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人類種の天敵が一年戦争に介入しました

作者: C
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第2話

 
前書き
 ここから独自解釈&オリジナル設定が山盛りになります

 

 
 宇宙に浮かぶ人工の大地。コロニー国家であるジオン公国には、地下資源というものが存在しない。火星と木星の間にある小惑星帯から資源衛星を持ってきて鉱物資源を採掘しているものの、どう足掻いても手に入らない資源もある。
 豊富な資源を有するジオン公国に致命的に不足している代表的な地下資源は、例えば石油だ。これはジオン公国の勢力圏内では一滴も産出されない。宇宙世紀と呼ばれる時代にあってもなお、地球産の資源に依存せざるを得ない一面が存在していた。
 地球で採掘した原油をそのまま宇宙に持ってくるわけではない。精製して用途別に別けた状態で、様々なルートで輸入してきた。地球連邦による経済制裁の中でもどうにかやってこれたとはいえ、地球連邦に協力することを表明したサイドを壊滅させた以上、今までのように迂回貿易で輸入することも出来ない。地球原産の資源については、備蓄を使いきる前に供給体制を構築する必要があるが、地球連邦政府とジオン公国が戦争している現状で、地球でしか産出されない戦略物資をわざわざ敵に売るほど地球連邦政府も馬鹿ではない。つまりジオン公国が戦争を継続するためには、石油を始めとした地球でしか手に入らない資源の産地を直接抑える必要があった。これが第一次降下作戦の目的である。
 ジオン公国が第一次降下作戦の目標に選んだのは黒海沿岸及びコーカサス地方。具体的な対象で言うなら、オデッサとバイコヌール宇宙基地だ。黒海は石油や天然ガスが埋蔵されているし、沿岸部の山地は鉱山。オデッサそのものは鉄の産地だが、鉄はジオン公国も在庫は充分。オデッサに求められている役割は、欧州方面の連邦軍に対する防壁であり、黒海沿岸で採掘された物資の集積所である。オデッサは旧時代においては黒海沿岸を代表する港町であり、オデッサから輸出するために海路のみならず陸路での交通網も張り巡らされている。これを利用してオデッサに物資を集めるのだ。
 オデッサが黒海沿岸の中心拠点なら、コーカサス地方の中心拠点と定められたのがバイコヌール宇宙基地。コーカサス地方も資源は豊富であり、バイコヌール宇宙基地はそのまま集積した資源を宇宙に打ち上げるために使われる。黒海西岸のオデッサからは、黒海東岸、カスピ海、アラル海を越えた先にあるため地図上ではかなり距離があるが、旧時代に敷設された交通網は未だ健在。コーカサス山脈の北を迂回するルートで黒海沿岸とコーカサス地方を安全に結ぶ予定とされている。
 もともと中央アジアの大動脈は南回りのルートだが、南に行けばその分だけインドに近づくことになる。インドのマドラス基地は地球連邦軍の重要拠点の一つである。第一次降下作戦ではオデッサを含む黒海沿岸の制圧、バイコヌール宇宙基地を含むコーカサス地方の攻略、補給線の構築、拠点の要塞化、欧州方面への侵攻等々するべきことは山積みであり、限られた降下部隊には大車輪の活躍が期待されている。この構想において、インド方面は牽制すら控えめにし本格的な衝突を避けるべきとされている。……いや、本格的な衝突には耐えられないというべきだろう。第一次地球降下作戦というからには第二次以降の計画も存在し、そちらにも戦力を振り分ける必要があるため降下部隊の戦力は決して潤沢とはいえない。

「だからといって、あのような得体のしれない連中を使うことになるとは……信用できるのでしょうか」

 ウラガン中尉は憤懣やる方なしといった口調で上司に言い募った。

「……現地の反連邦武装勢力のことか」
「はい。降下作戦の支援に黒海沿岸で一暴れする、報酬は戦果で決めて良いなど、怪しいにも程があります」
「……自信があるのだろう」

 マ・クベ中将の意識はパイロットスーツの襟元に行っている。そのためか受け答えもぞんざいだ。

「司令! 事はマ・クベ司令御自身の安否に関わるやも知れないのですぞ!」

 忠実な副官はカリカリしているが、マ・クベにとっては現地の武装勢力の動向より、パイロットスーツとスカーフの色を合わせる方が重大時である。

「マ・クベ司令!」
「ウラガン」
「はっ!」
「せっかくキシリア様が手配してくださったのだ。我らが信じずしてどうする」

 キシリア・ザビ少将。半ば隠居しているジオン公国の公王、デギン・ソド・ザビの長女。ジオン公国の事実上の支配者である長男ギレン・ザビ総帥と、その弟でジオン公国軍の主力である宇宙攻撃軍を率いる三男ドズル・ザビ中将の妹。マ・クベの下に配属されている末弟ガルマ・ザビ大佐の姉。
 ムンゾ中央大学を飛び級で卒業した才媛。独自の諜報工作機関であるキシリア機関を組織して政治的にはギレンと、突撃機動軍のトップとして軍事的にはドズルと張り合う女傑。キシリア・ザビは総じて一廉の人物だと言える。
 そして、マ・クベはキシリアの信奉者だった。自身と同じ中将であるドズルを閣下、階級が低いガルマを大佐と呼ぶマ・クベだが、キシリアに対しては少将ではなく様付けである。この一事でもってマ・クベの感情が何処にあるかは明らかだ。
 ウラガンは現地の武装勢力に対して不信を訴えているのであり、武装集団を推薦しているキシリアを批判しているわけではない。微妙な意味合いの違いでマ・クベの機嫌を損ねるわけにはいかないが、ウラガンは忠実な副官だった。危惧を前に沈黙しているわけにはいかない。

「しかし、都合が良すぎます。このタイミングで、地上にコロニーを落とした後に地上の勢力から協力を申し出るなど、何かの罠ではないでしょうか」

 実はウラガンと同様の思いはマ・クベの胸中にもある。しかし、キシリアから直接を伝えられたマ・クベは、ウラガンよりも件の武装勢力について詳細な情報を得ていた。だから武装勢力を信じるというわけではないが、キシリアが信じるそぶりを見せている以上、自分が信じないわけにはいかないというのがマ・クベの考えだ。
 武装勢力に直接接触した諜報部員によると、彼らはかなり過激なジオニストであり、宇宙に出た人類を地上から支配しようとするなど言語道断、人類を新たな段階へ進めるためなら何人でも殺してみせると口にしていたらしい。更に、地球連邦の罠ではないかという疑念を払拭するために諜報部員が言葉を濁すようなことをやらかし、それでもってキシリアも彼らを信用するに至ったのだという。何をしたのかまではキシリアも口にしなかったが、想像はつく。マ・クベ個人としてはそのような野蛮な連中とかかわり合いになりたくはないが、地球侵攻軍総司令マ・クベ中将としての視点で見れば、汚れ仕事に喜んで手を染める駒は貴重だ。大切にする必要はないとしても、それなりに付き合わなくてはならない。そもそもキシリアの推薦だ。キシリアが信じるならば自身も信じるしかないマ・クベにとって、それならばとことん信じた方が楽でもある。そうした計算もあって、マ・クベは武装勢力についての心配に蓋をしていた。
 なおも訴えようとしていたウラガンだったが、鋭いアラーム音により動きを止めた。作戦開始まで一時間を切ったのである。

「ウラガン」
「はい」
「奴らに通信が繋がるようなら、期待しているとでも伝えておけ」

 そして三時間後。マ・クベがオデッサの地に到達したとき、そこにあったのは黒海を代表する輸出港でも観光都市でもなく、出来たばかりの廃墟が広がっていたのであった。 
 

 
後書き
第1話をプロローグにして、これが1話でも良かったかも。 
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