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ロボスの娘で行ってみよう!

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第62話 やぶ蛇


第62話 やぶ蛇

宇宙暦794年7月15日

■自由惑星同盟 首都星ハイネセン 国務委員長オフィス

国務委員長兼最高評議会副議長ロイヤル・サンフォードの元へ宇宙艦隊司令長官代行コーネフ大将と主席参謀ホーランド大佐が訪れていた。

「すると何かね、今こそイゼルローン要塞を攻略する好機だというのかね?」
「そうです、今帝国は宇宙艦隊司令長官の戦死を含め7万隻以上の艦艇を失っています。更に帝国では今サイオキシン麻薬密売による余波で軍部もガタガタです。今なら援軍は望めません」

コーネフ大将の自信のある言葉にサンフォードもフォークとは違うと感じていた。
「しかし、ヴァンフリートで戦ったばかりで、それほど艦隊は出せないと思うが?」
「今回は3個艦隊3万9000隻を出せれば要塞の占領は可能です」

ホーランド大佐が自信満々に作戦案を提示する。
「3個艦隊では4万5000隻では無いのかね?」
サンフォードとはいえ、艦隊の定数は判っているので疑問をぶつける。

「今回は、隠密理に艦隊を動かしますので、ヴァンフリートで戦闘を行った第8、第9艦隊を参加させます。これらが訓練と称してティアマト星系まで先行し後続として第7艦隊を参加させます。そうすれば、敵は当方の意図を掴めないでしょう」

「現在市民は大規模な戦果に酔いまくっています。このまま何もしないと支持率が低下するかも知れませんぞ」

コーネフに痛いところを突かれたサンフォードは考える。確かにこのまま何もしないと支持率が落ちるかも知れない、次の評議会議長を狙う自分としては此処でフォークによって足をすくわれた事を挽回しておかねば成らないな。

「しかし、シトレ本部長は納得して居るのかね?」
「評議会の議決があれば納得するしか有りません」
「その様なモノか」

軍事の素人であるサンフォードを騙すなどホーランドにしてみれば簡単であった。
「判った、評議会で議題としてあげよう」
「お願いします」


宇宙暦794年7月28日

■自由惑星同盟 首都星ハイネセン 統合作戦本部 

シトレ元帥の元へレベロ財政委員長から公式のTV電話がかかってきた。
「此はどうなさいました、財政委員長閣下」
「畏まるなよ、戦争屋」

「何かあったのか?」
「又ぞろ、サンフォードが動いてるようだ」
「ほう、どんな動きだ?」

「第六次イゼルローン要塞攻略戦だよ」
その話を聞いたシトレは、無茶な事をと考えた。
「いったい誰の差し金かな?」

「宇宙艦隊司令長官代行コーネフ大将とホーランド大佐なのだが、『今なら確実にイゼルローン要塞を落とせる』と各委員長に面談をして薦めているそうだ。私も先ほど会ったが、何だあの自意識過剰な男は『自分に任せれば成功率100%』と言ったぞ。私が今イゼルローンを攻める必要が有るのかと聞いたが『評議会で議決すればやらざるを得ない』と言っていたぞ。お前どうするんだ?」

「そうだな、まず作戦書のコピーを送って貰えるか?」
「ああ、良いぞお前が指示したんじゃないのか?」
「する訳がないだろう。今攻めるのは、ハッキリ言って不味い」

その言葉にレベロが怪訝な顔をする。
「今帝国が混乱しているのに、チャンスで無いのか?」
「逆だよ。かえって悪い」

「ではどうすれば良い?このままだと反対するのは私とホアンぐらいだぞ」
「評議会は何時だ?」
「7月31日の午前9時からだ」

その言葉にシトレはリーファ達の緊急招集を決定した。
「判った、此方も対策を立てるから、30日に連絡する」
「判った、待ってるぞ」

TV電話が切れて、シトレは早速テルヌーゼンの軍大学へ連絡をするのである。
「ああ、そうだ、ワイドボーン准将、ヤン准将、アッテンボロー准将を明日29日までに統合作戦本部に出頭させよ、ああそうだ」

宇宙暦794年7月29日

■自由惑星同盟 首都星ハイネセン 統合作戦本部 

緊急に統合作戦本部へ招集されたリーファ達は押っ取り刀で到着した。
「ワイドボーン准将以下2名到着しました」
「入りたまえ」
「はっ」

3人が入室するとシトレ元帥が待ち構えていた。
「緊急の招集ですがいったいどうなさったのでしょうか?」
「うむ。コーネフ大将とホーランド大佐とサンフォード国務委員長が碌でもない作戦案を評議会に提案するそうだ」

そう言うシトレがレベロから手に入れた作戦案を渡す。
それを渡されたワイドボーン、ヤン、リーファは読んだ瞬間眉間に皺を寄せはじめた。

「本部長、宜しいでしょうか?」
リーファが一番に話しかけた。
「構わんよ」

「この、阿呆な作戦案ですが、第五次イゼルローン攻略戦の焼き直しじゃないですか、それに損害受けたままの第8、第9艦隊を使うとは。こんな阿呆な作戦誰が作ったんでしょうか?精神を疑うんですが」
「おいおい。アッテンボロー言い過ぎだ」

リーファの言葉にワイドボーンが慌てるが、シトレは苦笑しながら答えてくれた。
「その阿呆な作戦案はホーランド大佐ご謹製だ」
「ああ、突撃大好きな芸術的艦隊運動家ですね」

「なんだいそれは?」
「士官学校のシミュレーションで敵に突撃してアメーバーの様に動き回って居たそうですよ」
「それで、突撃大好きな芸術的艦隊運動家か」

「そう言う事です」
「雑談はその位にして、どうしたら良いと思うかね?」
「本部長権限で没にすればよいのでは?」

「それが、最高評議会で議決されるらしいのだ」
「なるほど、我々を呼んだのは、少しでも犠牲を出さないためですか?」
「そうなるが、コーネフ大将は作戦案をホーランド大佐に一任で変えると思えん」

「所で何処からこの作戦案を?」
「レベロが知らせてくれた。レベロとホアンは反対するが、他は賛成するかも知れないらしい」
「困りましたね」
「困ったな」

3人が困っている中、リーファは考えた。余りにも手際が良すぎると。

憂国騎士団が世論を操作しイゼルローン要塞への攻撃を主張させる、此は完全に帝国領侵攻作戦時に起こった事と一緒じゃないか。そうなると裏で糸を引いているのはトリューニヒトか、確か第六次イゼルローン攻略戦の失敗でサンフォード内閣が出来て、トリューニヒトが国防委員長になったはずだ。

そうなると、コーネフ大将とホーランドとサンフォード、アップルトン、アル・サレムは道化だ、間違えなく原作のように第六次イゼルローン攻略戦は失敗する可能性が高い、そうして得をするのは、トリューニヒトだ。此処で国防委員長を失脚させれば、自分が繰り上がりで国防委員長と言う訳か、そうはいかさない、売国奴の思惑通りには行かせない。

アンダーソン最高評議会議長とカスター国防委員長をレベロ、ホアン両氏に説得して貰い最低4人が残るようにしよう、他の委員の後任人事はレベロ、ホアン派で固めさせればいい、そうすればトリューニヒト派の増長を押さえられる。

「おい、アッテンボローどうした?」
黙って考えていたリーファにワイドボーンが話を振ってくる。
「はい。今回の裏側を考えていました」

「「「裏側」」」
シトレ達がハモる。

「まず、時期的要因です。情報部から、帝国では宇宙艦隊司令長官後任人事が揉めまくり、派閥同士の争いになりそうな雰囲気です。それに軍の再編編成もままならない状態です。本来であればヴァンフリートで失った6個正規艦隊以外に12個正規艦隊が存在するはずなのにもかかわらず、未だ再編成が済んだ正規艦隊は6個しか有りません。残りの正規艦隊は上級士官の不足により艦隊としての形をなし得ていません。それに貴族の蠢動もありますからね」

「それなら一般的に考えれば尚更今攻めた方が良いという訳になるぞ?」
「其処なんですよ。このまま行けば態々攻めなくても、何れ帝国は内乱が発生するでしょう。その時に攻めれば、楽に帝国を倒せるんですよ」

「それが、フリードリヒ四世の死だという訳か」
「しかし、何時死ぬか判らない皇帝の死を待つ事が連中には出来ない訳か」
「支持率が大切な方々と、出世が大切な方々の思惑が悪い形で合わさった訳か」
シトレは顎を触りながら、ワイドボーンは考えながら、ヤンが頭を掻きながら呟いた。

「更に、今攻めれば、完全にやぶ蛇に成るんです。敵は帝国の危機だと団結する可能性が大きいですね。派閥抗争を棚上げして宇宙艦隊司令長官人事を決めるでしょう。その新長官が迎撃の任に就く。そうやって実力を見せる事をするでしょう」

「攻めない算段が一番良いのだがな」
「最高評議会の説得は難しいと」
「頭を掻いて酒飲んで寝たい気分ですよ」

「この時期の出兵自体に疑問があるのですよ」
「それは?」

「コーネフ大将、ホーランド大佐、サンフォード委員長、アップルトン中将、アル・サレム中将は道化の可能性がある訳です」
「何故その様な考えを?」

「今回の世論の出兵騒動は憂国騎士団が関与しています。ご存じのように憂国騎士団はトリューニヒト国防副委員長の私兵です。しかも現国防委員長とは仲が宜しくない状態です。作戦が成功するとして態々敵対者を選挙で安泰な状態にする事をしないはずです」

「けど、関係改善を求めているのかも知れないし。憂国騎士団が勝手にアジっている可能性もあるんじゃないかい?」

リーファは、ヤン先輩甘いな、まあ原作知識が無いから仕方ないけどと思う。

「いえ、イゼルローン要塞攻略で大敗を喫すれば、その作戦を押し付けた最高評議会に対して世論は許さないでしょう、そうなると辞表提出ですね。そうなると副委員長達が昇進です。又勝ってもサンフォードが次の評議会議長になり、ポストが空く訳です」

「なるほど、失敗しても、成功しても損がない訳か」
「恐らく数日後にトリューニヒトは『今回の出兵案に私は反対する』とコメントすると思いますよ」
「うむー」

「コーネフ大将、ホーランド大佐、アップルトン中将、アル・サレム中将は、それぞれ焦っているはずです。今回活躍したが昇進したのは他の提督ばかり、コーネフ大将は職責が臨時職ですからね」
「コーネフを代行にしたのは誤りだったわけだな」

「本部長だけのせいではありませんよ。あのヌボーとした顔の男が此処まで大それた事をするとは誰も思いませんから」

「そうすると、どうするかね?」
「勝てるようにするしか無いのでは?」
「いえ、ヤン先輩、此処は心を鬼にして遠征軍には損害を受けて貰うしかないですよ」
「おい、味方を見殺しにするのか?」

「今回の作戦事態が無理ゲーなんですよ。負けても勝っても駄目。だからレベロ、ホアン委員長に最高評議会議長と国防委員長の説得をして貰いましょう。そうして最低でも4人には評議会へ残って貰い、トリューニヒトの野望を挫いて貰います」

「しかし、アッテンボロー、軍人が政治に口を出すのは、余り良い考えじゃ無いけど」

「ヤン准将。このまま行けば、トリューニヒトが国防委員長に就くでしょう。そうなれば、自派の為に腐った連中が死肉に群がる蠅の様に軍に集って利権を漁り続けるでしょう。そうなれば、更に大量の犠牲が発生するのです。此処は政治的動きをしてでも何とかしないといけないのです」

「究極の選択だな」
「そうだな、しかし、我々としては、政治パフォーマンスに軍を利用する連中に政権を渡してはならないと言う訳だな」

「そうなります」
「判った、レベロに説得させよう。説得可能な資料を頼む」
「「「はっ」」」

資料を作りつつ、ヤンは、余りにドライじゃないかとリーファのことを考え。ワイドボーンはリーファの知謀に改めて感心し。シトレは、ヤンの他人事のような考えに是正が必要かと考えていた。


宇宙暦794年7月30日午前9時〜午後11時

■自由惑星同盟 首都星ハイネセン

シトレがレベロを訪ね、リーファ達の作った資料を渡し説明した結果、そのまま最高評議会議長と国防委員長とも話す事になり。裏の事情を暈かしながらも含めて、10数時間の説得の末、最終的に反対する事に成った。

「つまり何かね。あの議案は、我々の頸を取る為のモノだと言う訳か」
「議長、そうなりますぞ」
「此処に居る4人だけでも残らねば成りません」



宇宙暦794年7月31日午前9時

■自由惑星同盟 首都星ハイネセン 最高評議会

この日の会議で、第六次イゼルローン攻略の可否を問う議決が取られた。
当初はアンダーソン最高評議会議長が無謀な作戦で有るとぶちまけたが、サンフォード側に付いた委員長達にこの議題を投票にかける事を多数決で決められたため、最高評議会議長とは言え拒否でき無かったのである。

皆が皆、更なる勝利と支持率の上昇、有権者からの突き上げで賛成に回る中、アンダーソン最高評議会議長、カスター国防委員長、レベロ財務委員長、ホアン人的資源委員長は反対票を投じたが、賛成6、反対4、棄権1で第六次イゼルローン攻略作戦は可決された。

 
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