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渦巻く滄海 紅き空 【下】

作者:日月
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十四 しずめゆく者

 
前書き
ギリギリ更新、申し訳ありません~!!
いい加減、風影奪回編終わらせたいので、ささっと駆け足で書いちゃってます。
場面もコロコロ変わるので読みにくいかもしれませんが、ご容赦ください!
どうかよろしくお願いします!


 

 
熱いあついアツイアツい…。
腹の奥で溶岩が煮え滾っている。

殺意・憎しみ・怒り・悲しみ…様々な負の感情が熱を以って、ナルの身体を蝕む。
へそのあたりがどろりと溶けて、真黒い闇が顔を覗かせる。


閑散とした回廊。
熱く燃えたぎっている空間で、彼女は仰向けに横たわっていた。

ぽこりぽこりと、耳元で弾ける水泡。床一面を満たす水が熱を伴い、やがて蒸発していく。

しかしながら一向に空間には水が減らない。
否、一見、水に見えるが、どろりと粘着性のある汚泥のようなモノが彼女の全身を沈ませていく。


それは殺意と憎悪を多分に含んだ負の感情。

感情に流され理性が沈むゆくのを感じながら、ナルは瞼を閉ざした。
目の前に広がる巨大な鉄格子の向こうから、自分を呼ぶ強大な存在から眼を逸らして。


負の感情に、身を委ねた。




















「…風影を餌に、人柱力を誘き出すってアイディアまでは良かったんだけどなぁ…うん」

紅い雲模様の衣を纏うデイダラは、茂みに隠れながら(さながら、人柱力が纏ってるチャクラは九尾の衣か…)と息を顰めた。


ぽこり、ぽこり。
人柱力から迸る殺気とチャクラ。

眼に見えるほどの凶悪な九尾のチャクラに、デイダラは軽く口笛を吹く。面白いモンが見られたな、と眼を細めると、彼はそのまま視線を落とした。




失った両腕の代わりに、パタパタとはためく『暁』の外套。

風影であり一尾の人柱力である我愛羅の攻撃で片腕を失い、今しがた、はたけカカシの瞳術でもう片一本持っていかれた。
だが、腕だけで済んだのは僥倖だろう。全身を持って行かれても仕方のない状況だったのだ。

あの時、視界の端で飛んでいた蝶が今も、九尾の人柱力の傍で舞っている。意外にも九尾チャクラで燃えない蝶を何の気もなく眺めながら、デイダラは茂みの奥に身を潜めた。



「やっぱり最大の誤算は、あの写輪眼のカカシを振り払えなかった事だな…、うん」


おそらく九尾の人柱力だけでは、自分が追い詰められる現在の状況にはならなかっただろう。猪突猛進タイプの行動は読めやすいからだ。もっとも、急に力を増し、妙な技で自分を翻弄した点は評価に値する。

一気に獣染みている今と違い、あの時は目尻に紅色があった気がするが、錯覚だろうか。
とにかくも、我愛羅を奪われ、死んでいる彼を見て九尾の人柱力が激昂しているこの現状をどうにか突破しなければならない。





「これまでか…」

九尾のチャクラを身に纏うナルが視線を周囲に奔らせている。自分を捜しているのだ、とデイダラは察した。

もっとも幸いな事に、九尾の人柱力は我を忘れている。
追い駆けてきたカカシも、辺りの木々をなぎ倒しているナルを正気に戻すので手一杯。
逃げるチャンスはある。











「近い内にまた相手してやるよ…うん」
「そう言わず、今、相手してもらおうか!!」



背後から聞こえてきた声に、デイダラは反射的に地を蹴った。寸前まで自分がいた茂みを見やると、スッパリ綺麗に切り揃えられている。


足裏にチャクラを定着させ、大木の幹上で横立ちになって見下ろすと、大きな扇を掲げたくノ一の姿があった。彼女の後ろには、妙な瞳をした黒髪のくノ一がいる。
彼女は、デイダラがいる方向を寸分違わず、真っ直ぐに見つめていた。




(あの眼…!)

写輪眼と並び、木ノ葉に伝わる【白眼】。
その眼を使い、死角から接近してきた二人のくノ一を、デイダラは内心、感嘆しながら口許に弧を描く。


両腕を失っても猶、不敵な笑みを浮かべるデイダラに、ヒナタは一瞬怯んだ。
だが、ヒナタの先導でこの場に辿り着いたテマリは、むしろ果敢として扇を更に広げてみせる。




「その紅い雲模様…お前が我愛羅を攫った『暁』か」


デイダラの外套をちらりと見遣って、テマリは扇を握る手に力を入れた。







つい先ほどまで、風影の不在が公になれば、他の里が攻めてくる可能性もあるという、里を第一に考える上層部の決定で、彼女は国境警備を余儀なくされていた。

バキの口添えやカンクロウのおかげで、我愛羅を追っても良い事に決まった途端、テマリは砂隠れの里を我先にと飛び出したのだ。

連れ去られた我愛羅、そしてサソリと応戦し、負傷したカンクロウ。
姉としてどうしても許せなかった。


ひとり、深追いしようとしていたテマリは、誰かに呼び止められ、ようやく足を止める。
その相手こそ、ナルといの達に一刻も早く合流しようとしていたヒナタだったのだ。

彼女の【白眼】でデイダラがいる場所を特定し、現在ようやく、テマリは弟達の仇と相まみえる事が出来たのである。



扇を振り翳し、テマリはデイダラを強い眼差しで、しかしながら油断なく睨み据えた。








「我愛羅を……──弟を返してもらおう…っ!!」





































熱いあついアツイアツい…。
殺意・憎しみ・怒り・悲しみ…様々な負の感情が汚泥となって、ナルの身体を蝕む。


《おい…お前、》

鉄格子の合間からナルを呼んでいた九尾は、ハッ、と鼻をうごめかした。


かつて会った、そして会いたくなかった相手が、ナルの身体を引っ張り上げている。


汚泥からずるり、と彼女の身を救った相手を、九尾は剣呑な眼つきで見据えた。


《貴様……》
「久しぶりだね、九喇嘛」




ナルの身を沈ませようとしていた汚泥が、彼が足を打ち鳴らすと、澄んだ水へと忽ち変わっていく。
熱気に溢れていた回廊も、清浄な空気が吹き抜け、いつもと同じ、静けさが戻ってくる。


唯一、いつもと違うのは、この場にはいないはずの存在がいるという事だった。


《小僧…ソイツに何をした?》
「変わったねぇ、九喇嘛」


ぐったりとしているナルの身を案じているらしい九尾に、ナルトは微笑ましげに微笑する。

まだ九尾チャクラに翻弄され、理性を失う事もあるけれど、意外と人柱力と尾獣の関係は概ね良好な関係らしい。
心配していない風情を装ってはいるものの、ナルを気にしている様子を見て取って、ナルトはゆるゆると双眸を細めた。



ナルが九尾チャクラを纏ったと理解した瞬間、ナルトは己のチャクラを蝶へ宿した。そうして、九尾チャクラと蝶が接触するや否や、自分のチャクラがナルに注ぎ込むように施したのだ。
彼女を落ち着かせる為、内部からの精神安定を試みたのである。





「ナルを…これからもよろしく頼むよ──九喇嘛」



見事、落ち着かせたナルの髪を撫でる。自分と同じ、だけどナルトよりずっと長い金色の髪がさらさらと指の間をすり抜けていく。

額に汗でへばりついた前髪を掻きあげて、「もう…大丈夫だよ」と彼は囁いた。

その優しく穏やかな眼差しは、確かに、兄のものだった。







そうして、次の瞬間には、九尾の前からも、そしてナルの前からも、ナルトの姿は消えていた。








































ぽこり、ぽこり。
ナルから迸る殺気とチャクラ。

髪留めが燃え尽き、二つに結わえられていた長い金の髪が風に靡いている。


眼に見えるほどの凶悪な九尾のチャクラに、カカシは冷や汗をつう…と流した。

(自来也様…恨みますよ)

風影奪還の任務ですぐさま木ノ葉隠れの里を出発した為、カカシは自来也からナルの近況について、何も聞いていなかった。ましてや、九尾チャクラが漏れた時の対処法など。



写輪眼を使った手前、既にチャクラは残り少ない。この状況で、九尾の封印が解けてしまったらとても太刀打ちできない。
おぶっていた我愛羅を木の幹に横たわらせ、九尾チャクラを纏わせるナルを見つめながらカカシは思案する。ふと、何処からか視線を感じた。おそらく、デイダラだろう。

しかし、今はデイダラどころではない。目の前のナルをどうにか正気に戻すのが先決だ。
そう思っていた矢先、彼女が急に立ち止まる。寸前までの殺気が一気に消え失せ、纏わせていた九尾チャクラも、徐々に消えていく。

九尾の尻尾のようなモノも掻き消えたかと思うと、ふらり、ナルの身体が揺れる。
倒れる寸前に、カカシは彼女を抱きとめた。




「ナル、しっかりしろ!」

気絶しているだけだとはわかる。だが、眼を覚まさない彼女が息をしているかどうかをカカシは確認した。
規則正しい息遣いを感じて、ホッと胸を撫で下ろす。



不可解な現象に訝しげにしながらも、カカシは安堵感のあまり、大きく嘆息したのだった。






































「あやつは…わしの手元を離れた時から、昔のまま……歳を取っておらん」


チヨの言葉を耳にしながら、いのは愕然と視線を往復させる。

腕と足は人間と同じと言っても過言では無いほどの精巧なつくりであり、人と見間違えるのは当然と言えた。
だが、腹部から伸びるワイヤーと、背中の刃物が人と同じつくりをしていない事実を露わにしている。


「その理由が目の前のアレじゃ」

苦々しげに呟くチヨの視線を受けて、サソリはかくんと首を傾げた。瞬きひとつしない、怖ろしいほど整った顔立ちが逆に恐怖を煽る。

自らを人傀儡にしたサソリは、立ち竦んだまま動かないチヨといのを交互に見やって、眉を顰めた。


「どうした?来ないのか?」


紅い雲模様の衣が足元に滑り落ちる。
『暁』の外套の近くで、全身の武器に仕込ませている毒が滴る。洞窟で反響する音が開戦の続行を宣誓した。



「ならば、こちらから行くぞ」

両腕を掲げる。関節の音と相違ない音を鳴らして、手のひらから噴射口が現れる。


【赤秘技・放炎海】。
高温の熱が岩を溶かす。サソリの両腕から発射された炎は洞窟内の壁さえ溶かし、外の光が射し込んでくる。



あたりが炎の海へと化していく。サソリに近づけもしない。
チヨの傀儡人形である【白秘技・十機近松の集】の傀儡人形がサソリになんとか接近しようとしたが、そのほとんどは近づく前に消し炭にされた。



見事な身のこなしで、いのとチヨはサソリの攻撃を避け続ける。
炎が一瞬途切れたのを見計らって、いのがクナイを投げた。
クナイは高熱にすぐさま、傀儡人形同様に、炭と化す。

(これじゃ、迂闊に近づけない…!)



逃げ場を徐々に失っていく二人。
岩壁に身を潜めながら、いのはチヨを捜した。いのと同じく、岩壁に隠れていたチヨが目配せする。その視線を受け取って、いのは大きく頷くと、手裏剣を取り出した。

再び投擲された手裏剣を見て、サソリは冷笑する。


「何度やっても同じことだ!」



手裏剣が高熱の炎でジュっと焼けていく。だが一枚の手裏剣が溶けていくのを目の当たりにしていたサソリの背中に影が落ちた。


「チッ、ばばあ…!!」

後ろから迫り来る【白秘技・十機近松の集】の傀儡人形。手裏剣で誘導し、背後からの攻撃を仕掛けたチヨが指を動かす。

手のひらの噴射口から炎を発しているサソリは、背中ががら空きだ。そこを狙う。


チヨの指の動きに倣って、傀儡人形が一斉にサソリの背中目掛けて、一斉に襲い掛かった。振り向く暇すら与えず、傀儡人形の影がサソリを覆う。影の中、サソリの指がピクリ、動いた。



「忘れてねぇか、チヨ婆…俺は傀儡師だぜ?」


先ほど脱いだ『暁』の外套。その衣がふわり、舞い上がる。
潜ませていた巻物が空を舞ったかと思うと、白煙が立ち昇った。





「懐かしい顔に会わせてやるよ、チヨ婆」

振り返る素振りすらせず、チャクラ糸で巻物を外套から取り出したサソリは、うっそりと眼を細めた。



瞬間、【白秘技・十機近松の集】の傀儡人形が急に動かなくなる。
関節がギギギ…と唸り、動きが鈍っているのを見て取って、チヨは己の指に巻き付けてあるチャクラ糸を訝しげに見下ろした。しっかり結わえられているチャクラ糸を確認する。


直後、視線をサソリに戻したチヨは、言葉を失った。
愕然として立ち竦むチヨに、いのが駆け寄る。咄嗟に、チヨを庇ったいのは、サソリの傍に見知らぬ人形が浮かんでいるのを視界の端で捉えた。




「【砂鉄時雨】!!」


ぶわり。
虫のような微小な粒状がサソリの周りで浮かんだかと思うと、一斉に飛び散った。それらはチヨの傀儡人形を正確に狙い撃つ。


散弾の如く、降り注いだ時雨。
雨が止んだ頃には、サソリの足元には、チヨの傀儡人形の残骸があった。





【白秘技・十機近松の集】を一瞬で全滅させたサソリを、チヨは苦々しげに睨み据える。


十年以上も前、消息不明となっていた三代目風影。
八方手を尽くしたが見つからなかった砂隠れの里長が、今、目の前にいる。


サソリの人傀儡として。






傀儡化した己自身、更に傀儡師として人形を操っているサソリは「これで二対二だな…」と空々しくチヨといのに視線を交互に向けた。



「どうした、チヨ婆さま?感激のあまり、声も出ないか?」


【白秘技・十機近松の集】の残骸を踏みしめる。
己のお気に入りの傀儡を披露してみせたサソリは、冷ややかな笑みを口許に湛えた。









「とっておきを見せてやるんだ────とくと御覧じろ」

 
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