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ロボスの娘で行ってみよう!

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第60話 嵐の前の静けさ


若干短めです。

次回は帝国側の話を書く予定です。

1ディナール=100円で計算しています。
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第60話 嵐の前の静けさ

宇宙暦794年6月2日

■自由惑星同盟 首都星ハイネセン カーテローゼ・V・K・ロボス

お義父さんが大怪我したと聞いた時、私は又一人になってしまうかと思いました。お父さんが大怪我でお義母さんが忙しくなったら、又施設に戻されるのではないかと。けど、そんな不安を考えた私が馬鹿でした。お義母さんはその事を悟ったのか、私を抱きしめて、カリンは私達の大事な娘なのよと言ってくれました。私は嬉しさにお義母さんに抱きついてうれし泣きしました。

その後、お義父さんの入院した病院へ直行してお義父さんに面会しました。お義父さんは包帯グルグル巻きでまるでミイラみたいでしたが、意識は確りしていて、私が来た事を凄く喜んでくれました。私はお義父さんが怪我はしているけど、帰ってきてくれたので凄く嬉しくて泣いてしましました。

天国のお母さん、カリンはお義父さんとお義母さんとお義兄さんお義姉さんと幸せに暮らしています。何時までもこの幸せが続くように、見守ってくださいね。お義父さん、お義母さん大好きです。2人の子供になれて私は幸せです。今日もお義母さんと一緒にお義父さんのお見舞いにいきます。



宇宙暦794年6月5日

■自由惑星同盟 テルヌーゼン市 同盟軍軍大学宿舎

フレデリカ・グリーンヒルは父ドワイト・グリーンヒル大将の負傷に対する見舞いは月一回だけであるが、同じ市内にある軍大学へ入学中のヤン・ウェンリー准将の宿舎へは毎週土日に、必ず通っているのである。フレデリカらしいのは、訪問の理由を卒業後の進路になどについて相談が有ると言っているが、ヤンに会いたいという事が丸わかりであった。

「ヤン准将、卒業後の進路なんですけど、何処かに副官の仕事ってないでしょうか?」
「グリーンヒル候補生なら、誰の副官でも無難にこなせるよ」
「はぁ」

「ヤン准将は卒業後は何処に配属でしょうね?」
「さあ、シトレ元帥は人使いが荒いからね。今度は何をさせられるやら」

ヤンの副官になりたいというオーラが出て居るが、ニブチンのヤンは見当違いの答えを言ってフレデリカをヤキモキさせるのである。



宇宙暦794年6月30日

■自由惑星同盟 首都星ハイネセン ローゼンリッター庁舎

ジューンブライド最終日、ローゼンリッター庁舎では旅団長ヘルマン・フォン・リューネブルグ少将とイブリン・ドールトン中佐の結婚式が執り行われていた。ローゼンリッターらしくホテルなど使わずに庁舎の屋内訓練場でのパーテーである。

「リューネブルグ旅団長イブリンさん、御結婚おめでとうございます」
「旅団長、人生の墓場にようこそ」
「イブリン綺麗よー」

皆が皆、リューネブルグとイブリンの結婚を祝っている。
お調子者のブルームハルトが司会を行いケーキ入刀を説明する。
「さて皆さん、新郎と新婦の初の共同作業です」

其処でチャチャを入れるのはシェーンコップである。
「既に共同作業をやってるがね」
そんなチャチャを気にせず、炭素クリスタル製軍用ナイフでケーキに入刀する辺りがローゼンリッターらしいと言えばらしい。

ケーキに入刀と共に参列者から拍手と口笛が飛びまくる。
「さてさて、更におめでたい事がありましてドールトン嬢は何と妊娠4ヶ月でございます」
更にヒートアップする、おめでとうの声。

結婚式の喧噪の中、リーファとシェーンコップの話が進んでいる。
「ヴァンフリートでは、凄まじい事をしましたな」
「シェーンコップ大佐には、余り気分が良くないやり方だったかも知れないけど」

リーファの言葉にシェーンコップは考えながら話しかける。
「そうとも言いませんよ、トールハンマーのような物なら虐殺ですがね、知恵を尽くした結果なら卑下する事では無いですな」

「まあ、罠を張りまっくったのですけどね」
「それに気がつかない連中の方が仕方ないですな」
「そう言って貰えてホッとしますよ」

「准将は少々考えすぎの気がありますからな。少しは肩の力を抜いた方がいいですぞ」
「そうですね、半年はゆっくり出来るから、肩の力を抜きますよ」
「それが良いですな」

会場ではリンツがお得意の歌で場を盛り上げている。
シェーンコップと分かれて、ふらついているとイブリンが笑顔で話しかけてきた。
「先輩、今日はありがとうございました」

「イブリンおめでとう。先越されたよ」
「先輩も、出来ますよ」
「そうかな。しかし、妊娠しながら装甲服着たとは、旦那の為だね」

その言葉に照れるイブリン。
「えへへ、あの時は無我夢中でしたから」
「無事で良かったね」

「はい」
「家も旦那と頑張るかな」
「頑張りですね」

結婚式に参加していたスールズカリッター少佐がリーファを見つけて質問をしてきた。
「准将、質問ですが、ヴァンフリートで使った、バサード・ラム・ジェット・エンジンを装備した氷塊ですが、亜光速にすれば相対性理論に基づいて大重量なるはずですが、イゼルローン要塞攻略に使えませんか?」

「スーン、アレは戦場を選ぶんだよね。ヴァンフリートや、ティアマトとかなら材料がごまんと有るけど、イゼルローン要塞のあるアルテナ星系は材料が全く無いんだよね。つまりは何処からか調達してこないと駄目と言う訳だ。其処で何処から持って来たらいい?」

そう振られたスールズカリッターは考え込んだ。
「やはりティアマトからですかね」
「そうなんだけど、無理なんだ」

「何故でしょうか?」
「ティアマトからイゼルローン要塞まで8光年弱だよね、それで居て10億トンの氷塊は亜光速でしか進めない、すると8年後に要塞へ突入と言う事なる。8年間もあの回廊を氷塊を守って戦える?」

そう言われたスールズカリッターは、ハッという顔をした。
「そうですか。確かに無理ですね」
「そう言う事、10億トンの氷塊を運べる輸送船でも造らない限りは無理だね」

結婚式で、作戦談義までしてしまうリーファは職業病であろうか?

こうして結婚式の夜は更けていく。



宇宙暦794年7月1日 午前7時

■自由惑星同盟 

この日の朝、自由惑星同盟全域に流れたニュースは全国民に驚きを持って受け取られた。

数々の傑作を世に送り出した謎のE・W女史。最近では著書がドラマ化や映画化や芝居化され全国で大ヒットを続けていて、その印税や営業権での純利益は実に300億ディナールに達してた。

しかし、E・W女史は世間に一切姿を現さずに、その巨大な利益は出版社が預かった状態で有った。E・W女史の正体を暴こうとする、マスコミは元より、同盟軍情報部、帝国軍情報部、フェザーンなどもその資金の流れで正体を暴こうと考えていたのであるが、この日の声明でそれすら不可能になったのである。

この日、コンピューターグラフィックと機械音声《ルカネエ》で作られたE・W女史の黒塗り映像が流された。
『皆さん、私の著書を読んで頂きありがとうございます。E・Wと申します。この度、私は300億ディナールで育英基金を立ち上げる事に致しました。この育英基金に私の全ての権利を付与しその運営資金とする事を宣言致します。誠に勝手ながら、育英基金の理事として三名の方を指名したいと思います。

此は私がこの方々の清廉潔白さを知ったためです。お会いした事は有りませんが、お引き受け頂ければ幸いです。御一人目はハイネセン首都政庁のビジアス・アドーラ参事官、御二人目は最高評議会書記局のグレアム・エバード・ノエルベーカー二等書記官、御三人目は財政委員会事務局のクロード・モンテイユ国庫課長、この方々に是非理事として基金の運営をお願い致します。

自由惑星同盟に救われた、私が出来る精一杯の事をしたいのです。自由惑星同盟の方々の親切を私は忘れません。皆さんありがとうございます」

この放送が流れると、多くの国民が、E・W女史の行動を褒め称えた。そして名前の挙がった3人にして是非理事になるべきだとの電話やメールが多数届いたのである。

全く事前に知らされていなかった3人にしてみれば、青天の霹靂と言え慌てるばかりであった。軍情報部が直ぐさま動き、3人に対してE・W女史との接点を追及したが、全く覚えのない状態で有るから、調べても何も出ない状態で有った。

後に帝国情報部、フェザーンも彼等の身辺を調べたが、結局何も出ず、返って情報員を失う結果になったのである。

ビジアス・アドーラ参事官、グレアム・エバード・ノエルベーカー二等書記官、クロード・モンテイユ国庫課長達は、戸惑いを隠せなかったが、世論の盛り上がりの結果、断る訳にいかなくなり、退職し基金の理事を引き受ける事になった。

300億ディナールと全ての権利を引き継いで、E・W女史の名前を取って【E・W育英基金】と称される組織が794年10月1日を持って結成されたのである。
その後も、E・W女史の新作はコンスタントに作成され、その度に基金の原資は増えていったのである。それにより、多くの子供達がトラバース法と言う悪法の軛から逃れられたのも事実である。

E・W女史の声明には、【子供達に笑顔を】と有り、此が育英基金のスローガンと成ったのである。

 
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