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没ストーリー倉庫

作者:海戦型
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=体育祭編= コンビセレクト

 
前書き
さて、体育祭編を期待していた人がいたら申し訳ないのですが、体育祭編は原作のクオリティが高く下手に手を加えるとつまんなくなるので結構駆け足で行きます。 

 
 
 諸君、私は雄英体育祭に参加したくない。
 何故かって?どう戦っても優勝できないからに決まってんだろ!

 VS轟……広範囲攻撃K.O.
 VS爆豪……広範囲攻撃K.O.
 VS上鳴……広範囲攻撃K.O.
 VS切島or鉄哲……防御突破できないので詰み。
 VS常闇……手数の差で純粋に詰み。
 VS塩埼……茨を突破できないので詰み。

 見ろ、この絶望的な相性を!俺の個性は純戦闘向き連中と違って状況への対応の速さや回避能力にあるのであって、蹴って殴ってが効かないか届かないな相手には、道具抜きじゃあ詰んでんだよ!あと砥爪も多分無理!というかあいつ加減考えなければ優勝候補じゃねーの?とりあえずぶっぱしときゃええねん勢だし、轟の氷とか後出しで吹っ飛ばせそう。

 という訳で、俺は初回科目の障害物競争で42位以内に入る策は用意したが、それ以降についてはほぼノープランでいく。原作だとここで結果出せないと追放あるって話だったけど、これで落とされるの究極的にやる気ない奴だけだろ。

 という訳で……。

「発目っち、合わせろ!」
「合点承知っ!」

 障害物競争開始と同時に、俺はサポート科の隠れ巨乳こと発目の背中に設置された「要救助者固定シート」とドッキングした。ふはは、機械いじりがそこまで好きじゃない俺が口だけ出まかせ重ねて発目がモノにしたこのシートは最小限のサイズで十二分な強度と安全性を確保している。更に俺の体重を支えたうえでの移動にも問題がないように簡易パワーアシストスーツまで搭載されているのだ。俺が注文しまくったからね!発目ちゃんはやれば出来る子!

「ローラーダッシュ、オーン!!」
「わぁい移動速度はえーーーッ!!」
「うわぁ、サポート科の頭おかしい奴がヒーロー科の頭おかしい奴抱えて高速移動してる!頭おかしい!」
「というかヒーロー科ゴルァ!!自分の個性使わず他人頼みってどういう了見だコラァ!!」
「フハハハハハハハハハハ!!移動が得意な奴に移動を任せて何が悪い!!……発目っち、右に20度!減速3秒……体を左斜めに倒しながら加速開始!!」
「アイサー!!」

 曲がった瞬間目の前にロボットが突っ込んで来て回避し、上から巨大ロボの叩き降ろしが落ちてきたのが減速のおかげで余裕回避。その装甲の隙間を縫って最初の難関ロボ・インフェルノを難なく突破だ。

「あいつら協力し合ってやがる………!科の枠を超えて!!」
「私は二人乗りでドッ可愛いベイビーの有用性を証明できる!」
「俺は発目にアドバイスを送ることで攻撃回避もラックラクぅ!これぞ協力プレイだぜ!!」

 ちなみにこのせこさ、峰田や心操なんかも似たような手を使ってるので別に奇策ではないと思う。一つだけアレなのは、相手の同意なしに実行してる二人と違って俺らは体育祭始まる前から後ろ暗い盟約を結んでいたことである。

『開始前から既に結託とはセケェェェーーーッ!!っていうかアリかあれ、ヒーローとして!?』
「別に他の科と結託しちゃいけないなんてルールはねぇですし、こっちも情報提供してますし、得意分野の人に得意分野で頑張ってもらうのってそんなに変ですかねぇぇーーーッ!!」
『道理だな。反則はしてねぇし、本人たちが考えたうえでの癒着なら最終的に勝って結果出せば問題ねぇだろ』

 案の定プレゼントマイクにツッコまれたが、相澤先生がいいと言ったのでいいのだ。

「より完成度の高まった私のベイビーをご覧あれ!!」
「時に発目っち。一応開発について色々アイデアを出したし、俺も開発スタッフに含まれてよくない?」
「…………」

 数秒の沈黙。

「………改めて!私たちのドッ可愛いベイ――」
「ごめんタンマやっぱりさっきのナシで!貴方様の単独開発でいいです!!」
「いえ、そうはいきません!確かに水落石さんのより実戦的発想に基づいた改良案によってかなり機能は高まってますからね!私たちのドッ可愛いベイビーはっ!」
「やめてっ!公衆の面前でその台詞はやめてっ!お婿さんに行けなくなっちゃうから!」

 なにやってんだ俺らは。と、それはさておき状況は――ッ!?

『勝つ、勝つ勝つ勝つ勝つ勝つッ!!!』
「クソッ、なんだコイツ……普段と全然ちげぇじゃねえか!!」
「付母神……ッ!お前にも、負けられねぇ理由があるってのか……!」

 一瞬見間違いかと思った。

 ――付母神ちゃんが、トップチームの轟と爆豪に喰らいついている。

 あのUSJ編では怖がるばかりでこの上なく優しい付母神ちゃんが、焦燥に駆られるような表情で空を飛びながら、二人に喰らいついている。轟が妨害の氷を放てば手からビームを発射して迎撃し、爆豪が牽制の爆発を放っても両手をクロスさせてノンストップで突っ込んで怯みもしない。3人でスリートップだ。

「凄まじい気迫ですね。私としては彼女のメカニックに興味津々なのですが?」
「………戦いは躊躇う方だと思ってたから、あの気迫は予想外だな」

 何かあったのだろうか。あとで聞いてみよう。何か抱えすぎてるとかなら、放っておくのも怖いし。優しさというのは反転すると何に変じるか分からない所がある。俺は彼女の事を良く知らないのだし、これを機に少し知れるといいな。

 ちなみにトップスリーチームを追ってるメンバーには見覚えのある奴もいる訳で。

「ぬおおおおおおおおおお!!これほど一直線に進んでいるのにトップとの差が縮まらない!!これすなわち、この場で俺がプルスウルトラしろと言う事かぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!フオオオオオオオオオオ燃えてきたぞぉおおおおおおおおおおおおッ!!!」
「熱っ苦しいなッ……このぉッ!!くそっ、爆豪の野郎に比べてまだコントロールが荒いかッ!!」

 俺と葉隠を入試で殺しかけたサイ野郎の頼野猛角が全部の妨害を真正面から突破し、ほぼ同率で砥爪が衝撃波を爆豪式推進法で移動している。あの衝撃波、本人の意志に関わらず後方に連続で叩きこまれているので後半チームと前半チームの差が開きまくっている。うわぁ、どこまで意識してんのか知らんがえげつないぞ。

 ちなみに俺と発目は轟たちを追いかける第二陣の斜め後ろ辺りに当たる第三陣。ぶっちゃけかなりいい方である。そして戦いは最終関門、怒りのアフガンに移り――奴がやった。緑色の流れ星となって華麗にトップスリーをゴボウ抜きした彼の名は。

『緑谷出久、第一位で障害物競争突破だぁぁぁぁーーーーーーッ!!!』
「ミドリヤイズク。水落石さんの言ってた人ですねー」
「そう、奴は俺が目をつけたファンタジスタだからな。っとと、ほいさっ!」

 足元の地雷を上手い具合に蹴り上げて横の競争相手をさりげなく吹っ飛ばす。後ろにいた瀬呂が「えげつねー」と呟いていたが聞こえない聞こえない。
 最後のアフガンは流石に背中からの指示では突破できなそうだったので、俺は現在発目を抱えてアフガンを最短ルートで突破中だ。装備が重いがドッ可愛いベイビーを育児放棄するわけにもいかんしね。

 こうして大体そんな感じで第一関門を突破し、俺と発目は20位代というまぁまぁの好タイムで突破した。

 あと、先に言っておく。騎馬戦はこれといって見どころもないからカットだ。青山の代わりに心操に自分を売り込んで乗り切った。ちなみに頼野は滅茶苦茶暴れまわったが、心操の個性にハマって一発で負けた。あいつ、普通にB組トップクラスのパワーだな。拳藤よりパワフルかも。
 細かい話すれば、尾白は別チームで代わりに付母神ちゃんが心操の支配下に入ってた。青山も別チーム。デクくんチームと轟チームは構成そのまんまだったが、爆豪チームは芦戸が削岩に変わってたな。

 研爪は……なんか、騎馬戦終了直後に急用で体育祭そのものから途中退場となっていた。
 あと、発目は俺が色々と開発に口を出したことで時間を使わせたか用意した装備を使いきったらしく、B組の二連撃と一緒に棄権した。これで最後のガチンコバトルは俺が青山と、芦戸が削岩と、そして尾白が付母神ちゃんと入れ替わった以外は原作通りな面子になった。




 ――さて、ここで一つポイントがある。

 砥爪は途中退場となっていた。
 「どうなるのかなと思っていたら、途中退場扱いになっていた」。
 つまるところ、俺は棄権に至るまでの経緯の一部分を見ている。

 これは、許可のあるまで周囲には決して口外することの出来ない情報である。



 第一試合と続く怒涛の第二試合(砥爪と頼野が追加されて轟一強も揺らぐ程の大激戦だった)が終了して少しの休憩時間の間、俺は休憩室で仮眠を取っていた。一、二回戦ではそこまでフルに個性を使わなかったので温存は出来たものの、なるだけ寝貯めしたかったからだ。
 俺の個性は使えば使う程、後で睡魔の反動がドカンと出る。カフェインカプセルとかで一時的に誤魔化す事は出来るが、その分だけ後の睡眠欲もドドンとレイズだ。

 という訳で確か5分程度の仮眠を取った頃だった。
 前にも話したかもしれないが、俺の個性は自主的発動ではなく自動発動が基本で、自主発動は訓練で出来るようになった奴だ。なので、特に意識していなかったり眠りが浅いと、個性が自動発動して未来が見えちゃう事がある。

 見たのだ。かなり混乱する瞬間だったし、目覚めた後も暫く茫然としてしまったが、その光景の内容は衝撃的だった。

 『砥爪がもう一人の砥爪の手で腹を貫かれる』。そんな、瞬間だ。

「――は、ぁ?」

 体操服を着ててさっきの乱戦で出来た擦り傷もある砥爪を、なにか違和感のある無傷の体操服砥爪が貫いていた。それを理解した瞬間、俺は休憩室を飛び出して砥爪のいそうな場所を虱潰しにダッシュした。何が何だか分からなかったが、このままにできないと思った時にはもう走っていた。

「どこだ!どこだ!ええと、外の光は殆ど入ってなくて、人の通りは多分少なくて、剥き出しのパイプが壁に三本くらいあって、ええと、くそっ……!何でこんな時にこんなッ!」

 砥爪来人という男の事を、俺はよく知らない。
 知っているのはデクくんと同じ学校の出身で、過去に何やら軽々しく言えない何かが起きた、強力な個性を有するヒーロー候補だ。人格的には最低限の優しさはあるが、基本的には冷めているというか、自分の事で精一杯。しょっちゅう授業とは関係ないところで怪我してて――ふざけんなよ、こんなにあっさり死ぬような因果抱えた奴だったなんて知ってたら、もっと――いいや、それは言い訳だ。

 焦るな、思考を巡らせろ。砥爪が二人いるなんて聞いたことがない以上、もう一人は後から入ってきたんだ。控え室とかは身内ならば入る事も許されてたっぽいから、部外者が入ってくる方向。そして砥爪の休憩室の近くと仮定して――非常階段近くの道端か!
 俺の予想は、的中した。そこにはまだ争う空気ではない『二人の砥爪』がいた。
 砥爪――体育祭に出ていたのが真砥爪なのか、入れ替わっているのかすら俺には判別できない。ただ、刺すにしろ刺されるにしろ、この雄英の内部でそういった事が発生するのはまずい。なら、どうする。未来は俺が何もしなければ確定する以上、ここで必要なのは――!!

「砥爪、そいつは敵だッ!!」
「「ッ!?」」

 その声を聴いた瞬間、1人はハッとした顔で、もう一人は驚愕の表情を浮かべながら互いに距離を取った。こうすれば、どっちが本物だろうと事態が硬直するだろう。

「………水落石。お前、何を知ってるんだ?」
「俺の事はいい。敵から目を離すな」
「邪魔者が二人とは、予想外だな」

 俺に話しかけてきた砥爪を見て、俺はやっとどちらが本物か理解した。かすり傷のある方、つまり最初から大会に参加していた方が砥爪で間違いない。何故なら、偽物には「獣耳と尻尾がない」からだ。隠しているならまだ分からないが、偽物と仮定する相手には人間の耳と同じ物がついている。顔も体格も身長も声も瓜二つな二人なので予知の瞬間は見分けがつけられなかったが、そこが決定的に違っていた。

「俺の勘が告げてるぜ。お前、砥爪を殺す気だろ。ここまで入ってきた方法は敢えて聞かねぇが、天下の雄英の御膝元で犯罪しようとは『敵連合』の回し者かと疑いたくなるな」
「あんな『新人(ルーキー)』共と一緒くたにされるのは心外だ――なっ!!」

 瞬間、二人目の砥爪が恐るべき速度で俺の背後へ回り込み――何かする前に未来を察知した俺の後ろ回し蹴りで反対方向に吹き飛ばした。

「ガハッ!?ぐっ、素人学生如きが反応しただと……ッ!?」
「そういうの、俺反応しちゃうんだよねー………つっても、どうやら敵連合を新人呼ばわりするだけはありそうだけどさ……テメェ、砥爪と同じ個性を手の表面に纏わせてんな。確かにそれなら威力は人を殺すには十分だ」
「それだけじゃない。さっきの高速移動も爪先に最低限の衝撃波を纏わせて自分の体を飛ばしやがった」

 砥爪が冷や汗を垂れ流しながらそう付け加えた。全く同じ顔、全く同じ個性、若干違う外見――敵連合のトゥワイスのような複製と似ているが、蹴っても形状が崩れないことや物言いと技量が違うことから、そっくりな別人と考えるべきだろう。
 何とか砥爪殺害は防いだが、全く状況が掴めない。さりげなく砥爪に近づき、小声で話しかける。

「随分デンジャーな兄弟だな」
「馬鹿言え、由緒正しき一人っ子だ。さっきは忠告ありがとな」
「いーんだよ生きてんなら。それよりも――おい、偽砥爪!お前はここに何しに来た!プロヒーローそろい踏みのこの会場、騒ぎを起こせば無事には逃げ帰れんぞ!!」
「自分が殺される心配でもしてろ。それより――貴様、砥爪などと『見え透いた偽名』を使って『表舞台に立つ』など、何を考えている?未来などない事を知りながら、イカれているのか?」
「………イカれてんのはお前だろ。意味の分からん事ばかり言いやがって。表も裏も偽名も何も、俺は自分の身分を偽ったことなんてない。親に名前貰った赤ん坊の頃から俺は砥爪来人だ」
「何を馬鹿な――いや、しかし。まさか――?」

 どうも話が噛み合っていない砥爪と偽砥爪。
 だが、一人でに何かの発想に思い至ったのか、偽砥爪は目を見開いて砥爪を見た。

「貴様、まさか『天然品』なのか?………く、ふふ。ふふははははは………傑作だ。傑作だ傑作だ傑作だ!!まさかあの道化の愚物が!!我らを産みながら滅ぼす偽善の愚者が、『俺たちを否定しながら兄弟を作るとは』ッ!!ああ、腹がよじれそうだ。腹筋がはちきれそうだ!道理で何も知らぬ顔をしていると――思ったよぉッ!!」

 また、一人勝手に盛り上がった偽砥爪は突然動きを止め、俺の目に未来が映る。

「打ってくる!迎撃しろ!!」
「……ッ!?あ、ああッ!!」

 瞬間、偽砥爪の両手から二つの衝撃波が、砥爪の片手から暴風のような衝撃波が放たれた。音速に近しい速度同士で衝突した衝撃波は――偽砥爪の衝撃波を散らせた砥爪の衝撃波が偽者を吹き飛ばす事であっけなく決着がつく。
 偽物はもんどりうって廊下の端に衝突し、壁がひび割れる。咄嗟の放出だったためか、死ぬほどではなくとも相当な威力の衝撃波を放っていたらしい。

「この、出力………やはり、天然――」

 けはっ、と息を吐きだした偽物は、何がおかしいのか嗤いながら――がりっ、と何かを噛み、床に倒れた。そして、そのまま立ち上がる様子を見せることはなかった。

「……なん、だったんだコイツ」
「……俺だって知りたい。何で、俺の顔が何人も……」

 この訳の分からない事態は、数秒後に音を聞きつけた雄英教師のハウンドドッグが鼻息荒く駆け付けたことで一端の終息を見た。俺と砥爪はとりあえず簡単に状況を説明し、決勝トーナメントに勝ち進んでいた俺は先に会場に行くということで話が決まった。当然、今回起きた事は競技終了後に事情聴取するから周囲に言いふらさないように、という条件付きで。

 この不可思議な襲撃事件が、後に俺と砥爪の運命を驚くほど強固に結びつけることになる事を――この時の呑気な俺は、まだ知る由もなかった。
 
 

 
後書き
The・どうでもいい話
砥爪くんはヒロアカ二次初期案の主人公だったのですが、当時の設定だと強すぎたのとバックストーリーが主人公向きじゃなくて主役を退いたという過去があったりします。ちなみに初期案の時点で頼野は既にいた他、数名別のキャラも考えてました。もしかしたらどっかで出すかも。 
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