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メシヤと飯屋

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第一章

               メシヤと飯屋
 北川正吉と妻の生実はキリスト教の信者だ、その宗派はカトリックでよく教会にも行って礼拝をして神父やシスターとも親しく話をしている。
 それは二人の息子の正志も同じで彼もよく教会に行っていた。
 それでだ、この日正志は教会の礼拝堂、ステンドガラスを背にして十字架にかけられている男を見て両親に尋ねた。
「この人誰なの?」
「この人がメシヤなんだ」
「その方なのよ」
「メシヤ?」
 正志は両親の返答に怪訝な顔になって返した。
「誰、それ」
「イエス=キリストといってね」
 生実が息子に話した、細い眉に穏やかな目をしていて黒く長い髪を後ろで束ねている。落ち着いた外見で服装も丈の長い緑のセーターに濃い緑のセーターと穏やかだ。
「キリスト教で一番大切な人なのよ」
「大切な人なんだ」
「そうよ、この世界を救ってくれる人で」
「じゃあ僕達もなんだ」
「そう、この世の終わりに皆をそうしてくれるのよ」
「そんな凄い人なんだ」
 正志は十字架のその人物を見つつ言った。
「この人って」
「ええ、そうよ」
「だからこの人にはいつもお祈りをしているんだよ」
 今度は父の正吉が話した、眼鏡をかけて黒髪を七三分にした背の高い男だ。仕事はサラリーマンだ。
「お父さんもお母さんもな」
「そうだったんだ」
「だから正志もな」
 正吉は息子にこうも話した。
「メシヤ様にはお祈りをするんだ」
「お父さんとお母さんがそうしているみたいに」
「そうするんだ、いいな」
「うん、わかったよ」
 正志は父の言葉に素直に頷いた。
「じゃあ僕もね」
「メシヤ様にはな」
「お祈りをするよ」
 幼いながらにだ、正志は両親の言葉に頷いた。そうしてだった。
 彼の信仰がはじまった、両親と共によく教会に行きそこで礼拝をし神父やシスターの話を聞き聖書も読んでもらった。
 そうしながら家族で幸せな生活を楽しんでいた、その中でだ。
 一家で休日の外出を楽しんでいる時だ、正志はふと近くにいた休日出勤で頑張っているサラリーマン達の話を聞いた。
「飯何処で食う?」
「それが問題だな」
 営業らしくスーツ姿で街を歩いていた。
「今日はな」
「ああ、この辺りで美味い店ってあるか?」
 髪の薄い方が太った方に聞いた。
「何処かに」
「ここならいい飯屋あるぜ」
 太ったサラリーマンはこう返した。
「古い店だけれどな」
「飯屋か」
「ああ、食堂だけれどな」
「そう言っていい店か」
「古くて汚い感じの店だけれどな」
「そうした店こそ美味いしな」
 髪の毛の薄いサラリーマンは同僚に笑って返した。
「むしろな」
「そうだろ、それで実際にな」
「美味いいんだな」
「美味くてな」
 それにとだ、太ったサラリーマンも同僚に笑って話した。
「量も多いし安いんだよ」
「そうか、じゃあな」
「その飯屋で昼食うか」
「そうしような」 
 二人で話してだった、正志の視界から消えた。だが正志は彼等のそのやり取りを聞いてから自分の手をそれぞれ一本ずつ取って曳いている両親に言った。 
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