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131部分:第十話 夏に入ってその十三


第十話 夏に入ってその十三

「芥川は」
「そうだよな。じゃああれかな」
「あれ?」
「そういう文章を読めるようになるのも読者の質かな」
 こう言うのだった。
「実際な」
「そうですね。言われてみたら」
「読みやすい本を読むのもいいけれどさ」  
 純文学を読む視点での言葉になっていた。
「そうした難しい本を読めるようになるのもさ」
「大事ですよね」
「そうだよな」
 また言う陽太郎だった。
「まあ普段はいいけれど」
「文章は難しくても言っていることが何が何かわからない本もありますよね」
 月美の言葉がここで変わってきた。
「芥川はあえて文章を変えてその時代の雰囲気を再現させようとしていますけれど」
「ああ」
「言っていることがわからない本もありますよね」
「あるね、それ」
 陽太郎もそれに頷く。
「大江健三郎とか吉本隆明とか」
「そういう本は読まなくていいって言われました」
 そういう本はだというのだ。
「愛ちゃんにもお父さんにもです」
「親父さんにもなんだ」
「はい、お父さんも言っていました」
 またそうだというのだった。
「そうした本はまやかしだからって」
「まやかしねえ」
「吉本隆明が特にそうだって言ってました」
「吉本隆明?」
 これは陽太郎の知らない名前だった。月美からそれを聞いてもであった。首を傾げさせるばかりだった。思い出そうにも聞いたことがなかった。
「誰、それ」
「思想家なんですけれど」
「思想家ねえ」
「戦後最大の思想家って言われています」
 それだけを聞くとかなりのものである。
「ですけれどオウムを賞賛していたりしていまして」
「ああ、オウム真理教だよな」
 陽太郎もそれでわかった。オウムでだ。
「あのカルト教団だよな。俺達が生まれた頃か生まれる前にテロ起こした」
「はい、そのオウムです」
「あんな連中を賞賛していたのか」
「最も浄土に近い人とか言ってました」
「それは絶対に違うよ」
 陽太郎は顔を曇らせて述べた。
「あんな奴が何でなんだよ」
「麻原ですよね」
「ああ、あんな奴ただの犯罪者じゃないか」
「やっぱりそう思います?」
「何でそんな奴が浄土に近いんだよ」
「そういう人間の本ですか読まなくていいと思います」
「けれど西堀は読んだんだよな」
 それは月美の言葉からそれを読み取った。話を聞いてそれを察したのである。
「吉本隆明の本」
「オウムへの発言や最初の頃の本を読みました」
「それで駄目だったんだ」
「好きになれません」
 彼女にしては珍しくはっきりした言葉だった。
「絶対に」
「そうなんだ」
「はい、そうです」
 また言う彼女だった。
「私にはです」
「そうなんだ」
「それで愛ちゃんも言ってましたし」
「成程ね」
「専門知識が必要な本や芥川みたいにあえて文章を変えてもいない作品じゃなくてそうした何を言っているのかわからない作品は読まなくていい」
 月美の言葉は続く。
 
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