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ランス ~another story~ IF

作者:じーくw
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第17話 砂漠の悪魔


~ 翔竜山上空 ~


 夜の闇の中、ゾロは空を進む。
 
 この夜の闇が支配する翔竜山は日の差す時間帯とは比べ物にならない程の危険性をはらんでいるのは言うまでもない。魔物は夜の闇を好む――と 極一般的な認識は当てはまる。それは魔物に限らず、人間界の中でも同じで野盗……、ゴロツキの類は夜を好む。闇夜に紛れて活動を活発化するからだ。無論、そう言った部類とは比べ物にならないのがこの翔竜山。
 魔物の中でもトップクラスの危険度を誇るドラゴンが生息している山であり、今は更に更に危険な存在である魔人……極めつけは魔王。
 まさにラストダンジョンの名にふさわしい山なのだ。つまり、空の上とて決して油断ならないと言う事だ。
 

「……さて、魔人DD、ホーネット、……さらにはケッセルリンク、か」
『DDと2人を比べるのは 流石に悪いと思うぞ?』
「いや、判ってはいるが魔人と分類する以上……な。次は一体誰と会うやら、と考えていた」
『そんな易々と出会う訳無いだろ、と言いたい所だが、こうも続くと一概に言えないな。そろそろシャングリラの方を目指さないか? エール達も向かっているだろう。リセットと……ヒトミがいる街だ』

 ゾロの……否 もう1人の男の声色が落ちるのが判る。その様子だけで心情が容易にくみ取れる。

「私とて同じ気持ちだ。……あの子とは長いから、な。だから その時が来たら、存分に願いを叶えてやろう。ただ、それだけを考えている」
『……ああ。すまん。声、考えに出てたみたいだな。悪い癖はなかなか治らないものだ』

 ゾロは先へと進む。

 目指すはシャングリラ。

 それはカラーの女王が統べる 砂漠の街。

















~ シャングリラの砂漠 ~


 場面はエール達に移る。

 翔竜山からシャングリラへと進路を変え、その目的地間近にまで来る事が出来た……が、ここも厄介な事が待っていた。
 翔竜山とは比べ物にはならないが、それでも厄介極まりないのが この照り付ける太陽、そして燃え上がる様な熱を反射させる砂漠の大地だ。


「あっっっ……… ち~~~~~~~~~!!」


 あまりの暑さに長田君はたまらず叫んでいた。
 まだまだ砂漠の入り口付近。質量を伴うような強い紫外線、容赦なく肌を焼いていくのが判る。砂漠にくるのが初めてであるエールにもそれが実感できていた。

「うひ……、この砂漠を超えていくのか………」
「そうみたいだね。と言うより、不思議に思ったんだけど長田君は陶器なのに暑いの?」
「あん? もち、あっちーよ。ぱねぇ暑さに割れるんじゃなくて溶けそうよ? ぶっちゃけギブしたいかもだけど、ここ渡らねぇとエールの姉ちゃんに会えないって言うしさ。ここは気合Maxで、踏破しちまおうぜ! 強くなってやるー、って誓ったんだしよ!」

 口では弱気発言とも取れる言葉を連発しそうな長田君だが、内心は燃えている様だ。この砂漠の暑さにも負けないくらいに。それ程までに、敵味方問わず、色々と出会いが強烈だったのだろうから。

「そう言えば、エール様はリセット様にはお会いしたことは今まであっただすか?」
「ん……。無いですね。名前は母さんから聞いた事があるだけで、実際には……」
「これが初対面ってわけだな。リセットって確か魔王の子の1人だし、ちょこっと警戒しそうだよなー」
「警戒する必要は一切ないだすよ。リセット様はとてもお優しい方だす。……あ、後シャングリラには リセット様だけではなくて、ヒトミ様もいらっしゃいますだす」

 ロッキーの説明に首を傾げるのは長田君。

「ん……?? ヒトミ、ヒトミ…… って、ヒトミってアレか!? 人間と友好条約を取り付けたって言う幸福きゃんきゃんの?? 膨大な経験値獲得の為だけの存在、超激レア女の子モンスター、出会ったら超ラッキー、っつー、一般常識的なルールまで変えちまったって言う!?」
「そうだす」

 長田君は目を丸くさせた。



 レア女の子モンスター 幸福きゃんきゃん。



 その存在は冒険者たちには言わば狙われる存在であり、出会う事が出来たら 即攻撃、襲い掛かり経験値を取るいわばボーナスモンスターとも言える。その力量に反比例して得られる経験値は膨大であり、最低でもLv1は上昇する。それはたとえLv1の使い手だろうと、Lv100であろうと変わらない。上限値にさえきてなければもれなく戦闘に参加した全員が得られると言うバランスブレイカーともなりうるモンスターだ。

 その種族であるのは、長田君やロッキーが言っていたヒトミと言う名を持つ少女。

 彼女はそのレアモンスターに分類される。


 そして とある理由により、冒険者と共に旅を続け、共に暮らし……そして 現在に至る。
 彼女は幸福きゃんきゃんではない。……ヒトミと言う名を持つ1人の少女だ。



「ヒトミ様は、ユーリ様の妹君だすよ。ユーリ様が冒険中に出会って、彼女を助けた時から ずっと兄と慕っている、との事だす」
「は―――……、その話も聞いた事あったけど、やっぱすげーーって言うより、どっちかと言うと不思議な話だよなー。ユーリって人は凄い凄いってのは知ってるけど、その辺はやっぱり。だって普通幸福きゃんきゃん見つけたら、即経験値! ってのが決まりなのによ? なー、エール」
「……うん。それは僕にも判るよ。だってレベルを上げるのって大変だからね」
「だろー? なのに助けて、その上兄の様に慕われててって……、うー、きゃんきゃんってみーんなもれなく可愛いし、すげー羨ましく思えてきたかもだ……」

 ぽわぽわぽわ~~ と長田君の脳内? では きゃんきゃん達に囲まれている所w想像していた。遊んで遊んで~ と手招きしているきゃんきゃんの群……。

「でも、普通のきゃんきゃんって、際限なく遊んで遊んで~ しか言わないし、中々飽きてくれないし、手懐けるのって戦うよりも100倍しんどいって言うしなぁ……、ヒトミって子はやっぱ普通のきゃんきゃんとは違うんだろうなぁ」
「そうだすね。……もう、オラにも彼女が女の子モンスターだなんて到底思えないだすよ。元々認識阻害の術を施していた、と言うのもあるだすが。このシャングリラを発展させる時。モンスターや人間、亜人と様々な種族と共存を謳う時に、その正体を明かした、となっているだす。―――最初こそは 狙うものもいたらしいだすが、カラーの精鋭達が撃退して、……何よりヒトミ様もユーリ様の妹君。戦う術は心得ていた様で、見事に鎮圧なされて、現在ではリセット様の側近と言う立ち位置だった筈だす」

 ロッキーはそこまで言うと、表情を険しくさせた。

「……エール様にとっては、いわば親族。叔母様だすが会って貰えるかどうか……。お2人とも立場あるお方だすから」
「それなら大丈夫だって。エールの母ちゃんから預かった紹介状があるからね」
「うん」

 長田君がエールの荷物から招待状を取り出す。勿論、勝手に。少々不躾な所はあるがとりあえず無礼講だ。

「へへ、中々そーかん、ってヤツだな。沢山あるし」

 紹介状の束を取り出して広げた。ぱっと見ただけでもその凄さが分かる。



 カラー女王パステル様宛。
 リーザス女王リア様宛。
 ヘルマン大統領シーラ様宛。
 ゼス王マジック様宛。
 自由都市コパンドン様宛。
 JAPAN摂政香姫宛。
 空飛ぶ城 無敵ランス城 現当主 ハンティ・カラー様宛。

 …………etc




「これマジ ごいすーじゃね? むしろ、いっそ引かね? これ渡せば各国に協力してもらえるとか、マジぱねぇ影響力っしょ」
「そうだすな。本当にこの世界の大国ばかりだす」
「それにエールの母ちゃんが言うには、紹介状さえ渡せば、魔王の子や神の子を紹介してくれて、更にオーブの手掛かりも教えてくれるらしいし、うーん、便利っつーか、やべぇっつーか」
「まさに至れり尽くせり、だすなぁ」
「ってな訳でだ! いっちょシャングリラへゴー! 気合Maxだー! ほらエールも! おーーっ!」
「うん。 おーっ」

 皆に促されて手を突き上げるエール。
 この時、エールの頭には ゾロから言われた言葉が自然と流れていた。

『前を向き、そして 未来を語れ。……それがお前達の力となる』

 そして、撫でてくれた頭の感触も思い返す。
 大きくて暖かい手だった。なにか(・・・)を感じられた。そのなにか(・・・)がいったい何の事なのかは判らなかったが。今は 前を向いてただ進もうとエールは気合を小さく入れる。

「さぁ、砂漠踏破の冒険だね」
「おうよ!」
「行くだす!」

 こうして、シャングリラへと向けて 砂漠越えが始まった。
 





























 シャングリラを囲む砂漠は広大であり、過酷な世界だ。日中は殆ど気候が変わらない炎天下。夜は急激に冷え込むと言う寒暖差が世界で一番激しい地帯であり、弱肉強食の世界とも言える。力尽き倒れようものなら、たちまち餌となってしまうから。

 そんな過酷な世界でも、何ら変わらないのがゾロ。

 エール達を陰ながら~ と言う当初の目的通りに ゾロもシャングリラの方へと飛んだ。


 そして―― シャングリラ周囲の砂漠で、想定外の事態が起こった。



「……クエルプラン」



 見上げる程の巨体。異形な姿。何に形容すれば良いのかもわからない大怪獣。
 クエルプランは、ゆっくりと歩を進めていた。……進路上にある全てを消失させながら。
 
 何処に出現するか判らない災害。ゾロも当然把握してはいなかった。だが、出会ったらしようと思っていた事がある。
 

 大怪獣クエルプランとの接触。言葉を交わす事だ。



「……お前がいる、と言う事は アイツ(・・・)も来ているか。 『……聞こえるか? クエルプラン』」



 ゾロは飛ぶ高度をゆっくりと上げて、クエルプランの視線の先へと向かった。




――お……がい。わた………を、ころ………て。




 クエルプランもゾロの存在に気付いたのだろうか。僅かにだが歩く速度が遅く、緩やかになり、無数に存在する眼がぎょろりと一斉に動き出した。途切れ途切れの 声に似たなにかが頭届く。
 その気持ちをくみ取ったのか、ゾロは 険しい表情を見せた。

『……すまないな、今 お前の目的を、願いを果たしてやる事は出来ない。……だが、案ずるな。何れ必ず終わりが来る。……その時までの辛抱だ。今一度……耐えてくれ』

―――………わた……は、しね……ない?

『ああ。……お前は死ねない。死なす訳にはいかない。それに、お前自身も死ねないだろう? ……会いたい者がいる筈だ。違うか?』

―――あい、たい。あい……たい。

『そうだ。……心を穏やかに、保て。それだけで破壊衝動はある程度収まる。きっと……会えるから』

 ゾロは誘導する様にゆっくりと飛ぶ――が、その直後、背後から空気を裂く音が聞こえてくる。それがまるで判っていたかの様に、ゾロは身体を捻り、背後から襲ってきた鎌風を避けた。
 凄まじい威力の斬撃は、轟音を辺りに響かせながら 砂漠の大地をも割り 巨大な亀裂を作った。



「ク・ナ・モ・ナ・モ・ニ・カ・イ・ニ・ス・ナ・ミ・チ………。ト・ン・ナ・カ・ナ・キ・イ・ミ!」



 ゾロの背後より現れたのは、目測で4mはあろうかと言う巨躯を持つクエルプランとはまた違った異形の化け物。何処かドラゴンにも似た頭部を持ち、鋭い爪が生えた手足が複数ある。その内の1つが先程の鎌風を産んだ様だ。


「お前は予想通りだったよ。……しかし 魔人の次は第壱階級悪魔。近頃は色んな意味で随分と豪勢」
「…………」

 顔見知りとでもいうのだろうか、ゾロはたじろぐ様子を一切見せない。攻撃を躱した時の様に、まるでいる事を知っていたと言わんばかりに、身体を正面に向けた。
 現れたのは第壱階級悪魔 ネプラカス。 神異変後に暗躍を続ける悪魔であり、幾度となく人間界へと赴いている。

 その目的は 神に変わり悪魔が全てを統べる存在とする為。

 そして、その成果は思わしくないのだ。……その最大の理由が目の前にいるゾロと言う男。
 時にはスカし、時にはあしらい、……さらには撃退するまでの事をする。力の差があるのか、無いのかさえ判らない。ゾロと相対する時決まって ネプラカスは混乱極まるのだ。勝てないのであれば、逃げの一手。放置が最善だと言う事は判る。だが、何故かはわからないが、出来なかった。

 それは頭にある予感がこびり付いて離れないからだ。

 そう 全てを―――。


「ノ・ニ・カ・ク・モ・シ!」
「流石に私は悪魔語は解さない。話がしたいのであれば、人の言葉を使え。……無論、力で語っても構わないぞ。そうだな、次は(・・)叩き潰してやろう」
「………ク・イ・モ・ナ」

 忌々しそうに睨みつけるネプラカス。
 隔たる壁が大きいのか、小さいのかが判らない。逃げる事さえも選択出来ない自分自身も判らない。
 故に――。



『殺す……、殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!!』



 ただ、狂った様に襲い掛かる事しかできないのだ。

 猛攻といっていい連撃。内に持つ牙、爪、触手、全てを使う波状攻撃。
 攻撃の嵐と言っていい中でも、まるで攻撃が来ない場所を最初から知っていたかの様に、最小限の動きで攻撃を避け続けられる。
 最後は吸い込まれた? と錯覚してしまう程に 懐までの侵入を許していた。

「お前に空は似合わない。……地へ堕ちろ」

 繰り出す剣撃が腹部を襲ってきた。咄嗟に触手を身体に引き寄せ、ガードに徹したのだが、威力が強く 身体事地面に向かって吹き飛ばされてしまった。 
 翅を使い、地面に当たるまいとはばたく……が、強烈な重力波を受けたかの様に翅が上手く動かせない。もがくのも一瞬であり、直ぐに大地へ叩きつけられた。巨大なクレーターを作りながら。

 大地に叩きつけられたネプラカスだが、実の所物理的な攻撃に関しては大体が無効化できるほどの強固な身体を持っている。魔人の無敵結界とは違うが、それに近い程の耐久力を持っているのだ。一見派手に叩きつけられたが、直ぐに這い出す事が出来た。
 ほぼ無傷である事そのものが、イラつかせる原因でもある。

『ぐっ……、あ、あの男。一体何なのだ……!? なぜ、私は あの男に攻撃を……!? なぜ、あの男から逃げる事が出来ない!? 何故、逃げの手を取らないのだ!?』
「さぁな。そりゃオレも知りたいね。と言うより、あの人(・・・)の事なら何でも知りたいって感じだ」
「っ………!?」

 這い出たその場所には、もう1つの影があった。
 歪な形をした剣を左手に携えた男が、何処か憐れみさえも醸し出す様に、見下す様にネプラカスを見下ろしていた。

「さっきぶりだな、ネプラカス。尻尾巻いて逃げた割には情けねぇ姿じゃねえか。……そのままくたばれ!!」
「ぐっ……この、小悪魔が……! 罪深き存在がぁぁぁ!!」

 ネプラカスは 振り下ろされた剣を、爪と触手を使って受け止めた。

「(助かった、か。何故か判らんが、アイツからコイツに意識を変えれれば、行動の選択肢が湯水の様に沸く)」

 ネプラカスは、大規模な白煙を生み出した。その巨体も余裕で覆いつくすだけの煙を。
 振り下ろした剣に、手応えは無かった。煙を吹き飛ばす様に剛腕に任せて剣を振り続ける。飛ばしても飛ばしても、ネプラカスの姿を捉える事は出来なかった。

「テメェ……! また逃げる気か!? 何度も何度も情けねぇ野郎だな!」
『いずれだ。貴様も、いずれ、罰を与えてやる……!』 



 その言葉を最後に――ネプラカスの気配そのものが、この場から消失したのだった。

 
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