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阿国と信長

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第四章

「何があろうともだ」
「されぬ」
「それが上様ですか」
「あの方なのですか」
「そうなのだ、あの方はな」
 蘭丸はまだ信長のことをよく知らない城の者達にこのことを話したのだった。
「天下人であり恐ろしい方ではあられるがな」
「それでもですね」
「あの方はそうした方なのですね」
「天下人であられても」
「そのご権勢をみだりに使われず」
「惹かれ合う者達を引き裂く様なことはされず」
「人の奥方やご側室を奪うこともされませぬか」
「人の道と心はわかっておられる方なのだ」
 信長は苛烈で時として多くの者を殺すこともある、このことは天下に広く知られ信長の恐ろしい評判のもとになっている。
 しかしだ、その一面があろうともというのだ。
「そうした方であられる、そのことはな」
「我等もですか」
「覚えておいて欲しい」
「そうなのですな」
「そうだ、そのうえで仕えてもらいたい」
 信長にというのだ、蘭丸は彼等にこのことを話した。
 彼等はその話に深く感じ入った、そしてだった。
 信長に誠心誠意仕える様になった、人の心を知りそうしてそのことを弁えている彼に対して。だが信長自身は。
 このことに何も言わず天下人として政を行っていった、そして都での阿国の評判を安土で聞いて言うのだった。
「実にな」
「はい、よいことですな」
「励んでいる様で何よりだ」
 こう蘭丸に言うのだった。
「実にな」
「そうですか、それでは」
「うむ、あの者とも添い遂げていくことをな」
「願われていますな」
「心からな」 
 そうだと言ってだ、そしてだった。
 信長は政を続けた、阿国の幸せを一人心から願いつつ。


阿国と信長   完


                     2018・5・15 
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