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人徳?いいえモフ徳です。

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十匹め

「ここがアタシの店だぜ」

カランカランとドアを開け、ボーデンが自分の店に入る。

店の中には小瓶が並んだ棚がある。

「きゅー?」

「ああ、アタシは錬金術師でね。主にポーションの類いを製作販売してるんだ。
体力回復から媚薬までなんでもござれだ」

「きゅー」

シラヌイが責めるようにボーデンの頭を尻尾でぺちぺち叩く。

「おいおいそんな悪人を見るような顔すんなって!お得意様にしか卸してないよ『そういう薬』はさ」

「きゅっ!」

「所でアンタ、獣化は解かないのかい?」

「きゅぅ?」

シラヌイが首を傾げる。

「いや、アンタがそのままでいいならそれで構わないんだけどね?」

「きゅぅー」

「そうかい。すきにしな」

ボーデンが毛並みに逆らわないよう優しくシラヌイを撫でる。

「きゅぅぅん…」

ボーデンはシラヌイを肩にのせたまま店の奥へ。

「きゅ?」

そこにはフラスコや試験管、蒸留器などが置いてあった。

「ああ、今から幾つかポーションを造るんだ。
お前にも少し教えてやろうか?」

「きゅぅ!」

ボーデンは幾つかの材料と器具を持ってきて、準備を始めた。

「先ずは薬草類だ。ヨモギやらゼンマイやらの野草だな。他には塩とか」

材料の説明の後、器具の説明に入った。

「これが液体燃素ランプ、そして三角台と…」

そこでシラヌイがボーデンの頬をつついた。

「どうしたシラヌイ?」

「きゅぅ。きゅー」

「えーと?」

何かを言いたげなシラヌイだったが、ボーデンにはわからなかった。

シラヌイがスルリとボーデンの肩から降りた。

「きゅぅー!」

と一声鳴くと、シラヌイの体が膨張した。

そして…

「燃素なんて物は存在しないよ。ボーデン」

ピンと立った耳とモフモフの尻尾はそのままに、人の姿となったシラヌイがボーデンの後ろに立っていた。

ボーデンは振り向いて、その姿を確認した。

「シラヌイ……か?」

「うん」

「…………えぇ…まぁじでぇ…?」

「?」

ボーデンの視線が耳と尻尾に集まる。

「シラヌイ、お前のお母様ってシェルム先生だろ」

「なんでわかったの?」

「まぁ、いいや、家出中なんだったな。
ちょっとした知り合いだよ」

「ふーん…」

ボーデンがシラヌイを上から下まで見る。

「ボーデン?」

「むふふ…美味しそうな獣耳ショタ…」

「?」

「あぁ、なんでもないぞシラヌイ」

なおも首を傾げるシラヌイにボーデンは手招きした。

ボーデンはシラヌイを横抱きにして膝の上にのせる。

「ぅゆ?」

「さっきアンタが言ってた燃素なんて存在しないってどういう意味だ?」

シラヌイがボーデンを見上げる。

「実験してみる?」

「実験?」

「物が灰と燃素で出来てるなら物を燃やせば灰は軽くなる…それを確かめるんだよ」

「はぁ?当たり前だろう?」

「燃素が存在するならね」

シラヌイは広げられた材料と器具を整理し、必要な物を集めた。

天秤、皿、そして燃やす物だが…

「ボーデン、鉄粉か銅粉あるよね?」

「あるが…どうするんだ?」

「CuOかFe2O3が分かりやすいからね」

「?」

ボーデンは面白そうだったので銅粉を手渡した。

「ん。ちゃんとCuOとかCuS2じゃなくてCuだね…」

シラヌイが天秤に皿を載せ、片方に銅粉を、片方に錘をのせた。

「さぁ、燃素説をひっくり返そうか」

悪戯小僧のような笑みを浮かべるシラヌイを、ボーデンはニヤニヤと見ていた。











十数分後。

ボーデンは頭を抱えていた。

悩みの種は勿論ボーデンの膝で腹這いになっている狐だ。

実験を終えたシラヌイはボーデンにドヤ顔をしたあと即座に獣化し、ボーデンの膝の上で腹這いになって眠り始めた。

まるで答えは自分で考えろと言わんばかりの行動だ。

「何故だ…何故重くなる…。燃素が出ていったんだから軽くなるはずだろう…」

ボーデンは実験で得られた『金属灰』の皿を手に取る。

「シラヌイが魔法で何かを入れた…?」

だがボーデンはその考えを即座に打ち消した。

「いや…シラヌイは魔法を使っていなかった…使っていたらアタシが気付かないはずねぇし…」

ボーデンはうんうんと考え続けていた。

そこでカランカランと店のベルが鳴った。

仕方なくボーデンはシラヌイを抱き抱え、店に出た。

そこには最も会いたくない人がいた。

「うげ…シェルム先生…」

ぴこんと立った耳に和らげな顔つき、女性にしては高い身長にグラマスな体とモフモフの尻尾。

「久し振りですねボーデン・フォン・パナセオ国家錬金術師筆頭兼宮廷魔導師第八位殿」

「ぇあー…何の御用でしょうかシェルム・フォン・シュリッセル宮廷魔導師第一位兼魔導師団長兼魔導学院名誉院長殿」

シェルムはピッとボーデンの腕の中で眠るシラヌイを指差した。

「シラヌイが落ち着くまで預かっていて欲しいのですよ」

「………んん?」

「聞こえませんでしたか?全く貴方は学院にいた頃からそうでしたね…」

「あー…えっと…『ウチの子を返せー』とかでなく?」

「はい」

「……………正気かよ先生?」

「はい。今のシラヌイは少し私達と離れた方がいいとお母様が仰る物ですから」

ボーデンは腕の中に抱くシラヌイとシェルムに視線を往復させた。

「他ならぬ先生の頼みだ。引き受けますよ」

「では当面の生活費とシラヌイのステータスプレートを置いていきますね」

シェルムが数枚のコインとカードをカウンターに置いた。

「では、頼みましたよボーデン」

シェルムは踵を返し、店から出ていった。

しかし再びドアが開いた。

「いい忘れてましたけど傷物にしたら貴女には宮廷魔導師筆頭の所以を見せる必要が出てきますから気をつけてくださいね?」

今度こそシェルムはボーデンの店を後にした。

「こわ…。変わってねぇなシェルム先生」

そしてボーデンはコインに目をおろした。

「てかミスリルコインかよ…両替めんどくさ…。
これ絶対八つ当たりだよちくしょー…」

ミスリルコイン一枚は日本円にして百万円となる。

「つか溺愛しすぎだろ…まぁいいや…」

ボーデンはくぅくぅと眠る子狐を抱きながら、店の奥へと戻って行った。 
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