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「観覧車。」

作者:猫SR
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無題

 
前書き

特に無し。




 

 


少し、 いや結構、前の話だ。




隣のA県に頻繁に
出張に行く時期が有って
そこで女と知り合った。


現場で残業して
ビジネスホテルに帰る途中で
路肩の側溝に後輪を嵌めて
身動きが取れなくなった
軽自動車を見たんだ。


大都市のN市内の現場から
K市のホテルに帰る途中の
郊外道路、夜だし、
行き交う車も少なかった。



可哀想だなと思ったので
信号が青に変わった後、
ゆっくりとその車を
追い抜きながら見ると
運転手は女で一人しか居ない。



どこかに電話してる様だったが

(まあ、引っ張ってやるか、)

そんな気持ちで軽自動車の前に
自分のトラックを停めた。


トラックから下りて声を掛け、
今からワイヤーで
引っ張ってやるから
とにかくハンドルを真っ直ぐに
持ってて下さいと伝えた。


メットのヘッドライトを頼りに
荷台からワイヤーロープを
取り出し、トラックと
軽自動車を連結して、
側溝の段差とタイヤの間には
緩やかになる様に木材を噛ます。



軽自動車は呆気なく、秒で出た。




女は何かお礼を、と言いながら
バックの中を探し出すので


「別にいいよ。」

って言ったんだが
それじゃあ気が済まないって
ゆーから、

「なら飯、奢ってや、
ラーメンでいい。」




切っ掛けはそんな感じだった。







出張が終ってからは
月に2回ぐらいK市まで
単車を走らせた。


俺が居るH市のインターから
高速道路に乗る。


…単車ってのは路面のいい
高速道路なら気が付かない内に
とんでもねー速度になってるから
気を付けなきゃいかん。


何に気を付けるかってーと
勿論、パトカーだ。 笑


パトカーは大体、インター付近や
PA、SAで張ってるから
そこを通過する時は速度を落とし
振り返って目視でも確認する。


安全?が確認されたら
再び速度を上げる。 笑



とあるJCTを左手に進み、
新しく出来たI湾岸道路 は
最高に気持ちいい。



SAの観覧車を右手に見る。

片側3車線の道路をぶっちぎる。



大型トラックを抜かした時の
風圧に耐えながら、
上体を前傾させて
燃料タンクに張り付いて
風の抵抗を減らす。

メーターをチラチラ見ながら。



Tインターまであと500mの
看板表示を目にしたら
スロットルを戻しながら
上体を起こすと
体に目一杯、風を受けて
メーターの針はグングン戻る。



左にウインカーを出し
シフトダウンしながら
インター側道に車線変更する。




そのまま待ち合わせのラブホへ。







互いの事を余り詮索せず
よく知らないまま、
体の関係を続けて数ヶ月。


ある日、話が有ると言われて
いつもとは違う場所を
指定された。



電話じゃダメかって言ったら
会って話したいって。




…いい予感はしなかった。








、、、、その日。

余りにも青い空を見上げながら

多分、今日で終りだなって
思いながら単車を走らせた。



互いの住む街の中間地点ぐらいの
O、とゆーインターを下りる。




大型店舗の駐車場で落ち合う。










軽自動車の助手席で聞いた話は





離婚しようとして
別居中だが、旦那さんがいた事、


その旦那さんが病気になって
その女に頼って来た事、






そして、その女としては
旦那さんに
まだ気持ちが残っている事。








初めて聞く話でびっくりしたが
意外と冷静に、冷めた気分で
最後まで聞けた。









答えは簡単だった。










「うん、わかった。」


「…ごめんなさい。」








互いに見てる前でお互いの
アドレスと携帯番号を削除した。











たまに
あの湾岸道路を走るとふと思う。






誰でも良かった訳じゃないが
寂しさを埋める相手が欲しくて、






あれは恋愛では
無かったのかも知れない。




馬鹿話ばかりして女を笑わせた。



互いの詳しい事は
互いに敢えて話さない、

あの微妙な雰囲気。






単車で地元へ
夜、帰る時の寂しさ。



行く時の勢いは無く
女を抱いて来た筈なのに
逆に募る寂しさと虚しさ。




一人でPAでラーメン啜りながら
今、ここだよって
メールしてみたり。




「今、部屋着いたー。」

「お疲れさま。」

「おはよう。」

「おやつみー。」

「日曜、会える?」







短文で疎らなメール。











西に行くと





あの湾岸道路を走ると


あの観覧車が見えると







いつも思う。








あの女、元気だろうか。









幸せにしてるだろうか。
















胸の痛みは無い。

ただ、単に懐かしいだけだ。




…でも。












見上げると
今夜も月は天空に輝く。













…寂しさが止まらない。
























、 
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