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人徳?いいえモフ徳です。

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五匹め

「ありがとうございます。ルルさん」

黒髪黒目のメイドさんにお礼を言う。

「いえいえ。これがメイドの仕事ですから!」

あの後、ソファー周りをびちゃびちゃにしてしまった僕は雑巾を探していた。

その途中で王宮付きメイドのルルさんと会って、掃除を手伝って貰っていたのだ。

「ところでシラヌイ君。どうしてこんな事に?」

「えっと…」

辛うじて濡れなかった『猫でもわかる魔法基礎』を見せた。

「魔法を試したらこうなっちゃいました…」

するとルルさんがまぁ!と手を叩いた。

「シラヌイ君は魔法が使えるんですね!」

「ルルさんは?」

「私は使えないんですよねぇ…」

「魔法って誰でも使えるんじゃないんですか?」

「うーん…魔力はあるから魔力弾は打てるんだけど、どうも魔法の仕組みがねぇ…」

ふーん…

「シラヌイ君はその本の内容わかるの?」

「わかりますけど…この本所々まちがってるんです」

「ふーん…難しい事はわかんないや」

あ、そう…

「ねぇねぇシラヌイ君。ちょっとお庭に行ってみない?」

「庭?」

「お庭なら魔法の練習できるよ?」

「わかった!行く!」

side out












王宮内庭(修練場)

学校のグラウンドのような場所に、シラヌイとルルは来ていた。

「クリエイトウィンド!」

シラヌイの手のひらの上に小さな竜巻が生まれた。

それは無論シラヌイが竜巻をイメージしたからだ。

「エアブレイド!」

シラヌイは鎌鼬をイメージした。

すると風の刃が地面に傷を着けた。

「クリエイトファイア!」

シラヌイの手の上に焔の球が生まれ、それを投げると地面が僅かにこげた。

「わぁ!すごいですねシラヌイ君!」

「え?いやぁ…あはは…」

「他には何かできますか?」

「うーん…クリエイトアクア」

シラヌイの手の上に、水球ができる。

本来クリエイトアクアは水球を生む魔法だ。

しかし先ほどシラヌイは成功した驚きで制御を手放してしまったのだ。

「シェイプシフト」

水球がシラヌイのイメージ通りに形を変えた。

「鳩…ですか?」

「うん!鳩!」

水は鳩の形を取っていた。

「なかなか疲れるけど、面白いかも…」

「でもその鳩さんって水だから持てませんねぇ…」

「凍らせてみようかな…」

「えぇ!?氷結魔法は中級魔法ですよ!?」

氷結魔法が中級魔法である所以は、この世界では『凍る』事の理論がないからだ。

ただ漠然と『凍る』事をイメージするのでは、必要な魔力が大きくなってしまう。

だが、もし『凍る』事を理解していたら?

「フェイズトランストゥソリッド!」

ピキッ!と音をたて、水の鳩は氷の鳩と化した。

氷結とは即ち水の状態変化。

そして固体化するには、冷却すればよい。

冷却するには、分子運動を抑制すればよい。

シラヌイは、それを知っていた。

「すごいですよシラヌイ君!」

「あ…でもめちゃめちゃ冷たい…」

「あそこの木陰にでも置いておきましょうか」

「うん」

シラヌイは庭の木の根元に氷の鳩を置いた。

「すごいですねぇシラヌイ君はぁ~」

「あはは…」

そしてシラヌイとルルが木陰のベンチに腰をおろした。

「んー…土いけるかな…」

シラヌイは手の上に土を想像した。

「クリエイトソイル!」

が、何も起きなかった。

「うーん…やっぱり無理かぁ…」

「どうしたんですかシラヌイ君?」

「土は作れないみたいです」

「魔法を勉強し始めた初日で中級魔法を使えれば十分ですよ」

シラヌイが地面に手をぺたっと着けた。

「物質創造は無理……物質変換…いけるか…いや…危ないか…」

ぶつぶつと何かを呟くシラヌイをルルは不思議そうに見ていた。

「シラヌイ君?」

「いや…まずは…
クリエイトソイルキューブ」

土が盛り上がり、キューブが生まれた。

それを手に取ったシラヌイは満足げだった。

「クリエイトソイルスフィア」

土でできた真球。完全な真球をシラヌイは作って見せた。

シラヌイがイメージしたのは『真球の定義』である。

即ち、『三次元空間で原点から等しい軌跡の集合体』。

「なるほど…定義想像でここまで行けるか…」

シラヌイは四つん這いになって辺りからあるものを探し始めた。

「シラヌイ君?なにしてるんですかぁ?」

「石英をさがしてる」

「せきえー?」

「ちょっと待っててルルさん」

シラヌイは片手いっぱいの石英を探し出した。

再びルルの隣に座った。

「砂利…ですか?」

「うん。ちょっと試したいんですよ」

片手に砂利…石英を乗せたシラヌイは、呪文を口にした。

「リゾルブクォーツ!クリエイトクリスタル!」

シラヌイの手の中で石英が砕け、一瞬にして集束した。

そして、手の中には真球水晶が乗っていた。

「ぐっ…結構…持って…いかれた…」

シラヌイは何かがごっそり抜け落ちた事を感じ、それが魔力だと悟った。

「三…いや…四割くらいか…」

息が上がっているシラヌイに、ルルが心配そうに尋ねた。

「大丈夫ですかシラヌイ君?」

「大丈夫…なんとも…ないよ…」

そしてシラヌイは、真球水晶を掲げた。

「魔法ってすごいなぁ…」

「それ、もしかしてガラスですか?」

ルルが真球を指差して言った。

「ガラス?いいや、ガラスじゃないよ。
これは水晶。さっきの砂利からつくったんだ!」

シラヌイが褒めて褒めて!と水晶をルルに見せた。

「水晶…って宝石!?」

「そう!宝石!砂利から宝石が創れちゃうんだ!皆には内緒だよ!」

「はぁ~…キレイですねぇ…」

「よかったらルルさんにあげるよ!」

「へ?」

「掃除手伝って貰ったお礼だよ」

「も、貰えないよ!」

「いいよ。どうせタダだし」

ルルがシラヌイに水晶を返そうとすると、シラヌイがそれを止めた。

「いいって」

「でも…いくらタダでもシラヌイ君は疲れてますし…」

「だから掃除のお礼だよ。僕一人だったら、この水晶を創るより疲れてただろうからね」

「………なら…貰っておきます」

「うん!」

シラヌイのニコッとした笑みに、ルルは顔を赤く染めた。
 
 

 
後書き
休日登校なう。 
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