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戦国異伝供書

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第四話 治世の功その六

「万石取りとは」
「わしはその者に相応しいものを与える」
「だからですか」
「お主も万石じゃ」
 それだけの禄を与えるというのだ。
「よいな」
「それではそれがしは」
「丹波をよく治めておるな」
「あの国をですか」
「その功じゃ。ではこれからも励め」
「それでは」
 明智は信長に感激を隠さず応えた、そうしてだった。
 このことを家で話すと妻にこう言われた。
「貴方様ならと思っていました」
「わしが万石取りにまでなるとか」
「はい、ですが」
「これ程早くとはか」
「思っていませんでした」
 夫を信じている妻でもというのだ。
「まだ織田家に入って間もないというのに」
「うむ、それじゃ」
 まさにと言った明智だった。
「わしはまだ新参者、しかも外様なのにな」
「もう万石取りとは」
「凄いことじゃ、これが織田家じゃな」
「資質があり励まれるならば」
「そして功を挙げればな」
 それでというのだ。
「どんどん取り立ててもらえる」
「そうした家なのですね」
「凄い家じゃ。ではわしはこれからもな」
「織田家において」
「身を立てていこう。母上にもな」
 明智が誰よりも大事にしている母もというのだ。
「楽に暮らしてもらえる、いや」
「贅沢を」
「してもらえる」
 明智は笑ってこう話した。
「何ともよいことじゃ」
「全く以て」
「それでじゃが」 
 明智は妻にさらに言った。
「そなたも苦労をせずに済むぞ」
「そうなるというのですね」
「うむ、万石取りの女房じゃ」
 明智は妻に笑って話した。
「楽に。贅沢に暮らす様にな」
「いえ、私はです」
 明智の妻は夫に恐縮して答えた。
「このままで充分です」
「それでいいのか」
「はい」
 こう夫に答えた。
「贅沢はいりませぬ」
「左様か」
「むしろ貴方様の方が」
「ははは、わしこそこれまでのことで貧乏暮らしが板についておる」
 明智も妻に笑って答えた。
「だから贅沢なぞはな」
「それはですか」
「別にいいわ、ではこれからも家族でか」
「共にですね」
「暮らしていくか」
「万石取りに相応しい格式は持とうとも」
「質素にな」
「暮らしていきますか」
「そうしていくか」
 こう言ってだ、明智は家族で慎ましやかに暮らしていった。万石取りの格式は整えたがそれでもだった。
 明智のその話を聞いてだ、慶次は叔父である前田の屋敷に行ってそして言った。
「いや、明智殿のことを聞きますと」
「それではか」
「人として考えるものがありますな」
「そうじゃな。瞬く間に万石取りになられたが」
 前田は慶次と共に酒を飲みつつ彼に応えた。 
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