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第70話 第4次ティアマト会戦?


テレーゼの方は今暫くお待ち下さい。
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第70話 第4次ティアマト会戦?

帝国暦486年1月15日

■オーディン 軍務省

帝国暦486年の初頭、銀河帝国では新たな出征が決定されようとしていた。

「それでは陛下の在位30周年に華を添えるために出兵せよと、リヒテンラーデ侯が申すのですか」
銀河帝国宇宙艦隊司令長官メルカッツ上級大将はその目を更に細めて眉間に皺を寄せながら言う。

近年では珍しく在位30年の長きに渡る皇帝フリードリヒ4世だったが、内政面での治績はまったくと言ってよいほど無い。さらにここ数年来の戦闘による人的被害の増大と、考えるのも烏滸がましいE・W女史の著書による帝国の大混乱が顕著であるため。対外的な軍事行動の成功によってその事実から目を逸らさせるのは為政者の常套手段と言ってよかった。

「だが司令長官、この数年反乱軍の大規模な攻勢が続いているのも事実だ。先般もイゼルローン要塞に六度目の攻撃をかけてきておる」
「確かに、今回も賞められたような結果を残せませんでしたし、最近の完勝は第3次ティアマト会戦だけです」

「しかもヴァンフリート星域の会戦でも大敗を喫しておるし、二年前にもイゼルローン要塞に肉薄されておるし、さらにその前にはエル・ファシル星域の会戦でも大敗を喫しておる」
「別に卿に責任を問うているわけではない。前任者《ミュッケンベルガー》と共に我らは同じ責任を負うておるのだ」

この軍務尚書エーレンベルク元帥の言葉に統帥本部総長シュタインホフ元帥も頷き、メルカッツが渋々同意する。
「しかし、余りにも急すぎますぞ、再編成に入ってから僅か2週間も経っていない」

「それは判るが、ここいらで反乱軍に手痛い報復をくれてやり、我らも実績を上げねばならぬ時期にきておる。ということだ」
「それに、このままでいけば、リヒテンラーデ侯の危惧している様に平民共の叛乱が起こるやもしれん」
「此処は、確実なる勝利が今ひとつ必要なのだ」

エーレンベルク元帥、シュタイホフ元帥の言葉に、メルカッツ上級大将が不満や不安があろうと、決定が覆るわけでもない。帝国軍の出征は、既に決定事項であったからである。


帝国暦486年2月3日

■オーディン 軍事宇宙港
月が変わり帝国暦486年2月、帝国軍は35,400隻からなる遠征軍を皇帝臨御の下、出撃させたのである。

出兵式でラインハルトはキルヒアイスに臨御する皇帝達を見ながら話しかけていた。
「中将になって、早々に出兵とは運が良い。メルカッツを見て見ろ、あの眠そうな目をあれでは幾ら経っても威厳などど出てこないだろう」
「ふう」
相変わらずのラインハルトの大言壮語にキルヒアイスは溜息をつくのであった。



宇宙暦795年2月7日

■自由惑星同盟 首都星ハイネセン 宇宙艦隊総司令部

帝国軍の侵攻近しの報はフェザーンを経由して、既に同盟軍の知るところとなる。

同盟軍は直ちにイゼルローン回廊外縁の辺境星域に哨戒中の第3艦隊と辺境警備艦隊を緊急展開したが、宇宙艦隊総司令部のコーネフ派将校の大量謹慎の為に起こった総司令部混乱に依る輸送艦配備のミスから前線に展開した部隊で生活物資とエネルギーの欠乏が深刻化した。

軍では対応できず、近辺の星系から民間船が200隻ほど雇われて物資の運搬に当たることになった。
「アッテンボロー准将、物資輸送の民間船の護衛はどの程度の規模で行かせるのかね?」

宇宙艦隊司令長官代理を拝命した第12艦隊司令官ボロディン大将が帝国軍侵攻近しの情報で軍大学を卒業し統合作戦本部へ戻っていたリーファが緊急に宇宙艦隊総司令部へ応援に派遣されて来ていたので、ヤンやワイドボーンも一目置く彼女に質問を投げかけたのである。

「そうですね、通常であれば巡航艦と駆逐艦10隻程でしょうが、輸送先が前線ですから、ハイエナのように帝国軍の艦艇が通商破壊に彷徨いている可能性がありますので、ビューフォート准将の艦隊に護衛を任せましょう」

「ビューフォート准将の部隊と言えば、司令部艦隊分艦隊で1,000隻はあるが、それほど必要かね?」
驚くボロディンにリーファがまくし立てる。
「ビューフォート艦隊は再編成したばかりですし、丁度訓練宙域がエルゴンですから近いですし、訓練として護衛勤務は丁度良いと思うのです。しかも、ビューフォート准将は通商破壊の研究をしてますから。それに、辻強盗に対抗するには棍棒ぐらいじゃ無く、大砲は必要ですからね」

敵艦を辻強盗扱いするリーファの例えに、ボロディンも思わず苦笑いするが、確かに正鵠を得ていると考えビューフォート艦隊に護衛を命じる事にした。
「判った。准将の言う通りだな、ビューフォート艦隊に護衛を任そう」


宇宙暦795年2月9日

■自由惑星同盟 エルゴン泊地

エルゴン星域で訓練を行っていたビューフォート准将に護衛任務が命じられ200隻の商船を1,000隻の艦隊が護衛するという過剰とも思える護衛が決定された。

『というわけで、輸送船の護衛をお願いします』
「なるほど、敵艦隊の哨戒部隊の排除も行えるわけですな」
『そうなります。あくまで民間船の護衛をメインでお願いします』

「諒解しました。補給を断たれたらどんな大軍でも瓦解しますからな」
『通商破壊の極意ですね』
「准将もお分かりのようですな」

『それなりにはね』
「流石ですな。ではお任せ下さい」

エルゴン泊地を出港したビューフォート艦隊は星系外縁で船団と合流し護衛を開始した。

「船長、豪勢な護衛ですね」
「ああ、それだけこの物資が重要と言う事だな、腹は減っては戦ができんというからな。此処までして貰った以上は、誇り有る船乗りとして誠心誠意荷物を届ける気になれるな」
「全くですね」

3日目になって、輸送船団は哨戒行動をとっていた帝国軍の巡航艦2隻と遭遇したが、ビューフォート艦隊はまるで蠅でも追い払うように鎧袖一触で撃破した。その後も数回の遭遇を経たが悉く撃破し、味方の損害0という状態で見事に役目を果たし、物資が前線に滞りなく届いたのである。


宇宙暦795年2月12日〜14日

■自由惑星同盟 首都星ハイネセン 統合作戦本部

2月も中盤に入ると帝国軍侵攻が現実と物となりマスコミが統合作戦本部や宇宙艦隊総司令部へ取材攻勢をかけてきていた。リーファは目立たないように動いていたため、マスコミに捕まる事がなかったが、鈍くさいヤン・ウェンリーは丁度帰宅時にマスコミに捕まってしまった。

エル・ファシルの英雄の1人であり、ヴァンフリート星域会戦の立役者、第5次イゼルローン要塞攻略戦の作戦を立ち上げた、第3次ティアマト会戦や第6次イゼルローン要塞攻略戦の危うさを指摘した等、27歳の准将として同盟軍で尤も名の知られたヒーローなのだから、マスコミに揉みくちゃにされ、質問攻めに遭わされたのである。

「ヤン准将、今回の帝国の出兵ですが、どうお考えですか?」
「前回無謀にも100万の将兵を無駄死にさせたコーネフ提督をどうお考えですか?」
「ヤン准将、今回もミラクルヤンのマジックで敵を撃退して下さい」

「ブルース・アッシュビーやリン・パオ、ユースフ・トパロウルの再来とも言われるヤン准将、やはりティアマトでの迎撃でしょうか?」

余りの取材攻勢にヤンはタジタジに成っているが、それを尻目に裏口からワイドボーンがコッソリ遁走していたのはヤンも気がつかない事であった。
「ヤン、悪いな。俺は先に帰らして貰うぜ!」

リーファとワイドボーンに嵌められたと気づいたときには、マスコミ攻勢の渦の中で揉みくちゃにされ、「はあ」「いいえ」「それは」とかの返事をしながら、MPによりマスコミから助け出されるまで酷い目にあったのである。

翌日の新聞や立体TVの一面は『魔術師《ミラクル》ヤン帝国軍撃退を宣言』とか『ヤン准将、今回もティアマトで帝国軍を撃退か!』とかの記事が踊りまくり、シトレ本部長、ボロディン総司令長官代理、リーファ、ワイドボーン、アッテンボローなどがヤンを前にして大笑いしたのである。

「いやはや、図に当たりましたね」
「正しく、良い韜晦になるな」
「この情報はフェザーン自治領経由で帝国にも直ぐに伝わるでしょう」

「真の目的を隠すにはヤンのネームバリュー程役に立つ事は無いですからね」
「ヤン准将は希代の戦略家、戦術家ですな」

ヤンは仏頂面で頭を掻きながら話を聞いていた。
「酷いですよ、あれじゃまるで私が客寄せパンダですよ」
「まあ、有名税だと思って我慢してくれ」
「先輩もお可愛そうに、こんな酷い人達に遊ばれてるんですからね」
「アッテンボローだけだよ、優しいのは」

その後一通り笑いが収まった後で、シトレが参加者全員を見渡しながら尋ねる。

「それで、迎撃だがやはりティアマト星系で行うしかないのかな?」
「確かに、迎撃に適した星系がそういくつも存在する訳ではないですし、その意味での軍事的蓋然性は高い作戦です」
ワイドボーンの秀才的な答えを聞きながら帝国軍の指揮官名簿を捲っていたリーファはその表示されている指揮官達の名前を見て、『あちゃー、厄介なのが出てきたな』と思っていた。

「しかし、態々がっぷり四つになって戦う必要も無いのでは?帝国が皇帝フリードリヒ4世在位30周年に華を添えるために出兵したのは明白です。此処は受け流すのも寛容では?」
ヤンにしては珍しく発言している。

「うむ、長官はどう思うかね?」
「出す艦隊にも依りますね。下手に3や4や6など出したら目も充てられないですな」
「確かに練度不足だからな」

その時それまで、ロイエンタール達の事を考えていたリーファが顔を上げて発言してきた。
「本部長、長官。カプチェランカ基地を放棄しましょう」
いきなり迎撃戦には関係のない基地の放棄を言うリーファに皆がいぶかしむ。

「アッテンボロー准将、基地の放棄とは如何様な事だね」
「はい、今回の帝国軍は恐らく一部の部隊を除き遠征を願っていないでしょう。其処で今回はティアマト星系から先を放棄し、敵に考える時間を与えてやりましょう。進むか引くか、必ず内部に凝りが残ります。その為にカプチェランカ基地を残しておく訳には行かないのです。行きがけの駄賃に潰されては堪りませんし、放棄して玉砕でもしたら市民感情が悪くなりますからね」

「それでその後はどうするのかね?」
「その後主力はダゴン星域で待機します。敵が来れば迎撃し、来なければ別働隊によりイゼルローン回廊出口で威嚇行動を取らせて補給路が切れると不安視させれば、勝手に帰ってくれますよ」

「しかし、それでは消極的過ぎないかね?」
リーファの性格を未だ把握しきっていないボロディンが半信半疑で質問して来る。
「長官、今回は消極的で良いんですよ、敵の指揮官を見ましたが、少将クラスに優秀な人材が多いようです、此処で彼等に経験と武勲をあげさすわけには行けないですから、慌てふためいて帰えるところを嫌がらせの攻撃するのが一番宜しいかと」

「なるほど、心理学という奴か」
「そうですね。新人は戦果が欲しくて先走る気合いがありますので」
「なるほど」


2月も中盤に入り、同盟軍では最終的な作戦案を決定した。
それは、リーファの提案したダゴン星域での迎撃案を追認する形のものであった。もっとも、コーネフの失敗や第3次ティアマト会戦の敗戦を予想していたため反対が少なかったとも言える。

投入される艦隊は5個艦隊。
シトレ元帥とボロディン大将の意向によってビュコック大将の第5艦隊とウランフ大将の第10艦隊、ボロディン大将の第12艦隊とヤンとワイドボーンの指揮する総司令部艦隊が先発し、国防委員会の予算処置が下り次第、パストーレ中将の第4艦隊とパエッタ中将の第6艦隊が続くこととなった。

パストーレ、パエッタは使える艦隊が居なかったための仕方が無い措置であった。

一方、その頃すでに帝国軍はイゼルローン要塞に達し、最終的補給を受けていた。
 
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