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悪役の素顔

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第一章

                悪役の素顔
 宋代の徽宗の時代に高俅という者がいた、皇帝の遊び相手から身を立てることになり軍の高官にもなった。 
 元々権勢のある家の食客をして生きておる生来無頼で遊び人の男であった。当時科挙で及第した者が多い宮廷の高官達とはそこが違っていた。
 とかく遊びに長けていて特に蹴鞠は凄いもので徽宗も目を瞠るまでだった。だが遊侠の徒であり当時の官吏の権勢と腐敗から彼の評判も悪かった。
「あのならず者が軍の高官か」
「殿師府の太尉とはな」
「枢密師ではないがな」
「もっとも枢密師も今は厄介だが」 
 童貫についても言われた、宦官だがうっすらとにしても髭が生えており筋骨隆々としていてやけに武芸に長けた人物であるがとかく汚職が多いと言われていた。高俅はこの童貫そして宰相の蔡京とも親しくとかく賄賂だの軍の私物化だの評判が悪かった。
 実際に彼は私腹も肥やしていたし兵を私用に使ったりもしていた、だが。
 ある日だ、彼はその話を聞いて眉を顰めさせた。丁度己の屋敷で酒を飲み宴を楽しんだその後のことだった。
「その話はまことか」
「はい、まことです」
 彼に仕えている軍の士官が彼に話した。
「今はあの方のご家族も」
「そうか、官職に就けずか」
「はい、そしてです」 
 そのうえでというのだ。
「困窮しておられるとか」
「左様か」
「時が変わればそうなります」
「人もな」
「残念なことですが」
「いや、残念ではない」
 高俅は士官にすぐに言葉を返した、狐に似た顔で髭も顔立ちも如何にも遊侠無頼の徒といった顔で官吏の服が似合っていない。その彼の言葉だ。
「それは」
「といいますと」
「すぐにご家族をお呼びしろ」
「あの方の」
「そうだ、わしが面倒を見て世話をする」
 こう言うのだった。
「必ずな」
「しかし」
「あの御仁はじゃな」
「はい、今や」
 士官は高俅にまさかという顔で述べた。
「宰相様の敵であられた」
「政敵であられたな、確かに」
「そうした方で」
「今は冷や飯食いじゃな」
「官職にも就けないまでに」
「そうしたことは関係ないわ」
 高俅は強い声でまた言った。
「宰相殿にはわしがお話する、そして他の高官の方が言われてもな」
「その方全てにですか」
「わしが話す、官職に就けぬならそれで許されるべきじゃ」
 そこまで冷遇されているならというのだ。
「それならな、それでじゃ」
「太尉様がですか」
「わしが面倒を見る、ではじゃ」
「はい、ご家族の方々をですか」
「わしのところにお連れするのじゃ」
 士官にこう言ってだ、彼はすぐにある家に人をやった。そうしてその家の者達を会ってこう言った。
「何でも欲しいものがあれば言われよ」
「あの、太尉様にですか」
「そうお話してよいのですか」
「まさか」
「あの、宜しいのでしょうか」
「構うことはありませぬ」
 高俅は彼等に強い声で言った。
「わしはお助けするだけの力があります、それに」
「それに?」
「それにといいますと」
「当然のことであります」
 彼等にこうも言った。 
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