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僕のヒーローアカデミア〜言霊使いはヒーロー嫌い〜

作者:瑠璃色
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担任とクラスメイト

入試試験で意識を失った緋奈は目覚めた時に仮眠室にいた。その後、家に帰宅し、次の日に合格発表を受けて、見事に合格した。ただ、目立たないように中間を狙ったわけなのだが、0P仮装敵からあの少女を助けたことにより救済ポイント60Pが入ってしまい、討伐ポイントと合わせて157Pになり、上位に入ってしまった。まぁ、今更後悔しても遅いからと、諦めた訳だが。

そして、今日から雄英高校の授業が始まる。

「行ってきます」

真新しいまだ着慣れない制服を着て、片手鞄を手に、そう声をかける。 しかし、どれだけ待っても返ってくる声はない。昔から朝と夜は一人だ。両親はプロヒーローで朝が早く、夜も遅い。朝食も夕飯も一人で食べて、風呂に入り、歯を磨いて、寝る。『おはよう』も『行ってらっしゃい』も『おかえり』も『おやすみ』も返ってきたことは無い。小さい頃から一人で、それがいつしか慣れてしまって、気づけば日常になっていた。ただ、一度も悲しいなんて思ったことは無い。

昔から親が嫌いだったから。

ヒーローなんてなりたくない。本当は保育士になりたかった。 でも、親はそんな息子のお願い一つ許してくれなかった。親に叱られ、殴られる事が多かった。だから、夢というものを諦めて、ヒーローを目指す事にした。 そうすれば、親に叱られることも殴られることもなく、優しくしてくれるから。朝起きると、机の上に一ヶ月分の生活費が置いてあって、それで一ヶ月生活する手段を親から貰えるようになった。感謝しているし、もう帰ってこなくていいとも思っている。これがヒーロー嫌いになった幾つもある理由の一つだ。

「はぁ。まだ前月の生活費も残ってるから、ちょっと申し訳なくなるなぁ」

財布の中身を見てため息をついた。片手鞄の中に財布を戻して、雄英高校へと向かう。しばらく歩いていると、視界の端に桜の木を捉えた。空に散る桜の花は綺麗で、新入生達を歓迎するような紙吹雪みたいだった。その道を歩いて、やがて、雄英高校に辿り着く。目の前には、自分よりも先に登校してきた新入生達が、希望に満ちた表情で大きな校門をくぐり抜けていく。この中の大半がヒーロー志望と考えると、嫌気がさす。自分を含めて。

「えーと、確か『1-A』だっけ? 知り合いと同じだといいんだけど」

廊下に貼られた校内案内板で自分がこれから世話になる教室のある方向に向けられた矢印通りに進んで行くこと、数分。 『1-A』と記された教室の扉の前にたどり着く。

「こんなにでかい意味なんてあるの?」

あまりにもデカすぎる扉の取っ手に疑問を抱くが、まぁ、いいや。 と深く考えないことにして視線を前に移す。扉の取っ手に触れ、この中にヒーロー目指す同年代の人達がいると思うと、帰りたくて仕方ない。昔から人と関わることは好きだったが、ヒーローの話は嫌いだった。 聞きたくもない『ヒーロー』という単語。だけど、ここに入った以上は周りに合わせなければならない。人に合わせるのは昔から得意だ。親のおかげで身についたから。

「・・・すぅ。 ・・・はぁー」

一度、深呼吸して、覚悟を決めて扉を開ける。ガララと音がなり、教室内の様子が視界に映される。

「机に足をかけるな!雄英の先輩方や机の製作者に申し訳ないとは思わんのか!」

「思わねぇよ!テメーどこ中だよ?端役が!!」

つんつん頭のヤンキー(?)と、メガネをかけた優等生が何やら言い合っていた。他にも、透明人間女子やカエルみたいな女子に、トサカ頭の赤髪ヤンキー(?)や、金髪チャラ男(?)等とキャラの強すぎる人達ばかり。

緋奈は、普通の人もいないのか?と周囲を見渡し、やがて、黒髪ポニテの少女、八百万を視界に捉えた。

(良かったぁ、知り合いがいて)

少し安堵しながら、八百万の元に向かおうとすると、進路方向を塞ぐように、赤髪ヤンキーとピンク色のモンスター女子が現れた。

「おう、久しぶりだな! 緋奈!!」

「おはよぉー! 私のこと覚えてるー? 緋奈ちゃん」

「・・・・お、おはよう。(誰ですか? この人達は!?)」

緋奈は、赤髪ヤンキーとピンク色のモンスター女子のテンションに気圧されながら、とりあえず挨拶を返す。そして進路変更して、違う道から八百万の元へ向かおうとするが、

「おいおい。 待てって、緋奈! 俺だよ、俺。 切島鋭児郎。 覚えてないか?」

「私は芦戸三奈だよ!忘れてるなんてひどいよ、緋奈ちゃん!」

切島鋭児郎と名乗る赤髪ヤンキーと、芦戸三奈と名乗るピンク色のモンスターに再び進路方向を塞がれた。

「・・・(切島鋭児郎・・・芦戸三奈。 ・・・あ!)」

頭の中で名乗られた二人の名前を反芻して、そうえばそんな友達が小学校時代にいたなということを思い出す。小学校卒業後、違う中学に入学したため、忘れていた。

「もしかして、小学生時代によく遊んでたキリ君とミーちゃん?」

念の為にそう尋ねると、赤髪ヤンキーとピンク色のモンスター女子は嬉しそうに笑って、頷いた。

「そうえば、席順は知ってっか?」

「ううん、今来たところだからね」

「お前は・・・俺の二席後ろだな」

「あぁ、なるほど。 五十音順なんだね。やれやれ、八百万とは席が遠いなぁ」

残念そうに呟いて、自身の机に片手鞄を置いて、八百万の元に行き、声をかける。

「おはよう。 同じクラスだね、八百万」

「おはようございます。 緋奈さんと同じクラスになれてとても嬉しいですわ」

「僕も同じだよ」

とてつもない程に嬉しさが伝わってくる八百万に笑顔を浮かべて、同意する。

「所で、今日は授業あるのかなぁ?」

「おそらくあると思います。なんせ、ここは雄英高校ですもの」

「はぁー。 初日から授業ってのはやる気起きないなー」

大きなため息をついて、八百万の机に右頬をベタりと乗せる。すると、再び扉が開き、縮れ毛の少年と、少し遅れて、前髪の両端が長い茶髪のショートボブの少女が入ってきた。

「あっ!白黒の人だ!入試のときは助けてくれてありがとね!おんなじクラスだったんだー!」

茶髪ショートボブ少女が、八百万の机に顔をのせて脱力している緋奈に手を振って駆け寄ってきた。

「あ、うん。 そうえば、名前聞いてなかったし名乗ってなかったね」

「あっ! そうえばそうだった! 私は麗日お茶子!」

「僕は、桜兎(さくらと) 緋奈(ひな)。 女の子っぽい名前だけど、歴っとした男だよ。 よろしくね、麗日さん」

「うん! こちらこそよろしく!緋奈ちゃん!!」

「・・・緋奈ちゃん?」

麗日の言葉に、緋奈は首を傾げる。 男と名乗ったはずなのだが、なぜ『君』ではなく『ちゃん』なのか。

「えーと、緋奈君って呼んでくれた方が嬉しいような」

「え? 緋奈君よりも緋奈ちゃんの方が呼びやすいし可愛くて好きだ、私!」

「・・・それでいいよ」

緋奈は、あぁ、この子に何言っても無駄だ。と悟り、呼び方については諦めた。

「今日って式とかガイダンスだけかな? 先生ってどんな人だろうね。 緊張するよね」

「八百万曰く・・・あ、八百万ってのは、この女の子の名前で、八百万 百って言うんだよ」

「よろしくお願いしますわ。 麗日さん」

「うん! こちらこそよろしくね、八百万さん!」

麗日に、八百万を紹介しつつ、

「雄英だから授業あると思うだってさ」

「えー! 入学式は!? ガイダンスは!?」

そう答えると、麗日は驚いた顔で叫んだ。と、その時だ。

「お友達ごっこしたいなら他所へ行け」

怠そうな男性の声が響いた。少し身を乗り出して、廊下の方に視線を向けると、廊下で寝袋に入りながら横たわり、ゼリー飲料を一瞬で呑み干す男性がいた。ボサボサの髪、無造作に生えている無精髭、そしてくたびれた服。

「なに?・・・あれ」

緋奈は見慣れないホームレスっぽい男性を見て、首をかしげた。雄英高校はホームレスが寝泊まりできるほどにセキュリティが弱いのか?と疑ってしまう。

それから寝袋を脱いで教壇に立つ男性は、充血した瞳で教室を見渡した後、

「ハイ。 静かになるまで8秒かかりました。 時間は有限。 君たちは合理性に欠くね」

という言葉を言い放つ。

 そして―――。
 
「担任の相澤消太だ.よろしくね。 早速だが、体操服(コレ)着てグラウンドに出ろ」

相澤はそう指示したあと、一足先にグラウンドへと向かっていった。

「朝からヘビーだ」

相澤がいなくなった後、体操服を手にしたまま、緋奈はげんなりした顔でそう呟いた。 
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