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ラジェンドラ戦記~シンドゥラの横着者、パルスを救わんとす

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第一部 原作以前
第二章 対パルス使節団編
  第十話 再見波斯

結果的に、ファランギースは女神官を結婚退職する事になり、グルガーンはザッハーク一党にスパイとして潜入することになった。アンドラゴラス王との陰険漫才も終了したし、このままシンドゥラに帰っても構わないんだが、ダリューンやナルサスも一緒にいるんだし、ここは一つ彼らとも話をしてみるか。あの愚王との以上の嫌味の応酬になるかもしれないが。

◇◇
シンドゥラ国のラジェンドラ王子が俺、ナルサスとダリューンに少し話さないかと誘ってきた。丁度いい、こちらにもこの御仁には問いただしたいことが幾つもある。油断のならぬ曲者ゆえ正直に答えるかは判らぬが、手掛かりぐらいは掴ませてもらおう。

「まあ、まずはそうだな。お主らの俺への態度について物申させてもらおうか。他国のとは言え、仮にも俺は一国の王子なのだ。もう少し敬意を払ってもらってもバチは当たらんと思うのだがなあ。それにお主らは内なる思いがダダ漏れすぎる。いくら財宝の番をする毒蛇でもそんな態度をされてはへそを曲げかねんぞ?」

!確かに俺は「あの王子は殿下に対し、馴れ馴れし過ぎるし、信頼も信用も出来ない」と吐き捨てるダリューンに対し、「態度はどうあれあの御仁はアルスラーン殿下に対し、有益な事も話している。毒蛇でも財宝の番として役立ってくれることもあるさ」と諭したことがあったが、それを聞かれていたのか?いや、聞いていたのは諜者かもしれんが、この男には筒抜けだと言うことか。ただでさえ油断ならぬ曲者だと言うのに、その上鋭い耳目まで持ち合わせているというのか。背中を嫌な汗が流れた。

「ああ、それは申し訳ありませんでした。今後は気をつけるとしましょう。ところで、此度の神殿訪問に何故私とナルサスを指名されたので?神殿に圧力を掛けるだけであれば、別の者でも構わなかったはずですが?」

うむ、よく聞いてくれたぞ、ダリューン。俺もそれが気になっていた。この男、何を企んでいるのか?

「ああ、それはお主らが先の三カ国同盟との大戦で最も手柄を立て、最もアンドラゴラス王から疎まれていて、ろくな仕事も与えられずに暇を持て余していそうだからさ」

「…何故私たちが疎まれているなどと?」

「何、アンドラゴラスのアルスラーンへの態度を見ているだけでも判る。奴は他者に対しひどく嫉妬深い。自分が出来ないことが出来るもの、自分を差し置いて功績を上げたもの、全てが嫉妬の対象だ。そして、それを押し殺してうまく使うということも出来ん。あそこまで来ると病気だな。まあ、パルス人は総じて腹芸が下手だが。民族的に何かあるのかな、ダリューン殿?」

「さあ。ですが、腹芸ばかりうまい民族などろくなものではありますまい。常に裏切りを恐れねばならぬような国に私は仕えたくはありませんな」

「で、あろうな。しかも我が兄など俺の更に上をいく名人だ。シンドゥラはご両人にはさぞ暮らしにくかろうよ。わはははは」

これよりろくでもない腹芸使いがシンドゥラには居るのか?俺たちは思わずゲンナリした。

「しかし、陛下が王太子殿下に何を嫉妬すると?殿下はまだ十歳でいらっしゃるのに」

「ふふ、実はな、カイ・ホスロー王朝は代々の国王が即位直後にデマヴァント山へ赴き、宝剣ルクナバードに即位を追認してもらう儀式を行っていた。パルスの宰相や大将軍の他、周辺諸国の王も名代を出すなどして、それに立ち会っていたのだ。が、先々代ゴダルゼス二世の時を最後に他国の者は呼ばれなくなった。かの王は多くの者の前でルクナバードの追認を受け損なうと言う失態を晒したからな。そして、そこから三代続けてパルスの王はルクナバードに認められずにきた」

「…ば、馬鹿な、そんな事が…」

他国の者は呼ばれなくなっても成り行きを注視し、極秘裏に情報を掴んでいたということか。特にバダフシャーン公国滅亡後、パルスと国境を接することになったシンドゥラは他国よりはるかに必死に情報を集めようとしたことだろう。

「そして、アルスラーン殿は五歳にして王太子として冊立されたが、それはその歳にしてルクナバードに未来の王にふさわしいと認められたからだ。アルスラーン殿はパルス王家にとって、失ってはならない存在となった。だが、アンドラゴラス王にとっては面白くはあるまい。自分は認められなかったのに、何故あやつが認められるのだと。かくして、王はなるべく王子を視界に入れまいとするようになった」

だから、殿下を王宮の外で乳母夫婦に育てさせることとしたというのか。

「まあ、アンドラゴラス王の態度には他にも理由はあるが、まだお主らが知るべきでは無いことだ。だが、ここまで知ってしまえばアンドラゴラス王に心からの忠誠は誓えまい。そして腹芸の下手なお主らのこと、言動の端々にそれが現れ、更に疎まれる事になろうな。ふふ、離間策、ここに完成、と言ったところだな」

「なっ!?」

馬鹿な、俺たちは嵌められたと言うのか!

俺たちの表情を見て、くつくつとラジェンドラ王子は嗤った。俺はその背中に悪魔の尻尾を幻視したような気がした。

「だが、あれだな。これでお前たちが不幸のズンドコに落ちたりしたら目覚めが悪いな。よし、俺が得意のシンドゥラ占星術で、お前たちの人生の指針を占ってやろう。まずはダリューン、お主はヒルメス殿下と同年の293年、○月×日生まれだったな」

「…ああ、その通りだが」

何故そこでヒルメス殿下を引き合いに出す…

「お主はここ数年は誰かに害される事はあるまい。お主は人界における最強の勇者だしな。だが、人外の者に対してはいささか分が悪い。そのような者と対峙した場合は他人の手を借りるか任せるかした方がいいだろう。なお、お主の運命の女性は遥か遠方の国にいる。一度手を離してしまえば再会の目はまず無いので、決して離さぬように。いいかね、ダリューン殿」

「…理解はした」

「次にナルサス殿、お主はダリューンの一歳年下で294年、△月▽日生まれだったな」

「…ああ」

よく知っているものだ。これも諜者に調べさせたのか…。

「お主は少し危ういな。横死の相がある。身の危険を感じたらすぐに逃げてしまうのが吉だ。なお、お主は年の離れた女性と縁がある。成長を待ってやるのはともかく、下手な先延ばしは悪手だ。横死の相がある事をくれぐれも忘れぬようにな」

「…判った」

…成長を待ってやるって、年下ってことなのか?俺はむしろ…、いやまあいい。それより、横死の相か。悔いの無いよう一瞬一瞬を生きねばな。一刻も早く俗事から離れて、絵を描くことに専念しよう。そんな事を考えていると、ダリューンが何やら身震いした。

「ナルサス、何かはた迷惑なことを考えていないか?」

何を言っているのだ、失礼な奴め。

◇◇

占いと称して二人に若干のネタばらしをした後は、特に話すような事もなくなったので、お開きにした。そして、翌朝早く俺たちはシンドゥラへの帰途に就いた。

あばよ、パルス。また会う日まで。

 
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