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繰リ返ス世界デ最高ノ結末ヲ

作者:エギナ
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02.生前手記
  生前手記‐七星宙‐

 
前書き
普通に考えて何言ってるのか分からないものですので、てきとうに読んでもらって結構です。
まだ登場人物の説明すら出来ない程度なので。
あ、でも書いている途中に泣きそうになりましたというか泣きました。
いやぁビックリしました。
それではどうぞ。 

 
4月15日
今日から弟と一緒に黒猫の本部に移籍になった
今まで黒猫の傘下で働いていたから、黒猫の本部でずっと働きたいと思っていて
やっと、念願の黒猫への移籍が決まる
今日は嬉しくてずっと飛び上がってた
親がこれを知ったらどうなるかな
失望するかな
一人娘の私があの黒猫に入りたかったなんて
口が裂けても言えないね
今日から、黒猫に移籍になった記念として日記を書き留めていく事にする
沢山、人を殺める汚い仕事ばかりかもしれない
でも、私はここで生きていこうと思う
やっと、貴方に近くで会えるかもしれないから

4月23日
今日、ボスの元へ挨拶に行った
凄く怖くて緊張したけど、思っていたよりも優しくて少し驚いた
廊下ですれ違った人達とも挨拶ができたり、ここが黒猫だという事を忘れてしまう位皆温かい人達ばっかりで
ボスに言われた
"女の子なのに、どうして此処に入りたかったの?"
って
黒猫は決していい組織じゃないし、実際にいつ死ぬかもわからない
それでも、私は貴方に会いたくて
ずっと遠くから見ているだけの存在で私なんか気にも止めてないだろうけど
裏社会でも、貴方の為に入りました
それから、その後貴方に会った
会ったというよりも、廊下ですれ違って挨拶をした
こんなに近くで貴方を見たのは初めてで挨拶ですら凄く緊張した
頑張って挨拶したら、隣に居た黒華幹部も挨拶を返して下さった
貴方も挨拶を返してくれて、それだけで今日は凄く幸せだった
今度は話せたらいいな、なんて思ったけど
私みたいな最下級構成員なんて貴方と話す権利すらないんだよ
話してみたいよ

4月 29日
今日、1から黒猫について学んだ
銃の使い方に関しては元々扱っていたから訓練でも中々使えた
ここの規則や組織運営について、任務の内容や各役職について
黒猫に関する基本的な知識を頭に叩き込まれて凄く疲れた
到底、覚えきれる気がしないなあ
それから、全ての特訓を受けたら最後に構成員としてどこに配属されるか発表もされるらしい
私は、貴方の所に行きたいな
次の特訓に、貴方が来てくれるらしい
体術を教えてくれるそうで、貴方から教えてもらえるなんてそれだけで嬉しい
この黒猫の中でも体術に優れているらしい貴方の技を間近で見られる

8月23日
今日、最後の特訓を終えた
長かったようで短かった
途中で辞めてしまう人達や亡くなってしまう人達も沢山いた
結局残ったのは始めの半分以下だけで、私がこうして残れたのも何かの奇跡だと思う
沢山辛い特訓を積み重ねてきて、これでやっと実戦に出られる
黒猫の為に、貴方の為にできる事が増えたような気がする
それから、特訓を終えて疲れきって廊下を歩いていた私に、貴方は声をかけてくれた
"よく頑張ったな"って
おまけに肩まで叩いてもらっちゃった
何が起こったかわからなくて、何も言えなかった
絶対印象悪く残ってしまったと思う
貴方は何の気もなく私に声をかけてくれたのかもしれないけど
私はそれだけで
貴方が私に何かをしてくれる事だけで
それだけでとっても幸せ

9月1日
今日は朝に、所属が発表された
本当はもう少し早く決めなければならなかったらしいけど、色々忙しかったらしい
私、貴方と同じ所属になれたよ
詳しくは貴方が所属している、黒華幹部のところだけど、私はそこに所属することになれた
頭が飛びそうで、もう言葉にならなかった
その後書類整理をした
資料保管室の資料を1から取り出してしまい直すだけの仕事だったけど、結局半日以上かかってしまった
貴方は今日、どうやら危険な任務に向かっていたらしく、
傷を負って帰ってきたみたいだった
すぐに医務室に運ばれていく貴方がとても心配で、
この位で死ぬ訳がないけど、
それでも、胸が締めつけられる思いをしてた
私がもっと強かったら、
私が治癒効果の能力を持っていたら、
貴方を助けられるかもしれないのに
無力な自分に、また胸が締めつけられた
夜、医務室にお見舞いに行った
貴方は大きいベッドに点滴が繋がれたまま寝ていた
綺麗な顔にも少し傷が付いていて、包帯から血が滲んでいる箇所もあった
貴方のこんな姿を、
その苦しみから今すぐ助けてあげたかった

9月15日
【初任務】
今日、貴方と同じ隊になって初めて任務に行った
20分前から、貴方が来るのをずっと駐車場で待機
貴方は、15分前に一人で来た
朝から貴方を見られるなんて、こんな幸せがあっていいのかな、と思った
「よろしく、宙
怖いと思うが、何かあったらすぐ俺を呼べよ」
なんて来て早々言うものだから、もう何て言ったらいいかわからなくなって焦っていたら、貴方はニコニコと笑った
貴方の素敵な笑顔につられて、私も笑ってしまった
そして私は今日初めて自分の手で人を殺した
ここにいる限り、いつかはしなくてはならない事だとわかっていたけど、いざ殺してみたら
どうしようもなく怖くなってしまって
罪悪感というか、何と言ったらいいか
もうどうにもできそうにない位辛くて、一番疲れている貴方の部屋へ行ったら
貴方はやっぱり、私に優しくしてくれて、頭を撫でてくれた
そんな貴方に甘えて、ずっと泣いた
貴方は、こんな思いをずっとしてきたのかな

6月9日
【4回目の任務】
今日は、4回目の実戦任務へ行った
今もまだ人を殺める事には慣れないけど、段々罪悪感というものが薄れてきているような気がする
人を殺すのに、躊躇いがなくなった
私は2、3回目の任務の実績を考慮されて、最下級構成員でなくなって、私にも部下ができた
先輩らしい事なんて一つも言えなくて、部下への接し方をよくわかってる貴方が少し羨ましかった
今回が初任務の人もちらほらいた
そんな不安でいっぱいの部下達に、貴方は励ましの言葉をかけていた
やっぱり貴方は優しいな
任務は、成功したけど失敗したようなものだった
黒華幹部は流石と言うべきか、無傷だったけれど、貴方はかなりの重傷だった
貴方は初任務の部下を庇って、敵の銃弾を体に入れた
あの人が自分のせいで傷を負ってしまった、と責任を感じた部下は、その場でこめかみに銃を当てて死んだ
他の人達も、今日は沢山死んでしまった
朝、偉そうにしていた先輩も、余裕こいていた同期も
皆死んでしまった
帰りの車で、貴方は黒華幹部の隣でずっと泣いてた
"俺の所為だ"って、貴方も責任を感じてた
そんなことないって、抱き締めたかったけど、今の私はそんな貴方を見守る事しかできない
ごめんなさい

1月15日
【初単独任務】
今日は、初めて単独の任務を任された
人並み以上の努力を重ねて、寝る間も惜しんで必死に座学に励んだ生活を続けていたら
自然に実績は上がっていって
私はまだ入って間もないのに、上級構成員になれたよ
貴方は勿論上司だけど、やっと話せるようになったよ
貴方と話したくて、貴方の声を私に向けて欲しくて、必死に頑張って
貴方ともっと身近にいたくて、私が貴方を支えてあげたいって思ったから、ここまで頑張れたよ
貴方は、私の頑張りに気づいてくれているかな
それとも、まだ全然足りないって思ってるのかな
任務に向かう途中、廊下で貴方に会って
そうしたら貴方は
「すまない」
って一言
私の両肩に手を置いて、謝った
『お気遣いありがとうございます
御心配をお掛けし、申し訳ございません
ありがとうございます』
って、私もらしくない事言っちゃって
私の事なんて、気にしないでいいんだよ
貴方ができない、色の仕事
貴方は私に同情してくれたんだね
本当はね
私の事、気にしてくれて、嬉しかったんだ

1月16日
こんなに辛いなんて、知らなかった
知らない男に、私が汚されて
わかってた筈なのに全然わかってなかった
本当はされる前に情報だけ盗って帰る心算だったのに
私の作戦も身柄も全部知っていて、全てを見透かされたまま……
思い出したくない
もう怖くて部屋から出られない
もう朝なのに、出勤しなきゃいけないのに
誰にも会いたくない
誰にも会えない
こんなの、だめなのに
こんなんじゃ生きていけないって
きっとボスはこんな私を許してはくれない。きっと黒華幹部だって。
きっとこのまま、処分されるんだろうな
でもそんな事より、体の震えが止まらなくて、着信がかかる携帯にも出られなくて
息ができなかった
そうしたら
会いたくて、大好きな貴方が私の部屋に駆け込んできてくれた
汗だくになって、布団に丸まって閉じこもっていた私に近づいて優しく抱き締めてくれた
涙が止まらなくなって、貴方の前でみっともない姿を見せてしまった
「すまない」って、ずっと貴方は謝って、それが辛くて
貴方のせいじゃないのに

4月23日
今日は朝から黒猫が大騒ぎだった
黒華幹部が大怪我をして拠点に戻って来たんだ。
腕の肘から下の部分が無くなっていて、脇腹や脚に銃弾が貫通した痕もあった。眼球も一つ失われていたらしい。
貴方は黒華幹部補佐だったから、すぐに医務室に向かった。
それでも医務室にはボスと、あと二人、知らない男性が心配そうに黒華幹部の顔を覗いていた。
その時、貴方は安心しきった顔をしていた。良かったと言った。
こんなこと思っちゃいけないんだけど、少し黒華幹部が羨ましかった。
嫉妬してたのかもしれない。

それからしばらく書き連ねてある日記のページをパラパラと捲り、2冊目を手に取った

3月13日
今日、貴方と同じ立場になった
私が正式に黒猫に入ってから約4年、能力がない私は最下級構成員からここまでのし上がってきた
貴方はにっこり笑って
「待ってた」って
貴方のその言葉が聞きたくて
4年間頑張って、苦しい事も悲しい事も沢山あった
やっと、やっと貴方の傍に居られる。えへへ、黒華幹部の補佐なのに、変だよね。
貴方が優しく微笑みかけてくれるから、あまりにも嬉しくて貴方の前で泣いてしまった
でも
この地位まで上り詰めるまで沢山の人を殺した
始めは中々人を殺せなくて、初めて人を殺した夜はずっと泣いていた
今ではもう、人を殺すのさえなんの躊躇いもなくなってしまった
この地位に比例するように、私は、たくさんのひと、を

3月31日
今日、黒華幹部がお昼ご飯を誘ってくれたんだ。
その途中でね、一人の橙色の髪の男性が来て、幹部に言ったんだ。「そっちはどうだ」って。
私は不思議に思ったんだ。だって、私が知っている人の中にその人が含まれていなかったんだもの。
そしたら、黒華幹部が説明してくれたんだ。
もちろんビックリしたよ。だって、黒華幹部は、本当は「幹部」じゃなくて、「頭領」だったんだもの。
黒猫には黒華幹部……じゃなくて、頭領が統べている、私が所属している「猫」以外に、後から来たその男性が頭領の「獅子」、もう一人の男性が頭領の「狼」があるらしい。
黒猫の本部と言うのは頭領とその補佐、そしてその3つの派閥を纏める首領、ボスで作られているらしい。
その日、貴方にその事を知っているか聞いてみたら、知らないって言ったね。初めて私が貴方に教えることができたね。

6月2日
頭領の補佐になってから、毎日がとても充実してる
貴方と頭領は能力の無い私を気遣って、書類整理や事務作業を回してくれた
貴方と頭領の任務の報告書を纏めて提出するのも、私の仕事になった
報告書を見れば、貴方と頭領の活躍を実際に見ていなくてもわかる
今日は沢山の人を殺したんだな、とか今日は護衛か、とか
いくら危ない仕事であっても、貴方は必ずこの執務室に帰って来てくれた
怪我を沢山負って、またそれを治療するのも私
貴方の綺麗な体に触れるのだけは、いつまでたっても慣れそうにないな

7月7日
また頭領と一緒にご飯を食べた。
そしたら、優しく「これからは『頭領』とかじゃなくて、『琴葉』でいいよ」って言ってくれたんだ。
最近二人の仕事を見ていて、私は頭領に嫉妬していた気がした。
だって、二人は互いに背中をくっつけて、楽しそうに戦っている時があるんだもの。
貴方が頭領に想いを寄せているのだと思った。
だけど、こんなに綺麗で、優しい人なのなら仕方ないよね。
でもね、頭領はね
「彼奴が好きなのは絶対に私じゃない。彼奴が好きなのは宙ちゃんだよ」
って、何のためらいもなく言うんだ。
私はそう思う理由を聞いてみたんだ。純粋に気になったんだもの。
そしたら、「宙ちゃんの前では普通にマスクを外してるからだ」って。
確かに仕事の時貴方はマスクを必ず付けていた。「血の匂いが嫌いだから」って。
「彼奴がマスクを外すのは、本当に信頼した人の前だけだよ」
私は嬉しかったんだ。
頭領の前だという事もかかわらず、飛び跳ねそうになった。
その日、私と琴葉さんは短冊にお互いの願い事を書いて、笹の葉に飾った。
後で琴葉さんの短冊を見たら、そこに「部下が一人もいなくならないように」と書いてあった。
やっぱり、あの人は優しい人だ。

8月7日
今日程幸せな日は二度と来ないと思った
貴方が、私の事を好きだと言ってくれた
照れくさそうに耳を真っ赤にして、一生懸命私に伝えてくれた
その場に泣き崩れて、貴方はまたオロオロして
貴方の返事に答えて、私も正直に伝えた
ここに入る前からずっと、好きだったと
そうしたら貴方は私の事を抱き締めて、泣いてた
初めて抱き締められて、貴方の温もりを直で感じて、私もつられて泣いてしまった
それでもまだ、実感がわかない
涙さんの恋人、だなんて
ああもう、この文を書くだけで、ニヤニヤしてしまう
きっと今日は寝れないなあ

11月10日
昨日、貴方が私を家に誘ってくれた
貴方は高層マンションのかなり上の階に住んでいた
普段こんな場所に行かないから、エレベーターの中で頭がクラクラしてしまった
貴方の部屋は、白と黒で揃えられたモノトーン調の部屋だった
男らしい部屋で、少しドキっとした
玄関には沢山のオシャレな靴が並んで、貴方の大好きな本も沢山棚に収められていた
リビングに案内されて、カチコチに緊張していた私に貴方はホットミルクを出してくれた
それからしばらく話し込んで、テレビを見てゆっくり過ごしていた
時間も遅くなってきたから、帰ろうと立ち上がれば貴方はそれを阻止して
「………泊まっていかないのか?」
って、言うものだから
そのまま泊まることにした
お風呂に入って、濡れた髪を乾かして、次に入った貴方もお風呂から出てきた
髪の毛が水に濡れて、その、とても雰囲気があるというか…
貴方も髪の毛を乾かした後、夜も遅いし寝ようと思っていたら貴方は私をベッドに押し倒して
「寝かせないからな?」
だって
思い出すだけでもう、頬が火照っちゃって字も汚い
私は本当に、幸せな人だな

12月7日
貴方の恋人になってから、四ヶ月が経った
琴葉さんはいつも部屋から抜け出し、執務室に私と貴方を残してどこかへ行ってしまう。
仕事中は、今まで通り先輩と後輩の関係
でも、お互いの家に行ったり来たりして、琴葉さんが仕組んだため、ほぼ毎回重なる休日には二人で行きたい所に行って
全部がとても、幸せなの
だから、こんな日がずっと続いたらいいのにって思うんだけど
でも、お互いに黒猫にいるため、何時どこで死ぬかわからない
明日、殺されてしまうかもしれないのに
それでも、今だけは貴方と二人で生きていたいな、なんて
琴葉さんに相談したらなんと言われるだろうか。
またいつものようにこっそりと動画を撮りつつ、相談相手になってくれるのだろうか。
補佐なのに、こっちが頼ってばっかだなぁ。
一度、琴葉さんに相談してみようと思った。

2月14日
今日は、貴方と一緒に出張に行く日
本当は、私は本部で留守だったけれど琴葉さんのご好意で一緒に行ける事になった
貴方と一緒に行けてとても幸せ
でも、今回の長期任務はかなり危険で正直貴方もいつ死ぬかわからないらしい
そのせいで、貴方と初めて喧嘩してしまった
貴方はそんな危険な場所に私を連れて行きたくないと、言ってくれた
でも私は、貴方と一緒にならどこでも行くと言ったから
貴方が私の事を心配して言ってくれたのはわかってる、でもね
わたしは、あなたが、…
あなたが、私 のい ないと ころで
しん、でほしく ないから……………
あんなに、怒鳴らなくても い、いじゃんか

このページは黒い文字が所々滲んでいた

4月1日
今日、今から久々に出張先で外に出る任務に同行する
結局、貴方の意見を踏みにじって来てしまった
貴方は、始めはかなり怒っていたけど段々冷めて、私を必死に守ろうと尽くしてくれた
出張先でも、本部にいた頃と変わらず仲良くできている
今から行く任務は、私が出される程人材が不足しているらしく、敵の数があまりにも多いらしい
と言っても私は後ろからの司令塔だから直接手を下す事は無い
でも、思うの
私の下した判断で、仲間を殺してしまったら
こんな危険な任務だと言われているのに、私に司令塔なんて務まるのかな


目が覚めたら、貴方が、泣いていた
ベッドに寝かされていて、頭が酷く傷んだ
起きた私を見つけるなり、貴方は痛い程私を抱き締めて、「よかった」って
そして、貴方に、全てを聞いた
私はあの日、敵から回り込まれていたのに気づかなくて、背後から攻撃された
そうして私は、敵の異能力者に、
死んでしまう運命を課せられたらしい
私にかけられた異能は、どうやら呪いのようなもので
段々、記憶が消えていくらしい
そして一番大切な人の存在を忘れた時、息を引き取るのだそう
私にかけられた呪いを解く方法は今のところ無いらしい。数ヶ月前入った新人の能力を使えば可能性はあったらしいが、能力者を貴方が怒りに任せて殺してしまったらしいのだ。
能力をかけた能力者が死んでも効力が続いているこの呪いは、もうどうしようもないらしい。
そこで、珍しく
「何か……何かできないのか‼」
琴葉さんが声を荒げていた。
「……そうだ、千尋‼ 千尋の能力でどうにかならないの!?」
ぽたり、ぽたりと音が響く。
それは琴葉さんの目から零れる涙の音だった。
どうして泣いているの?
私は絶対に助からないの?


それからは、毎日が、つまらなくなった
貴方は私に仕事を回してくれたけど、呪いの進行はあまりにも速かった
仕事の書類を片付けている最中、貴方が差し出してくれた茶色い飲みものの名前がわからなくなった
「あの、これ、って……?」
「………これは、珈琲だ」
ああそうだ、珈琲だ
私の大好きな飲みものを私は、忘れてしまった
それがあまりにもショックで、貴方が出て行った後、沢山泣いた
あの日からそんなに経っていないのに、なんで
なんで、忘れちゃうの?
なんで


次に私が忘れたのは、自分の仕事の事だった
自分が黒猫の「猫」に所属しているのはまだ覚えていて、そして貴方と共に、琴葉さんの頭領補佐なのも覚えている
でも、今日書類を渡しに来てくれた部下の名前がどうしても思い出せなかった
知らない人だと思ったから、名前を聞いたら部下は悲しそうに自分の名前と私の部下であることを教えてくれた
悲しい顔をする部下に、「ごめんね」しか言えなかった
それから、自組織のボスの名前も忘れていた
それは書類整理中に発覚した
ボスの名前を代筆する部分があったのに、どうしてもそれが書けなかった
貴方にそれを渡したら、優しく
「ボスの名前は……」
また一つ私は大切な事を忘れていた


今日が、何日かもわからなくなった
それから、自分の好物がわからなくなって
料理も、作れなくなって
パソコンも、使えなくなって
足の指の動かし方がわからなくなった
日に日に、忘れる個数が増していく私を、貴方はそれでも忘れた分だけ教えてくれた
嬉しいけど、でも
でも、それが……私には辛くて
貴方の補佐なのに…、わたしが、貴方に助けられて………
わたしは、貴方にとって本当に必要な存在なの……かな……?
また琴葉さんに聞いてみた。
不思議と琴葉さんの事は一つも忘れていないのだ。
そしたら、琴葉さんは
「宙ちゃんは涙にとっても、私にとっても、大切で、大切で、仕方ないんだ」
そう言ってくれた。
いつだって私は琴葉さんに頼ってばかりだった。


忘れていくのは、物事だけじゃなくなった
体の動かし方が、どんどんわからなくなっていく
始めは足の指から、そして今では足の動かし方がわからなくなってしまった
足は動くのに、自分の力で動かす事ができなくなってしまった
もう立ち上がれなくなってしまった私のために、貴方は色んなことを手伝ってくれた
ご飯も作ってくれたし、仕事もできる限りの事を回してくれた
せめて、仕事くらいはしたいと私が貴方にお願いしたら貴方は優しいからすぐにくれた
動かない足を見つめてもどうにもならないのに、足はあるのに悲しくて仕方がないんだ
また貴方と一緒に、沢山行きたかった場所に行きたかったな
ごめんなさい


今日、貴方との思い出を、失った
貴方と一緒に行った場所も、初めての夜も、私達がどうやって付き合ったのかも
それでもまだ、貴方が私の恋人だっていうことは覚えているんだよ
もう貴方に忘れた事を伝えるのは、やめにした
私が貴方に伝えれば伝える程、あの異能力者を殺した自分を恨み続けていたのは知ってた
私はそれに気づいていたのに、貴方にずっと、伝えてた
貴方に心配して欲しかったからなのかな、もうわからない
貴方との事を忘れたのはこれが初めてだったから
まだ、まだ死ぬのは早いのに


今日、かんじがかけなくなった
かんたんなものしか出てこなくなった
もうこんなんじゃ、仕事もできない
自分の名前も、かんじでかけない
あなたの名前も、かんじでかけない
かけないし、よめない
まだ、みずきるい、っておぼえてるよ
あなたの名前はかけなくても、しっかりおぼえてる
まだ、私のきおくの中にあなたはいるから
まだ、しなないよ
でも
だんだん、しに近づいてるのは自分でもきづいてた
たすけて、琴葉さん
まだあなたのことはひとつもわすれていないんだよ
わすれるまえに、たすけてください


今日、へやに入ってきたあなたの名前をいっしゅんだけわすれた
この日記を見ておもいだした
だいすきな、あなたの名前をわたしは、わすれていた
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい
わすれちゃいけない人なのに
わたしが一番だいすきな人なのに
あなたはまだ、私のきおくがここまで無くなっていることにきがついていない
私のきおくのそうしつが、かんじが書けなくなってからすすんでないとおもってる
あんしんして、そこでずっと笑っていてよ
あなたに、めいわくはかけたくない
わたしはしなないから


今日、あなたとのかんけいがわからなくなった
この日記を見て、おもいだした
へやに入ってきたあなたが、なまえはわかるのに
ただの、知り合いだとおもってしまった
だいすきな、ほんとうに大切な人なのに私はなんてことを
もうどうにもならないのに、悲しくて悲しくて、ずっと泣いていた
それどころか、なぜ、私はここにいるのかもわからなかった
私はここで、なにをしているんだろうと
でもね、まだこの日記があるから
この日記があるうちは、おもいだせるよ、あなたのことも
でも、もうあたまに入るきおくにげんかいがきてるのはわかってる
1回おもいだしても、またすぐわすれていくの
私の中から、あなたがだんだんきえていくの
それが、この世界で一人ぼっちみたいですごくさみしい


もうそろそろ、私は、いなくなるのかな
あなたのなまえ、水城涙っていう字がもうよめない
この日記のどこかにかいてあったはずなのに、どれがあなたのひらがなよみなのかもわからない
あなたが水城涙であることは、わかってるのに
あなたのなまえが、呼べないの
水城涙という字が、なんてよんだらいいかわからない
だから、ねえ、とかあのさ、とかでしかよべなくなってしまった
でも、私
まだ、まだあなたのことがだいすきなことだけはわすれてないから
まだ、わすれてないから
だからまだ私は、あなたのそばにいられるね


つかれた
もうそろそろ、うでのうごかし方もわすれてしまうのかな
うでがおもくて、じがちゃんとかけない
それから、きょうはなんだか、とてもねむいの
でも、もしかしたらあした、私はあなたがだいすきなことをわすれてしまうかもしれないから
ここに、あなたへのおもいをかいておく
あしたの私がこれを見て、おもいだせるように
私は、水城涙がだいすき
それをわすれたら、私は消えてしまう
だからぜったいわすれてはだめなのに、どんどんわすれてしまう
あしたは、このページをずっと見ていて
私は、水城涙のこいびとで
私は、水城涙のことがだいすきであいしてる
これは私の中からあなたがきえても、変わらない
ずっとだいすきなのも、あいしてるのも、かわらないから
きおくを失っていく私をかわらずあいしてくれてありがとう
うごけなくなった私をかわらずあいしてくれてありがとう
あなたは私が生きるもくひょうです
あなたが私のすべて
だから、あなただけは
私のこと、わすれないで
わすれたくないよ
まだあなたのことわすれたくない
しぬのはこわくないけど
それよりもあなたのことをわすれていくことがこわい
しにたくないです
しにたくないです
まだあなたといきていたい
わたしのさいごのわがままを、ここにのこしておこうとおもう
けんかしたあのとき、どならないでほしかった
こわかった
あなたにきらわれたとおもったから
それから
さいごまであなたみたいに、つよいひとでいたかった
ひとをまもれるようなひとでいたかった
いつかあなたをわすれてしまうひが、きっときてしまうから
こんなふうにわかれるなら、あなたとであえたことはよろこばしいことだったのかな
でも
たとえあなたがないても、あなたのきおくのなかのわたしはわらっているとおもうから
どんなにつらくても、さいごにめをとじるとき
"あなたにであえてよかった"っておもうんだろうな


きょうも、またおきられた
めがさめてあんしんするまいにち
ねていたへやにはだれもいない
わたしはなんで、ここにねてたの
わたしはどうして、おきられてあんしんしてるの
わたしはどうして
きのうまで、となりにいたあのひとが
へやに、だれかがはいってきた
みどりいろっぽいいろの、かみのひと
めからみずがこぼれてる
あなたは



宙が起きるいつもの時間に部屋に行けば、そこには必死にノートに字を書き連ねている宙の姿
今日だけは、いつもと違かった
まだ、まだ
まだ逝くな
俺をおいて逝かないでくれ
「宙‼‼」
宙の名を呼んでも、反応はない
自分の名前を、失ったのか
「…………だ…………れ?」
まだ、俺は琴葉に全てを伝えられてない
外套のポケットに入った小さな箱が揺れた
俺があの時、あの能力者さえ殺していなければこうはならなかった
怒りに任せて、殺すことが解決に繋がると思っていた幼い俺が
結局、一番大切な人を殺した
俺が宙を殺した
もう二度と、ずっと一緒だった頃には戻れない
「宙ちゃん‼」
急に扉が開き、琴葉が入ってくる。
「琴葉……さん?」
「そうだよ……そうだよ‼もうちょっと待っててね!?まだ逝かないで……‼」
宙の手を握り、叫ぶ琴葉
「事実改変……七星宙の記憶は消えない」
握った手の中に静かに宿る、青白い光。
琴葉の目から流れた涙が、ぽつりとその手に落ちる
「事実改変……七星宙に呪いは発動していない……!」
肩が震えている。
「事実改変……七星宙は死なない‼」
叫ぶ琴葉。
「事実改変、七星宙はこれからも生き続ける‼‼」
一つ一つの言葉が部屋に反響する。
「事実改変‼七星宙はずっと、ずっと……私達の事を忘れない‼‼」
悲痛な叫びが部屋を埋め尽くす。
「事実、かい……へん……お願い……お願いだから、七星宙を……殺さないで」
弱々しく萎んでいく声はやがて、やがて。
宙は最後まで俺を思い出さずに、消えた
俺に向けて、だれ、と
「なァ……起きろよ……」
それから全く動かなくなった
まだほのかに、宙の温もりと匂いが残っていた
「頼む………起きろ、……起きてくれよ……」
俺の事なんか、思い出さなくていい
全てを忘れても
また俺が全てを教えてやるから
だから宙はそこで寝ておけばいい
俺がどんだけ大切にしてきたと思っているんだ
ずっと、俺の隣で生きていて欲しかった
宙の記憶の中から俺が消えても、俺はこの先宙の事だけは忘れない
愛しい、俺の花嫁だから
「ぅう……ぅぁぁあああああああああ‼‼」
琴葉の叫び声が拠点内に響き渡る。
命が燃え尽きる直前まで、必死に何かを書いていたノートを初めて手に取る
そこには、今まで俺が知らなかった宙との思い出が沢山詰まっていて
宙が確かに生きていた証だった
本当は、言われなくたって気づいてたのに
もうすぐ、いなくなってしまうこともわかってた
なんで俺は、見て見ぬふりをしていた
なんで傍にいてやらなかった
こんなに宙は必死に生きようとしていたのに
そうして、宙がずっと書き続けていた日記の一番最後のページに











ありがとう
わたしはしあわせだった
(みず)()(るい)










いつだってそうだったね。
私の部下になったその日から、君は一生懸命だった。
今だって一生懸命生きようとしていた。
だけど、無くなっていく記憶は心も削っていく。
君を殺したのは私だ。
私がもう少し早くあの場所に行ければ、事実を変えることが出来たかもしれない。
だけど、良く考えれば、それは無理だったよね。
君は何時だって彼を大事にしていた。
あの七夕の日、君に書いてもらった短冊にも彼の事が書いてあったね。
よかったよ。君の願いが叶って。
「水城さんと共に居る」素敵な願いじゃあないか。
あの時の事はまだ覚えている。
星の綺麗な夜だったね。
ねぇ、今、君はどこにいるんだい?
私はここにいるよ。ずっとここにいる。
今日は月が綺麗だね。星も綺麗だ。
君はどの星だい?
嗚呼、今煌めいた星かい?
ふふ、こういう想像も楽しいものだ。
大切な彼にはもう会えたかい?
大切な弟にも。
悪かったね。二人を守ることが出来なくて。
こんなにも早く、二人をそっちに向かわせてしまって。
すまない。
嗚呼、私はその罪をどうやって償えば良い?
君と、彼と、弟を殺した罪を、どうやって償えば良い?
教えてくれ。
この罪を償える罰をくれ。
この際、何でもいい。
もう君も、彼も、君の弟も、可愛らしい双子の姉妹も、生意気な餓鬼も、気弱な新人も殺してしまった。
運命を共にした、獅子の頭領も、狼の頭領も、私達の首領も殺してしまった。
最後の家族である兄も、全て、全て、殺してしまった私はどうすればいい?
誰か、助けてくれないか?
誰か、救済の手を差し伸べてはくれないか?
………さて、今日はどうしようか。
また川にでも行って、入水でもしようか。
それとも、山に行って、山道に生える毒キノコでも食べてみようか。
嗚呼、いっその事両方してしまおう。
ふふ、また首領に怒られてしまいそうだね。
その時は一緒に首領の執務室に着いてきてくれるかい?
大切な私の部下、七星宙。
私は君の事を忘れない。最後まで君が私の事を忘れなかったように。
そして、私を助けてくれないかい?
この何もない夢から私を目覚めさせてくれないかい?

溶けた鉄がボコボコと音を立てて煮え滾っている。
私は迷わず歩を進め、そして―――
躰が宙に浮く。
熱風が下から押し寄せる。
が。
「……全く、毎回毎回助けるのも面倒なんですからね?」
何時もの通り、軍服を身に纏う少年が私の腕を掴み、通路に引き戻す。
「どうして君は私の自殺を毎回毎回邪魔するのかね?今日こそ死ねると思ったのに」
溜息を吐きながら、服に付いた埃を払う。
「当たり前じゃないですか。貴女は僕達の軍の長なんですから」

君がこの場所に居るなら、今の私を見て笑ってくれたかい?
君が死ぬまで愛し続けた彼と共に、笑ってくれるかい?
もう私は疲れた。
今日も自殺は失敗した。
この罪人に罰を与えるのは神か、それとも悪魔か?
どちらでもいい。君でもいい。
誰かが私を罰してくれれば、きっと私は自由になる。
罪の鳥籠から出ることが出来る。
今日で君の死から丁度十年だ。
何か、欲しいものはあるかい?
大切な私の部下、七星宙。

 
 

 
後書き
最後の方の文で泣きました。はい。
生前手記シリーズはまだまだ続きます(多分) 
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