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ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!

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第百十三話 帝国軍にまた新たな元帥が誕生します。

 帝国暦488年5月13日――。


 ゼー・アドラーには久方ぶりに諸提督が集まって、ささやかな宴を開いていた。というのは、明後日、フィオーナを総司令官とする別働部隊がイゼルローン要塞に向けて出立するからである。この別働部隊の総兵力は約16万余隻であり、その目的はイゼルローン回廊から自由惑星同盟にかけての航路をあらかじめ平定し、もって本隊の侵攻を容易ならしめるというものであった。

 当然ながら、この大軍を指揮する指揮官の心境たるや尋常ではない重圧にさらされるのであり、皆それを知っていたからこそ、若き新元帥を激励するために集まってきたのだった。ついでながら、フィオーナはこの侵攻に先立って、数日前に元帥に任命されている。

 フィオーナ・フォン・エリーセルは若干20代前半にして、帝国軍元帥に叙せられることとなる。これはイルーナ・フォン・ヴァンクラフトに次いで二番目であった。

* * * * *
 黒真珠の間控室――。

「ついに元帥か。前世でもあなたは元帥だったけれど、今回のこれは前世とは比べ物にならない規模でのことね。」

ティアナが正装したフィオーナの衣服の乱れを自ら整えてあげながら話しかけている。

「ティアナ・・・。私は元帥なんていらない。そんな資格なんてないし・・・。どうせなら、私はあなたと一緒に元帥号を授与したかったわ。」
「人一人殺さなかった純白の元帥なんてだれ一人いないわよ。コルネリアス一世陛下の友人元帥号や名誉職を除いてはね。あなたのなしてきたことを非難する者がいるとすれば、それは物事を一方的な面からしか見えない人でしかないわ。あなたのしたことを先入観なしにすべて知りえたら、それでもあなたを非難できるかどうかね。」
「それは・・・・。」
「フィオ、いつも言っているけれど、自信を持ちなさい。大丈夫、あなたは教官に負けないくらい、立派な元帥閣下になれるわ。」

オレンジ色の髪をいつものポニーテールにした彼女の親友はいつもの調子で言ったのである。

「しっかりしなさい、宇宙艦隊司令長官殿。」

 先にも述べたが、イルーナ・フォン・ヴァンクラフトは軍務尚書に、統帥本部総長はオスカー・フォン・ロイエンタールに、そして宇宙艦隊司令長官はフィオーナに決定している。今回の大規模侵攻作戦において、フィオーナはイゼルローン方面侵攻軍の司令長官を務め、副司令長官にはティアナが決定していた。もっとも実働部隊の体勢は「暫定的」なものであり、すぐにでもミッターマイヤーらに職を譲ることとなっていた。ラインハルトの構想ではいずれ宇宙艦隊司令長官をミッターマイヤーに据えることにしていたのである。軍務尚書はイルーナのままであったが、これはオーベルシュタインが彼女の指揮下にいる影響だった。

 宇宙艦隊司令長官――。

 フィオーナはほうっとその名前を口の中でつぶやく。銀河帝国の正規軍の事実上の最高責任者であると同時に実働部隊の長である。その重責はとてつもなく重い。ゴールデンバウム王朝では絶対に女性などはつけなかった職である。そんな職になぜ自分が付いたのかわからなかったが、いずれはミッターマイヤーに引き継ぐこととなるだろう。彼が動きやすいように余計なしがらみを掃除することこそが自分の役目なのだとフィオーナは言い聞かせていた。

「フィオーナ・フォン・エリーセル殿!!」

 フィオーナの名前が扉越しに高らかに叫ばれる。そして「ワルキューレは汝の勇気を愛せり」が静かに奏され始めた。こういうところはゴールデンバウム王朝の代替わりがあっても相変わらずであるが、その格式の高さと荘厳さは今回の場合とてもマッチングしていたと言っていいだろう。

「さぁ、フィオ。」

 ティアナが優しく、力強く促す。ギイと重々しい音を立てて扉が開かれ、息を一つすったフィオーナは荘厳な玉座に向かって足を進め始めた。サッシュ、そして肩章を身に着け、ライトブルーのマントをはためかせ、剣を腰に下げた彼女は外側からみれば前世の騎士そのものだっただろう。

 端正な愛らしい横顔が朝日の光を受けて美しく輝きを放ちながら居並ぶ文官武官の前を通り過ぎていく。硬すぎず柔らかすぎもせず、フィオーナの顔はいつものフィオーナの顔であった。この荘厳な間の空気に触れていても、穏やかな灰色の瞳は臆することなくまっすぐに、ラインハルトの元を目指していく。正確にはラインハルトが右わきに佇立する玉座のカザリン・ケートヘン女帝を目指しているのだが。

 ふと、武官の最前列を通る際に、イルーナ・フォン・ヴァンクラフトと目が合った。一瞬だったが、彼女が柔らかく微笑んだような気がした。

「フロイレイン・フィオーナ。」

 ひざまずいたフィオーナの頭上から声がふってきた。

「この度の昇進を陛下に代わり、私自らが伝えられること、嬉しく思う。願わくばゴールデンバウム王朝、いや、この銀河帝国の柱石となり、末永く支えて行ってほしい。」

 ゴールデンバウム王朝を銀河帝国と言い換えた意図は、ラインハルトとそのローエングラム陣営にはすぐにわかることだった。

「陛下。」

 フィオーナは頭を垂れた。ラインハルトは傍らの侍従が捧げるクッションから羊皮紙をとり、ゆっくりと読み上げた。

「ブラウンシュヴァイク討伐による多大な功績により、フィオーナ・フォン・エリーセルを帝国元帥に叙する。また、同時にフロイレイン・フィオーナを宇宙艦隊司令長官に任じ、宇宙艦隊の全軍をフロイレインの指揮下に置くものとする。帝国歴488年5月11日、銀河帝国皇帝カザリン・ケートヘン1世。」

 最後の銀河帝国皇帝の下りでやや皮肉な色が混ざった調子を聞きとれたものはほぼいなかっただろう。キルヒアイス、イルーナ、そしてフィオーナらを除いては。

* * * * *
 こうして、銀河帝国2番目の若き女性元帥が誕生したわけなのであるが――。

「・・・・・・・・。」

 当の本人は浮かぬ顔をしながら、終始ワイングラスに自分の顔を映していた。あまりにも黙り込んでいるので、万座はいつの間にか白けた雰囲気さえ漂い始めた。いつも周囲に気を使っている彼女らしからぬ振る舞いだった。


* * * * *
 シャロンからの宣戦布告後、ある日、ローエングラム陣営元帥府――。

 呼び出されたフィオーナは元教官の前に佇立していた。帝都に帰還し、あのシャロンの宣戦布告の後、フィオーナはしばらく待機(平常軍務はあるが)をしており、その間軍務の合間を縫ってシェーンコップら自由惑星同盟の人間と少数の歴史学者たちと本当の歴史の編纂、統合をしていたのである。

「教官、何の御用でしょうか?」
「あなたはイゼルローン方面から自由惑星同盟に侵攻する別働部隊を率いて一足先に出立し、イゼルローン要塞において情報収集を行ってほしいの。」
「・・・・・・・。」

 突然の呼び出しの突然の話に、フィオーナはしばらく沈黙を余儀なくされた。

「あなたに率いてもらう将帥について、リストを作成したわ。異論があれば申し出なさい。」

 フィオーナはリストを受け取って目を走らせたが、途端に顔色を悪くした。

「これは・・・・!!ですが、教官、これはあまりにも・・・・・!!」
「先日あなたも見たでしょう?シャロンの言動を。開戦についてはもう避けられない事態であることは明白。したがって、ローエングラム陣営としても官、民、そして軍が一体となって開戦準備を進めているわ。したがって、別働部隊と言えども、少数精鋭というわけにはいかないの。」
「それは、承知していますが・・・・・。これだけの大軍は原作のラグナロック作戦に匹敵するものです。そんな規模・・・私、今までに指揮を執ったことはありません!!」
「・・・・・・・。」
「・・・私、この前のブラウンシュヴァイク公討伐遠征軍でさえ、重荷になっていました。あの時は約10万隻前後でしたが、今回はそれをさらに上回る大軍です。到底・・・指揮できる自信がありません。」

 最後は小声になっていた。二人のほかに誰もいない部屋だからこそ、かろうじて相手の耳に届き得るほどの。

「ロイエンタール提督、ミッターマイヤー提督、若しくはキルヒアイス提督、あるいは教官、この補佐であれば喜んで私はお受けいたします。」
「フィオーナ。」

 かつての元教官は、じっと教え子を正面から見ながら彼女の言葉を聞いていたが、それが終わるとすぐに口を開いた。

「主力侵攻軍については、今あなたが列挙した人間を引き抜くことはできないわ。」
「どうしてですか?」
「ラインハルトとキルヒアイス、そして私が話し合って決定した結果だから。」
「・・・・・・・・。」
「あなたにとって重荷であることは誰よりも私が承知しています。けれど、他に任せられる人間がいないの。キルヒアイスはラインハルトにとってなくてはならない人間。ロイエンタール、ミッターマイヤーはいずれ私たちに代わり帝国の中枢を担う人間であり、経験を積ませる必要があるのは必定、主力侵攻軍のいくつかの軍(数個艦隊規模)の軍司令官の一つを任せることになっているわ。そして・・・・。」

 イルーナは一瞬顔を教え子から背けた。

「本当に私があなたに代わることができたならば、どんなにいいと思うか・・・・。そして私もあなたにこれ以上の重荷を背負わせたくはない。それはアレーナにも指摘されたこと。でも・・・・・この作戦について発端から今日まで計画全体の総責任者は私なの。その私が今さら放棄することなど出来ると思う?」
「・・・・いいえ。」
「あなたに代わる存在としてはアレーナがいると思うわ。けれど、他の第三者にとってはアレーナは帝国における宰相府の運営者で大貴族の継承者という認識でしかないの。軍事においてはヴァルハラ星域会戦で私たちを救ったことももちろん皆知っているけれど、それと今回の大軍の指揮を任せるに足る信頼が備わっているかどうかは別物なのよ。」
「・・・・・・・。」
「・・・・・私は今まであなたに働かせてばかりいたわね。もっと多くの人間に経験させておくべきだった。ごめんなさい。」
「いいえ、いいえ!!そんな、そんなつもりではないんです。」
「あなたが感じているプレッシャーの軽減になるかどうかはわからないけれど、あなたの『麾下』に配属させる人間について、もう一度リストを見てみなさい。」
「・・・・・・・?」

 リストを見たフィオーナはあっと声を上げた。

「エレインさん・・・?よろしいのですか?」
「・・・・ジェニファーが生きていれば、私はあなたの補佐役として彼女を指名するつもりだった。けれど、ジェニファーはもういないわ。代わり、と言ったら他ならぬエレインが怒るかもしれないけれど、彼女は政戦両略に関してアレーナと同じ経験豊富な人間よ。」
「はい。」

 エレイン・アストレイアは前世においてフィオーナたちと同盟を組んでシャロンと戦った某公国の人間であった。あまり接点はなかったが、それでも戦場で共に戦ってきた間柄である。

「教官・・・・ありがとうございます。」
「礼を言われる資格は私にはないわ。私にしてあげられるのはこの程度なのだから。」

 それでも確かな配慮と厚意を感じ取ったフィオーナはリストをイルーナに返した。その時、全く不意に沸き起こった気持ちがある。

「教官。」
「なに?」
「大動員令が発令されたことはやむを得ないことと思います。ですが・・・・。私、この戦い、何か不安を感じて仕方ないのです。何か、取り返しのつかないものに私たちは足を踏み入れてしまったのではないかと、そう思えて・・・・。」

 教え子の不安はイルーナ自身も感じ取っていることだった。あのシャロンの絶対的な自信たっぷりの言動は、シャロン自身の性格に他ならぬことだ。だが、シャロンは勝算のない勝負は挑まない。だとすれば――。

「それは私も感じていることよ。でも、フィオーナ。放置しておけば、シャロンは今度こそ帝国領における有人惑星を片端から消しにかかる。先日帝都に現れた様に造作もなくやってのけるでしょう、それを・・・・・・・。」
「どうかされましたか?」
「いえ、何でもないわ。あなたも準備があるでしょう。それまでは休息して英気を養ってちょうだい。いいわね?」
「はい。ですが、教官もご無理をなさらないでください。」
「・・・・ありがとう。」

 フィオーナが出ていった後、一人佇んでいたイルーナは考え込んでいた。

(まさか・・・・まさかとは思うけれど・・・・。いえ、それほどの大それたことはいくらシャロンでもやるはずがないわ。)

 
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