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メイクアップ

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第一章

               メイクアップ
 浜崎由衣は成績優秀で部活の吹奏楽部でもトランペットを実に上手に吹き周りの面倒見もいい。だが。
 彼女は周囲から注目されることは少ない、それは何故かというと。
 眼鏡をかけている顔は何のメイクもしておらず黒髪もただ伸ばしているだけだ。高校の制服は何の着こなしもしておらず靴下も靴も凝っていない。背は一五六位でこちらも目立つ位のものではなかった。
 鞄にも何も付けておらず携帯のストラップすらない。人付き合いは普通なのだがそれでも注目されることは稀だ。
 とにかく地味でだ、周りからルックスで注目されることは全くなかった。所謂干物系だの地味系だのと言っていい存在だった。
 しかしその彼女にだ、同じ吹奏楽部員である安室ゆかりが言った、細い目と白い肌と紅の大きめの唇を持っていて背は由衣とほぼ同じだ。だが明るくいざという時の読経から注目はよく浴びる方だった。楽器はオーボエである。
「ねえ、一回ね」
「一回?」
「由衣ちゃんメイクとかしてみたら?」
「メイク?」
「そう、メイクね」
 これをしてみてはというのだ。
「やってみたら?」
「メイクね」
「そう、そういうの興味ないの?」
「ないって言われると」
 どうかとだ、由衣はゆかりに答えた。特に嫌悪は出しておらず悪い雰囲気は一切見られない。
「あるけれど」
「そうなの」
「けれど何か面倒臭いっていうか」
 由衣はその地味な感じそのままの口調で話した、だがその声自体は可愛らしく美少女を思わせるものだ。
「難しそうで」
「しないの」
「そうなの」
 こう言うのだった。
「いつもね」
「それで服装もなの」
「着やすくて動きやすくて」
 それでというのだ。
「夏は涼しくて冬は暖かいのだったら」
「いいのね」
「そうなの」
「だから体操服も普通なの」
「そうなの」
 二人が通っている八条学園高等部指定のものの一つの上は白い体操服で下は緑の膝までの半ズボンだ。これも至って普通だ。
「スパッツだと冬寒そうだし」
「短い半ズボンも」
「冬寒そうだから。夏はそれだけれど」
 それでもというのだ。
「今みたいな季節だと」
「膝までの半ズボンで」
「もっと寒いとジャージで」
 緑のそれだというのだ、上もそうなる。
「そうしてるけれど」
「ジャージも着こなしなのに」
 実際ゆかりはそうした感じで着こなしている。
「それもしないの」
「難しそうだから」
「だからそれをね」
「お洒落して?」
「そう、それでね」
 そのうえでというのだ。
「もっと着飾ったりしたらどう?メイクとか髪の毛のセットもね」
「してみたらっていうの」
「そうしてみたら?一回ね」
「難しいんじゃ。お金もかかるし」
「そうしたところにお金かけるものじゃないの?」
 また言うゆかりだった、彼女の価値観に基づいて。
「そもそも」
「漫画とかライトノベルには」
「いや、そういうものにも使うけれど」
 それでもというのだ。 
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