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【完結】猫娘と化した緑谷出久

作者:炎の剣製
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猫娘と期末試験編
  NO.065 自覚する歪んだ信念

 
前書き
更新します。 

 



死柄木弔とトガヒミコによって両肩に手を置かれて、事実上拘束されてしまった出久。
死柄木はそんな出久の窮地に追い込まれている心境を知ってか知らずか小声で話しかける。

「自然に振る舞え……なぁに、旧知の友人のように構えててくれればいいのさ。お前はただ俺の質問に答えてくれればそれだけでいいんだ」
「なっ……あっ……」

なにかを喋ろうとする出久だったがすぐに死柄木は先制して言った。

「決して騒ぐな……呼吸を落ち着かせろ。そして少しでもおかしな挙動を取ったら、それが最後だ。俺の個性は雄英強襲の時に把握しているんだろ……? そう、肩に手を置かれている時点でお前はもうすでに詰んでるんだよ」

それはもう脅迫と何も変わらない。
いつ個性を発動してもいい、ただし発動すればそれで終わりであるのだから。
出久はそれでなんとか必死に呼吸を整えようとして、

「あぁ、そうそう。すぐに傷は修復するとかいう甘えた考えはしないほうがいいぞ?」
「なっ……どうしてその事を!?」
「やっぱりか……」
「ッ!?……あっ!!」

出久はそこでミスを犯してしまう。
死柄木にまんまとカマにかけられてしまったのだ。
それはつまり、死柄木はフォウの存在を知っていたという証拠。
それに気づいた時にはもう遅かった。
死柄木はそれはもう厭らしい笑みを浮かべている。

「(気づかれた! どうする!? どうすれば!?)」

もう混乱の極みな状態の出久。
そこに一人だけ分かっていないトガが死柄木に話しかける。

「弔くん、それってどういう意味ですかー? 差し支えなければ教えてくれないでしょうかー?」
「後でな……それより緑谷出久。もう分かっただろ。お前はただ俺の言葉に従うしかないんだよ。言ってみれば周りすべての客が人質のようなもんだ。
お前がもし反抗でもすればその瞬間には周りの奴らは塵になる運命だ」
「ッ!!………………何が、目的なの?」

出久の癖である考えこむ思考がこんな時にでも高速回転をしていた。
周りに被害を一切出さずに、どれだけ死柄木から有力な情報を引き出せるかという事に……。
そんな出久の反応に死柄木は「良いねぇ」と笑いながら、

「せっかくだ。腰でも下ろしてじっくりと話し合おうぜ。可愛い服を引き裂かれたくなかったらな……」

気持ち半分すでに犯罪行為の発言だが、抗う術はない。
母にせっかく拵えてもらった大事な服を汚したくないという気持ちも出久を何とか振るいだたせていた。

「弔くん。それじゃちょっと先に私が話をしてもいいですかー?」
「あぁん……? なんでだ? 俺が先に話しかけたんだぞ?」
「いいじゃないですかー。ほんの少しだけですからー」
「……………ったく、あんまり時間をとるなよ?」
「ありがとうございますー!」

そんな感じで三人は座れる場所に出久を真ん中に座らせて逃げられないようにして話をしだす。
まずはトガが出久に話しかける。

「それじゃ出久ちゃん、初めまして! 私、トガヒミコっていいますぅ。これでもヴィランやってますー」
「トガヒミコ……? そんなヴィランの名前、聞いたことない……」
「それはそうですよー。素敵なメディアの方々がまだ私が未成年だからっていう配慮で表向き、名前と顔は公開してくれないので多少はありがたいと思っていますー。
でもぉ、最近おかしく感じるんですよねー」
「な、なにが……?」
「はいー。なんで私が公表されないのに、出久ちゃんは全国に顔が知れ渡ってしまったのかとぉ……。おかしいですよねー? 未成年保護法が適用されるならたかだか人一人を助けただけで、しかも良いことをしたのに……悪いことはしていないのに出久ちゃんは公表されちゃったのかなって……なにかしら陰謀めいたものを感じませんかー? 感じますよねー? キャハハ♪」
「…………」

出久は何も答えられない。
そのあまりにも楽しそうに話すトガにどう言葉を返していいのかわからないのだ。
そんな困惑する出久の気持ちとは裏腹にさらに言葉を重ねるトガ。

「ですけど、そんなことはどうでもいいんですよ。私にとっては出久ちゃんという子の事が知れた幸運だけを感じられれば……雄英体育祭、見させてもらいましたー。あのお茶子ちゃんも中々に興奮しましたけど、やっぱり決勝での戦いは私を興奮させてくれました!
あの、爆破の男の子の攻撃によってどんどんと体に火傷や傷を負っていく光景を見せられて、魅せられて、ミセラレテ……。あぁ、ステ様以外にもこういう気持ちを抱く事ができたんだなって……私、出久ちゃんになりたいなって……それにもっと出久ちゃんの傷つく姿を見たいなって……もう考えるだけで幸せになってくるのですよ。そして最後には二人で気持ちよく殺し愛をして逝きたいです……♪」

さながらマシンガンのようなトークをし終わったのか、恍惚とした表情のまま笑みを浮かべているトガに、出久は戦慄のような感覚を覚えた。
あまりに狂気じみている。
それは一緒に聞いていた死柄木も思ったのか、

「……とんだイカレ野郎だったか。もういいか……?」
「はいー。私の気持ちはもう存分に伝えました。これで私と出久ちゃんは友達ですね! やったー!!」
「話が噛み合わねぇな……。まぁいいか。それじゃ緑谷、今から俺の質問に答えてもらうぞ」
「う、うん……」

もうトガだけでいっぱいいっぱいだった出久はまだ話が分かる死柄木に対して楽な気持ちで挑めることができた。
イカレ具合はどっちも似たようなものだが、人間話が噛み合わない人より多少でも噛み合う人の方に気持ちを集中できるものである。

「だいたい、俺はなんにでも気に入らないものがあるが最近では特に気に入らないものはヒーロー殺しだ。腹が立ってしょうがない……」
「仲間、じゃなかったの……?」
「世間ではそう言われているな。俺は決して認めちゃいねぇがな。そして問題はそこだ」
「……?」

何が問題なのだろうかと思う出久。
だが下手に聞き返して機嫌を損ねられたら堪らないので死柄木の次の言葉を待つ。

「ほとんどの奴らがヴィラン連合よりヒーロー殺しに目を向けていやがる。雄英襲撃や保須市での脳無の件も、全部奴に喰われた……。なぜ誰も俺のことを気にしない? なぜ俺のことで騒がない? なぜ、あんな能書きを垂れてるがしていることは所詮はヴィランとなんも変わらないヒーロー殺しにしか目を向けない? 奴も気に食わないものを壊して回っていただけだろ? おかしいよな? なぁ緑谷。奴と俺で何が違う……? 答えろ……」

そう言って死柄木は肩から首に手を回していって少し力を強める。
死柄木も焦っているのだ。
このままではもやもやが晴れない。なにか確証を持てるものが欲しいのだ。
今まではただ暴れるだけでよかった。
だが、これからは率いていく立場になるのだからこんな中途半端な状態では先生と呼ぶ人にも顔向けをされなくなってしまう。
それだけは嫌だ。
過去の地獄の中から助け出してくれた先生に捨てられるなんて考えたらそれだけで死ねる。
だから、出久が真に必要な何かを答えてくれることを切に祈ってすらいる死柄木。
果たして出久は、

「な、なにが違うかって……僕はお前のことは理解も納得もできない……だってお前は本当にただ壊すことだけを考えていたんだから。
だけど、ヒーロー殺しも当然納得はできない……でも、それでも理解だけはできた……」
「理解、だと……? 教えろ……その理解とやらを……」

答えが知れると思った死柄木はさらに首にかける手に力を込めていく。
それで息苦しくなっている感覚を覚えながらも出久は話す。

「……僕も、そしてヒーロー殺しも……始まりは、オールマイトだったから……。
僕はあの時、ヒーロー殺しに助けられた……。それで思った。少なくともあいつは壊したいがために壊していたんじゃないって……。
お前のように途中で諦めて徒に投げ出したりもしなかった……。
やり方が間違っていようとも、それでもヒーロー殺しは理想に生きようとしていた…………んだと思う」

そこまで出久が言い切った瞬間だった。
突然なにかのプレッシャーに襲われるイメージを感じた出久。
重く、暗いなにか……どす黒い感情が溢れ出てきたかのような……。

「あぁ……スッキリした。点と点が線で繋がったような気分だ。なんでヒーロー殺しが憎くてムカつくのか……そしてなんでお前が鬱陶しいのか……分かったような気がする……」
「弔くん! ついに見つけたんですねぇ!」
「あぁ……」

そして出久は見た。
そこには答えを得て不気味な笑みを浮かべた死柄木がこう話した……。

「全部……オールマイトが原因だってことをな……」
「ッ!!」

そのどす黒い笑みに出久は恐怖を感じた。
底知れない憎しみを讃えているその笑みはもう数値に出すことができないほどだと……。

「そうだったんだよなぁ……最初から答えはあったんだ。どうしてそれにすぐに気づけなかったんだ……オールマイト(あのクズ)がヘラヘラと笑ってるから、周りの奴らも同じようにヘラヘラと危機感を感じないで笑ってるんだ……ホントに、救えなかった人間などいなかったかのようにヘラヘラと笑ってるからなんだよなぁ!!」

その言葉の端々に感じられる憎しみはどう表現してもし足りない。
死柄木の原点はそこだったんだと、出久の言葉が思い出させてくれた。

「お前と話せてよかった! ありがとう緑谷!」

そう言いながらも出久の首を絞めていく死柄木。
気持ちが有頂天になって制御が疎かになっているのであろう。
五本の指が重ねられないだけまだ救いはあるが、それでも出久にとってはたまったものではない。

「ちょっと弔くん? 出久ちゃんが苦しそうですよ……? 聞いてますー?」

そんな、トガの言葉も耳に入らないほどに死柄木はただひたすら嗤う。

「(皮肉なもんだぜ、ヒーロー殺し……全くの正反対の俺を生かしたお前のその理想、信念が全部俺の踏み台になるんだからな!!)」

もう息が詰まるどころではないと限界を感じ始めていた出久に、だが救いの手が差し伸べられる。

「デクちゃん……? お友達、じゃないよね……?」

買い物から帰ってきたお茶子が出久のあまりの様子に顔を蒼白にさせながらもそう聞いてくる。

「手……放して……?」

震える言葉で、それでも出久を助けようと言葉を紡ぐお茶子。
それでポケットに手を入れる仕草をする死柄木。
それにいち早く気づいた出久は、

「何でもない! 大丈夫だから! だから来ちゃダメ……!」

なんとか言葉を絞り出せた出久だったが、死柄木はそこで意外な行動を取った。

「連れがいたのか。ごめんねー!」

先ほどまでの事がまるで嘘かのように明るく振舞う死柄木。
そんな光景に呆気にとられる出久とお茶子。
そしてトガと一緒に立ち上がり、出久から少しずつ離れていく。
離れ際に小声で「追ってきたら、分かるな……?」と言い残す。
出久は何度も咽ながらも、必死に死柄木に言葉を張り上げる。

「待って……死柄木……! 『オール・フォー・ワン』は何が目的なの……?」
「えっ……死柄木って……」
「さぁな……それより次会う時は覚悟しておけよ……(お前は先生の傷を治すために必要なんだからな……)」

言葉には出さずに死柄木はそう思う。
一方でトガはというと、

「デクちゃん……デクちゃん……うん! 呼び方がかぁいいね! それじゃ今度から私もデクちゃんって呼ぶ事にするね! 友達だから当然だよね!!」

と、最後まで滅茶苦茶であった。
そのまま二人は人の群れの中へと消えていったのであった……。
こうして楽しいはずのショッピングは最悪な形になってしまった……。


 
 

 
後書き
はい。こんな感じでトガちゃんももう出久に惚れてるんやで……?


オマケ(NG集)


楽しそうに笑う死柄木達の背後で、ふと悪寒を感じた二人。
振り向くより早く麗らかな顔とはかけ離れた般若のような顔をしたお茶子が二人を高速のスピードで触れて浮かせていた。

「デクちゃんになにをしているのかな……? かな……?」

目は完全に据わっていた。
死柄木とトガは今まで味わったことのないような恐怖を感じて、次の瞬間には二人は成層圏の彼方まで吹き飛ばされてしまった……。

個性無許可使用……?
デクちゃんの為なら法なんて簡単にやぶるけど、なにか……?
出久セ〇ム覚醒の瞬間だった……。
 
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