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魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者

作者:niko_25p
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第四十八話 命の理由 3

聖王教会に集められた六課隊長陣。

そこには騎士カリムとクロノが待っていた。

そこで語られる事とは……





魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者、始まります。





outside

聖王教会本部。

その一室にカリムとクロノ、そしてはやてがなのはとフェイトを持っていた。

コンコン

「どうぞ」

ドアがノックされ、カリムが入室を許可する。

「失礼いたします」

ドアが開き、なのはとフェイトが中に入ってくる。

凛とした佇まいで、なのはが直立する。

「高町なのは、一等空尉であります」

カリムに対して敬礼するなのは。

「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官です」

なのはに続いて、フェイトも敬礼する。

「いらっしゃい」

カリムが立ち上がり、二人に近づいた。

「初めまして。聖王教会、教会騎士団、カリム・グラシアと申します。どうぞ、こちらへ」

カリムは微笑んで二人を招き入れる。

「失礼します」

一礼し、なのはがイスに座る。

「クロノ提督。少し、お久しぶりです」

フェイトはすぐには座らずに、義兄のクロノに敬礼した。

「ああ、フェイト執務官」

その堅苦しいやりとりを見て、カリムが上品に笑う。

「うふふ。お二人共、そう堅くならないで。私達は個人的にも友人だから。いつも通りで平気ですよ」

気さくにカリムは言う。

「と、騎士カリムが仰せだ。普段と同じで」

「平気や」

クロノとはやてが、普段通りの口調になる。

「じゃあ、クロノ君。久しぶり」

ニコッと笑うなのは。

「お兄ちゃん、元気だった?」

フェイトの言葉に面食らうクロノ。

「う……それはよせ!お互い、もういい歳だぞ」

フェイトの天然の言葉に、クロノは恥ずかしそうにする。

「兄妹関係に年齢はないよ、クロノ」

フェイトは気にした様子もなく、笑ってイスに腰をかける。

和やかな空気が流れた。

「えー、コホン」

一通りの顔見せが終わった段階で、はやてが切り出した。

「さて、昨日の動きについてのまとめと、改めて機動六課設立の裏表について。それから、今後の話や」

パチン!

はやてが指を鳴らすと自動でカーテンが下がり、外からは覗けなくなった。

「六課設立の表向きの理由は、ロストロギア、レリックの対策と独立性の高い少数部隊の実験例」

クロノが代表して説明を始めた。

「知っての通り六課の後見人は、僕と騎士カリム、それから僕とフェイトの母親で上官、リンディ・ハラオウンだ」

モニターに3人の画像が出る。

ここまでは、なのはとフェイトも知っている事だ。

「それに加えて非公式ではあるが、かの三提督も設立を認め、協力の約束をしてくれている」

次に出された画像を見て、なのはとフェイトは驚いた。

時空管理局黎明期の功労者として伝説になっている三提督。

その面々が協力してくれると言う事は、かなり大きな事件を想定していると言う事だ。

「三提督が協力してくれる理由は、私の能力と関係があります」

カリムはモニター前まで移動し、手にしていた紙の束……お札のような物の紐を解いた。

「私の能力、プロフェーデン・シュリフテン。これは最短で半年、最長で数年先の未来、それを詩文形式で書き出した予言書の作成を行う事ができます。二つの月の魔力が上手く揃わないと発動できませんから、ページの作成は年に一度しかできません」

札がカリムの周囲を回りだし、なのはとフェイトの前に二枚の札がせり出してきた。

「予言の中身も古代ベルカ語で、解釈によって意味が変わる事もある難解な文章。世界に起こる事件をランダムに書き出すだけ」

カリムの説明通り、その札に書かれている文字はフェイトでも読む事はできない。

フェイトがなのはに目を向けると、彼女も首を横に振った。

「解釈ミスも含めれば、的中率や実用性は割とよく当たる占い程度。つまりは、あまり便利な能力ではないんですが」

冗談ぽく笑い、カリムは札を纏めて束ねた。

「聖王教会はもちろん、次元航行部隊のトップもこの予言には目を通す。信用するかどうかは別にして、有識者による予言情報の一つとしてな」

そう説明するクロノに、はやては苦笑して肩をすくめる。

「ちなみに、地上部隊はこの予言がお嫌いや。実質のトップが、この手のレアスキルとかお嫌いやからな」

「レジアス・ゲイズ中将、だね」

なのはが聞くと、はやてはコクンと頷く。

「そんな騎士カリムの予言能力に数年前から少しずつ、ある事件が書き出されている」

クロノがそう言うと、カリムは一枚の札を手にとり、その内容を読み出した。

「古い結晶と無限の欲望が集い交わる地。死せる王の下、聖地よりかの翼が蘇る。死者達が踊り、なかつ大地の法の塔は空しく焼け落ち、それを先駆けに数多の海を守る法の船も砕け落ちる」

「それって!」「まさか!」

なのはとフェイトが同時に声を上げる。

「ロストロギアをきっかけに始まる、管理局地上本部の壊滅と……管理局システムの崩壊」

カリムの言葉に、室内が静まりかえる。

「じゃあ、機動六課は……」

なのはは、自らの部隊を導く部隊長に目を向ける。

「荒唐無稽みたいな話やろ?でも、最近のガジェットの出現、昨日の魔導師以外のSクラス砲撃……そして、ヴィヴィオ」

「ヴィヴィオ?」

突然出てきたヴィヴィオの名前に、フェイトが聞き返す。

「偶然にしては出来過ぎや思わへん?レリックに繋がれた……いや、”古い結晶”に繋がれた少女」

「ヴィヴィオがこの一件に関わっているって言うの!?」

なのはの声が思わず大きくなる。

「……少なくとも私はそう思う。多分、望まなくてもヴィヴィオは事件に巻き込まれる。だからあの子の事は、なのはちゃんに任せたいんや」

「え?」

「一人で寂しい言うんは、私も分かるしな。ヴィータ達がきてくれた時は、スゴい嬉しかったよ」

はやてはそう言って笑った。

「はやてちゃん……」

「守ってやってな?」

「うん!ヴィヴィオの安全が確認できるまでは、私が面倒みるよ!」

嬉しそうななのはの声が、部屋の中に響きわたる。

「そっちの話は終わったかな?」

クロノが呆れたような、でも安心したような優しい笑みで聞いてきた。

「「あ、ゴメン」」

二人が顔を赤くして謝った。

「では、今後の対策の話といこうか」

その会議は、日が傾くまで行われた。





昼休みを挟み、アスカ達はずっとヴィヴィオに付きっきりだった。

もっとも、ヴィヴィオの相手をしていたのはもっぱらエリオとキャロだ。

アスカはその様子を見ていたでけだ。

そのヴィヴィオも、遊び疲れて今は眠っている。

「落ち着いてくれてよかった」

寝息を発てているヴィヴィオに、キャロが毛布をかける。その無邪気な寝顔を見て微笑みかけた。

「悪かったな、エリオ、キャロ。ヴィヴィオの面倒を見させて」

ほとんど何もしなかったアスカが二人に言う。

「そんな事ないですよ。私は妹ができたみたいで嬉しかったです」

キャロが笑って答える。

「そう言ってもらえると助かるよ。しかし、本当に普通の子供だよな?」

「そう……ですね」

アスカの言葉を、どこか上の空で聞いているエリオ。

その目は、何か思い詰めているような感じだ。

(この子が人造魔導師素体だとするなら、知識や言語がはっきりしすぎている。人工授精子ならこうはならない。たぶん、記憶があるんだ……元になった人物の……)

「エリオ君、どうかした?」

深刻そうな表情をしているエリオに気づいたキャロが、心配そうに目を向ける。

「あ……ごめん、何でもないんだ(プロジェクトFはどこかでまだ続いている……)」

エリオは取り繕うように笑う。

だが、アスカはその笑みに暗い陰があるのを見逃さなかった。

「エリオ。何か心配事があるんじゃないのか?」

何かを隠している。そう感じたアスカはエリオに聞いた。

「本当に何でもないんです。ただ……ヴィヴィオはこれから、どうすれば幸せになるんだろうなって思って」

(嘘だな……)

戻ってきた返事に、アスカは直感的にそう感じる。

おそらくは、自分達に心配を掛けないようにそう言っているのだろうとアスカは思った。

できれば相談して欲しい、と考える。

(待てよ?このタイミングで悩み事?何を悩んでいるんだ?)

それまでは、エリオに不自然な所は無かった。

それが、今になって悩んでいるような素振りが見える。

(ヴィヴィオの事で悩んでいるのか?確かに人造魔導師として生み出されて、親もいない状況では同情もするけど……ん?そう言えば、何でエリオはハラオウン隊長に保護されたんだっけ?)

アスカはふと、エリオが保護された切っ掛けを聞いてなかった事を思い出す。

もしかしたら、それが悩んでいる原因なのかもしれないと考え……

(エリオがヴィヴィオに自分を重ね合わせていたら?境遇が同じとか……境遇?え?えぇ?)

「!!!」

危なく声を上げそうになるのを、何とか堪えるアスカ。

エリオとキャロは、お互いに話をしていてそれに気づいていない。

(まさか……でもそれなら……いや、しかし……)

アスカの頭の中を、ある考えがグルグルと駆けめぐる。

(だって、そうだとしてたらエリオは……)

そこから先は考えなかった。もしそうだとしても、それは本人の口から説明すべき事だろう。

(オレが問いただして聞くってのは、違うよな)

「少し疲れたろ?ヴィヴィオが起きてくるまで休憩だ。オレが残ってるから、二人は休んでこいよ」

「はい、お願いします」「すぐに戻ってきますから」

エリオとキャロが部屋から出て行く。

アスカはベッドそばのイスに座り、さっき思いついた事を考える。

(言えるわけないか……たぶん、エリオは怖がっているんだ。言った事で、オレ達の目が……エリオを見る目が変わる事を)

そう考えた時、アスカは自嘲的な笑みを浮かべた。

(都合のいい事を考えてんじゃねぇよ、アスカ。オレはあいつ等に全部話したか?話してねぇよな?自分が秘密を持ってて、エリオの秘密を聞く訳にはいかねぇだろうがよ!)

「ん……」

アスカが自分自身に腹を立てた時、ヴィヴィオが寝返りを打った。

「……」

アスカは毛布をかけ直し、ヴィヴィオを見る。

まだ、どこか不安げな顔だ。きっと、悩みを抱えているエリオも不安に違いないだろう。

「まあ、いい頃合いかな……」

アスカは一つの覚悟を決めた。それでエリオが動かなくてもいい。

まず、自分が動こうと。





時空管理局地上本部。

「査察の日程は決まったのか?」

レジアスは自室でオーリスに尋ねた。

「人員がまだ確保できていませんが、近いうちに必ず」

淡々とオーリスが答える。

「珍しいな。お前がまだ準備できていないとはな」

レジアスが訝しむようにオーリスを見る。

「少々急な事でしたので。2、3日の内には予定を組めるかと」

「そうか。まあいい」

レジアスは一度言葉を切り、再びしゃべり出す。

「連中が何を企んでいるが知らんが、土にまみれ血を流して地上の平和を守ってきたのは地上部隊われわれだ。それを軽んじる海の連中や蒙昧な教会連中にいいようにされてたまるものか!何より、最高評議会は私の味方だ。そうだろう、オーリス?」

「はい……」

興奮して声を荒げるレジアスを、冷静に見つめるオーリス。

「公開陳述会も近い。査察では、教会や本局を叩けそうな材料を探して来い」

冷めた声の返事に気を止めず、レジアスは続ける。

「その件ですが、機動六課について事前調査をしましたが、あれは中々巧妙にできています」

オーリスはそう言って六課の組織図をモニターに映し出した。

「さしたる経歴の無い、若い部隊長を頭に据え、主力二名も移籍ではなく本局からの貸し出し扱い。部隊長の身内である固有戦力を除けば、後はほとんど新人ばかり。一名、オルセアでの実戦経験のある若い男がいますが、それも新人の範囲内。そして何より、期間限定の実験部隊扱い」

モニターの組織図が、スターズ、ライトニング、ロングアーチの人員に切り替わる。

「ふん、つまりは使い捨てか」

忌々しげにレジアスが呟く。

「本局に問題提起が起きるようなトラブルがあれば、簡単に切り捨てるでしょう。そういう編成です」

「小娘は生贄か。元犯罪者にはうってつけの役割だ」

毒を吐くレジアスを、オーリスは眉をしかめて見る。

「まあ、あの子はそれでさえ、望んで選んだ道なのでしょうけど……」

オーリスの呟きは、レジアスには届かなかった。

「ん?」

「いえ……この後、会見の予定が二件あります。移動をお願いします」

何事も無かったように、オーリスがスケジュールをレジアスに伝える。

「ああ、分かった」

レジアスも特に気にしないのか、そのまま移動を始める。

その父の背中を、オーリスは冷たい目で見つめた。

(はやて……ここが堪え所よ。守りたい物があるのなら、乗り越えて見せなさい)





アスカside

すっかり日も落ちて、外は暗くなった。

オレ達は、相変わらず高町隊長の部屋でヴィヴィオの相手をしていた。

しかし何と言うか、高町隊長とハラオウン隊長は部屋をシェアしてたんだよな。

隊長なら一人一部屋をもらえるのに、どんだけ仲がいいんだ?

何か色々妄想しちゃうじゃないの!

などとバカな事を考えていても大丈夫。

キャロとエリオがしっかりお姉さんとお兄さん役をしているからだ。

今はキャロが絵本を読み聞かせて、エリオもその側で一緒になって見ている。

うん、カワイイ感じの構図だ。

オレはスマホのカメラでその様子を写真に収める。

『アスカさん。何で写真を撮ってるんですか?』

不思議に思ったのか、エリオが念話で聞いてきた。

『記念だよ。ヴィヴィオとオレ達のな』

『はぁ……』

イマイチ理解できないのか、エリオは生返事を返してくる。

その時に、部屋のドアが開いて隊長達が帰ってきた。

「ただいまー」「ただいま」

ピクンッ!

すると、それまで絵本を見ていたヴィヴィオが立ち上がって高町隊長に駆け寄っていった。

やっぱ、不安だったか……ちょっと反省。

「ヴィヴィオ、”ただいま”。いい子にしてた?」

高町隊長が抱き上げると、ヴィヴィオはギュッと隊長に抱きついた。

「”おかえりなさい”」

そのヴィヴィオの頭を、ハラオウン隊長が優しく撫でている。

「ありがとね、エリオ、キャロ、アスカ」

ハラオウン隊長がオレ達にお礼を言ってきた。こう言うふうに言われると、なんか嬉しいね。

「いえ」「ヴィヴィオ、いい子でいてくれましたよ」

エリオとキャロもいい子だぞ。もっとハラオウン隊長に甘えてもいいじゃないかな?

「オレは何もしてませんよ。エリオとキャロが、ちゃんとお兄ちゃんお姉ちゃんしてくれてましたから」

これは本当。オレはその場にいただけで、実際はエリオとキャロが遊んでくれていたんだ。

「そうなんだ、ありがとうね」

高町隊長が可愛く笑う。

「じゃあ、オレ達は戻りますんで。ヴィヴィオ、またな」

オレは高町隊長に抱えられているヴィヴィオの頭を撫でた。

「うん……アリガト」

小さい声だったが、ヴィヴィオはちゃんとお礼を言う。

その可愛らしいお礼に、オレ達3人は笑って答えた。

さて、ヴィヴィオの方はもう大丈夫だろう。

後は……エリオだな。





outside

両隊長の部屋を出たライトニングFはオフィスへと向かっていた。

「エリオ、キャロ。ちょっとつき合ってくれないか?スバルとティアナも含めて、聞いてもらいたい事があるんだ」

「え?」「はい、大丈夫ですけど?」

アスカの声が少し重い物だったので、エリオとキャロは戸惑いを覚えつつも頷いた。

そこに丁度、スバル、ティアナ、アルトが話をしながら歩いてくる。

「あ!アスカー、ヴィヴィオはもういいの?」

ライトニングFを見つけたスバルがアスカ達に駆け寄ってくる。

「ああ、隊長達が戻ってきてくれたからな。仕事は?」

「ほとんどアタシがやったわよ。アルトさんも手伝ってくれたし」

不満タラタラのティアナに、それに苦笑するアルト。

「じゃあ、ちょっとつき合ってくれよ。みんなに話したい事があるんだ」

「話したい事?」

アルトが首を傾げる。

「あ……アルトさんはいいですよ。前に話したでしょ?オレの、昔話です」

「「あの話をするの!?」」

アスカの言葉に反応したのは二人だった。

一人はアルト。

直接話して、その後ヒドイ目にあったのは笑い話だ。

もう一人はティアナだ。

「なんでティアナが知ってんだ?」「どうしてティアナが知ってるの?」

アスカとアルトがティアナを見る。

アルトは誰にも話してはいないし、アスカも隊長達とシャーリーに話しただけだ。

「あ……アタシは、その……やらかした時、なのはさんから……」

そう言ってティアナは口ごもる。内容が重いだけに、本人の知らない所で話を聞いた事に気後れがあるようだ。

だが、アスカは特に気にしていない。

「そうか。じゃあティアナもいいだろ。スバルとエリオとキャロに……」

「私もいいかな?」

アルトがもう一度聞きたいと言ってきた。

「え?別にいいですけど、同じ話ですよ?」

アスカが戸惑うようにアルトを見る。

「あの時は、私のワガママで……勢いで聞いちゃったから、今度はちゃんと聞きたいんだ。じゃないと、アスカに失礼みたいで」

そんなやりとりと憮然と見ているティアナ。

(何よ!アルトさんには直接聞かせたの?アタシはなのはさんからの又聞きなのに!?)

ティアナの胸に、変なライバル心が芽生える。

「アタシも聞くわ。直接、アスカの口から聞きたいし」

「……いいけど……なに怒って「怒ってない!」……はい」

何か妙な空気を察するアスカ。

「「「???」」」

置いてけぼりのスバル、エリオ、キャロはただ首を捻るばかりだった。





休憩室に移動した6人は、それぞれイスに座った。

「いいかな?じゃあ、聞いてくれ。オレの昔話を」

アスカはそう切り出した。





話が終わり、アスカは一呼吸置いた。そして、みんなを見る。

涙こそ浮かべてないが、神妙な面もちなティアナとアルト。

キャロは口を押さえて泣いて、エリオは俯いて涙を堪えているようだ。

「うわあぁぁぁぁぁん!」

そして、スバルが号泣していた。

「アスカァー、大変だったんだねぇ……」

グスグスと鼻をすするスバル。

「いいから鼻水ふけよ」

スバルの号泣っぷりに若干引きながら、アスカはポケットティッシュを投げる。

スバルが落ち着くまで待ち、アスカは以上だと締めくくった。

「悪かったな。つまらない話につき合わせて」

「そんな事ないよ!アスカの事、全然知らなかったって今更ながら思ったもん!」

スバルが即答する。

「そうですよ!アスカさんにとって心の傷の筈なのに話してくれて……お話が聞けて良かったです!」

まだ涙目のキャロがアスカの答える。

その中、エリオは俯いたままだ。

「じゃあオレの話は終わり。そろそろ部屋に戻る……「ボクの!」え?」

不意にエリオが叫ぶように声を上げた。

「ボクの話も、聞いてもらえますか?」

震える声で、エリオが訴える。

「……無理に話す事はないんだぞ?オレは、自分の事だから勝手に話しただけなんだから」

「聞いて欲しいんです……もう、黙っているのが辛いんです……お願いします」

俯いたままのエリオが苦しそうに言う。

何も言わず、アスカは全員の顔を見る。誰もが、静かに頷いた。

「分かった。話してくれるか、エリオ?」

小さく震えているエリオの頭を撫でるアスカ。

それで少し落ち着いたのか、エリオは大きく深呼吸をして、それから静かに話し始めた。

「ボクは……オリジナルのエリオ・モンディアルではありません」

その言葉に静まりかえる一同。

スバル、ティアナはもちろん、アルトも凍り付いたように押し黙ってしまう。

キャロだけが、心配そうにエリオを見つめていた。事前に話しを聞いていたのかもしれない。

「そ、それって……まさか……」

スバルの声が震える。その続きを言う事ができない。

「……クローン、か?」

アスカが聞くと、エリオは頷いた。

「ボクは、”プロジェクトF”と言う計画で確立された技術で、オリジナルの記憶を持って作り出された……人造魔導師なんです」

「「「「「「……」」」」」」

「ボクの製造を依頼したのは、ある夫婦でした。子供を亡くして、それでも諦めきれなかった夫婦は、違法と知りながらも、ある犯罪者のクローンを作る事を依頼しました」

衝撃の事実だった。

人造魔導師、クローン人間。

ティアナ、スバル、アルトは口を挟めなかった。

事件として扱ってはいるが、まさか仲間内にいるとは思っていなかったのだ。

「ボクが……作られてから、しばらくは普通に生活をしていました。でも、何かが違っていたみたいで。
その夫婦の思っているエリオと、ボクの行動のギャップが出てきたんです。
それから少しして、どこかの研究施設の人がボクを回収しにきました。
違法クローンとして」

淡々と語るエリオだが、その顔は悲しみに歪んでいる。

「……その時の夫婦はどう対応したんだ?望んで……その、エリオを……」

はっきりと言えないアスカ。

「……特に抵抗もしないで、ボクを差し出しました」

「そんな、ヒドイ!」

ダンッ!

弾けるようにティアナがテーブルに拳を叩きつけた。

「勝手に命を生み出しておいて、守る努力をしないなんて!」

ティアナは怒りの感情を露わにする。

「落ち着け、ティアナ!」

アスカが慌ててティアナの手を押さえる。

「今はエリオの話を聞こう、な?」

ティアナの手を握ったまま、アスカはエリオを促す。

「……ボクが連れて行かれたのは、管理局じゃなく、違法な研究施設でした。そこで、ボクはモルモットのような扱いを受けました。色々な……人体実験を」

ギュッ!

ティアナの手に力がこもる。

アスカはティアナの手を握ったまま、空いている方の手で落ち着けと彼女の肩を叩く。

「本当、あの頃は何もかも絶望していて……フェイトさんが保護してくれた時は、誰も信用できなくなっていました」

「………苦しくて、悲しくて……心が疲れ切っていたんだな」

アスカがそう言うと、エリオは頷いた。

「はい……だから治療施設では誰の言う事も聞かなくて、大暴れして設備を壊したりしていたんです。そんなんだから、その施設にもいられなくなりそうだったんです。いま考えれば、ほんとバカだったんですけど」

自嘲気味にエリオが笑う。

「あの時はとにかく悲しくて、自分の不幸を誰も分かってくれないって怒ってて……だけど、報告を受けたフェイトさんが……まだボクの保護責任者になってくれる前の……本当はボクの事なんか無視してよかった筈のフェイトさんが会いにきてくれたんです」

「フェイトさん、優しいから、きっとエリオの事が心配でたまらなかったんだね」

それまでの話を聞いていたアルトが涙ぐむ。

「……でも、ボクはそんなフェイトさんを拒否しました」

「「「「え?」」」」

アスカ、スバル、ティアナ、アルトが驚く。

「寂しかったのに誰も信用できなくて……差し伸べられた手を掴むのが怖くて……また裏切られるんじゃないかって……あの時、ボクはフェイトさんに……攻撃をしました」

「「「「!!!」」」」

驚きを隠せないアスカ達。

キャロは、やはりその話を知っていたのだろう。ただ、エリオを見つめている。

「フェイトさんは、そんなボクの手を取って……抱きしめてくれて……言ってくれたんです。
ボクの悲しい気持ちも、許せない気持ちも全部は分からないかもしれない。でも、少しでも悲しい気持ちを分け合いたいって。
楽しい事はこれから探せば絶対にあるから、一緒に探そうって」

エリオが涙をこぼす。

「ボクが傷つけたのに……それなのに優しく笑ってくれて……もう、誰にも優しくされないんだろうなって思っていたのに……フェイトさんは……」

エリオはそれ以上言う事ができず、涙を流した。

「私も同じなんです」

それまでエリオの話を聞いていたキャロが口を開いた。

「私の名前は、キャロ・ル・ルシエ。これは、ルシエ族のキャロを指す名前です。私はルシエ族の竜の巫女として生まれてきました」

キャロは傍らにいるフリードを撫でる。

「でも、その時の私はフリードを制御できなくて、たくさんの部族のみんなに怪我をさせてしまいました。それで、部族から追放される事になってしまったんです」

思わぬキャロの告白に、エリオを除いた全員が驚愕する。

「そ、それっていつの話なんだ?」

アスカが尋ねる。

「5年くらい前になりますね。制御できない力はどこに行っても受け入れてもらえず、管理局に保護されても、周りの人達は私の扱いに困っているようでした」

悲しそうに笑うキャロ。

「でも、フェイトさんが来てくれたんです。そして、何をやりたいのって聞いてくれて。それまでの私は、やってはいけない事ばかりを考えてて、やりたい事なんて思いつかなくて……そうしたら、フェイトさんが一緒に探そうって」

「フェイトさんがボク達を見つけてくれたから……いま、ここにいれるんです。これが、ボクの話たかった事です」

しばしの沈黙。

「よかったじゃん。エリオもキャロも、自慢できるお母さんがいてさ」

明るい声でアスカが笑う。

「そうだよ、エリオ、キャロ。私もフェイトさんに感謝しなくちゃ。大切な弟と妹を連れてきてくれてってね」

アルトも優しく笑う。

「え……で、でもボクは!」

「あのねぇ、エリオがどういう生まれだからって、アタシ達がそんな事を気にすると思ってたの?ちょーっと失礼なんじゃない?」

ちょっとツンの入った感じで、ティアナがおどけた口調で言う。

「そうだよぉ!エリオもキャロもすごくいい子だよぉ!それでいいじゃない!」

再び号泣しながらスバルが鼻をかむ。

それらの言葉には、なんの裏もなかった。

「みなさん……ボク……機動六課にきて良かったです!こんなに優しい、お兄さんとお姉さんがいるんですから!」

「わ、私もそう思います!」

感極まったエリオとキャロも涙を流した。

その二人を、アスカ達は優しく見守っていた。





アスカside

言うだけ言って、聞くだけ聞いて、スッキリとした気分でオレはエリオと部屋に向かっていた。

色々と予想外の事もあったけど、結果オーライでよかったよ。

と油断していたら、

「いつから気づいていたんですか?ボクがクローンって」

鋭い……何か言い訳を考えないと、と思っていると、

「アスカさん、自分の事を話したのは、ボクが言い出せる切っ掛けにしてくれたんですよね?」

……バレバレですか。

「ったく、そう言う所はカワイクないんだなぁ。もしかしてって思ったのは今日だよ。ヴィヴィオが昼寝してた時、複雑そうな顔をしていたからな。そん時だ」

オレは正直にゲロッた。今更隠してもしょうがないしな。

「すごい感ですね」

すごいって言ってる割に、ちょっと呆れているな、エリオ。

「まあ、どっちみち話すつもりでいたけどな」

「え?」

「オレが何者か、ちゃんと知って欲しかったんだよ」

これは本音だ。遅くても、六課運営が終わるまでには話すつもりでいた。

それが、オレがみんなに見せる事のできる信頼の証だと思っていたから。

「……アスカさんはアスカさんですよ。ボクとキャロの……お兄さん」



ちょっと照れた感じでエリオが言い、オレは思わず赤面した。

不意打ちかよ、嬉しいじゃねぇか!

「そうか!」

照れ隠しに、オレはエリオの頭をグリグリと撫でくり回した。

ったく、かわいい事言いやがって!


outside

機動六課部隊長室

はやてはイスに身を沈めるように座っていた。

今日の会議の事、そしてこれからの事を考える。

親友のなのはとフェイトは自分を信じてついてきてくれる。

それに応えたい。

はやては懐から待機状態のシュベルトクロイツを取り出して、引き出しにしまおうとした。

「あ……」

引き出しの中にはアルバムがあった。

そのアルバムを手に取るはやて。

子供の頃の写真、なのは達と出会った頃からの思いでのアルバムだ。

ページをゆっくりとめくっていたはやての手が止まる。

一枚の写真を見つめるはやて。

その写真には、一人の老人と二匹の猫が写っている。

「グレアム叔父さん……」

はやては懐かしむように呟く。

「私の命は、グレアム叔父さんが育ててくれて、うちの子達が守ってくれて、なのはちゃん達に救ってもらって……あの子が……初代リインフォースが残してくれた命や」

アルバムの中にいる人々を思い起こすはやて。

「あんな悲しみとか後悔なんて、この世界の誰にもあったらアカン……私の命は、その為に使うんや」

そう覚悟を決めて入局した。その意志は今も変わらない。

「……あれ?」

アルバムをめくっていたはやてが、首を傾げてページを進める。

「ない……いや、始めから撮ってなかったっけ……」

はやてはパタンとアルバムを閉じた。

「一番、感謝しなくちゃいけない人の写真を撮ってなかったか~。不思議な人やったもんね」

なのは達と出会う少し前に、はやてはある魔導師の少年と出会った事を思い出していた。

「まっすぐに道を進めば、また出会える……か。今頃、なにしてるんかな、あの人は」





聖王教会本部

カリムは一日の仕事を終え、部屋でくつろいでいた。

六課の面々との会談は、カリムにとっても有意義だった。

「みんな、良い子達。せめて、自由に動けるように手助けしないと」

髪をといていたカリムが、何気なくプロフェーティン・シュフリテンで使用する護符に触れた。

すると、突然カリムのレアスキルが発動した。

「え?」

いきなりの事にカリムは驚く。今まで、能力が勝手に作動した事など無かったからだ。

「何で?まだ発動する時期でもないのに……」

戸惑うカリムの目の前に、一枚の札がせり出してくる。

カリムはそれを手に取り、目を通す。

「悲しみを知る盾砕ける時、死者の王、非常なる決断を下し人の生を受ける」

札に浮かび上がった古代ベルカ語の詩を読み上げるカリム。

「悲しみを知る盾?どう言う事かしら?」

勝手に発動したレアスキル。そして、今まで出てこなかった悲しみを知る盾と言う文。

それらの物に、カリムは不吉な予感を感じていた。 
 

 
後書き
どうも。最近の暑さに殺されそうな中、いかがお過ごしでしょうか?

今回は聖王教会、機動六課、管理局地上本部と舞台が移り変わっているので書きにくかったですね。

機動六課では、エリオのプロジェクトFの告白をしていましたが、その時にアスカが憤慨した
ティアナをとめてますね。ボディタッチで。
きっと後で思い出して、ティアナさんは悶絶しているでしょう。

地上本部では、レジアスさん悪役がんばってもらってます。
オーリスさんは、もうちょっと後ではやてとの関係を書けると思います。

そして聖王教会。
カリムさんがくつろいでいる時に発動したレアスキルに書かれていた”悲しみを知る盾”とは?
アスカは”前衛の守護者”とか”ザイオンの盾”とかは言われていますが、関係があるのでしょうか?

はやてがアルバムを見ていてた時に呟いた”あの人”とは、なのはやフェイトも知っている人物で、温泉回でシグナムが回想していた魔導師です。
もうちょっとで出てきますので、もうしばらくお待ちを。

で、次回は短めでナンバーズのお話になります。ディエチヒロインフラグが露骨に立つ予定となっています(フラグになるのかなぁ?) 
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