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恋姫†袁紹♂伝

作者:masa3214
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第55話

 
前書き
~前回までのあらすじ~

アホ毛「やべぇよ……やべぇよ……。ものすごい、礫石降ってきたから……」

真名なし子さん「将なら、背負わにゃいかん時はどない辛くても背負わにゃいかんぞ!」

ちん〇ゅー「この辺にぃ、投石の屋台、来てるらしいっすよ」



天下無敵「カスが効かねぇんだよ!(巨石)」

イノシシ「じゃあアタイ、ギャラ貰って突撃するから」


大体あってる

 

 
「オラオラどきやがれ! 雑魚じゃアタイ達は止められねぇぜ!!」

『オオオオォォーーッッ』

 文醜隊、爆進。

「止めろ止めろ、これ以上進ませるな!」

「くそ、なんて奴らだ」

 大炎が有名になったことで影が薄れたが、袁紹が台頭した当時から主攻を担ってきたのは、言うまでもなく二枚看板の二人である。
 攻守優れた安定感のある武将が斗詩ならば、猪々子とその兵は何処までも攻撃特化だ。
 攻めこそが最大の戦術と言わんばかりに、将を先頭に騎突を仕掛ける。
 猪々子の桁違いな剣力に兵が続き、敵陣に切り込めばこむほど士気が向上していく。
 対する敵軍はその勢いに押され、士気が下がっていくのだ。
 破壊力は大炎に勝るとも劣らず。陽の大刀の名に恥じない部隊である。

「重装歩兵隊、前へ!」

『応』

 その進撃を止める為、魏軍の重装歩兵隊が躍り出る。
 彼らは文醜隊の進路上に横陣を敷き、左手に盾を、右手に槍を突き出した構えで密集した。
 装甲は大炎には及ばないが、錬度も相まって、魏軍の重装歩兵の防御力は大陸五指に入る。
 
 指揮は楽進。魏軍の出世株だ。

「来るぞ、備えろ!」

『オオォッッ!』

 文醜隊の勢いは想定以上だ。手塩にかけて育てた兵達に、多大な犠牲を強いるだろう。
 だがそれだけの価値はある。討つ必要はない、動きさえ止められれば良い。
 陣形の中に深く入り込み、動きを止めた騎馬など弓の的だ。

「……やっかいなのが出てきましたね」

「文醜様、ここは一旦兵を分けて側面に――」

「しゃらくせぇッ!」

「文醜様!?」

 騎馬が一騎飛び出して来る。文醜(猪々子)だ。
 重装歩兵の壁に向かって一騎駆け。舐められたものだと、楽進とその兵が歯噛みする。

「楽進様」

「ああ、厚くしろ」

 自信はあるが、過信はしない。
 堅実を絵に描いたような楽進と、彼女に訓練を施された兵達に油断は無かった。
 (イノシシ)の進路上にある重装歩兵の数を増やす。厚みは通常の三倍、騎突の衝撃でもびくともしないだろう。
 馬から跳んで、斬り込んでくるという奇襲にも対応できるように、(重兵)の内側に槍兵を配置。
 止まれば弓矢、跳べば串刺し。王手飛車取り、この布陣に隙はない。




「――ッ、たくよぉ」

 舌打ち。舐められたものだという感覚、それは猪々子にもあった。
 この戦からしてそうだ。魏軍の動きはどこまでも大炎を意識したもので、回りくどい策を使ってまで誘い出した。
 白馬一帯の要所、官渡や投石機すら犠牲にした。大炎に対する評価の高さが伺える。
 だが、目の前の重装歩兵はどうだ? 仮に大炎が向かってきているとすれば、彼らは同じように壁を作るだろうか? 否、別の手段を講じるだろう。

 猪々子は斬山刀を、肩に掛けるようにして構えなおす。
 目の前のソレ()は文醜隊を、それを率いる将の力量を馬鹿にしている!

「アタイを止めるには、()の桁が違うだろうがァァーーッッ」

 一閃

「――ッ、出鱈目な!?」

 楽進が叫んだ。無理もない。猪々子より放たれた斬撃は重兵の装甲を、構えた鋼鉄の盾ごと切り裂き、一撃で十数人を吹き飛ばしたのだ。
 

「続け、おめぇら!」

『オオオオォォーーッッ』

 猪々子によって壁に空いた穴に、彼女の兵たちが雪崩れ込んでいく。
 重兵は正面の防御に優れる一方で、側面と背後に弱い。
 魏兵が穴を埋めようと殺到するが。猪々子が次々に穴を構築、広げていく。

「うっし、こんなもんか。次は――」

 攻め場を作り、次の行動を決めようとしたその時である。
 猪々子に向かって“何か”が飛んできた。正体はわからないが、本能から危機感を感じ取り回避する。しかし、馬上で無理な体勢をとったため落馬。受け身に失敗し「ぐえっ」と、乙女らしからぬ声を上げた。

 先程までの雄姿が台無しである。彼女をよく知る者たちからすれば、愛嬌の一つだが……。
 相対する楽進は少し呆けてしまった。

「いってぇ、よくも……あー!? ネェチャン確か――そう、楽ちゃん!」

 ずるり、と楽進の構えが崩れる。
 
「……敵同士ではありますが、覚えていて頂けた事は光栄です」

「そりゃ忘れようがねぇよ。ほらその傷――」

 楽進の顔が歪む。彼女の全身にある傷は、武人の誉であると同時に乙女として汚点でもある。
 年頃である楽進にとっては後者に近い。そんな乙女にとって気にしている所を……。
 彼女(猪々子)の辞書に、気遣いという文字はないのだろうか? 

「――スッゲェカッコいいじゃん!」

 ずるり、ドサッ。今度は耐えきれずに倒れてしまった。
 
 傷の話題に触れない者。鍛錬の証として誉める者。
 様々な言葉を投げかけられてきたが、目を光らせて羨む反応は初めてだ。
 それも戦の真っ最中、両軍の矢が頭上を行き来する場での言葉である。

「!」

 楽進は慌てて飛び起き、構え直す。
 相手の術中に嵌まってはいけない。これはきっと、こちらの戦意を削ぐための策略だ!

「お?」

 楽進の闘志を感じ取り、猪々子も体勢を整えた。
 大刀を肩に担ぎ、口元には不敵な笑みを浮かべている。
 あるのは強者としての余裕。いや、慢心か。
 だがそれだけの実力差はあるだろう。三羽鳥の中で一番、武を磨いてきた楽進だからこそ、嫌というほど理解できる。

「よせよせ、そういうのって確か“漫遊”っていうんだぜ」

「……?」

 蛮勇、だろうか。尚も戦意を削ごうとするとは、念の入ったことだ。

「確かに、私では敵いそうにありません。ですが――」

「二人ならどうなの!」

 ――殺気。猪々子は己が防衛本能に従い、右に飛び退く。
 次の瞬間、彼女が立っていた地点を二つの刃が通り過ぎた。
 三羽鳥の一人、于禁の双剣だ。躱されると思わなかったのか、勢い余って楽進の傍に倒れた。

「ば、バカ! 声を上げながら奇襲を仕掛けるな!!」

「あたた。つい……なの」

「にしても折角の好機をお前は――」

「えーでも。沙和が声を出す前にあの人反応してたの」

「……だから?」

「どのみち避けられてたの!」
 
 どや顔ウィンク&横ピース。

「――ッ 胸を張って言うなァーッ」

「いったーーッ。同士討ちは軍法会議ものなの!」

 戦場のど真ん中でいい度胸してんなぁ。などと、猪々子は自分を棚に上げて思う。
 于禁が合流したが、余裕が崩れない。負けるイメージが思い浮かばないのだ。

「あのよぉ、漫才し続けるならアタイ行くけど」

「ま、漫才なんてしていません!」

「じゃあ、戦るんだな?」

 ゾクリと、楽進と于禁の肩が跳ねる。
 濃密な闘気。先程までの弛緩した空気が、嘘のようだ。
 楽進が息を吸い込む、右手を引き、密かに力を込めていく。
 于禁は震えを誤魔化すように、得物を強く握った。武者震いではない、恐怖からくる震え。
 それでも彼女に、逃げという選択肢はなかった。心ならずも倒れた親友(李典)と、強大な相手に向かっていく親友(楽進)の為に。背を向ける訳にはいかないのだ。

「合わせろ、沙和!」

「合点承知なの!」

 楽進の突き出された右手から、淡い光を放つ何かが飛んでくる。気弾だ。
 弛まぬ鍛錬の果てに会得した奥義。先程、猪々子を落馬させたものもそれだろう。
 猪々子は大刀を盾にして気弾を受けた。思ったより衝撃が少ない。
 これは、囮だ!

「もらった」

「なの!」

「――ッ」
 
 猪々子は、二人の狙いに気が付くと同時に、術中に嵌まっていた。
 気弾で意識を逸らしたところで、接近して猛攻を仕掛ける。超近距離戦。
 斬山刀は刃渡りも大きい長刀だ。切れ味を最大限発揮させるには、相応の間合いを必要とする。
 大きく振る必要があるのだ。

 それに対して、二人の得物は近距離戦に向いている。
 楽進の得物を己の体、四肢を活かした徒手空拳。
 于禁の双剣も小回りが利く。なにより、巧い。
 背後に回り込み、楽進の猛攻から逃れられないように牽制してくる。

 避ける、避ける、受け、避ける。
 前の拳を体術、背後の刃を大刀で弾き、いずれ来る好機を待つ。

 仕掛ける二人はそんな彼女に舌を巻いていた。不得手とされる間合いで、二人の攻撃に対処できるとは……。
 猪々子の武才は、周りの想像を遥かに超えている。

「――ちぃッッ」

 顔の横に拳が通る。猪々子の頬に掠り、血が流れた。
 ここにきて楽進が猪々子を捉え始める。というより、猪々子が避け損なった。
 楽進の攻撃パターンが変わったのだ。只でさえ多彩な拳法にフェイント、于禁もそれに合わせて来た。
 猪々子の身体を、次々と掠めていく。フェイント織り交ぜられては、避け続けるのは不可能だ。

 勝てる。
 強者を挟んで猛攻を仕掛けていた二人に、希望が湧いた。
 相手が本来の力を発揮できていれば、勝機は無かったはずだ。それほどに実力が離れている。
 二度と通用しないであろう、気弾による奇襲が生んだ好機。必ずものにして見せる……!

 そんな二人の気概を感じ取ってか。はたまた、攻め続けられたことによる苛立ちか。
 猪々子の額に血管が浮き上がる。図に乗るな。この程度、窮地ですら無い!

「なっ――ッ!?」

 猪々子による頭突き。突然受けた衝撃に楽進が立ち眩む。
 
 楽進と于禁の連携は巧い。いや、上手過ぎる。
 だからこそ生じる隙があった。二人のフェイントが重なった時だ。

「オ、ラアアァァッッッ」

 一閃

「きゃあ!?」

 于禁は脇に迫った凶刃に、辛うじて双剣を滑り込ませて受け止めた。
 だが、受けきれない。強すぎる衝撃に彼女の身体が浮き上がり、猪々子は構わず于禁ごと大刀を回転させて、楽進めがけ振りぬいた。

「ぐッ!」

 楽進も于禁同様、両の手甲を交差させ防御する。
 そして于禁と同じく浮き上がり、二人して大きく弾き飛ばされた。
 地面を転がり、楽進は即座に立ち上がった――が。

「沙和、無事か!?」

 于禁が気を失っている。額から血を流している所を見ると、受け身に失敗して頭を打ったようだ。楽進は自分達の勝率が、顕著に下がったことを自覚した。
 不幸中の幸いは、先程の一振りが全力で無かった事だろう。
 猪々子の間合いで腰の入った一振りなら、二人の胴ごと両断されていた。
 斬撃というより、鈍器に近い一撃。目的は距離を離す為だろう。

「勝負あり――ってか。ここらで降伏したらどうだい?」
 
 猪々子個人としては、二人を殺めたくない。
 強者と認めたこともあり、是非とも肩を並べて戦場に立ちたい。
 陽が魏を打ち破り吸収すれば、それも叶うだろう。
 そして何より、見知った者の死を悲しむ(袁紹 斗詩 曹操)を、見たくないと思った。

「こう……ふく?」

 両の腕に激痛が走る。チラリと目を向けると、手甲が砕けていた。
 痛みは、骨に異常をきたしたのだろう。

 絶体絶命。そんに言葉が浮かんだ自分を、楽進は嘲笑した。
 まだだ、自分には出来ることがある。

「――そうか」

 楽進が全身の気を練り上げているのを確認して、猪々子が呟く。
 討ちたくないだけで、討てないわけではない。
 最早、是非に及ばず。これ以上の言葉は互いの、武人としての魂に傷をつけるだけだ。

 楽進を中心に、波紋のように静寂が広がった。

 決死。

 相方が倒れ、手甲が砕け、身体が満足に動かせず、相対するは格上の強者。
 猪々子が強者と認めた武人が、人生の終焉に牙を立てようとしている。
 彼女は敬意を言葉にせず、獅子博兎であることでソレを伝える。

 大刀一閃。

 十数人の重装歩兵すら撫で斬りにする、猪々子がもつ最強の斬撃。
 ソレが来ると、楽進は悟った。
 右手を引き、腰を落とす。奇しくもソレは、猪々子に奇襲を仕掛けた時と同じ構えになった。

「いっっくぜぇぇぇーーッッ」
 
 瞬時に間合いを詰める大刀。楽進に焦りはない。
 後は、尽くすだけだ。

「ウオオオオォォーーーッッ」

 全身に満ちていた気が、突き出した右手に収束していく。
 目がくらむ程の眩い光と共に、全力の気弾が放たれた。
 先程放った気弾の比ではない。猪々子を丸ごと包み込むような大きさ。
 破壊力も言わずもがな、巨石すら砕くだろう。

 猪々子はそれを正面から――

「オラァッ!」

 ――斬った!

「!?」

 目を見開いた楽進がその場にへたり込む。絶望したのではない、出し尽くして脱力したのだ。
 頭上を大刀が通り過ぎる。偶然だが、避ける形になった。
 だが、それで止まる大刀ではない。猪々子は振りぬいた得物を切り返し、再び楽進を捉えた。
 刃を引くことは簡単だ。楽進達の命を惜しむなら、終いにして捕縛すればいい。
 だが、ぞれでは楽進の武人としての魂が死んでしまう。
 降伏を受け入れず全力で牙を突き立て、相手の裁量で生き延びる。
 冗談ではない。生き恥だ。
 猪々子は武人としての楽進を救うため、個に向けて斬撃を繰り出した。

 そんな不器用な気遣いを感じてか、楽進が苦笑する。
 悔いはない。全力を出し尽くして敗れたのだ。武人としての本懐といった所だろう。
 そう“武人”としては。

 目を瞑る楽進の脳裏に、魏の面々が浮かぶ。
 村を救われ、軍人として取りててもらい、変わり者で知られる幼馴染達を重宝してくれた。
 全身の傷にも嫌悪感を見せず。武人として高みを目指す事まで、手助けしてもらった。

 だからこそ個人(楽進)として無念だ。恩を、返しきれなかった。

「……?」

 妙だ。目を瞑ってから暫く経つが、来るはずの斬撃が無い。
 恐る恐る目を見開いていく。
 
 大刀が、自分の首元で止まっている。
 寸止めだろうか。いや、ありえない。最後に見た斬り返しは振りぬく勢いだった。
 では、幻を見ているのだろうか。嗚呼、幻だ。でなければ、眼前の背に説明がつかない。

「なんとか、間に合ったな……!」

「春蘭様!?」

 幻ではなかった! 二度と見ることは叶わないはずの、頼もしい背が目の前にある。
 視線を動かすと、寸での所で七星餓狼が大刀を止めている。

「よぉ、遅かったじゃんか」

「こう見えても忙しくてな。なぁに心配はいらん、埋め合わせは――するさッ!」

 大剣と大刀。戦場に大きな金属音が響き渡たった。



 
 

 
後書き
「武力、容姿、人気、忠誠度、主の器。
 結局のところ、勝つのは私では?」

「なんだァ? てめェ……」

 



 猪々子、キレたッ! 
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