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俺様勇者と武闘家日記

作者:星海月
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第1部
ロマリア~シャンパーニの塔
  旅の扉の向こうには

 濡れた草の匂い。ひんやりとした土が頬に心地よい。
 時折吹く涼風が、髪をくすぐってくる。
「っくしゅん!!」
 自分のくしゃみで、ようやく私は目を覚ました。
 ずるずると鼻をすする音が夜空に響き渡る。
「ここは……?」
 見上げると、空には無数の星がちりばめられていた。
 私はゆっくりと体を起こし、寝ぼけ眼で辺りをきょろきょろと見回してみる。旅の扉を通ったからか、なんとなくぼーっとしている。
「ユウリ、シーラ、ナギ、みんな大丈夫?」
「おーい、オレは無事だぞー」
 ナギの間延びした声が聞こえる。姿は見えないが、それほど遠くにいるわけではないようだ。
「ナギ、いつから起きてたの?」
「んあ? ああ、たった今、あんたのくしゃみの音で目が覚めた。つーかここどこだ?」
 言われて私は、改めて辺りを見回した。洞窟ではない。どうやら私たちは、草原のど真ん中にいるらしい。
「さあ……。わかんない」
 私は立ち上がり、ナギのところまで歩いた。ナギはその場に座り込んでいた。
「洞窟じゃないってことは、旅の扉を無事に通ったってことだよな? てことは、ここは別の大陸ってことか?」
「ん~……。たぶん、そうなんじゃない? ただ、どこの大陸にいるのか良くわからないんだけど」
 私も村の外に出たことなんてほとんどなかったし、地理の勉強だって、全くしてこなかった。こんなことなら、旅に出る前にちゃんと勉強しとけばよかったと改めて後悔した。
「あ、そうだ! シーラとユウリは!?」
「さあ? オレが倒れたところには二人ともいなかったけど」
 って、シーラはともかく、ユウリはナギが突き落としてしまったんじゃなかったっけ? 少しは責任感じないのかな。
 それどころかナギは、懐からなにやら紙のようなものを出して、私に目もくれず、その紙をじっと見つめている。
 私はひとまず、後の二人を探すことにした。すると、いくらもたたないうちに、横に寝転がっているバニーガールの姿を見つけた。
「シーラ!!」
 シーラは、すやすやと安らかな寝息を立てて寝ていた。とりあえず起こすのは後回しにして、ユウリを見つけるのを最優先にした。
「ゆぅーりぃー!! どこにいるのぉーっ!!??」
 私は力の限り大声で叫んだ。だが、夜で視界が暗いせいで、なかなか見つけることができない。
 一人だけ変な落ち方しちゃったからかなぁ……?
 そう思うと、どんどん不安が膨らみ始めてきた。昔の人が使ってたんだし、おそらく命にかかわるようなことはないとは思うんだけど、姿が見えないとなるとやっぱり心配になってくる。
 さらに先のほうに進もうと、再び歩き始めたそのとき。
ぐにゅっ、という感触が私の足に伝わってきた。
「イヤ―――ッッ!!! なにこれ!!??」
 澄んだ夜空を切り裂くような叫び声。
 私はわけもわからず、ただただ喚いていた。
「どーした!?」
 ナギが驚いた様子でこちらに向かって走ってくる。
 私は恐る恐る下を見た。それは、大きな黒いわだかまりに見えた。
 けど良く見てみると―――。
「って、ユウリ!!??」
 私が踏んでいたのは、探していた張本人、ユウリであった。とたんに顔がさっと青くなる。
 私は慌ててふんづけていた足を離し、しゃがみこんで彼の胸に耳を当て安否を確認した。
「よかった……。生きてる……」
 何しろ仰向けで寝ている人を思い切り踏みつけてしまったのだ。危うく人を殺めるところだったと、心の底から安堵した。
 だけど、なぜかユーリはぴくりとも動かない。あれだけの衝撃と悲鳴を受けて、声ひとつ上げないのもおかしい。
「ゆ、ユウリ、しっかりして!!」
 急いで揺り起こし、頬を叩いてユウリを起こす。闇夜の中なのではっきりとは見えないが、近づいてみると彼の顔は生気を失っているように見えた。まさかーーー。
「もしかして、ふみどころが悪かったとか!?」
「いやそれは違うと思うぜ」
 ナギが冷静に分析する。
「こいつのこの顔、さっきあんたが毒受けたときと同じような顔してるぜ。それに、何か必死に堪えてるような感じだ」
 ナギの言うとおり、ユウリは青ざめた顔で、うつろな目をしながら、何かを必死に我慢している。まるで、吐き気を抑えているような……。
「もしかしてユウリ、旅の扉に酔っちゃったの!?」
 私の言葉に、ユウリは一瞬ピクリと反応したが、すぐに元の具合悪そうな顔に戻る。
 確かに旅の扉に入った途端、誰かに上下左右ひっきりなしに揺さぶられたような感覚だったし、私も少しくらくらしていた。
 ……ひょっとして、さっきユウリを起こすときに揺さぶったから、ますますひどくなったんだろうか?
 そうなると、こんなところでいつまでも寝かしとくわけにも行かない。責任を感じた私は急いでシーラを起こし、近くに町がないか探し回ることにした。
「とは言ってもなぁ……。ここがどこだかわかんないことにはうかつに動き回るわけにも行かないし、ユウリがこんな状態じゃ、あんまり遠くにはいけないし……」
 私は焦りつつも、何かいい考えはないかと考えあぐねていた。ふと目をやると、隣にいるナギの手に持っている一枚の紙に気づく。
「ねえ、ナギ。さっきから気になってたんだけど、その紙いったい何?」
「さあ? よくわかんねえけど、さっき洞窟の入り口を通るときに、途中で宝箱が置いてあってさ、ついつい開けちゃったんだよな。そしたらその中に、こいつが入ってた」
 そういって、私にそれを見せる。見た瞬間、私は目を丸くした。
「こ、これってまさか……!!」
 私は声を震わせながら叫んだ。叫ばずにはいられなかった。
「そ、地図。しかも大きさから見て世界地図だぜ」
「えぇっ!?世界地図!?」
 そう、ナギが持っていたのは、なぜか「世界地図」だったのだ。
 なんでいざないの洞窟に世界地図が入っていたのかはこの際置いといて、とにかくこの地図があれば、ここがどこなのかわかるかもしれない。
「あ、もしかしてここって、ロマリアの近くじゃない?」
「 『じゃない?』って言われても、オレは大陸から出たことねーからわかんねーよ。あんた知ってんの?」
「行った事はないけどアリアハンに向かうとき通ったことあるから知ってる。たぶんここからそんなに遠くないよ確か」
 と思って、じっと見ていたら、またまたあることに気づいた。
 なぜか、一点だけ地図上にぽつんとあり、それが常に点滅しているのだ。
 ためしに何歩か歩いてみると、点滅している点もほんのちょっと動いた。
 つまりこの世界地図、所有者(つまり私たち)の現在地が自動で表示されるのだ。しかも、地図を持っている者が移動するたびに、地図の印も連動されるようだ。なんて便利な地図なのだろう。
「すごい!! この地図、ものすごく便利だよ!! 私たちが今どこにいるのかとか、近くに何があるかとか、すごく良くわかるもの!!」
「へぇぇ。よくわかんねーけど、とにかくすげーんだな?」
「うん!! そうとわかれば、早速ユウリが休める場所を探そう!!」
善は急げだ。私たちは地図と現在地を確認し、近くに町がないか必死に探した。そして、意外とすぐ近くにロマリアの城下町があることに気づき、早速全員で町へと向かうことにした。 
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