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虹にのらなかった男

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P2

『うわっ!? なんだっ!?これぇっ!?
ガンキャノンよりっ…!』

「ヴェルツ大尉!ヴェルツ落ち着け!」

モニターではガンダムがはちゃめちゃな動きをしている。

一歩歩いては止まり、手を振り上げ顔を動かし…

『反応が早すぎる!レバーが敏感すぎる!』

「こちらルセーブル中尉!実験中断を許可します!レバーから手を離すんだヴェルツ!」

するとピタリとガンダムが動きを止めた。

「ハッチを開けて出てこい。レバーにはさわるなよ?」

『りょ、了解です技術中尉殿…』

コックピットハッチが開き、ウインチでヴェルツが降りてくる。

そこでモニターが切られた。

切ったのはイシカワ大佐だ。

「……………ルセーブル君。どう見る?」

「マグネットコーティングの反応性にパイロットがついていけてませんね」

マグネットコーティングを施してあるのはガンダムとアブルホールだけだ。

「ふむ…君ならできるかね?」

「コアブロックをコアファイターからコアボックスtype-Cに換装すればローザだってできますよ」

コアボックスというのはコアブロック形態のコアファイターと同じ形のユニットだ。

コアファイターの小型核エンジンを抜いたスペースに観測機材等を積み込んだ実験用のコアユニット。

type-CのCはチルドレンの略で、要するに俺がテストするときのためにレバーやペダルの位置をアジャストしてある。

俺とローザの身長はほぼ同じだからローザも乗れるはずだ。

「では少し行ってガンダムを格納庫に戻してきてくれ」

「了解」

モニター室を出るとローザが待っていた。

「お兄ちゃん、ガンダムうごいた?」

「動きはしたがヴェルツは扱えなかった。
マグネットコーティング対応のシュミレーターか機体のリミッターを早くつくらないとな…」

「お兄ちゃんは動かせるの?」

「お前でもできるよ、ローザ」

MS開発セクションの部下にジープを出してもらってガンダムの元へ向かう。

助手席にすわり、膝の上にローザを乗せる。

「やっぱ副所長とロザミィちゃんは仲良しっすね」

運転するのは女性技術者のアオ・タバラだ。

「まぁ、な」

「えっとぉ…一ついいっすか?」

「なんだアオ」

「二人って本当の兄妹じゃぁ…」

ま、髪と瞳の色違うしな。

「アオ」

「はいっ!すいませんっ!」

「ならばいい」

「どーしたのお兄ちゃん?」

「何でもないよローザ」

「…?」

ガンダムの足元についた。

「じゃ、ガンダム戻してくる」

とジープから降りるとアオにきかれた。

「トレーラーはどうしたんっすか副所長?」

「実験の邪魔っつってどっかやった」

あらら、とアオが言った。

「じゃ、ローザを頼んだぞアオ」

「うっす!」

ジープが出る。

ローザが後ろを向いて手を振っているので振り返してやる。

「さて、ガンダムをもどさねぇとな」

ウインチを掴み、二度引っ張るとうぃぃ~と巻き上げられる。

上まで上がり、コックピットに入ってハッチを閉める。

「ルセーブル中尉、これよりガンダムを格納庫へ戻します。開けておいてください」

『了解』

四本のレバーと六つのペダル、その他十数のボタンやトリガー。

それらを操り鋼の巨人を動かす。

『なぁ、アベル』

モニターにヴェルツの顔が出た。

どうやら観測室に居るらしい。

「ヴェルツか。どうした?」

『お前よく動かせるよな』

「子供だからな。覚えも早いのさ」

ローザだってMSの操縦簡単に覚えたし。

『………大人としてのプライドがぁ…』

「ま、がんばれや」

その日はガンダムを格納庫に戻し、ミーティングをしてタスク終了だった。










翌日

『ゲートオープン。発進タイミングをルセーブル中尉に譲渡っす』

「了解。アベル・ルセーブル、ガンファイター出ます」

MS形態のアブルホールを格納庫から出す。

ガションガションと音を発てて戦闘機が歩く光景はさぞ面白いことだろう。

ゲート、つまりは格納庫から出たので脚部スラスターを起動させる。

「ホバーテストに移る」

『了解っす』

爆音と共にアブルホールが浮き上がる。

「ホバリング成功。機動に移る」

レバーを動かしアブルホールを動かす。

縦に横に、後ろに。

「データどうか?」

『数値異常ないっす』

ふむ、MS形態での動作テストよし。

「武装のテストに移る。標的用意」

『標的バルーン射出っす』

数百メートル先に複数のバルーンが射出された。

それに合わせレティクルが表示される。

ロックオンし、トリガーに指をかける。

「フロントヘッドバルカン掃射」

トリガーを引くと二条の光弾が吐き出される。

バルーンは全て割ったがそれで終わりではない。

「銃身温度異常無し。フロントヘッドセンサー異常無し。そちらはどうか?」

『アブルホール、異常無しっす』

よし。次だ。

「ビームサーベルのテストを行う。
仮想ザクを出せ」

『仮想ザクっすか?』

「ああ、予定通りだし問題無い筈だが?」

仮想ザクというのはザクを元に造られたガワだけの人形だ。

とは言え中身は空洞ではなくきちんと装甲強度が再現されている。

なお結構な御値段だ。

アオが聞き返したのも、まぁ、わからなくはない。

『えーと………はいっ。イシカワ大佐の許可もいただいたっす。
第三搬入ゲートに出します。斬る時には気をつけて欲しいっす』

近くの地面が割れ、ゲートが開く。

そこからザクがせり上がってくる。

動かない人形ではあるが、やはり大きい。

「ビームサーベル展開」

フロントアーマーのサブアームからピンクの光がほとばしる。

紫電を纏うそれでザクの胸をつつく。

結果、装甲は融解し、何の抵抗もなくズブズブと光の槍はザクに沈む。

『予想抵抗値より低いっすね…恐ろしい限りっすよ。
ビーム兵器ってものは』

今度はサブアームを振り上げ、切り下ろす。

ザクの右肩口から右腰にかけてがドロドロに溶け、ゴゴンッ!と腕が落ちた。

「ザクの装甲を一瞬だものな。
だがそれ故にビームサーベルとザクのヒートホークどちらが優秀かと聞かれると甲乙つけがたい」

『え?なんでっすか?』

あー…面倒だな…。

よし、こうしよう。

「ビームサーベルとヒートホークの講義を聞きたい奴はフタマルマルマルに第三会議室な」

『了解っす』

一通りの内蔵武装のテストは終了した。

あとは変形テストとテールユニットテストだが、それは場所も資材もまだない。

重力下変形テストはこんな狭い機密ブロックじゃできないし無重力下変形テストもアブルホールを無重力エリアまで持っていかなければいけないが機密ブロックから出すなというお達しだ。

テールユニットはガワはあってもミサイルやビームのエネルギーが入ってない。

つまりテストは終わりだ。

あとは帰ってテストの報告書の制作と、さっき言った講義の資料を簡単につくるだけ。

「あー…報告書だるいなぁ…」

『はっはっは!君でも書類仕事は苦手かねルセーブル君』

やっべ…通信切ってねぇ…大佐に聞かれてた…

「ええ、どうも椅子が低いんです。
こればかりは牛乳を飲むしか無さそうですが」

『ははは!他の農業コロニーからの定期便が来るまで待ってほしい物だ』

現状サイド7はイチバンチのここが建造途中。

他の農業コロニーも平行して作ってはいるがそれも外壁だけだ。

現状このコロニーの食料は他のサイドから送られてくる物資に依存している。

「そうですねぇ…」

『ではきちんと食事を取ってくれたまえルセーブル君』

「了解。帰投します」

ホバリングして格納庫へ。

『ルセーブル中尉帰投!
進路あけろ。邪魔だ!』

オペレーターの声が響き、慌ただしくなる。

ガション…ガション…と格納庫内を歩く。

組上がったガンダムの隣にアブルホールをつける。

メインジェネレーターを落とし、機体のシステムを切る。

ハッチを開けると目の前にちょうど足場が来た所だった。

「よう。見事なMS裁きだったぜアベル」

「ヴェルツ。お前暇なのか?」

こちらへ差し出されたヴェルツの手を取り、機体から出る。

「暇じゃぁねぇさ。俺は付き添い」

「付き添い?」

誰の? と聞く前に背中から飛び付かれた。

「お兄ちゃん!」

「おー…ローザ。いきなりだな」

「アブルホールかっこよかったよ!」

「ありがとう。ローザ。お兄ちゃんはまだ仕事があるから、あとでな」

「うん!」

さて、急いで報告書を書かねば… 
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