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銀河英雄伝説~生まれ変わりのアレス~

作者:鳥永隆史
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ある憲兵隊員の憂鬱


 フィル・コリンズ少佐。

 憲兵隊第1方面部隊の中隊長を務めるフィル・コリンズ少佐は重い足をひきずっていた。
 ここ一か月の目まぐるしい忙しさは我慢できる。
 仕事の範囲だ――いや、汚職など同盟軍人として恥ずべき行為だ。
 汚れ仕事ではあるが、それがコリンズの仕事である。
 少しばかりの忙しさは覚悟のうえである。

 だが。
 重い足は、巨大なガラス張りのビルを見上げて、コリンズの足は止まった。
 後方勤務本部。
 ここに来るのは、あの日の夜のこと以来だった。
 装備企画課からの情報によって、調査に踏み込んだ夜のことだ。

 あの時はこんなにも足取りは重くなかっただろう。
 それもこれも、あの憲兵隊司令官のせいだ。
 浮かんだ怒りに、コリンズは奥歯を噛んだ。
 装備企画課からの情報は、正確であり、さらには整備計画課が馬鹿であることもあいまって、仕事自体はスムーズに進んだ。もっとも影響力の大きさからは作業量は多く、何度かの徹夜もしたが、それだけだ。

 だが、仕事が一段落してから、憲兵隊のトップである司令官が難癖をつけ始めた。
 彼曰く、これだけの材料でマクワイルドが気づけたのがおかしいと。
 確かに装備計画課は馬鹿ではあったが、アーク社は馬鹿ではない。
 装甲車の再計画と交渉の段階で、なぜ同盟軍が関与しているか気づいたのか。
 マクワイルドが関わっていたからではないかといい始めたのだ。

 おそらくコリンズがそこにいれば、口に出していたかもしれない。
 装甲車が配備された時は、マクワイルド中尉は士官学校にすら入っていなかった。
 そもそも、そんな最悪な不具合がある装甲車があるにも関わらず、カプチェランカで命を懸けて戦い抜いたのだ。
 わずか士官学校卒業して数か月の人間が。

 残念なことながら、それを司令官に正面から言う人間は、コリンズの上司にはいなかった。
 大至急調査しますと答えて、その仕事をコリンズにぶん投げた。
 そして、今日となった。
 理由を聞くだけだろうと簡単に言ってのけた、大隊長。
 確かに通常であれば、マクワイルド中尉を呼んで理由を聞いて終わりであっただろう。

 だが。
 コリンズが調べれば、頭の痛い話ばかりが持ち上がる。
 いや、痛いで終わればいいが、下手をすれば大変なことになる問題だ。
 曰く、セレブレッゼ少将の秘蔵っ子。
 曰く、艦隊司令部からの希望により二月に大尉に昇進し、極秘任務の作戦参謀に異動。
 冗談かと思えば、それが真実であるから質が悪い。

 作戦参謀に異動したのは、艦隊司令部の希望があったからであるし、さらに士官学校卒業から一年もたたずに、大尉に昇進したのも、セレブレッゼの一言があったからだ。
 いや、昇進にはそれ以上に複雑な事情がある。
 まず後方勤務本部がアレスの昇進を提案したのは、表には出なくても、莫大な予算がかかる装甲車の整備負担をアーク社に持たせることになったのはアレス・マクワイルドの功績である。それを認めないのであれば、後方の仕事を認めないのと同じであるということだ。

 そうセレブレッゼが強く主張した。
 それだけでもコリンズは逃げたくなったが、それに対して賛同したのは星間警備隊だ。
 もとよりカプチェランカの功績により、彼の所属していたカプチェランカを管轄する星間警備隊では二階級の特別昇進を希望してきていた。最も民間には関係のない――つまり支持率が上がらないという理由によって、それ自体は却下されたわけであるが、セレブレッゼがあげた声を受けて、再び盛り返してきた。つまり、二階級昇進させるように要望した星間警備隊の判断は間違ってはいなかったと。

 そこに陸上戦隊の声も入っている。
 現在の戦争は基本的には艦隊戦が主体であり、陸上戦の数は少ない。
 その中で数少ない陸上戦での勝利――カプチェランカといえば、近年で陸上戦隊が経験した大きな戦いということで話題になることは多かった。そして、カプチェランカの残存兵の多くがアレス・マクワイルドに助けられている。
 それは遠く離れたハイネセンでも同様であった。

 つまり、下手にアレス・マクワイルドを呼び出し、ましてやそれが無罪で呼び出したとなれば、憲兵隊は、後方勤務本部はもとより、艦隊司令部、星間警備隊、陸上戦隊と様々な部署からどえらいお叱りと恨みを受けるわけだ。まったく知りたくはない裏事情であるが、もし呼び出せば当事者であるコリンズがどうなるかは想像しなくてもわかるだろう。そもそも、コリンズ自身がずっと憲兵隊にいるわけではない。
 次の異動先がセレブレッゼの下でないとは誰にも言えないわけだ。

 そうなったら、物理的ではなく精神的に殺されかねない。
 真剣に上には、マクワイルド中尉は何事もありませんでしたと言って幕を引こうかと考えた。
だが、そこは憲兵隊である。
同盟軍の不正をただす憲兵隊員が、自らの不正など許せるはずもなく、こうして重い足をひきずって、後方勤務本部の前まで来たのであるが。

 後方勤務ビルを見上げて、コリンズはこの日何度目かとなる大きくため息を吐いた。
 逃げたほうがよかったのではないかという悪魔のささやきを押しとめながら。

 + + +

「ふざけるなっ!」
 激しく物がぶつかる音がした。
 ざわめきの喧騒が一瞬で止まり、全員が声の方向に目をやった。
 音源は室内ではない。
 装備企画課を出てしばらく歩いた――そう、課長室の方向からだった。

 廊下を挟んでも聞こえるその声は、激しい怒声。
 課長室から聞こえる声の主は間違いなく、セレブレッゼのものだろう。
 問題はと、装備企画課にいる面々が周囲の顔を伺う。
 室内には見知った顔が並んでおり、退室しているものの姿はなかった。
 どこかの誰かが、セレブレッゼの怒りを買ったらしい。

 しかしながら、これほどまでにセレブレッゼが怒りを露わにするのは珍しい事だ。
 最初の怒声から落ち着いてはいるが、いまだに怒り冷めやらぬ口調が装備企画課に聞こえてきている。ざわめきが再び戻り、しかし、話されることは一体何が起こったのだろうといった想像である。
 怒りの矛先が自分たちではないことが理解できれば、そこに浮かぶのは興味。
 思い思いに適当なことを言っている。

 セレブレッゼの子供に隠し子ができたとか、飛躍すぎだろう。
 だが、楽しめるのはあくまでも責任が少ない人間ばかりだ。
 これからサインをもらいに行く予定の、あるいはそれでなくても、機嫌が悪いことに胃を痛くする人間もいる。
 そんな一人であるウォーカーも、また胃を抑えながら何とかするべく動いた。

「マクワイルド中尉」
「えっと。何でしょう?」
 書類から目を離して、アレスはウォーカーに視線をやった。
「に、睨まないでくれ。い、胃がさらに痛くなる」
「いえ、この顔はもともとですから。病院に行ったほうがいいのでは?」
「病院よりも、お願いしたいことがある。君にしかできない仕事だ。頼むから様子を見てきてくれないか」

「いや、むしろ上司のあなたの方が適任でしょう」
「無理だ。せっかく治った胃潰瘍が再発してしまう」
「お、お大事に」
 ウォーカーの悲鳴交じりの即答に、アレスは慰めの言葉しか浮かばなかった。
 少なくともウォーカーは無理だ。

 と、周囲を見渡せば、上司全員がアレスの視線を避けた。
 全員逃げたな。
 中尉に全部投げるというのはどうかと思うが、かといって室内に入る声はいまだに怒りが収まらぬようだ。まくしたてる言葉の内容は不明であるが、ただ怒っていることは間違いない。
 このままでは近いうちに、他課の野次馬が押し寄せてくるだろう。
 それはそれで面倒なことになることは間違いがなく、アレスは小さくため息を吐くと、書類を置いて、立ち上がった。

「す、すまないな」
「まあ、謝るのは言ってみてからの状況次第で。厄介なことだったら、酒でも奢ってください」
「何杯でも任せておいてくれ」
 そこだけは自信ありげな声に、アレスは小さく笑いながら、室内を後にした。
「大体貴様らはなんだ。自分たちでは知らなかった癖に、あとからきて我が物顔に。ハイエナでももう少し遠慮というものを見せる」

 廊下を出れば、怒声が言葉となって扉から漏れ出ている。
 反論を許さぬ強い口調に、相手からの返答は聞こえない。
 それでもなお続ける言葉を遮るように、強めに扉を叩く。
「いまいそがっ――」
 否定の言葉を告げる前に、アレスは扉を開けた。

「失礼しました。声が聞こえなかったものですから。何かございましたか、課長」
 素知らぬ顔で姿を見せれば、そこには顔を赤くするセレブレッゼと見知らぬ制服姿の青年がいた。よほど怒られたのだろう、角度を直角にしながら頭を下げて、顔だけがこちらに向いていた。
 誠実そうな三十半ばくらいであろう人好きのさせる表情が、今は困ったように眉が下がっていた。
「マクワイルド中尉」
 不機嫌そうに唸るセレブレッゼと助けを求めるような青年。
 それを見て。

「お邪魔いたしました」
 アレスは静かに扉を閉めた。

 + + + 

「いやいやいや! そうじゃない、お邪魔じゃない」
 慌てたような言葉が、扉から聞こえてくる。
 騒がしい声が倍増した。
 そのままにしてもよかったが、このままでは終わりそうにないため、アレスは諦めたように扉を開けた。

「マクワイルド中尉、入ってきなさい」
「失礼いたします」
 敬礼をして、室内に入った。
 頭を下げていたため気づかなかったが、室内にいた青年はアレスよりも頭一つ高かった。

 最も筋肉質な体型ではなく、細身であり、手足が長く見える。
「君にも紹介しておこう。こちら、憲兵隊のコリンズ少佐」
「憲兵隊のフィル・コリンズだ。よろしく」
 整えられたようなしっかりとした口調と態度は憲兵隊らしい姿だ。
 最も先ほどの醜態がなければの話ではあるが。

「こちらの方がマクワイルド中尉とお話ししたいということだ」
「お時間をとらせるつもりはありません」
 皮肉気なセレブレッゼの言葉に、コリンズの背筋が伸びる。
 セレブレッゼを見れば、アレスは表情を変えず、コリンズを見た。

「ええ。聞きたいことがあるのでしたら、断る理由もありませんし」
「そう言っていただけると助かります。では、少し外の方に」
コリンズが言いかけて、セレブレッゼが指さしたのは課長室に付属している会議室だ。
「そこを使うといい」
「いえ、そこまでしていただくわけには」

「いいから使え」
 不機嫌な声に、コリンズは慌てて敬礼。
「ええと、では、マクワイルド中尉。お願いする」
 恐々とした声に、アレスは息を吐き、セレブレッゼを見る。
「課長。笑いがこらえきれなくなっていますから、笑うなら部屋に入った後にしてください」

「うるさい。そう思うなら、さっさといけ」
「え」
 コリンズが固まり、セレブレッゼとアレスの顔を交互に見た。
 そこで二人の顔に笑みが形作られていることに、コリンズは心底わからないといった表情で首をかしげるのだった

 + + +

 室内の電灯をつけて、部屋に入れば、そこは簡素な会議室であった。
 部屋の主の趣味なのだろう。
 余計な飾りつけや装飾は一切なく、白い机と椅子が並ぶだけの実用的な部屋だ。
「失礼する。マクワイルド中尉も座ってくれ」

 未だに怪訝さの残る表情をしながら、コリンズが腰を下ろして、反対にアレスが座るのを見届けてから口を開いた。
「時間をとらせて申し訳ないな」
「いえ。セレブレッゼ少将も納得されていたようですからね」
「そう。まずはその理由を聞いてもいいかな」

 アレスの言葉にかぶさるように、コリンズは口を出した。
 当初の目的よりも先に、疑問に思うのはこの部屋に入る前のやり取りだ。
 アレスはセレブレッゼが笑いをこらえているという。
 だが、その数秒前までは怒りの台風の渦中にいたのはコリンズ自身であった。
 何があったのかと、その理由を問いただしたくなるのは当然のことだろう。

 それにアレスは苦笑を浮かべた。
「本来であれば憲兵隊の――失礼ですが、一少佐クラスが課長に直接会いに行くことは考えられません。私を捕まえるとか特別な密命があるなら別ですけど、たかだか一中尉と話がしたいだけなら、私の上司であるウォーカー補佐に連絡をとればいいだけです。でも、コリンズ少佐は課長に直接会いに行かれた」
「それで、不作法だと怒鳴られたわけだが」

「ええ。でも、コリンズ少佐は考えられたわけです。一中尉を呼び出したとなった場合には、下手をすれば――といいますか、間違いなく噂好きの事務官が多い装備企画課で噂になります。そして、それは避けたいとコリンズ少佐は考えられたのではないですか」
「……そうだ」
「それを防ぐにはセレブレッゼ少将に直接話を持ち掛ける。当然、怒られはするでしょうが、私を内密に呼び出すことは可能ですし、噂になることも避けられる」

 コリンズの考えを予想するかのような問いかけに、もはやコリンズは言葉もない。
 ただ苦い顔をしながら、首を縦に振った。
「セレブレッゼ少将はそれを全てご存知で、お怒りになったのだと思います」
「なら、あそこまで怒らなくてもいいだろう」
「理由の半分はわざと。ああすれば、秘密裏に私を呼べると思ったのだと思います。実際にウォーカー補佐は私に様子を見に行くように言いましたからね」

「なるほど、それで、もう半分は?」
「それは単純に不作法だったからですよ。どんな理由があっても、一少佐が課長に直接会いに行って要件を告げれば、馬鹿野郎といわれて当然でしょう」
 片目をつぶって楽しげな様子に、コリンズは顔を引きつらせ、大きなため息を吐いた。

 + + +

 調査結果に、優秀だったからと一文だけいれれば終わるような気がしたが、コリンズはハンカチで額の汗を拭い、気を落ち着けた。
 仕事はまだ終わっていないのだ。
 だが、正直なところどうやって聞き出そうと考えてきたシナリオは全て白紙に戻った。
 どう聞いたところで、結局のところこちらの意図が読まれてしまいそうな、そんな印象が目の前の男にはあったからだ。

 それに、用意された時間はそれほど多いわけではない。
「正直に言おう。私が聞きたいことは、なぜアーク社と整備計画課のつながりが分かったかだ。上がそれを気にされていてね」
「憲兵隊司令官はドーソン少将でしたか」
「私自身はマクワイルド中尉を疑っているわけではない。ただ司令官は前の部署では、捨ててあるじゃがいもの量を軽量計で図ったという噂があるくらい細かい人でね。確認を思っていただけるとありがたい」

「いえ。じゃがいもがようやく真実になったようで。ご苦労をされていますね」
 アレスの言葉に若干の疑問を残しながら、コリンズは労いの言葉に感謝を述べた。
「それで気づいた点ですか。最初に言っておきますが、整備計画課が繋がっているとわかったのは後のことです。まさか改修が前倒しになると言っているのに、そんなことがあり得ないとばかりに行動するほど、味方が馬鹿だとは思っていませんでしたから」

「ああ。それは私もそう思うよ」
 コリンズも同意をしたが、報告書にはさすがに味方が馬鹿とまでは書けないなと思った。
「気づいたのは配属されて任務を言い渡された時ですね」
「ん。聞き間違いか、マクワイルド中尉」
「いえ。私は当初異動の命令を聞いたときに、アーク社に対して装甲車の改造を負担するように交渉するものと思っていました。あるいは負担の割合をアーク社に多くするといったところでしょうか。ところが」

 アレスはゆっくりと首を振った。
 鋭い視線がコリンズを見ている。
「任務は来年度からの装甲車の改修を行うことになっていました。ご丁寧にすでに来年度の追加予算まで取ってね。すでに私の異動が決まった時点で、同盟軍の負担で改修が前提になっています」
 コリンズはメモを取っていたペンを置いて、ただアレスの言葉を待った。
 浮かぶ表情は真剣なものだ。

「新型旗艦の話はご存知ですか?」
「ああ。新たに開発を開始したという話は、ニュースで見たことがある」
「その開発も当課が担当しているのですが、4月の時点で既に動力機関の開発予算すら取れなかったそうです。なのに、それ以上に予算がかかる装甲車の改修は今年に判明して、私が異動する十月の時点で既に予算措置が取られている」
「早すぎると思ったわけか」

「ええ。確実に同盟軍とアーク社、それに、おそらくはもっと上も」
「それはマクワイルド中尉の想像かな」
「そう思っていただいたほうがいいと思います。と、言いますか。調べてもすでに証拠を処分しているでしょうしね。これについては報告するかどうかはコリンズ少佐次第です。ただそれを頭に入れておかれたほうが、今後の仕事は有意義なものになると思いますよ」

 微笑すら浮かべるアレスに、コリンズはメモを書いてから、しばらく硬直する。
 特大の爆弾だ。
 同盟軍だけではなく、政治家まで関わっているとなると一大スキャンダルだ。
 だが、それを確実に否定できない部分もあった。
 仕事柄闇にはよくかかわっている。

 そして思うのが、政治家の軍への関与の多さ。
 だが、メモしたことを正しく報告書としてあげることには躊躇いがある。
 報告書を見た憲兵隊司令官であるドーソンは一笑するだけだろう。
 だが、実際に現場で関わっているとからこそわかる。
 決して、アレス・マクワイルドが虚偽を話しているわけではないと。

「最も装甲車の改修は命に係わる問題です。現場としては、それこそ一秒でも早く治してもらいたい。予算だけが出ているのであればそうも思いますが、担当が士官学校を卒業したばかりの私一人、予算だけつけてあとは時間稼ぎをしたいのだと感じました。そう疑ったら契約書や書類を見て、それが確信になった。そんなところでいいでしょうか、報告としては」
「十分だ。むしろ聞かなかった方がよかったこともあった気がするよ」
「報告書をどうするかはお任せします。しかし」

 思い出したように笑いをこらえる様子に、コリンズは嫌な予感を感じた。
 汗を何度となく拭い、そして、迷う。
 このまま聞かずに帰ったほうがいいのではないかと。
 だが、憲兵隊員としての自負かあるいは好奇心か。
「まだ何かあるのか。できれば最後まで教えてもらいたい」

「いや、たいしたことではありませんよ。ただ契約書とかを確認していて思ったのが、不正の仕方が正直すぎて、見ていて笑っちゃいました」
「そ、そうかな。アーク社は実に巧妙にやっていたと思うがね」
「この時代はそうかもしれないですね。でも、私でしたら……」
 続いて語ったアレスの不正の手口について、コリンズは記録を残すことすらやめた。
 聞かなければよかったと思うのと同時。

 どのような不正も見破ると思っていた自信は粉々に打ち砕かれ、この男は鬼の生まれ変わりだと、コリンズは確信を持った。
 
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