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カラミティ・ハーツ 心の魔物

作者:流沢藍蓮
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Ep14 天魔物語

〈Ep⒕ 天魔物語〉

「フィオル!? 無事かッ!」
「兄さんも過保護だねぇ……」
 帰ってきたら、開口一番、アーヴェイの声が飛んできた。

「……というわけなの」
 とリクシアは締めくくった。
 フィオルの応急手当も終わり、今、皆は宿のある部屋に集まっている。
「参考までに聞きたいのだけれど。フィオル、アーヴェイ。あなたたちの大切な人は、兄さんみたいになったことある?」
 リクシアの疑問に、アーヴェイは首を振る。
「ハーティはそうはなら……いや、こっちの話だ」
「ハーティ? その人が、あなたたちの……」
「義理の母なんだ」
 少し昔の話をしようか、と彼は言った。

  ◆

 ずっと昔、二人は捨て子だったという。はじめにフィオル、次にアーヴェイ。その順に、とある女性に見つかった。
 女性の名はハーティ。茶髪に明るいオレンジの眼の、心やさしい女性だったらしい。彼女は捨てられた二人を良く育て、具合が悪くなったら医者に見せ、欲しいものがあったなら、よく吟味して買ってやった。教育にも熱心で、家事も非常にうまかった。彼女のもとで、フィオルもアーヴェイもまるで兄弟のようにして育ち、「当たり前」を謳歌した。

 しかし、平穏は長く続かない。それはある日のことだった。
「……嘘」
 ある手紙を読んで、彼女はくずおれるようにして泣き伏した。
「義母(かあ)さん!?」
 ハーティには遠く離れた恋人がいた。その人は彼女の幼馴染で、フィオルもアーヴェイも、一度はその人に会ったことがあった。彼はクールで格好良くて、とても頼もしい印象を受けたと二人は語る。
 その日、届いたのは。その手紙は、
――その人の訃報。
 それを見るなり、ハーティは獣のような声をあげて咆哮した。それは魔物になる予兆。
「ハーティッ!」
アーヴェイは叫んだ。
 あの日、あの時。彼が悪魔の力を解放すれば、止められたかもしれないのに。
 駆け寄ったフィオルとアーヴェイは、振り上げた手に殴り飛ばされた。
「義母さんッ!」
 魔物になっていく、育ての親。止めたいのに、止められなくて。
「ウォォォォオオオオオオオオオオ!」
 狼のように遠吠えを一つ。
 そしてハーティはいなくなった。

  ◆

「……簡単にまとめれば、こうなる」
 アーヴェイがそう締めくくった。
「あれから何回か、ハーティ=モンスターに会った。一回はフィオルが死にそうになったことさえある。でも、彼女はリュクシオン=モンスターみたいにはならなかった。思うに……」
「リアはリュクシオンにとっての一番だったが、あんたたちはハーティにとっての一番じゃなかった。ハーティにとっての一番は、その恋人だったから……ということだろう。あんたたちにとって、ハーティが一番ではないように。あんたたちにとっての一番は……互いの存在だろうから」
 割り込むようにし、フェロンが言葉を引き継いだ。
 つまりは。
「魔物になった人があんな行動をとるのは、対象がその人の一番だったって場合だけ……?」
「そうみたいだな。よって僕の場合、リュークに会って生き残れるかはわからない」
「そうなんだ……」

 語られたのは、一つの物語。
 天使と悪魔が、花の都を目指した理由。

「……魔物、か」
 呟いて、リクシアは、今はいない兄に思いを馳せるのだった。
 
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