅぃ」

ボーデンが胸元からシラヌイを抜き、地面におろす。

獣化を解いたシラヌイは50メートルほど先にいるスライムを見据える。

「あれってさわったらマズイんでしょ?」

「まぁ、青は基本的にただの水だから問題ないが…
まとわりつかれたら死ぬぞ?」

「え?ただの水?」

「スライムは液体に自分の魔力を通して動かしてるからな」

「じゃぁスライム・コアって…」

「スライムの本体だ。上手く躾れば役に立つからな」

「へぇー…。じゃぁちょっとやってみるか…」

シラヌイがスライムへ歩きだし、その後ろをボーデンがついていく。

「なんかあればアタシがどうにかする。
お前は安心していいぞ」

「安心感のある冒険って何なんだろうね」

「冒険?これが? くく、御坊っちゃまにとっては城壁から出るだけで冒険か」

「ばかにしないでくれ…」

「そう怒るなって…帰りもぱふぱふしてやるから」

「なんで異世界にぱふぱふがあるんだよ…
いやオノマトペだからあり得なくはないけどさ…」

シラヌイとスライムの距離が縮まった。

シラヌイの正面にスライムがいる。

自分に近付く存在を察知したスライムが、エサを求めて動き出す。

にゅぅぅ~ん…と触腕を伸ばす。

シラヌイは何もせずつったっている。

スライムの触手がシラヌイに迫るッ!

「シラヌイ!」

「よっしゃきたぁ!」

ボーデンの心配する声を他所に、シラヌイは触手を掴んだ。

とぷぅん…とシラヌイの腕が粘液…魔力を含んだ水に沈む。

「これでも喰らいなぁ!」

シラヌイはスライムの触手に対し、魔力を流した。

スライムの魔力が抵抗となるが、直ぐに押し負け、スライムの全身にシラヌイの魔力が回る。

まるで毒のように浸透したシラヌイの魔力は、スライムの魔力を断ち切り……その形を崩壊せしめた。

パシャッ…と水が崩れ、コロコロとスライム・コアが転がる。

シラヌイはそのゴルフボールほどの球状の物体を天高くかかげ…

「スライム・コア!獲ったどー!」

「アホかお前は!?」

ボーデンがペシッとシラヌイの頭を叩く。

「なに?」

「なに? じゃねぇよ!危ない事すんなよ!」

「え?でもなんかあったらボーデンが助けてくれるんでしょ?」

「そうだけど…そうだけども!」

「…?」

コテン、と首を傾げるシラヌイに頭を抱えるボーデン。

「次からスライムに直接触れるのはナシだ」

「わかった」

「ほら、コアわたせ」

「はい」

ボーデンは受け取ったコアをローブのポケットに入れた。

シラヌイは辺りを見回して、スライムを探す。

近くにはあと二匹ほどいる。

「ねぇ、ここらってスライムしか居ないの?」

「ああ、ある程度知性があればこんな真っ昼間にここら辺までは寄ってくる事はない。
この時間帯にいるのは知性のないスライムとか一部のモンスターだけだぜ」

「ふーん…」

「そうだな…あと3キロ進めばスライム以外も居るぞ」

「いーよ。面倒くさいし。今日はスライムだけで我慢しとくよ」

そう言うとシラヌイは口笛を吹き始めた。

シラヌイの前世ではオタクなら誰もが知っている曲。

あるゲームシリーズのリメイク版第一作の裏ボスのテーマ曲だ。

吸血鬼少女をテーマにした曲で、タイトルに某有名ミステリーの黒幕の名前が入っているやつである。

「おいシラヌイ。わかっててやってるんだろうが一応言っておくと口笛吹いたりするとモンスター寄ってくるからな」

シラヌイは口笛を吹きながらグッドサインをした。

「ならいいけどよ…」

二人に近付く二匹のスライム。

より近い方へ、シラヌイは歩きだした。

少しずつ歩を早め、やがて駆け足へ。

そして…

「ジェネレート!アイスソード!」

氷で剣を作り、それを弓を引くように、肩に担いで引き絞る。

スライムが触手を伸ばすよりずっとはやく…

「でやあああぁぁぁぁぁぁ!」

トプッと剣をスライムに突き刺す。

「バースト!」

今度は剣を道にして、スライムに魔力を流す。

「凍れ!」

シラヌイがやりたいのはスライムを凍らせてから叩き割るという倒し方だ。

既にある液体を凍らせる場合、液体に魔力を通さなければいけない。

つまり水の支配権を奪う必要がある。

魔力を浸透させるだけでいいのだが、それをすればどうなるかというと…

パシャっ……………。

スライムの形を保つ魔力が吹き飛んでこうなる。

「だぁぁぁぁぁぁ!もうっ!なんで凍らないんだよ脆すぎるぞスライム!」

「いや、そもそもそんな倒し方を考え付くのはお前だけだ。
普通は素直にスライム・コアぶちぬくぞ」

「ほら!食器とか叩き割ったら気持ちいいじゃん!
あれやりたいんだよアレ!」

「お前、そういう感性は子供なんだな」

「だー!もうっ!次行こっ!次っ!」

氷剣を放り投げ、再び駆け出したシラヌイ。

「フツーはこんな出来のいい氷剣を使い捨てないんだがなぁ…」

コアを回収し、シラヌイを後ろから追いかけるボーデン。

彼女の視線の先では、シラヌイがスライムに氷剣を突き刺していた。

「凍れ!」

刹那、シラヌイから大量の魔力が溢れ出す。

そんな余剰魔力が出るほどの魔力を、シラヌイはスライムに注いでいた。

ただひたすら、凍れと念じながら。

やがてスライムが突き刺された氷剣から凍っていく。

ジワジワとその身が動かなく恐怖を、果たして知性なきモンスターは感じるのだろうか?

最後には、スライムはその形を保ったまま氷像と化した。

「やったぜ!」

ぴょんぴょんと跳ねて喜びを顕わにするシラヌイにボーデンが一言。

「で、どうやって割るんだ?氷同士でやるのか?」

「………………………………」

跳ねるのをやめるシラヌイ。

そしてうつむきぶつぶつと呟きだした。

「ダイヤ……二酸化炭素…空気…環境汚染…異世界…濃度…非現実的……氷…硬度…低温…」

「あー…長考入ったなこいつ」

一分ほどしてシラヌイが顔を上げた。

「試しにやってみよう」

シラヌイは両手で空気を握り、振り上げた。

「ジェネレート!ウォータライトハンマー!」

そしてシラヌイよりも大きいハンマーが生成され…重力に従ってスライムに振り下ろされた。

途中衝撃で柄がポッキリ行った物の、スライムは見事に粉々となった。

「きもちー!」

「なんでハンマーが砕けてないんだよ…」

「氷って温度が低いほど硬くなるんだよ」

「へー」

「むぅ…そっちから聞いておいて…」

そこまで言うと、シラヌイがハンマーの柄を投げ捨てた。

「ボーデン、手、かして」

「?」

ボーデンが手を差し出すと、シラヌイがその手をぎゅっと握った。

「冷たっ!?」

「あぁ~ボーデンの手あったかーい…」

「おまっ!こんなに冷えて…!凍傷になるぞ!」

「大丈夫大丈夫。ちゃんと直ぐに手放してるから」

「それであんなポイポイ捨ててたのか…
あの氷剣水晶製って騙して売れるレベルだったぞ」

「?」

「まぁ、いいや、ちょっと待ってろ」

ボーデンが空いた方の手をローブの内側へ入れる。

仄かに光るピンクの液体。

希釈エリクシールだ。

「ほら、一応塗っとけ」

「ゅ!」

シラヌイが両手を広げ、その上にピンクの液体が数滴落ちる。

シラヌイはそれを手のひらに馴染ませるように両手をこする。

「ふぁぁぁ…あったかいよぉ………」

エリクシールは万能の霊薬であり、凍傷の部分に塗ると暖かくなる。

「おい、あんまりその顔人前ですんなよ。
襲われるぞ」

「?」

「まぁ…九尾の孫に手を出すバカはいないだろうが…」

ボーデンは周りを見て、これ以上スライムが居ないかを確認した。

「よし、じゃぁ帰るぞシラヌイ」

「え?なんで?」

「昼飯買ってねぇし」

「あぁー…」

シラヌイはボーデンに背を向け、砕け散ったスライムの欠片を漁り始めた。

「砕けたんじゃねぇの?」

「わかんないけど、ほっといたら復活するんでしょ?」

「よくわかったな」

やがてシラヌイは一つの氷塊をみつけた。

「あった」

スライム・コアの半分を被う氷。

シラヌイは氷をひっぺがし、ボーデンに渡した。

「かえろ、ボーデン」

「おう」

ボーデンがシラヌイの脇に手を入れると、シラヌイは何も言わず狐になった。

それを来たときと同じように胸元に入れる。

「なぁ、シラヌイ、このままぎゅってしていいか?」

「きゅー」

「いや、潰れねぇだろ」

「きゅぃ」

「おいおい、お前が漏らしたらアタシが漏らしたみたいになるじゃねぇか止めろよ」

「きゅぅ」

「はいはい、このままかえるよ…」

なんだかんだ言いつつ、ぱふぱふを堪能できてご満悦のシラヌイだった。
 
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