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葉月三日の月

作者:里雪怜菜
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序章
  零

 一九四三 七月 二八日
「●機●●。」
「●●兵●急●!」
 周囲が慌ただしい。みんなの声が良く聞こえない。ただ、[終わり]が近いというのはどこかで感じていた。
「●そ、●●ぞ」
「●空●●●め!」
 空を見上げる。大空に敵の爆撃機が私達を攻撃するために飛んでくるのが見える。とっさに体を動かそうとする―が、足に鋭い痛みを感じただけで身動き一つとれない。
(そりゃぁ、そうですよね。燃料・糧食を捨てて体を軽くしても全く動かなかったどころか。有明さんに色々手伝ってもらってもむりだったのですから・・・)
 と、そこで嫌な予感がした。先ほどよりも強く[終わり]を感じ、だけど先ほどとは少し違う感じ―もはや動けず確実に[終わる]私ではなく・・・
(まさか!?)
「●明、●●」
「まず●●・・・●い●●●」
 何を言っているのか完璧に聞き取ることはできない。だが、何を言おうとしているのか。そして何が起こったのかはわかる・・・
有明ちゃん!
とっさに叫ぶ―が、その声は届かない。彼女が言葉を伝える手段はない。仮にあったとしても乗組員の声も聞き取ることができない状態で離れた場所にいる彼女に伝えられるわけがないのだが・・・
 ただ、何もできず、自分を救うために戻ってきた僚艦が沈む姿を見るしかない・・・
(いや、そんな事はありません、あってはなりません)
 足が完全に折れ、動くことができない今の私では彼女を救うことはできない、それでも彼女の乗組員を救うことくらいなら・・・
(痛い・・・)
 直撃を受けた右脇腹付近に激し痛みを感じる。他にも体中のあちこちが痛む。普通なら水底へ沈んでいてもおかしくない状態。
(座礁しているおかげで沈没を免れるなんて皮肉にも程がありますね・・・でも、そのおかげで最後の仕事できる)
 カッターボートや大発が有明ちゃんの乗組員を救助している。
私にできるのはこれが最後だろう。もう、[終わり]がすぐそこまで来ている事がわかる。
「ここ●●か・・・●体を●棄●●」
「●員●●!」
ほぼ見えなくなった視界がこちらに向かってくる秋風の姿をとらえる。
(これで・・・皆さんは・・・)
 安心すると同時に、意識が遠のいていく。
(秋風さん・・・私と有明ちゃんの乗組員の皆さんは・・・頼みましたよ。)
 [終わり]がすぐそこまで来ている。
(卯月姉さん、皐月姉さん、水無月姉さん、文月姉さん、望月、夕月、鳳翔さん、瑞鳳さん、すみません。先にいきますね。睦月姉さん、如月姉さん、弥生姉さん、長月姉さん、菊月姉さん、有明ちゃん、今いくね。司令官・・・もっと一緒に戦いたかった・・・)


もう何にも感じない・・・意識が深く、暗く、冷たい世界へと誘われていく・・・























「よ●、●はな●●?」
 あれからどれくらい立ったのだろうか。
「●月●●番●、●日●」
 人の声が聞こえるような気がする・・・
(あれ?私は・・・放棄され自沈したはず・・・なぜ・・・人の声が・・・)
 なぜか意識が戻っている。視界に、見慣れない場所が―知らない人が朧げに見える。
「あれ・・・私は・・・」
 声が聞こえたのか、そのうちの一人が立ち上がり、こちらに歩いてくる。
「ほう・・・意識を戻すとは・・・」
 腕にわずかな痛みを感じ―意識が薄れていく・・・
「●はま●●●め●時●●ない●●よ」
 去って行く人の声の断片を危機ながら意識は再び暗黒の世界へと引き込まれていった・・・。
 
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