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戦国異伝供書

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第二話 百姓の倅その七

「大事になりますぞ」
「そうか、ではな」
「はい、当家の為にも」
「政のことはじゃな」
「学んでおくべきです」
「うむ、ではこのままな」
 政を学んでいくとだ、前田も頷いた。そうして彼は実際に佐々や川尻達と共に政も学んでいった。すると。
 信長が尾張を瞬く間に統一したその時にだった。尾張一国六十万石のこの国を治めるその為にだった。
 信長は家臣の殆どに政の仕事をさせる様になった、この時彼は家臣達に言った。
「政でも手柄を立てるとじゃ」
「その手柄で、ですか」
「我等は」
「そうじゃ、その手柄を認めるぞ」
 笑ってこう言うのだった。
「これまで通りな」
「それではですな」
 ここで家老の一人林道勝が主に問うた。
「我等には」
「そうじゃ、どんどん政に励んでもらうぞ」
「この尾張を治める為に」
「ははは、尾張だけではないぞ」
 信長は林の今の言葉に笑って返した。
「さらにじゃ」
「まさか」
「何の為に伊勢や志摩に常に人をやっておる」
「あの二国の家々を手に入れる為」
「そうじゃ、だからじゃ」
「伊勢、そして志摩に」
「やがては美濃もじゃ」 
 信長にとって義父に当たる斎藤道三は既に死んでいる、今の美濃は信長にとってその義父の仇斎藤義龍が治めている。ならば狙うべき国だというのだ。
「あの国も手に入れるからな」
「だからですか」
「お主達にはな」
「政でもですな」
「存分に働いてもらう、よいな」
「わかり申した」
 林が応え他の家臣達もだった。
 皆戦のことだけでなく政にも励む様になっていた、そうして尾張は日に日によくなっていき木下自身もだった。
 侍になり信長の直臣として仕える様になり妻も迎えた、そして屋敷を建ててそこに母も迎えて言った。
「この通りに」
「信じられないねえ」
 その母は屋敷の中で彼にこう言った。
「女房を迎えただけじゃなくてかい」
「この様にですぞ」
「いい屋敷もだね」
「建てました、そしてです」
「これからは私もかい」
「この屋敷に住んで頂きます」
 母にその屋敷を見せつつ話すのだった。
「是非共」
「この前まで百姓だったのに」
「ははは、殿に認めて頂いて」
 そしてというのだ。
「この通りですぞ」
「いい屋敷も建てて」
「服もこの通り」
 奇麗な青い着物と袴姿で言うのだった、足には足袋があり穿いている草履もいいものだ。
「なっております故」
「私もかい」
「絹のいい着物を用意してありますぞ」
「何っ、絹かい」
 絹と聞いてだ、母は仰天して我が子に聞き返した。
「それは本当かい」
「嘘ではありませぬ」
「絹を着るなんて信じられないよ」
「それが実際に買ってありまして」
「もうかい」
「はい、是非お着換え下さい」
「高かったろうに」
 我が子に驚きを隠せないまま言った。 
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