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ユキアンのネタ倉庫

作者:ユキアン
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Knight's & Magic & Carrier 5



殲滅が終わり、荷車内で出来る整備を終わらせてからエレオノーラの様子を見に行く。

「あれま、大丈夫じゃなさそうだな」

「トールですか。すみませんが、一人にしてください」

「駄目だ。どうせ一人で抱え込んで悪い方にばかり転がるだろうからな。自分が壊れているんじゃないのかって悩んでるんだろう?壊れていて当たり前だ。オレ達は一度死んでいるんだ。どうやって死んだのかは色々だろうが。その時に人としての何かが壊れたんだろう。だが、別に転生していなくても人として壊れた奴はいる。結局のところ、どうするかは自分が決めることではあるし、自覚した状況が状況だ。初めての実戦でアドレナリンとか脳内麻薬がどばどば出ていた状態だとまともな判断は無理だ」

「では、どうしろと?」

「冷静な状態で壊れていると感じた状況を再現する。レスヴァントに搭乗していた中で一番偉そうなのを捕虜にした。好きに使え」

「使え、ですか。それがトールの壊れている部分ですか」

「そうだ。感情が完全に死んでいる。悲しいとか苦しいとか楽しいとか、全く何も感じない。オレに何かを感じさせるものは前世の物のみ。前世の夢、思い、誓い。それだけがオレを動かす原動力だ。お前の強い思いはなんだ?」

「強い、思い」

「それだけは絶対に壊れていない、自分自身を信じる道標だ。お前が信じるお前を信じろ」

「私が信じる私を。カミナの兄貴は本当にいい男ですね」

「男が惚れる男ってのはああいう男なんだよ。老若男女問わず、人を魅了させる。でっかい男だ」

「そうですね。私が信じる私、か。すこし、考えてみます」

「多少は落ち着いたようだな。今ならまだまともな答えが出るだろう。オレはファルセイバーの改造を進める。欠点がある程度分かったからな」

どうもオレやエルとは違い、吸気が下手なエレオノーラのために3基積んでいる魔力転換炉の内、1基を常時吸気状態にして魔力を生成させ、その1基に使用させずに残りの2基に使用させるようにラインを組み替える。むしろ、これが魔力転換炉を複数搭載する際の正しい運用法なのではないだろうかと思い始めている。

「グリッターパーツ、同じようにした方が良いな。いや、専用の魔力転換炉の製造が先か?エルとも打ち合わせが必要だな。術式も変更しないと」

つくづく売り払ったのが惜しくなる。ウォーカー・ギャリアで遊ぶしかないか。それとも予備のカルディトーレを改修して見るか。ツールボックスは稼働状態を維持しておかないと問題があるからな。










空力補正にカバーで覆って、いや、それだと反応速度が下がるし整備性がひどくなる。やはり既存の幻晶騎士を空に上げるのは負担が大きいな。バックパックで調節するしかないか。武器は、剣よりも槍だな。突進力でなんとかするしかない。反動でこっちの腕もモゲましたでは話にならない。そんな感じに徹夜で設計を続ける。

「はて、いつの間にトールギスF(フリューゲル)になったんだ?」

おかしい、最初はカルディトーレだったはずの設計図がいつの間にかトールギスFみたいなことになっていた。とりあえずトサカを付けてっと。さて、新しい紙は、残っていないな。仕方ない、街に買いに出るか。オレの求める品質の紙があれば良いんだけどな。製紙に手を出したほうが良いような気にもなっているが、後回しだ。

一応騎士服に着替えて財布を懐に突っ込んでヴィンゴールヴの私室から街に向かう。ヴィンゴールヴから出たところで上に気配を感じて後ろに飛びながらナイフ形の魔術媒体を構える。そこに居たのは髪を結い上げて騎士服を着たエレオノーラだった。

「何をやっているんだ」

「いえ、少し街に出ようと思いまして。イサドラはうるさいので出し抜いて来ました」

「まあ、戦時中に最後の王族が街に行こうなんて国が滅びるからな。間違ってはいない。だが、今それをする必要があるからこそ外に出てきた。それで間違いないな」

「そう。どうしても確認しなければならないことがあったから」

「そうか。まあ、護衛が一人もいないのは問題しかないからオレも付いて行くぞ」

「トールなら問題ないですよ。それじゃあ、行きましょう」

そう言ってエレオノーラと街へ出かけたのだが、何処か目的地があるわけでもなく、ブラブラと街を歩きながら、買い食いをしたり、迷子の子供の母親を探したり、密偵を捕縛したり、そんなことで一日が過ぎ去っていく。途中から目的は分かったからこそ何も言わずにそれに付き合っていたのだが、それも地平線に沈みゆく太陽と共に終わりを告げる。

最後にと、街を一望できる鹵獲した空に係留している空中空母の甲板に向かう。エレオノーラは安全手すりを握りながら街を見下ろしている。

「今日は何も聞かずに付き合っていただいてありがとうございます」

「別に急ぎの仕事はないから問題ないさ。で、決心は着いたのか?」

「そうですね。私は、あの時義務感で戦っていました。王族だから、ただそれだけで力を奮っていました。義務感で全力なんて出せない。身体以上に、心が付いて来ない。それがあの結果。異常なまでの興奮からの虚脱。私には覚悟が何もなかった。人を殺してでも成しえたい何かがなかった。私が信じる私が信じられなかった。だから、私が信じる誰かを、亡き先王を、父を信じてみようと」

「それで街中を見て回ったと」

「ええ、父が愛したものを、守りたいものを感じてみたかったんです」

「どうだった?」

「普通のそれっぽい演技ができる程度にしか、それだけしか感じなかったの。壊れてた、私もやっぱり壊れてた!!それどころか、私を突き動かす思いが何なのかすら分からない!!私は、一体何なの!!教えて、トール。私は何なの?」

「なんだ、見えてなかったのか。答えは既にあるんだがな。簡単だ。義務とはいえ、民を守ろうとし、そのために身も心も摩耗させ、時に迷い、それでも周囲の力を借りて立ち上がる。人それを勇者(都合の良い駒)と言う」

「ひどい言い方ですね。勇者(都合の良い駒)として生きろと?」

「なに、勇者(都合の良い駒)からランクアップすればいいだけだ。ランクアップ先は勇者王(国の奴隷)だろうがな。勇者王(国の奴隷)は良いぞぅ、民に必要な分のリソースを回して余った分は好き放題だからな。何処ぞの嵐を呼ぶ快男児みたいに趣味で平和を守るのもよしだ」

「あれを趣味といいますか」

「本業は鉄道会社の社長だろう?」

「確かにそうでしょうが」

「それにな、あれはあれで良いんだ。自由の象徴でもある。法に縛られず、自分の信じる道を走り抜ける。大人になって世の中の暗い所を見て汚れきったオレたちにはたどり着けない局地だ。辿り着くことは出来ないだろうけど、だからといって諦める理由にはならない。贋作が本物に劣る理由もなし。お前だけの勇者を目指せばいい」

「私だけの勇者」

「嵐を呼ぶ快男児か、はたまた悪名轟く鬼リーダーか、それとも世界の半分を条件に魔王の命乞いを聞く勇者か」

「最後のはどうなんでしょう?」

「勇者とは勇気ある者。そして真の勇気とは打算なき物。相手の強さで出したり引っ込めたりするのは本当の勇気じゃない。50Gとひのきの棒とたいまつしかよこさない王と国のために世界を救うなんて考えられないだろう。世界の半分ぐらい貰ってもいいじゃないか。結局ラダトームから追い出されて新大陸に移り住んでるし」

「それはそうでしょうけど」

「まっ、どんな未来でも悔いだけは残さないようにな。旧体制が滅んでる状態だ。いくらでも好きにできるはずだ。やれるだけやればいい。背中を押した以上、しっかりケツは持ってやる」

「女性に対してケツを持つなんて、変態ですね」

「はっはっは、ぴくりともせんわ」

別にいいんだが、ちょっとさみしい。息子よ、目を覚ましてくれ。

「だけど、勇者ですか。なるほど、勇者。勇者。これほどぴったりと合うパーツを見失っていたなんて」

おかしそうにエレオノーラが笑い出す。子供がなくしたと思っていたおもちゃを見つけた時のような笑顔をで笑い出す。たぶん、幼少期には憧れていたのに、周りから女の子らしくないと言われ続けて抑圧されていたのだろう。それを全肯定されたことで開放されたか。

「ありがとうございます、トール。そう、私はヒーローに、勇者に憧れていた。そんなことも忘れていたなんて、嫌になるわ。だけど、思い出せた。もう無様な姿は見せません。改めて、力を貸していただけますか」

「オレ個人の力なら無利子無担保無期限で貸してやるよ。なんだかんだで気に入ってるからな。我がスパナにかけて誓おう」

「剣ではなくスパナですか。トールらしい」

「騎士はおまけだよ。本来オレは開発の人間なの。騎士の適性も高いから騎士をやっているだけだ」

「並の騎士より強いくせに」

「まあな。いい加減騎士は引退したいんだけどな。地味に指揮が取れる奴が少ないのが痛い。小隊を任せれるやつは居ても中隊規模となると数人、ただし騎操士以外にも回さないといけないから大幅な増員がない限り2個中隊に特機戦力しか持てないんだよな。実験小隊に教導隊とかも作りたいし、そもそもエルとオレも中隊を持てと上から言われてるんだよ」

いい加減、夢が叶いそうな技術が溜まってきたんだから余計なことはしたくないんだよ。







闇に紛れてジャロウデクの飛空船と黒騎士が迫ってきているが、レーダーで丸見えだ。開戦はエレオノーラの宣言とファルブレイズと照明弾だと通達されているために遥か上空で待機している。ヒーターのおかげで凍えずに済んでいるが、機体には霜が降りている。白と所々紫でカラーリングされた予備機であったカルディトーレあらため、トールギスFのコックピットで今か今かと腕を組んで待っているのだ。

「何度も言うが、限界そうならレバーを離せよ。叫ぶのは別にいいが、暴れたりもしないように」

トールギスFにはオレ以外にもイサドラが搭乗している。ファルセイバーのグリッターパーツは完成しているが、飛行経験のないイサドラでは持て余すのは分かりきっている。だから予備席を用意してリミッターを設けたトールギスFに搭乗することで感覚だけでも覚えてもらう。

グリッターファルセイバーには多少の自己再生術式の搭載にも成功しているため、まっすぐ突っ込んでズドンとブチかますことになるだろう。そのためには度胸と強靭な身体能力が必要になる。エレオノーラは試乗の際に搭乗して慣れてもらった。それどころか自分で操縦も行った。まっすぐ突っ込むだけなら既に問題ない。さすがにオレのように自由自在とまでは言えない。

「分かっています。それよりも本当に大丈夫なのですよね?」

「大丈夫だ。敵の旗艦じゃなければリミッターが付いた状態でもぶち抜ける」

正面からは貫けなくても上空から重力を加えれば飛空船を貫くことは出来る。リミッターが無ければ正面からでも貫くことが出来る。本体に2基、ウィング部に2基、ランスに1基の合計5基もの魔力転換炉を搭載した初期型イカルガよりも化物な仕様になっている。

ちなみに現在のイカルガはver1.1.8だったりする。ガッチガチに組んだせいで設計に遊びがないので大幅な改装が出来ずにいるのだ。この戦争が終われば後継機の設計から始めるそうだ。まだ新技術が出てきそうな雰囲気があるとオレもエルも睨んでいる。少なくとも決戦兵器が出てくるはずだと。

そんな事を考えているとファルブレイズの炎と照明弾が上がるのを確認する事ができた。

「さて、行くぞ。まずは自由落下に慣れろ」

高濃度に圧縮した源素を開放し、自由落下を始める。イサドラから悲鳴が漏れたが、聞かなかったことにしてやる。少しずつ落下速度が増していき、機体が揺れ始める。それもある所で終わり、速度が一定となる。

「少しずつ加速していくぞ。耐えろよ」

源素を再び圧縮して少しずつ貯蔵しながらウィング部に取り付けられたマギ・スラスタ・ジェットを改良したマギ・スラスターの出力を少しずつ上げていく。音速の壁を突き破り音が聞こえなくなる。ゴマ粒の大きさだった飛行船が今ではバゲット程度の大きさに見える。

「しっかり掴まれ!!突撃する!!」

スラスターを全開にして機体とランスを肉体強化と皮膚硬化の術式で強化して旗艦と思われる飛行船の艦橋とその真下にある源素浮揚器を貫く。地面に激突する前に機体の各部に取り付けられたマギ・スラスタ・ジェットとウィング部に搭載したベクトル操作の術式で強引に機体の向きを変更して隣の飛空船に下方向から突撃する。角度の関係で艦橋は貫けないが源素浮揚器を貫けば結果は同じだ。

開戦5分と経たずに飛空船が2隻、しかも1隻は旗艦が堕ちたことで士気がガタ落ちしたのが見える。さらに強面のグルンガストを先頭に新型機のレーヴァンティアの中隊が突撃し、ガンタンク部隊が遠距離から黒騎士を沈めていく。

大勢は既に決しているが、それでも飛空船が撤退を始める。出来るだけ鹵獲したいのだが、イサドラが失神してしまったのでリミッターが発動してしまった。追えないこともないが、肉体強化なしではイサドラの命にかかわる。ここは諦めるしかないな。通信機を作動させる。

「エル、すまんが飛空船は任せた。イサドラが失神した。戦闘続行不能だ。上空から監視に留める」

『了解です。こっちでも見てましたけど、中々の速さでしたね』

「これでも殺人的な加速とは言い切れないんだよな」

落下の速度を使ってようやく音速を超えれる程度にしか速度が出せない。それでも耐えられないのがイサドラだ。確実にトラウマになったな。眼下を見下ろしながら少し疑問に思った。

「エル、黒騎士の捕虜を何人か捕れるか?」

『どうかしたんですか?』

「士気の低下はともかく練度がそこまで高くないように見える。侵攻軍の練度が低いわけがないのにだ」

『性能差に慢心、だけでは説明が出来ませんね。分かりました。何機か鹵獲して捕虜にします』

これで疑問は解消するだろう。それにしても、このアンモニア臭をどうするべきか。先に戻った方がいいか?だけど、何処に戻ろうと整備員は居るしな。こっそり証拠隠滅してやりたいが、結構難しいぞ。








「強行軍による疲労困憊が理由ねぇ」

鹵獲した黒騎士、ティラントーから資源を調達してレスヴァントをレーヴァンティアに改修している最中にエレオノーラに呼び出された。話の内容は昨日の防衛戦で得た捕虜からの情報だった。

「蓋を開けてみれば大したことはなかったですね。それより、イサドラが引きこもったままなのですが」

「ちゃんとトイレに行っておけと忠告はしたんだけどな。証拠隠滅もかなり頑張ったんだぜ」

「殿方に粗相を見られたのです。仕方ありませんよ。責任をとってイサドラを貰ってあげてください。貰われてもいいですよ」

「何度も言うが、オレは平民なの」

「ですが、友好国の騎士団の副団長で先王陛下、皇太子殿下の信任厚い騎士であり、先進的な技術を持ち合わせた技師でもある。そして、この戦争においても数々の戦果を上げています。十分に爵位を与える理由にはなりますね。伯爵は無理でも子爵ぐらいなら余裕ですね。数も減ってしまいましたしちょうどいいと思いません?」

「思わないから。それより、イザベラが引きこもっているなら誰をコパイロットにするんだ?」

「私が単独でどうにかするか、トールにお願いしようかと」

「それしかないよな。了解した。トールギスの整備は終わってる。あとは、胃の中を空っぽにしてからトイレも済ませてから声をかけてくれ」

「トイレは分かりますが、胃の中を空っぽにするのは何故ですか?」

「加速に慣れていないと胃の中のものが押し出されて気管とかに詰まって窒息死するから」

エレオノーラが顔を青ざめているが事実だからな。半日後には機体に霜が降りるような高度にまで上がっていた。

「これが高度計、こっちが源素量計で白いメモリの部分で滞空出来る量だ。それ以上増やすと上へのベクトルになるが、スラスターを蒸せばそれだけでも飛べる。逆に赤いメモリの部分より下の場合、浮力は発生しない」

「つまり、赤と白の間では機体が軽くなるという認識で間違いないですか?」

「その認識で問題ない。こっちが機体の魔力残存量で、こっちがウィング部の魔力残存量、これがランスの魔力残存量。左のレバーがランスの術式を起動させるレバーで引いている間はずっと発動する。4組8枚のフットペダルは中央が従来の脚部、その外側が脚部のジェット、ウィングのスラスターの調節用、左右のウィングの向きの調節用だ。グリッターファルセイバーはもっと単純化する予定だから安心しろ。このスイッチで源素浮揚器を操作する。上に倒せば源素が供給される下に倒せば供給が止まる。その隣が弁の操作だ。上に倒せば弁が閉まって源素を貯めれて、下に倒せば弁が開いて源素を放出する」

一通りの操縦方法を説明してからイザベラの時と同じように徐々に加速させていく。自由落下の時は気持ち悪そうにしていたが、スラスターで飛び始める頃には慣れたのか普通にしていた。

「肉体強化なしでは辛いですが、慣れましたね」

「そいつは良かった。軽く操縦してみるか?」

「良いんですか?」

「やばかったらすぐに変わるからな。出来るだけ高々度でやれば交代する時間は十分稼げる」

再びトールギスを高々度まで飛翔させ、機体を安定させた所でシートを譲る。すぐに操縦を代わるためにシートに背後から捕まる。エレオノーラがシートに座り、多少の座席調整を行う。

「いいか、べた踏みはやめろ。ペダルは自動で起き上がったりもしない。シーソーと同じだ。奥を踏んだら手前を踏んで調整。忘れるな」

後ろからちょくちょく注意を促して30分ほどで最低限の機動は出来るようになっていた。これでグリッターファルセイバーも乗りこなせるはずだ。









「キッド、操縦には慣れたか」

トールギスを作ってしまったために空いているツールボックスをキッドに貸出し、空戦の練習をさせている。

「そこそこは。けど、エルやトールみたいにはいかないけど」

「余らせるのが勿体無いからな。そのうち空戦専門騎士団も立ち上げる必要があるな。というわけで団長候補頑張れ、キッド」

「なんでオレが!?エドガー中隊長とかディー副隊長は?」

「あの二人は嫌がったし、中隊の指揮で忙しい。アディがエルと引き離されるようなことをすると思うか?」

「あっ、無理だ。副団長は」

「オレは開発に新基軸が産まれた際の魁をやらないといけないからな。この戦争が終わったら飛空船の時代が来るからそれの準備が必要なんだよ。それに合わせて空戦専門の騎士が必要になってくる。よって繰り上がりでお前が騎士団を率いる必要がある。最初は中隊規模に抑えてやるが、最終的には騎士団を率いることになるはずだ。これはエドガーとディーにも言えることだ」

「そっか〜。今すぐって話じゃないんだよな?」

「少なくともこの戦争に区切りがつくまではこのままだ。だが、空戦に慣れてもらう必要があるからな。ツールボックスは貸しておく。暇ならトールギスに乗ってもいいぞ」

「さすがにトールギスは無理だって。ライフルまで装備して、さらに操作が複雑になったんだろう」

「操作性はともかく速度は慣れてくれ。むしろあれで遅いぐらいだ」

「トールギスで遅いって、どれだけを求めてるんだよ」

「あの3倍は欲しいな」

「3倍!?正気ですか!!」

「正気だよ。とにかく、速度はどんどん上げて慣れろよ」

人手が足りない。エルももう少し騎士団の運営に手を出して欲しい。学生上がりばかりの弱点がもろに出ている。なまじオレが運営できてしまったのが問題か。ああ、人手が欲しい。養父上に来ていただく事ができれば良いのだが、胃が保たねえだろうな。やっぱりエルにもう少し騎士団の運営に関わってもらうしかないな。









「王都か、何もかもが懐かしい」

「半年も経ってないけどな。城壁なんかは修理中か。手際が悪いな」

オレたちは戦力を整えた状態で旧都デルヴァンクールに迫っている。クシェペルカは中部地方が最も戦略的、経済的に重要な土地となっている。ここを取り返せば復興が一気に進む。逆侵攻に必要な戦力の供給源にもなる。資源は向こうが勝手に用意してくれている。それらを利用してレーヴァンティアの生産工房だけでなく、飛行船の生産工房も造る。

クシェペルカには飛行船の生産を一手に任せたい。幻晶騎士はフレメヴィーラでと住み分けることで友好国としてやっていける。というより手が足りん。オレはクシェペルカで好き勝手してエルがフレメヴィーラで好き勝手する。そういう棲み分けが必要になってきている。

そして現在、グリッターファルセイバーにエレオノーラと共に搭乗している。演算機の調整も間に合っていないために二人乗りになっているのだが、イサドラは結局トラウマになっていてグリッターファルセイバーに搭乗出来ない。仕方なくトールギスをアディに貸し、キッドはツールボックスに乗り、オレがグリッターファルセイバーのコパイとして乗り込むことになった。

『副団長、敵の数が判明しました』

「どれ位だ」

『飛行船が13、その内一隻が他の倍ぐらいあります。幻晶騎士は200ほど。所々レスヴァントで数は中隊規模です』

「飛行船の中に6機格納されているとしてこちらの1.5倍か。特殊砲戦機ザメル各機に通達、旗艦はこちらで鹵獲する。他の飛行船は任せると。準備ができたら知らせろ」

『了解です』

「ザメル?」

「簡単に言うなら移動砲台だ。ガンタンクを弄って応急的に作成したダインスレイブ発射機だ。飛行船対策として用意した物だ。3機用意したから余裕だろう。今回は速攻である必要がある。手こずる訳にはいかない」

「民への希望と資源のためにですね」

「そうだ。手こずったりすれば民意が厭戦気味になる。そうなると逆侵攻ができなくなる。それでは駄目だ。国盗りには敵国民以外が一致団結、最低限方向性だけは同じに揃えて置かなければならない。ついでにこの戦争で貴族がいい感じに削られた。このまま中央集権に移行も視野にいれることが出来ている。そのために王家の力を見せつけなくてはならない」

「ええ、そうですね。王家の力を見せつけ、そのまま維持し続けなければなりません。正確に言えば前を走り続ける必要がありますね」

何処か念を押すようにエレオノーラが語っているが、それもクシェペルカ侵攻軍が近づいたことで途切れる。エレオノーラが外部拡声器のスイッチを入れる。

「古臭い黴の生えた野蛮人達に告げる。力で何かを成そうとする者は、力以外に気を配らなかった時点でより大きな力によって潰されるということをここに証明します。フレメヴィーラの民達よ、恐れる必要はありません。我々は友のおかげで新たな剣とそして翼を得ました。魔獣番と罵る相手から技術を奪い、劣化品しか作れない野蛮人に今こそ鉄槌を下します!!これが新たなフレメヴィーラが踏み出す第一歩です!!ザメル隊、撃て!!」

エレオノーラの命令と同時に3機のザメルからダインスレイブが放たれ、3隻の飛行船が墜落していく。クシェペルカ軍が呆然としている間に次弾装填が済み、第2射が放たれ、さらに3隻が沈む。

「全軍、特機を中心に突撃!!」

グルンガストとイカルガを先頭に、鹵獲した飛行船の船体に強引に固定されたガンタンクの上半身の法撃の援護を受けたレーヴァンティア部隊が斬り掛かって行く。この時点で大勢は決した。細かい指示を出さなくても流れに乗るだけで押し切れる。

「さて、私達も行きましょう」

「おう、自由に行け。こっちで勝手に合わせる」

エレオノーラの操縦に合わせて源素浮揚器とマギスラスタを調整して敵旗艦に突撃する。艦首の幻晶騎士をエリアルスパークで串刺しにして航行不能に追い込んでから甲板に降り立つ。そこでエレオノーラは再び外部拡声器のスイッチを入れる。ただし、音量は下げてだ。先程のように国民に聞かれる訳にはいかないからな。

「そこにいるのでしょう、クリストバル。お礼参りに来てあげたわ。貴方達は絶対に起こしちゃいけない怪物達を起こしてしまったわ。クシェペルカは滅びの運命を迎える。これは確定事項。あとは、どれだけ晩節を汚さずにいられるか。好きにさせてあげるわ」

「巫山戯るな!!一度は無様に逃げ出すしかなかった女が!!魔獣番共に股を開いて助けを求めでもしたのか」

甲板の一部が開き、そこから黒騎士と異なる白銀の機体が姿を現す。皇族専用機といったところだろう。つまりはクリストバルが乗っているのだろう。

「貴方達野蛮人と違って彼らは紳士よ。いえ、変態という名の紳士かしら?自分の欲望に忠実だから。でも、その中に怪物が2匹潜んで、いたかしら?全面に立っていた気がするから潜んでは居なかったわね」

「何を分けの分からんことを!!」

「眼の前の現実を受け入れなさい。2匹の怪物によって眼の前の現実が起こっている。自慢の飛行船をこれだけ鹵獲し、修復して戦力化でき、一撃で落とせる兵器を製造でき、幻晶騎士を空に飛ばすことすら行ってしまった。4ヶ月という短期間で、ここまでのことをやってのけてしまった者を怪物と呼ばずになんと呼べば良いのか。私にはわかりませんね。さて、お遊びはこれぐらいにして拘束させてもらいます。貴方達野蛮人にぴったりの罰を怪物が提案してくれましたから」

「ふん、それはこちらのセリフだ!!貴様など男に抱かれるだけの人生を送らせてやる!!」

クリストバルが幻晶騎士を突っ込ませてくるが、奴の言う未来は決して訪れることはない。

「無理ですね。私は勇者と共にある!!」

クリストバルの乗る幻晶騎士の剣を片手で受け止め、握りつぶす。そのまま逆の手で顔面を殴り飛ばし転倒させる。

背面武装を踏み潰し、手足を一本ずつ引き千切る。最後に胴体をシェイクする。これで自殺も出来ずに汚物まみれになったことだろう。というか、シェイクが念入りすぎだろう。

「次にこんな風になりたくなければ分かりますよね?」

艦橋の目の前に大破した幻晶騎士を見せつけて両肩のファルブレイズを発射直前の状態で待機させる。







4ヶ月ぶりに開放されたデルヴァンクールの中央広場に6畳ほどの大きさの檻が置かれ、そこに一匹の動物が入れられている。そばに設置された看板には危険物は投げ入れないでくださいと書かれ、石や刃物などの絵にバツ印が描かれている。

「悪趣味ですね」

「いやいや、侵略者が殺されずに拷問にもかけられず、怪我をすれば治療まで施してもらえ、庶民的な食事までちゃんと与えられて、差し入れも自由な時点で優しいと言われるしかないな。いやぁ、聖人扱いされちゃうなぁ」

「衆人観衆に見られ続け、自殺を図っても蘇生させられ、今までの環境から考えれば最低を通り越した食事、市民からは毒や針なんかが入った食べ物に、捕虜になった部下にはまともな物を差し入れることは不可能。態々2日に一度の捕虜の散歩コースに中央広場に連れて行くなんて、両方に対する嫌がらせですか」

「日に日にあの動物は態度が悪くなっていくからな。寝返る奴らが増えてきていて結構結構。人手はいくらあってもいい。重要なことは任せられなくてもな。魁をやらせて、戦果を上げれば正式に引き上げる。昔からある伝統ある取り込み方だ」

エレオノーラと二人で書類に目を通してサインを行い、新しい書類に目を通す。それをデルヴァンクールを開放してからずっと続けている。周りにいる文官達が顔を青ざめているが無視だ。

「ここ、着服してるのが居る。あの質でこの値段はおかしい。監査を入れろ。工房自体は可動させ続けろ。最低限の報酬の奉仕活動だ」

「こちらの要望は却下です。今は戦力を整えるのと、国民を安心させるのが最優先です。パーティーを行う予算があるなら外壁の修理に回しなさい」

「北のクシェペルカ軍は降伏したか。捕虜は全てここに連行して本隊と同じように扱え」

「南はゲリラ化ですか。幻晶甲冑に慣れた部隊を3、いえ4個中隊を送りなさい。降伏条件は多少手厳しい物を用意しておきます。現場の判断で重くしても構いません」

「物資の再分配を急げ。無理な摘発で村が逃散しても困る」

「国庫開いて構いません。放出しても構わない宝石類は売りに出して構いません。物資を集めて分配する。強攻型ガンタンク、ツェンドルブも貸し出してもらえてるからガンガン走らせて」

「その資材は造船所に。そっちはヴィンゴールヴに、それは倉庫だ」

「挨拶に回す時間はないわ。行動で示せと伝えなさい。それで協力しないのならその程度の価値しかない存在よ。気にする必要はないわ」

次々に指示を出して2週間ほどでようやく落ち着いた所でふと思う。クシェペルカの外に出してはまずいような情報に目を通すどころか国政にもろに手を出しているような。まずい、まともに寝ていないから判断できない。

女王とは言え、女性にこんな修羅場を経験させる訳にはいかないとエレオノーラはちゃんと寝かせていたが、向こうもフラフラだ。クリストバルのバカ野郎、クシェペルカの政策のほとんどを一度にジャロウデクの物にしたせいであちこちで不都合が生じている。それを少しずつクシェペルカの物に戻していかなければならない。

それでも税率なんかは一気に軽くしておかなければならない。国庫を開いて公共事業も増やした。稼いだ金は集められていた物資を買って消費し、戻ってきた金を次の事業に注ぎ込む。それの繰り返しだ。

駄目だ、これ以上は限界だ。寝る。椅子に体を預けると一瞬で意識が落ちる。



ゆっくりと意識が浮き上がってくる。微睡みに身を任せてもう一度深い所に潜るか、はたまたこの後の地獄を少しでも楽にするために起き上がるかを悩み、起き上がろうとして左腕、というか、身体の左半分の違和感に思考が停止する。左半身に柔らかい何かが纏わりついている。柔らかいだけでなく硬い部分とかもあって、温かい。あと、いつの間にか全裸にされている。

よし、寝よう。今は起きるタイミングではない。再び意識を沈める。外堀をガンガン埋められてる気がするが、気にしない方向で。


 
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