| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ハルケギニアの電気工事

作者:東風
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第29話:課題消化!(その4:皇帝一家精霊とご対面!!)

 
前書き
やってきました、皇帝一家。
来たら当然、精霊たちとのご対面となります。
お約束ですから、まあ、頑張ってください。 

 
 お早うございます。アルバートです。
 昨日は屋敷の前に水の上級精霊である『ウンディーネ』の為の池を作ったのですが、いざ水を引く段階で地下水脈の位置が離れすぎてる事に気付きました。そのままでは水を引く事が出来ないので、どうしようかとしばらく悩むことになったのです。
 そこに土の上級精霊が現れたので『ラサ』という名前を付けて上げたら、池から地下水脈まで地下に水の道を作ってくれました。そうしたら今度は、早速その道を通ってラグドリアン湖にいるはずの水の上級精霊がやって来て、池を水で一杯にしてから名前を要求されたので、『クウィンティ』という名前を上げました。
 これで、ようやく上級精霊とのイベントを無事コンプリート出来たのでホッとしましたが、その後で、やたらと感動した母上に締め落とされ、ゾフィーさんに助けて貰った挙句、あとでアニーや母上に冷やかされて大変な目に遭いました。
 ともかく、上級精霊4体と友好関係を築く事が出来ましたから、今後の領内改革にもいろいろと助けて貰う事が出来るでしょう。ただ、水の上級精霊についてはモンモランシ家あたりに何か言われそうなので、ばれないように注意しましょう。

 さて、そうこうしているうちに皇帝が到着するダエグの曜日となりました。
 すでに昨日には隣の領内に入って一泊している事が伝えられており、街道周辺の村や町では、街道を通る皇帝一家を一目見ようという領民が朝から集まって、今か今かと待ち構えています。今日は皆さん臨時休業のようですね。日本なら天皇陛下の行幸に道路で国旗を振って歓迎するという光景を思い出しますが、この世界ではそこまでの事はなく、ただ皇帝一家を見てみたいと言った感じのようです。
 どこから聞きつけて集まってくるのか、街道沿いには食べ物や飲み物を売る、物売りの屋台まで出て、皇帝を待っている領民達も屋台の食べ物を買って食べたり飲んだりしながらのんびり待っています。まるでお祭りの縁日のような賑わいですね。
 ボンバード家では今週初めから皇帝を迎える準備が始まり、今日も朝から母上の指揮の下、最終確認が行われていました。また、父上の指示で諸侯軍から迎えの兵が、護衛をかねて領境迄行っています。
 僕は、朝から『改革推進部』の人たちと公衆浴場の掃除をして、屋敷のコック長と食堂のモーリスさんにメニューの確認をしたり、それぞれの部屋の掃除をして皇帝の到着を待っていました。

 朝早くに隣の領主屋敷を出発したという報告が鷹便で届き、皇帝一家が領境を越えたのは朝9時頃でした。領民の喚声に迎えられて、着々と街道を進んできている状況が逐一知らされてきます。
 11時を回る頃、彼方から小さく喚声が聞こえるようになり、その喚声がだんだんと近づいてくるのが解ります。そして、屋敷の玄関からも遠くに皇帝一家の乗る馬車の姿が見えてきました。
 当家の諸侯軍が先導を努め、その後に王家の旗印を持った騎士が2名、見事な白馬にまたがって続きます。
 その後から皇帝一家の馬車が来ますが、その馬車を囲むように近衛隊が守って居ます。
 馬車は黒の大型が1台と白の中型が1台で、前を走る黒い馬車が皇帝用、後の白い馬車が姫様達用でしょう。綺麗で豪華な馬車ですが、こんな田舎道を走ってくると目一杯目立っています。
 一応お忍びという事になっているので、護衛の近衛隊も20人位のようですが、女官も10人位は付いているようですね。お忍びでこれ位の人数が付いてくるのなら、公の行幸なら1個中隊位付いてくるのでしょうか?安全のためなら仕方ないのでしょうが、何か無駄なような気がします。
 屋敷前の両脇に父上と母上、僕にメアリーが向き合って立ち、その後に執事とメイドが別れて並びます。屋敷内の仕事で最低限必要な人以外は、全員お迎えに出るようにと父上から指示が出ていますから、結構な人数が並んでいますよ。
やがて、行列が屋敷の門を入ってきました。玄関前のロータリーをぐるっと回って、皇帝の馬車が玄関前に着いて止まります。すぐに執事達が玄関から馬車まで、僕たちの並んでいる間に赤い絨毯を敷きます。一筋の赤い道が出来ると同時に馬車のドアが開き、中から女官が4人出てきました。女官が絨毯の両脇に立ち、恭しく頭を下げると、後に続いて皇帝が現れます。ここで軍楽隊でも居れば国歌吹奏とかやって雰囲気を盛り上げるのでしょうが、そもそもゲルマニアの国軍にも軍楽隊など無いですから出来ません。今度自衛隊の中央音楽隊のような組織を作ってみましょうか。

 何て事を考えている内に後の馬車から姫様達も降りてきましたので、ご挨拶の始まりです。

「皇帝閣下。ようこそおいで下さりました。この度の行幸、心より歓迎致します。長旅でお疲れでございましょう。どうぞごゆっくり御寛ぎ頂けますよう、誠心誠意努めさせて頂きます。」

「ボンバード伯爵。出迎えご苦労。しばらくやっかいになるが宜しく頼む。」

「改めましてご紹介致します。妻のソフィア。それから嫡男のアルバート、そして娘のメアリーでございます。」

 僕達はそれぞれ進み出て頭を下げます。今更ですが、これもお約束の儀式という奴ですね。面倒ですが、余り親しい所を表で見せるのは、色々な問題が起きる元になりますので注意しないと行けません。

「宜しくな。それでは此方も紹介しておこう。第6皇女のクリスティーネと第7皇女のエーデルトルートだ。」

 姫様達も軽く頭を下げます。こうして母上の居る所で見るとやっぱり似ていますね。
 (ちなみに、皇帝一家には7人の姫がいて、第1から第5皇女までは既に結婚して、皇室から外に出ています。アルバート君の母上は第3皇女でした。)

「それでは、此方にどうぞ。」

 玄関前での儀式も終わり、やっと居間に移動です。
 皇帝一家と、家の家族が居間に入り、一部のメイドと執事だけが残ってお茶の準備をしていると、椅子に座っていきなりテーブルのお菓子を食べ始めた皇帝が言いました。

「やれやれ。娘夫婦の家に遊びに来るのに、こんなに仰々しくしないといけないのだから皇帝というは本当に面倒くさい。廻りに他人が居なくなって、やっとのんびり出来るんだからな。」

「お父様、お行儀が悪いですわ。お茶の準備が出来るまでお待ち下さい。大体、お父様には皇帝閣下としての外聞があるのですから、これ位は我慢して下さい。」

「そうは言うがソフィア、ここまで来るのに5日も掛かっているのだぞ。もっと少人数で移動すれば、遅くとも3日有れば充分だというのに、いちいち途中の領主共との晩餐まで付き合わされて退屈な時間を過ごしてきたんだ、これ位の愚痴は言わせて貰っても構わんのではないか?」

 それは愚痴位言いたくなるでしょう。『ヴァルファーレ』に乗ってくれば1時間位で来られるのですから、どれくらい時間の無駄か解ると思います。最も『ヴァルファーレ』では2人乗りですので1人ずつしか運べませんけどね。『ヴァルファーレ』に竜籠を運んで貰うという手もありますが。

「解りました。でも、そろそろ昼食の時間ですから、お菓子ばかり食べてお腹一杯にならないでないで下さいね。」

「解っている。しかし、このお菓子は旨いな。見た事のない物だが、ここのコックが作ったのか?」

 それは見た事が無くても当然です。僕がエルフの集落から貰ってきたお土産ですからね。あの、チョコレートの中にケーキが入っているお菓子です。ドライフルーツも一緒に出しておきましたから、メアリーと姫様達も嬉しそうに食べています。

「皇帝閣下。それは私が先週南方に行った際にお土産で貰ったものです。他にも色々頂いてきましたから、後でご紹介します。」

 皇帝も南方からのお土産という一言で、エルフのお菓子だという事が解ったようです。

「ほう。ドライフルーツと同じだな。それで、アルバートはますます黒くなった訳だな。」

「はい。後程報告させて頂きますが、今回の旅では面白い物を沢山見つける事が出来ました。お話ししたい事もいっぱいありますから、夕食後を楽しみにして下さい。」

 居間で一休みした後、屋敷の食堂に移動して昼食会となりました。コック長が腕を振るうのは晩餐会となりますので、昼食では軽いランチとしました。
 母上からコック長に、皇帝の好物が知らされていて、その好物を取り入れた料理が、綺麗にお皿に盛りつけられて目の前に並べられます。全部で5皿が出されましたが、皇帝も姫様達もご機嫌で舌鼓を打って、料理が無くなった皿が調理場に戻されていきます。
 お腹も一日になって、お茶を飲んで団欒の時間を過ごし、昼休みが終わる時間に昼食会も終わりました。

 午後は『改革推進部』の視察です。以前から皇帝には『改革推進部』の事は話してありますので、実際にどんな事をやっているのか見て貰う事にしました。
 僕は先に『改革推進部』に行って、『事務局』の職員と一緒に皇帝を待ちます。
 父上の先導で『改革推進部』に来た皇帝一家は、『改革推進部』の玄関から1階の『事務局』へと入り、そこで僕の方から『事務局』の職員の紹介、仕事内容の説明などを行いました。ゾフィーさん達は制服で対応しましたが、なかなか制服姿が好評で、姫様達が興味を持ったようでした。
 続いて『部長室』を見て貰ってから、2階に上がって『保健衛生局』を見学しました。『保健衛生局』の職員は全員公衆トイレの設置のために、今週初めから領内の村へと出払っているので紹介は出来ませんでした。夕方には帰ってくると思いますから、出来ればその時に紹介したいと思います。
 最後に作業場を見て貰いました。ゴムを作るための暖炉を改良した加硫装置の説明や、量産したゴム長靴やゴム手袋、ゴムの前掛け。それに防毒マスクなどを実際に付けて貰いながら説明しましたが、出来映えに感心されて、いづれ『ヴィンドボナ』でも同様の作業を行う場合には、ここで作って納品するようにと言われました。次に活性炭を作る炉を見て貰い、使い方を説明しましたが、加熱するために必要な火石の事で、ちょっと曖昧な説明をしたら、しっかりと突っ込まれてしまいました。

「その火石という物は、どういった物なのだ?」

「南方の住人しか作る技術を持っていない秘石で、火メイジの使う魔法を中に閉じ込めたような物です。」

「そんな物をどうやって作るんだ?火の魔法を石の中に封じるなど、普通のメイジには出来ないだろう。大体、この炉で使って消耗してしまったら、補給はどうするのだ?いちいち南方まで取りに行くのでは、時間的に効率が悪くて仕方ないだろう。何か作る方法があるのではないか?」

 やっぱり、簡単な説明では納得してくれませんか。仕方ないので父上とアイコンタクトして了解を貰い、廻りには他の人が居ない事を確認して話す事にしました。

「仕方ないですね。やっぱり話さないといけませんか。それではこれを見て下さい。」

 そう言って、右手を前に出し、掌を上に向けます。

「『ファイアリー』、僕の手の平の上に集まって、炎をともして下さい。」

 僕の廻りを飛び回っている『ファイアリー』に頼むと、みんな喜んで集まってきてくれます。だんだんと集まってくると掌の上に赤い火が灯り、それが黄色から青白い炎となりました。皇帝が目を丸くしています。

「私はエルフの知り合いに教わって、私の周りにいる精霊にお願いする事により、このように火をともす事が出来ます。これは火の精霊『ファイアリー』が沢山集まる事により、普通の人の目にも見える状態になっているのです。この世界には魔法の系統と同じ、火、水、風、土の精霊が居て、その精霊にお願いする事で、それぞれの系統の魔法と同じ現象を起こす事が出来ます。これがいわゆる精霊魔法という物です。
 そして火石とは、同じようにお願いすることによって、自分の周り半径10リーグを越える範囲にいる『ファイアリー』全てが集まって作られる秘石で、スクエアクラスのメイジが唱えるファイアー系の魔法、何十回分もの力が込められています。」

「アルバート。お前はとうとう精霊魔法まで使えるようになったのか?その火は熱くないのか?」

「この火は私には熱くないのです。『ファイアリー』の加護を受けていますから、私の身体は火で焼かれる事はなくなりました。
 また、他の精霊達、水の精霊『ウンディーネ』、風の精霊『シルフィード』、土の精霊『ノーム』とも友達になったので、全ての属性の加護を受ける事が出来ました。
 今の私には、魔法であっても、自然災害であっても害を受ける事はないでしょう。」

「そうか。とうとうアルバートは人間を止めてしまったのか。残念だ。」

「いえいえいえ!?人間止めていませんから。精霊魔法を使えるからって、精霊の加護を受けたからって、人間ですから!!何を言い出すんですか?」

「わはははは!!大丈夫だ、儂は気にしないぞ。それにしても、精霊か。他の精霊にも会ってみたいものだな。どうだ、これから呼んでみないか?」

 からかわれていますね。言われると思っていましたが、この人の頼みは断れないんですよね。仕方ないので外に移動しましょう。

「ここで呼ぶ訳に行きませんから、外に出ましょう。」

 手のひらに集まった『ファイアリー』に解散して貰い、みんなを作ったばかりの池まで連れて行きます。東側の東屋に案内して皇帝と姫様達にはベンチに座って貰いました。
 僕は、池の反対側に立って改めて精霊を呼び集めます。

「『ファイアリー』、『シルフィード』、『ウンディーネ』、『ノーム』、みんな仲間毎に集まって下さい。」

 僕の周りにいる精霊達が僕を中心に集まり始めます。空中の高い位置に『ファイアリー』と『シルフィード』、池の上に『ウンディーネ』、そして地面近くに『ノーム』が集まって、それぞれの色で見えるようになってきました。東屋の方から響めきが聞こえてきます。

「皇帝閣下。空中の高い位置にいる赤い色が先ほどもご覧頂きました『ファイアリー』です。そして薄い水色が『シルフィード』、池の上の青い色が『ウンディーネ』、それから地面近くの茶色が『ノーム』です。このように見えるのは沢山の精霊が集まっているからで、普段は見る事が出来ません。」

「これが4つの精霊か。集まるとこのように見えるとは、不思議なものだな。」

 皇帝ばかりでなく、姫様達も驚いています。父上達も精霊を見るのは初めてなので一様に目を丸くしていますね。
 これは、折角ですから上級精霊の紹介もしておきましょう。どうせ、後の話で出てきたら、見せろと言われるでしょうから、この際です。

「風の上級精霊『ジン』よ、水の上級精霊『クウィンティ』よ、火の上級精霊『サラマンディア』よ、そして土の上級精霊『ラサ』よ、私の元に来て下さい。」

 目をつぶって、大きな声で叫ぶと、彼方から上級精霊達がやってくるのが感じられます。南の空から『サラマンディア』、東の方から『ジン』が飛んできました。家の水が盛り上がったかと思うと『クウィンティ』がこの前と同じ女性型になって現れ、僕の近くの土が盛り上がって『ラサ』が現れました。

「良く来て下さいました。風の上級精霊『ジン』、水の上級精霊『クウィンティ』、火の上級精霊『サラマンディア』、土の上級精霊『ラサ』」

[初めて自分から我らを呼んだな。この状況から見ると大体解るが、どんな用かな?]

 代表で[ジン]が話してくれました。

「突然呼び出して申し訳ありません。本日は私の住む国の皇帝閣下がお見えになっておりますので、私の家族を含め、きちんと皆さんを紹介したいと思いお呼びしました。」

[そうか。それで、誰がその皇帝とやらなのかな?]

 上級精霊がみんなで東屋の方を見ます。僕もそちらを見ると、母上を除き、みんな固まっていました。屋敷の人間でも別々に見た事はありますが、全部の上級精霊が纏まっているのは初めてですから、やっぱり刺激が強かったようです。それにしても流石母上ですね。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧