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真田十勇士

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巻ノ百四十三 それぞれの行く先その十一

「ではわしもじゃ」
「糒蔵に入られますな」
「そして右大臣様、茶々様を最後までお守りし」
「そしてですな」
「そのうえで」
「真田殿が来られるまで踏ん張る」
 秀頼、そして茶々を守ってというのだ。
「そうする」
「では我等」
「及ばずながら」
「お供致します」
「そうさせて頂きます」
「逃げてもよい」
 大野は己の家臣達に穏やかな、優しい声で告げた。それは戦の中での言葉とは思えないまでであった。
「そうしてもな」
「落ち延びて、ですか」
「そうして生きようともよいのですか」
「そうしてもですか」
「よいのですか」
「うむ」
 その通りだというのだった。
「お主達の好きな様にせよ、わしはよい主ではない」
「だからですか」
「それで、ですか」
「そうせずともよいのですか」
「我等がそれぞれ選ぶ」
「そうしてもですか」
「よい」
 やはり穏やかな声で言う大野だった。
「お主達それぞれがな」
「左様ですか」
「そう言われますか」
「うむ、わしの様な者に殉することはない」
 こう言うのだった、だがそれでもだった。
 どの家臣も残った、そうして大野に口々に笑みを浮かべて言うのだった。
「もう決めておりまする」
「さもなければ今ここにおりませぬ」
「最後まで殿と共に」
「あの世でもお供致しますぞ」
「そう言ってくれるか、わしは果報者じゃ」
 先程の米村のことも思い出しつつだ、大野はその家臣達に応えた。
「よき家臣達まで持ってな、ではな」
「はい、それでは」
「これより山里曲輪に向かいましょう」
「そして糒蔵に入り」
「そこで右大臣様をお守りしましょう」
「まだ大助殿と十勇士がおる」
 大坂にはというのだ、彼等はまだ大坂に残り戦っている。そのうえで敵の大軍の攻めを遅らせているのだ。もう彼等だけでは幕府の大軍を押し返せなかった。敵の数に対してこちらの数はあまりにも少ない、まさに衆寡敵せずでだ。
「だからな」
「まだですな」
「我等は戦えますな」
「そしてそのうえで」
「真田殿が来られるまで凌ぐ」
「そうしましょうぞ」
「必ずな」
 大野は家臣達に言いそうしてだった、彼等と共に山里曲輪の中にある糒蔵に向かった。その間秀頼を大助が十勇士を率いて戦い守っていた。
 その中でだ、大助は自ら槍父から教えられた双槍術を使い自ら幕府の敵を倒していた。十字槍のそれの強さはかなりだった。
 そしてそこに十勇士達もいて戦っている、だがそれでもだった。
 敵の数があまりにも多い、それでだった。
 本丸に入ってきた幕府の軍勢に徐々に追い詰められていた、大助はその中で十勇士達に対して頭いた。
「皆まだ戦えるか」
「はい、まだです」
「我等は戦えまする」
「何、我等はこの程度の戦何でもありませぬ」
「むしろ楽しいですわ」
「こうした大勢を相手に出来ることなぞ滅多にないですからな」
「そうか、見れば皆まだそれ程傷ついておらぬな」
 ここで大助は十人全員を見た、見ればどの者も傷を負っているがそれでもどの傷も大したものではなかった。
「まだいけるな」
「はい、では」
「このままです」
「戦いましょう」
「そしてそのうえで」
「今はです」
「殿が来られるのを待ちましょう」
 十勇士達にはわかっていた、幸村が生きていることを。それで大助に対しても強い声で言ったのだ。 
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