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人類種の天敵が一年戦争に介入しました

作者: C
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第1話

 
前書き
 定番の説明回。 

 

 青く輝く母なる星に向けて、赤い光が無数に連なり延びて行く。宇宙で人類の大多数が生活するようになっておよそ80年、宇宙に広がった人類の一部が地球に戻って来たのだ。地球に暮らす人々を屈服させるために。
 スペースコロニー。それは宇宙に浮かぶ人類の揺り籠。増えすぎた人類を宇宙に住まわせ地球環境を回復する宇宙移民計画と、それを実行するための人類初の統一政体、地球連邦。連邦政府はスペースコロニーを多数作り、地球から民衆を移住させた。多くの場合、強制移住だった。地球人口が20億人になった時点で宇宙移民計画は凍結され、宇宙で暮らす90億人を地球で暮らす20億人が支配する構造が作られた。90億人の大部分にとって、面白かろう筈がない。じりじりと高まる不満はやがて最悪の、しかし歴史的に見れば当然の形で爆発する。
 280個を越えるスペースコロニーはサイドと呼ばれる7つの集合体に分けられていたが、その中で地球から最も遠い位置にあるサイド3、ムンゾと呼称されるコロニー群はジオン公国を名乗り、地球連邦政府の支配に対し独立戦争を挑むに至る。宇宙世紀0079、1月3日のことである。
 戦局は事前の予想を裏切り、ジオン公国の圧倒的優勢のうちに進んだ。ジオン公国は地球連邦政府に協力を表明したサイド1、サイド2、サイド4、サイド5を壊滅させ、各サイドに駐留していた連邦宇宙艦隊を撃破。緒戦の混乱から回復すべく連邦軍が退いた隙に、スペースコロニーを地球に落とすという空前絶後の作戦を実行する。目標は南米にある連邦軍本部、ジャブロー。連邦艦隊は総力を挙げてコロニーの落下を阻止せんと試みるものの、中途半端な成功に終わった。ジャブローへの落下阻止には成功したものの、落下中のコロニーの完全破壊には失敗してしまったのだ。破壊されたコロニーの破片が地球上の広い範囲に降り注ぎ、特に最も大きな破片はオーストラリア大陸に落下、その南東部を消し飛ばして巨大なクレーターに変えた。一方、ジオン公国は地球連邦に甚大な損害を与えつつも作戦そのものには失敗した。更なるコロニー落としを企図したジオン公国軍と作戦阻止を狙う連邦軍はサイド5、ルウムで激突。緒戦の奇襲の損害から立ち直っていないにも関わらず、なお連邦艦隊の戦力はジオンの三倍以上。必勝を期した連邦軍だったが、ルウム戦役と呼ばれる決戦はジオンの圧倒的勝利に終わる。連邦軍は投入戦力の実に8割を喪失し、司令官のレビル中将は捕虜となる大敗を喫してしまうのだった。
 嚇々たる戦果を楯に地球連邦政府に対し講和を迫るジオン公国。南極で行われた休戦協定は事実上の降伏勧告であり、追い詰められた地球連邦政府にはそれを拒む道は無いかと思われた。だが、条約成立の寸前で奇跡が起きる。捕虜となっていたレビル中将の脱出と帰還である。捕虜としてジオン公国に送られたレビル中将はジオン公国の内情をつぶさに見てきた。そこにあるのは、30倍の国力差を戦術的な成功で跳ね除け続け、しかし戦略的な失敗に青息吐息となったジオン公国の姿であった。

「ジオンに兵無し」

 レビル中将の演説によって地球連邦政府は戦争の継続を決意。南極条約は幾つかの戦時協定を結ぶにとどまり、平和への道は遠ざかったのである。艦隊決戦の劇的な勝利ですら戦争終結と繋がらなかったジオン公国は、方針を転換して地球の直接占拠を目指す。戦いは宇宙から地上にその舞台を移そうとしていた。そして、3月4日。黒海沿岸、コーカサス地方を占拠すべく、ジオン公国は第一次降下作戦を実行する。赤く燃える降下ユニットが地球に呑み込まれていく様は、地上で散っていく命の暗喩であったのかもしれない。

 時を同じくして、地上で流星群を見上げる青年がいた。一瞥した限りでは特筆すべき特徴のない青年である。親の代わりに家事をこなしていたため、意外と家庭的で尽くすタイプ。笑うと実年齢より幼く見え、存外甘いと言われるほどロマンチストだが、苦労を避けず努力をいとわず、一度決めると初志貫徹する芯の強さと度胸を持つ。そうした青年の内面は、その無表情からは窺い知ることは出来ない。
 青年は、この宇宙世紀の人間ではなかった。青年の生まれ育った世界において、史上最も多くの人命を奪った個人、人類種の天敵とすら言われた殺戮者である。死を呼ぶ翼、黒い鳥、人のカタチをした終わり。人類の半数以上をその手に掛けた、人類史上最大の虐殺者。触れたもの全てを壊すその魔の手が、新たな世界に伸ばされようとしていた。 
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