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戦国異伝供書

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第二話 百姓の倅その二

 しかしだ、母は彼にこう言うのだった。
「私はそうは思えなくなったよ」
「それだけご領地が治まっているとじゃな」
「そうだよ、あえて言うけれどね」
「お仕えするならか」
「あの方がいいんじゃないかい?」
「うむ、では清州に行った時にな」
「そのことを見てだね」
 母は我が子に問うた。
「そうしてだね」
「決めるとするか」
「それがいいよ、織田家の殿様は幾人かおられるけれどね」 
 尾張守護代である織田家は幾つかに分かれて争っているのだ、信長の父である信秀もそのうちの一人で信長もそれを受け継いでいるのだ。
 そしてその織田家の者の中でもというのだ。
「吉法師様にすべきじゃないかい?」
「わしは仕官すれば小竹も連れて行きたい」
 弟である彼もというのだ。
「あ奴は非常に出来た奴だからのう」
「そうだね、あの子もいればね」
「余計に身を立てられるからのう」
「あの子は大事にするんだよ」
 くれぐれもとだ、母は我が子にこのことも話した。
「この世でたった一人の弟だしね」
「その通りじゃ、弟を大事にせずに誰を大事にする」
「だからね」
 彼は大事にと言う母だった、そうした話をしてだった。
 実際に清州まで弟の秀長も連れて行ってみた、そうして商いと共に信長の話も聞くつもりだったが。
 城下町の賑わいを見てだ、秀長は木下に小声でこう囁いた。
「兄上、この賑わいは」
「うむ、かなりじゃのう」
 木下も弟に小声で返した。
「予想以上にな」
「ここに来るまでの田畑もよかったですし」
「堤も整っておってのう」
「橋も道も見事でしたし」
「これはな」
「はい、どうやら織田の殿様の中でも」
 信長、彼はというのだ。
「相当な方ですな」
「そうであるな、これは」
「はい、どういった殿様かはです」
「町だの田畑だのを見ればわかるからな」
「整っていれば優れていますが」
「これはな」
「はい、ここまで見事となりますと」
 まさにとだ、秀長は兄に話した。
「かなりの方ですな」
「そうであるな、店も多いしのう」
「これはです」
「清州の殿様はかなりであるな」
「全く以て」
 こうした話をしてだ、二人で針を売ると木下の話術と明るさで針をは飛ぶ様に売れた。それで儲けは得てだ。
 町の中でふとだ、信長の話を聞くと。
「いやあ、確かに変わった方だがのう」
「それでもでありますか」
「我等のことをよく考えてくれて」
 それでとだ、その町人は木下と秀長に話した。
「こうして町も整い田畑もよく」
「その様ですな」
「年貢等もあまり取り立てないので」
「暮らしもですか」
「楽だぞ、あの方が尾張を一つにされれば」
「民百姓は何処まで楽になるか」
「そういえば清州の周りは実に」
 信長の治めている領地のことをだ、木下は話した。
「ならず者もいませぬな」
「悪い者はまさにな」
「一切容赦されぬとか」
「左様、悪い者がおれば何処までも追って裁きを下す」
「それが清州の殿様ですか」
「そうして我等民を護って下さるのじゃ」
 信長はそうしたことにも力を注いでいるというのだ。 
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