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オーストラリアの狼

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第二章

「とんでもない間違いと自分自身の浅慮を曝け出してしまう」
「そうなるわね」
「これ以上愚かなことはないよ」
「学問については」
「そう、そしてね」 
 まさにというのだ。
「フクロオオカミについてはだよ」
「あくまで現時点のことであって」
「まだ目撃例もあるんだ」
「それならっていうのね」
「それをはっきりさせる」
 強い声でだ、ヘンリーはマリーに言った。
「そうさせるべきだよ」
「実に簡単なことね、それじゃあ」
「そう、まずはフクロオオカミを映しているという動画を検証して」
 そしてというのだ。
「まずは確かめる」
「本当にフクロオオカミかどうかを」
「勿論野良犬かディンゴの可能性もあるよ」
 現時点で公にオーストラリア大陸にいるとされているイヌ科の生きもの達だ、尚フクロオオカミは有袋類でありイヌ科の生きものではない。
「しかしね」
「フクロオオカミの加納史枝もある」
「だからね」 
 それ故にというのだ。
「まずはね」
「そのことを確かめるのね」
「検証してね」
「わかったわ、まずはね」
「それをしよう」
 こうしてだった、ヘンリーはマリーと共に動画サイトにあげられているフクロオオカミではないかという生きものの動画を細かく検証した。
 中にはディンゴや野犬のものがあった、その割合はむしろこちらの方が多かった。だがそれでもだった。
 そのうちの幾つかはだ、間違いなかった。
「フクロオオカミね」
「そうだね」
 科学的に細かくかつ学者として公正に検証した結果からだ、ヘンリーはマリーに対して答えた。
「幾つかの動画に出ている生きものはね」
「そうよね」
「間違いない、動きや骨格がね」
「イヌ科ではないから」
「また違うよ、どうしてもイヌ科と有袋類ではね」
「外見がそっくりでも」
 例えそうでもというのだ。
「動きが違うから」
「そう、そしてフクロオオカミには大きな特徴がある」
 このことも言うヘンリーだった。
「身体に虎の様な模様がある」
「それもあるわ」
 だから英語名はタスマニアタイガーという、タスマニア島に生息していて虎の様な身体の模様だからついた名前だ。
「その模様もね」
「幾つかの動画にはあってね」
「動きも有袋類のそれで」
「イヌ科の動きじゃないから」
 このことも科学的に検証した結果わかったことだ。
「それならだよ」102
「間違いないわね」
「幾つかの動画に出ているのはね」
「フクロオオカミね」
「確実にね」
「じゃあこのことを発表するの?」
 マリーはヘンリーに真剣な顔で問うた、二人で検証に使った研究室のコンピューターの画面を見ながら。
「これから」
「いや、まだだよ」
 ヘンリーはすぐに答えた。
「これは動画だよ」
「動画を検証してね」
「フクロオオカミだと断定したよ」
「充分な証拠でしょ」
「充分じゃないよ」
 そこは違うというのだ。
「まだね」
「というと」
「そう、君もわかるね」
「その目でね」
 まさにとだ、マリーは上司であり恋人でもある彼に応えた。 
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