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FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~

作者:山神
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厄災の月

 
前書き
先週は暑かったのに今週は気温低くて体調崩れそう・・・ 

 
8月・・・その月は西の大陸(アラキタシア)では多くの厄災が降り注ぐと言われていた。

「大変だ!!隣の奥さんが倒れたぞ!!」
「何!?」

忙しなく降り注ぐ厄災・・・その大きな理由は誰の目から見ても明らかなものだった。

「オーガスト様。城下ではまた多くの人が倒れているそうです」
「そうか・・・」

西の大陸(アラキタシア)では8月はもっとも気温が高くなるとされている。その結果起こりうるのが、日射病、食中毒、栄養失調・・・まだ国を建国したばかりの頃は、皇帝であるスプリガンも国にいないことが多くあり、知識も乏しく小さな国であったアルバレス帝国はそれを防ぐ術を持ち合わせていなかった。

「なんでこんな目に合わなければいけないんだ・・・」
「一体どうすれば・・・」

大人も子供も、男女問わず苦しい姿を目にしない日がない月・・・それは民の不満に繋がってしまっていた。

「こんな時に陛下はどこにいっておられるのだ」
「私たちが苦しんでいるのに手を差し伸べてくれないなんて・・・」

不平不満が日々募っていく。それが爆発するのがいつになるのかはわからない。しかし、まだ始まったばかりの国で暴動が起きれば、瞬く間に他国に知れ渡り、多くの民が犠牲になることは間違いない。

「陛下を呼び戻しましょう!!」
「どこにいるのかわからないのにか!?」

皇帝を呼び戻そうにも彼がどこにいるのかわからない当時のアルバレスの兵隊たちもギクシャクしていた。このままではさらなる混乱に陥るまでに時間はかからない。

「皆のもの、狼狽えるな」

その様子を最前列で見ていたオーガストは口を開いた。ようやく大人に近づいてきた頃の彼は一度口を開けば周りが萎縮し、静まり返るほどの魔力を持っていた。

「この騒ぎを静めるのは容易いことだ」
「「「「「え!?」」」」」

その言葉にアルバレス軍も、当時仲間になったばかりのアイリーンも驚きの視線を彼へと向けていた。

「オーガスト様!!それは本当ですか!?」
「でしたらすぐにでも・・・」

民を救ってほしいと懇願する兵隊たち。だが、彼は首を縦に振らなかった。

「民の不満を抑えるのは簡単だ。だが、それではこの国は栄えない。さらなる繁栄のためには必要なんだ。絶対的な悪が」
「絶対的な悪・・・ですか?」

静かにうなずくオーガスト。彼は苦しむ民に背を向けると、彼らに言い放った。

「その絶対悪に、私がなろう」



















ティオスたちの戦闘地域から大きく離れたその場所では、傷だらけの魔女たちが崩れ落ちていた。
その前に立ちはだかるのは、全身の肌が真っ赤に変化したオーガスト。

(まるで・・・話にならない・・・なんだ・・・このデタラメな強さは・・・)

ジェラールは地面に手を付きながら男を見上げる。ハルジオンで戦った天海・・・彼とは異なり魔法を駆使して戦ってくるオーガストに傷ひとつ付けることができずに苦悶の表情を浮かべていた。

(だが聴こえるぜ、お前の動き)

まだ完全に勝機が消え失せた訳ではない。エリックは立ち上がると自らに聴こえる彼の音を頼りに突進を試みる。

(私にも聴こえておるよ、君の動き)
「!!」

目の前まで迫って来ていた。だが、それにいち早く反応したオーガストは杖から魔力を放出しエリックを弾き飛ばす。

「ならばスピードで!!」

次は自分がとソーヤが自慢のスピードでオーガストへと接近する。しかし、先に間合いを詰めたのはソーヤではなかった。

「遅い」
「がはっ!!」

ソーヤのスピードを上回るオーガストのスピード。だが、彼に意識が完全に向いていたことで男は隙だらけだった。

「スパイラルペイン!!」

渦を巻くように魔力を放出させオーガストを捉えるマクベス。

「面白い魔法だ。だが私も心得ている」

不意をついたにも関わらずそれをあっさりと打ち消すと、オーガストは何倍もの大きさのスパイラルペインを打ち出し彼らを蹴散らした。

(どうする・・・!!)

なす統べなくやられることしかできない魔女の罪(クリムソルシエール)。けた外れのオーガストの力を前に、活路を見出だすことはできなかった。


















今から100年ほど昔、まだ建国されたばかりのアルバレス帝国ではある噂が流れ始めていた。

「なぁ、知ってるか?」
「何を?」
「俺たちを苦しめているのは、オーガストって魔導士らしいぜ?」

アルバレス帝国はこの時、スプリガンを取り巻く魔導士たちのことを詳しく知らなかった。そのため、彼と共にこの国を造り上げた第一人者であるオーガストの名前など、多くの者が聞いたことがなかった。それだけ彼はスプリガンを立て、自らは黒子に徹していたということ。

「なんでもそいつは8月になるととてつもない魔力を手に入れることができるらしい。それを利用してこの一ヶ月間、俺たちを苦しませているらしいんだ」
「ひでぇな、そりゃあ」

噂は瞬く間に広がった。この8月になった途端に起こる厄災は全てが彼が原因。それを聞いた人々は恐怖を抱かざるを得なかった。

「まさしく厄災の魔導士ってわけか」
「あぁ。ひどいもんだぜ」

緋色の絶望を言われたアイリーン。彼女の高い魔力と実力から、他国から攻めてきた者たちが「出会ってしまえば勝ち目などない絶望感を与える存在」と比喩したことから名付けられた。
それに対しオーガストは、自らが悪になることで民の心を一つにし、陛下への忠誠心を高めさせ、国を繁栄させるために作り出したウソ・・・そこから人々に「厄災の魔導士」と恐れられたことから、そのままの二つ名が定着してしまったのだ。



















「何とも悲しきことだ。国を栄えさせるために自らが悪になり、その悪い噂は一生消えることもなく生き続けてしまっている。あいつがどれだけ苦しい状況にいるか、考えただけで涙が出てくるぜ」

ラクサス、一夜、スティング、ローグと四人を一度に相手にしているにも関わらず饒舌に昔話をしながら戦闘を繰り広げているティオス。反対に、聞いているだけの彼らの方が息が乱れていた。

「んな話を俺たちは聞きたいんじゃねぇ」
「そうだ・・・スプリガンの子供ってのがどいつなのか聞かせろと言っているんだ」

その言葉を聞いた瞬間、ティオスは呆れてしまった。肩を竦め首を振るティオス。彼は大きなタメ息を付いて話し始める。

「お前らさぁ、察しが悪すぎるよなぁ」
「何?」
「俺がなぜこんな下らない昔話をするか、答えは明白だろう」

仮にも自分が所属している国で長きに渡って語り継がれている昔話を下らないとバッサリ切り捨てるティオス。彼のその無神経さに苛立つ気持ちもないわけではないが、それを気にしていられるほどの余裕がないのも事実。

「黒魔導士の子・・・それが厄災の魔導士、オーガスト・V・ドラグニルだ」
「「「「「!?」」」」」

その告白は彼らの中に大きな衝撃を与えた。魔導王の異名を持つ男がゼレフとメイビスの子・・・それだけでも十分すぎる衝撃なのに、ティオスの言った彼のフルネームが困惑の大きな要因であることは間違いない。

「ドラグニル?」
「ナツさんと同じ苗字?」
「どういうことだ?」

Vは妖精の尻尾(フェアリーテイル)の初代マスター、メイビス・ヴァーミリオンのVであることは容易にわかる。だが、なぜオーガストの苗字がドラグニルになるのか、それが検討もつかなかったのだ。

「そういえば、このことを知ってるのは多くはないんだったな」

その反応を見てあることを思い出したティオス。彼はニヤリと笑みを浮かべると、語り出した。

「黒魔導士とナツは兄弟だ。しっかりと血の繋がったな」
「「「「「!?」」」」」

その告白に雷が降ってきたかのような衝撃を受けた。だが、それがすぐにおかしいと感じた者もいた。

「ナツは15年前に親代わりのドラゴンが目の前から消えたと言っていた。その頃は子供で今は成人している・・・ゼレフの兄弟っていうのには、ちと無理があるんじゃないか?」

ゼレフは400年前からずっと生きている存在。仮にナツが血の繋がった兄弟だと仮定すると、あまりにも年が離れ過ぎてしまうのではないかとラクサスが問う。すると、それを待っていたかのようにティオスは即答した。

「残念だが、イグニールが姿を消したのは15年前じゃないんだよな」
「は?」
「エクリプスの扉は知っているだろ?」

ゼレフが開発した時を繋ぐ扉、エクリプス。かつて未来のローグが大騒ぎを起こすきっかけとなってしまった苦々しい記憶もあるそれを、忘れるはずがない。

「今から400年前、竜王祭が開かれた。人との共存を望むドラゴンとそれを拒むドラゴンの戦い。だが、それはアクノロギアの登場により勝者なき終焉を迎えた。
それで話が終わればよかったんだがそうはいかなかった。力を付けすぎたアクノロギアは誰にも止めることはできなかったんだ。
やがて一国をも消し去るほどの力を手に入れた奴を倒せるのは同じドラゴンしかいない。だが、当時はすでにドラゴンたちの力は無に等しいものだった。
だからドラゴンたちはある作戦を立てた」
「作戦だと?」
「そう、それは未来に自分たちが使う滅竜魔法を修得させた滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)を送り出すこと」

その時選ばれたのがナツ、ガジル、シリル、ウェンディ、グラシアン、スティング、ローグの7人。彼らはナツ以外天涯孤独の身となっていたことから選ばれた。ナツにはゼレフがいたが、当時の彼は兄であるゼレフの言うことを聞かなかったため、ゼレフの友人であるイグニールに預ける形を取ったのだ。

「ドラゴンたちは滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)たちの体内に入り、エーテルナノが高いこの時代においてアクノロギアを倒すために準備をしてきた。15年前、魔法を教えてくれたドラゴンたちがいなくなったんではない。400年前からたどり着いたのが15年前の世界だっただけだ」

かつてバトル・オブ・フェアリーテイルにおいてナツとガジルが出れなかったのは体内にドラゴンがいたこと、そして時代を跨いだことにより年齢がうまく識別されず術式に引っ掛かってしまった。

「だから黒魔導士とナツが兄弟であっても何ら不思議はない。ナツは時を越えたことにより、周りからはこの時代の子供と勘違いされただけだ」

ナツとゼレフが兄弟・・・それを知ったことにより彼らの同様は大きかった。だが、それを気にしない者もいる。

「それがなんだってんだ」
「ん?」
「ナツが誰と兄弟だろうと関係ねぇ。あいつは俺たちの大切な仲間だ」

血の繋がりなど関係ない。それ以上の深い絆で結ばれた仲間たちがいる。ラクサスのその言葉を聞いたスティングたちは、心なしか落ち着いたように見えた。

「仲間か・・・それを思いすぎたがために、オーガストは厄災の魔導士と呼ばれるようになったんだがな」















厄災の魔導士・・・その噂は年を日を追うごとに広がっていった。たくさんの尾ひれをつけて。

「厄災の魔導士ってのは普段から俺たちを監視してるらしいぜ」
「悪いことをするとそれが何倍にもなってこの8月に跳ね返ってくるんだと」

その噂の大半は帝国側から出されたものだった。それは、国の繁栄を望んでいたオーガストならではの策略で、次から次へとハマっていった。

「陛下はそいつを改心させるために国を空けているらしい」
「皇帝陛下でも時間が掛かるのに、俺たちじゃどうしようもないじゃねぇか」

イシュガルによく渡るゼレフは実は悪を退治するために動いているのだと流し人々の信頼を得る。しかも絶対的な悪と思われている彼をあえて改心させ、仲間にしようとしていることにし、懐の深さを大きく見せようとした。

「陛下が戻ってくるまで俺たちにできるのは、祈ること」
「普段から慎んだ行動を取ること」
「そしてウソをつかず、正直に生きること」

恐怖の月を乗り越えるために人々は己の行動を改めた。よりゼレフに従順で、悪事を決して許さない。それが恐怖の月、厄災の魔導士の物語。
















厄災の魔導士オーガスト。彼の目の前に伏せている5人の男たち。

「全滅・・・魔女の罪(クリムソルシエール)が全滅したというのか・・・」

あり得ない出来事に倒れているジェラールが困惑している。そんな彼をオーガストは静かに見下ろしていた。

「こいつ・・・」

オーガストを見上げようとしたジェラール。だが、それを阻むように彼に頭を踏みつけられた。

「貴様はかつて陛下を信奉していたな。なぜ陛下と戦う道を選んだ」
「・・・光を・・・手に入れた。俺の闇を照らす・・・心の光を・・・」

脳裏に浮かび上がる緋色の女性。彼女を思い出しただけで彼には気力が満ちてきた。

「光は正義か?闇は悪か?浅いな」
「!」
「陛下には一人の息子がいた。強大な光の力を持って生まれた子供だった」

ゼレフに子供がいたことに衝撃を受けるジェラール。その子供が目の前にいる老人だと知ったら、彼はどのような反応をしたのであろう。

「だが・・・その子供は誰からも愛されることなく、やがて光と闇の間をさまよい無の境地に達した。光と闇に善悪など存在せぬ。正義があるとすればそれは愛だけかもしれぬな」

そういい残しその場を後にするオーガスト。トドメを刺すことすらされなかったジェラールは悔しさで拳を握り締めた。


















「黒魔導士の子供・・・それを倒せるのは、真実の愛を知るものだけだろうな」

ニヤリと笑みを浮かべるティオス。アルバレスの二人の戦士を前に、果たして活路を見出だすことはできるのだろうか。


 
 

 
後書き
いかがだったでしょうか。
まぁだいたいこのくらいの感じのストーリーなら合格なんじゃないですか?と思ってみたりする。
次はバトルが始まろうとしているところにも視点を向けていこうかな?メインはティオス戦なんだろうけど。 
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