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ソードアート・オンラインーツインズ・リブートー

作者:相宮心
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SAO:tr8―ビーストテイマー―

 
前書き
はい、当たり前になってしまった久々の更新です。なろう時代からまるで成長しませんね。ほんと、すみません。

またぼちぼち更新して行くんでよろしくお願いします。もはやこれがフラグですよね、ほんとすみません。

ハーメルンにも読んで欲しいなみたいな思いもありつつあります。思うだけでやめるかもしれません。

ふわっとしてますが、続きをどうぞ。 

 
「キリト君! キリト君ってば!」

 アスナは悲鳴にも似た叫び、床に転がった兄に呼びかける。
 兄はボスを倒した瞬間、力尽きる様に倒れてしまったのが原因なんだろうけど

「大丈夫だよ、アスナ」
「でも! キリト君が死んじゃったら……」
「落ち着きなよ、それこそ大丈夫だって。消滅していないんだったら、きっとそのうち起きるよ」

 HPバーも尽きていないのに倒れたってことは単に疲れてしまって気を失ったということだろう。
 短時間の間、兄は全ての力を搾り取る様に目に止まらない二刀の連撃技でボスを倒すことに成功した。だけど、ボスを倒す時には兄のHPの赤ラインが数ドットの幅しか残っていなかった。
 結果的に勝つことができた、そして生きている。でも剣撃が一秒でも遅れていれば、兄は死んでいたのかもしれない。一歩間違えれば死に繋がる戦い方をしていたんだ。
 そういう意味では、アスナが涙目になって心配していることが痛いほどわかっていた。兄なら大丈夫だと信じていたとはいえ、私も兄を失う未来を想像したら怖いわけがない。
 とにかく無事で良かった……。全く、兄の癖に憎たらしいし羨ましいよ。未来のお嫁さんに心配してもらって。ほんと、憎らしいよ。

「それじゃあ、兄のことよろしくね」
「え、キリカちゃん?」
「私は起きた時の兄のドヤ顔が見たくないので先に帰るわ。今日のMVPは兄で間違いないし、アクティベートも主役の兄に任せてもらおうことにする」

 本当は兄に無茶し過ぎだと説教したいところではあるが、私の言いたいことはアスナも同じだからアスナに全部任せてもらって、せっかくだから兄にはアスナと良い雰囲気にさせようという妹のお心遣いのために一足早く帰りましょうかね。

「ドウセツも帰る?」
「そうね」

 特に語らず、ドウセツは私と共にボス部屋から出ようとした時だった。

「キリカ」

 クラインに呼び止められた。
 ……やっぱり呼び止められるか。絶対に聞かれることがあるからさっさと帰ろうとしていたのになぁ…………駄目経ったか。
 この後、クラインが何を言うのか、予想ついている。

「先に言っておくけど、私はクラインに伝えるものは何もないからね」
「んなわけねぇだろ! 少なくとも俺はキリカに三つ言いたいことがあんだからな!」
「三つもって……多いなぁ……」

 流石に、私のあの動きを不自然と見えるのは仕方ないのかもしれないし、そうなると最低でも兄とアスナも勘づいている可能性がありそうだ。
 三つもあることに関して言えばちょっと想定外だったけど、どうせ私の予想が外れることはないのだろうな。

「とりあえず一つ目であろうクラインの言いたいことはさ、兄が使っていた『二刀流』のことだよね?」
「ああ、そうだ。キリカは知っていたのか?」
「いや、知らなかった。……ただ兄が何かを隠していることはわかっていたんだけど……それがあの『二刀流』だったとはね」
 
 グリームアイズにとどめを刺す、目にも止まらないあの連撃は間違いなく『二刀流』としてのソードスキルだった。
 ソードスキルを使えるってことは、武器スキル系統の一つでもある。ただ、この二年間で兄の様な二刀流のソードスキルを使ったプレイヤーは誰一人も存在しなかったはずだ。
 となると……。

「あの『二刀流』は兄が直接聞いた方が早いと思うけど、私は兄の『二刀流』はドウセツの『抜刀術』や血聖騎士団の二強が使っている『神聖剣』と『波動刃』の分類に入る『ユニークスキル』だと思うよ」
「……まあ、そうだろうな」

 クラインは納得する様に頷いた。クラインも兄だったら『二刀流』を習得していて、それが強力なスキルならば出現条件を公開しているはずだろうと思ったからだろう。
 この世界は片手剣や片手槍、片手斧に加え、細剣、両手剣といった基本的に条件が緩い武器系統スキルが存在する。
 それとは別に、出現の条件がはっきり判明しておらず、ランダム条件になっているエクストラスキルと呼ばれているものがある。クラインのカタナや私の薙刀がそれに分類されている。ただ、ランダム条件と言ってもそれほど難しくないのも存在している。曲刀をしつこく修行すればカタナスキルを習得できるらしく、私の薙刀も両手槍か斧槍を何回も振っていれば習得することができるのだ。
 だけど稀に、自分専用のスキルである『ユニークスキル』が存在しているらしい。私が挙げた四人のプレイヤーがそれに当てはまるらしい。
 いや、実際に言えば私を含めた五人になるけどね。

「そんで二つ目なんだが、薙刀スキルの『戦刃乱舞』をやった後の“あの回避”はなんなんだ!?」
「あれはあれだよ。ほら、私が回避上手だってこと知っているじゃん?」
「おいおい、誤魔化そうとしても無駄だからな。確かにキリカは回避上手いのは知っているけどよ。あれは人間の限界を超えた速さだ。何か使ったに違いねぇ」

 ぐっ……流石に誤魔化しきれないか。私も疑いは免れない覚悟でやったんだから自業自得ではあるものの…………ついに言う日が来るのね。
 まあ、相手は信頼できる一人なんだし、実はドウセツにも言っているからそこまで秘密主義を守っていないんだよね。

「その通りだよ。私が使用したのは『絶対回避』という武器系統のスキルというよりかはアシスト系に分類される必殺技みたいなものだよ。おそらく習得しているのは私だけかもね」
「てことは……キリカもユニークスキル持ちか!? い、一体、どんな効果だ!?」
「名前の通り一度だけどんな攻撃をも回避させるスキル。使用後は一分間使えないけど、一分経てば使える様になる結構なチート技だね」

 しかも強く念じるだけでそれが発動できるのだから、誰かに疑われなければ私はゲームクリアまで一生隠す気でいた。そしてこんなチート技を他が持っているのならもっと楽に攻略できていただろうと考えると、私の『絶対回避』もユニークスキルの一つなんだろうと考えに至ったわけである。
 なのだが、実際はどうなんですかね茅場晶彦さんや。 
 
「で、出現条件は?」
「うーん……ユニークスキルじゃなければ…………ひたすら回避接すれば習得できるかも?」
「どれくらいやれば把握できないのか?」
「うーん……とりあえず回避を手に入れたい時からずっとやっていて、気がついたら手に入れたって感じ?」
「それってわかんねぇのと一緒じゃねぇか」
「だね。ぶっちゃけると良くわかってない」
「なんじゃそりゃ」

 ある日、何気なくスキルウインドウを開いたら『絶対回避』という名前が入っていたのだ。心当たりがあるとすれば一つ思いつく。クラインには良く言ってめちゃくちゃ言っていたけど、一時期自暴自棄気味に攻略に励んでいた時に習得できた回避力の可能性が高い。それでも習得方法がハッキリしていなければ一歩間違えれば死ぬことが何度もあったのでオススメしないと判断したので、今日までドウセツに教えるまで隠し続けてきた。
 だって、無暗に話して話題にされるのは嫌だし、確証も持てない物を教えて習得できなくて恨まれるのも嫌なんだもん。

「そういうわけだからさ、私のスキルのことは広めないで欲しいんだよね。兄はもう止めようがないけどさ」
「そこは兄の二刀流も広めないで欲しいって言うところだろ」
「私のはただの回避が神的に上手なだけだと思われそうだけどさ、兄のあの二刀流は隠しようがないでしょ。しかも最終的に一番目立ったのは兄なんだから」
「それもそうか。ま、キリトには苦労も修行だということだな」
 
 いい感じで話が逸れたから、このままクラインが疑問に思う三つめの疑問を解決させてもらおうかな。

「それでクラインの言う三つめの疑問は流石に身に覚えがないんだけどさ」
「そんなことねぇだろ。ドウセツに伝えた時におめぇ『ジョーカー』って叫んだだろ? あれもユニークスキル的な特別なものなのか?」
「あーそんなことだったのか、別に対したことじゃないよ。あれは私とドウセツとで編み出したオリジナル連携技。やり方は簡単、敵の攻撃を回避しつつ後ろにいる味方の攻撃を敵に当てる様に回避する。これによりスイッチよりもアルゴリズムを崩しやすくなおかつ迅速に敵を倒すことも可能。ね、簡単でしょ?」
「どこかだ!? それ味方の攻撃を回避できねぇと自滅するじゃねぇかよ!」

 全く持ってその通りです。簡単ではありません。見ないで察しして回避することがどれほど難しいのかを私はドウセツに力説したいわよ。
 ……でも、結果的には成功しちゃっているんだよね。きっとこの悩みは誰も共感してもらえないな。

「そんじゃ三つめ答えたし、私は先に帰るからね。兄のユニークスキルは起きたら本人に訊いてみたらいいと思うよ」
「おい、どこ行くんだよ」
「来た道を帰る。アクティベートは主役の兄に任せるよ」

 私はそのまま振り返らずに入口の扉を出てそのまま部屋から離れさせてもらった。

「お待たせ、ドウセツ」
「別に待っていないわよ」
「そう言いつつもボス部屋の入口で待機しているよね。もう、ツンデレ屋さんだから」

 このこの~っとノリで肘をつつくとドウセツは無表情で私を一瞥した後、転移結晶を取り出した。

「転移」
「ちょっちょっと! 一人でワープして帰ろうとしないで!」
 



「別に二人きりで帰り道を歩いたっていいじゃないか……」
「貴女がうざいからよ。待っていただけでもありがたいと思いなさい」
「ケチ」

 結局、私とドウセツは転移結晶を使い、とりあえずは七十四層カームデットに戻ることになった。私のプランとしては帰り道、ドウセツとラブラブデートの帰り道的なのを希望していたのだが……私が調子に乗ったせいで、それが無くなってしまいました。だって……先に帰らずに私のことを待っていたって、私のために待っているためじゃないか。何一つ言い間違えていないのに、理不尽だ。
 ……でも、それがなくても結果は同じだったかもしれないわね。
 なにせ私もドウセツも疲れが溜まっていたからだ。のんびりと帰り道を歩く気力はそんなに残っていないのだ。

「ドウセツ、この後はどうする?」
「疲れたから家に帰る」
「私もそうするよ。今日は疲れた。帰って寝る」

 でも転移結晶使うのはちょっともったいないので、まだ使わない。

「……にしてもドウセツが疲れただなんて珍しいね」
「機械じゃないし、疲れたくらい言うわよ。そもそも本来は戦うはずもないフロアボスと戦ったのよ」
「アハハ……確かに」

 今日みたいなことは稀だったんだろうなぁ……。偵察を行い、ちゃんとレイドを編成して挑んでいたらもっと楽だったのにな~。それこそ、兄の『二刀流』も披露することもなければ、私の『絶対回避』もクラインに察しつかれることもなかったかもしれないわね。
 ……でも、それは軍を見殺しにすることになったんだろう。
 そして軍を助けるために向かったものの、コーバッツを含めた軍の一部の人達が命を失くしてしまった。
 結果的にボスは倒せた。
 だが同時に救いたいと思った人を救えることができなかった。

「……後悔するのは勝手だけど、いちいち後悔し過ぎるわよ」
「……そうかもね」
「コーバッツが死んだのは自業自得よ。他は……運が悪かったとしか言い様がない。キリカが後悔する必要なんか本当はどこにもないのよ」
「…………そうかもね」

 それでもドウセツ……。

「救えなかったのは自分の非があるからとか思っているんでしょうね」
「アハハ……バレた?」
「無駄にお人好しの貴女が考えてそうなことぐらいわかるわよ」

 無駄にお人好しって、無駄つける必要どこにあった?
 でも、そうかもしれないない。ドウセツの様に割り切れたらいいんだけど、私は救えられなったことに自分の失敗、後悔、欠点として受け止めてしまう。それが他者から見たら無駄なんだろうな。
 それがわかっているのに私は必要以上に自分を傷つけようとする。それが駄目だってことも理解している。
 そうだよね。卑屈になっちゃ駄目だよね。 

「ごめん、ドウセツ。ちょっとネガティブになり過ぎていた」
「別に私に謝る必要はないと思うけど。自分で勝手に悔やんでいただけでしょ」
「うぐぅ……む、胸が痛いです……」

 ネガティブになることは少なからず悪い方なんだと思っているんだけど…………やっぱりわかっていても、何度も何度も思ってしまう自分が好きじゃないな。
 いかんね、またネガティブになるところだった。

「それでも後悔するのだったら、ずっと後悔していればいいわ。これからもずっと当たり前の様に生きていくことなんだから」

 ふと、ドウセツが発した言葉に私は胸がスッとしたような、なにか心を打たれるような衝動が走った。
 きっとドウセツは私を励まそうとして言ったわけじゃないのかもしれない。それが当たり前の様に、それは日常に一部でしかない他愛ない会話に出てくる言葉の様に言ってくれたのが…………とても嬉しかった。
 やばい……なんか涙出そうになる。こんなところで泣いたら変だと思われるね。やばいやばい、誤魔化さないと。

「……ときめいた」
「は?」
「ドウセツのその言葉にときめいちゃった……これって恋、かな?」
「気持ち悪い」
「そんなゴミを見る様な目で言わなくても!?」
「それで恋だと思うのなら、将来貴女は虫と結婚するわね」
「せめて人にしてよ!」

 涙を引っ込めることは出来たけど、その変わり必要もない罵倒を受けることになってしまった。



 なんの障害もなく、私達は七十四層の街へと戻ってきた。

「じゃあ、ここで解散だね。明日はどうしようか?」
「貴女達はいろいろと聞かれるから大人しく家の中で過ごしたら?」
「や、やっぱりそうなっちゃう?」
「私の時もそうだったわ」

 経験者は語るっていう奴ね。今はなんとも思わないけど、ドウセツも『抜刀術』という『ユニークスキル』を持っているんだから、初めて披露した時は、剣士やら情報屋やら押しかけてきたんだろうな。
 兄も私も皆にユニークスキルを披露したんだ。そんな面白い情報を今更なかったことにするわけがない。しかも、ボスを倒したから新聞の一面は確実だな。
 それでも私のはなんとか誤魔化して欲しいなぁ…………こればかりは祈るしかないね。

「せいぜい、人気アイドルの不倫騒動体験でもすればいいんだわ」
「もっとめでたいスクープに例えてよ……」
「そんなめでたいと思えるのは今のうちよ。今のうちに正しい謝罪のお言葉でも考えていたら?」
「謝罪するようなことしていないんだが!?」
「あるわよ、私に対して」
「それ個人的だし、私ドウセツにそんな不快なこと」
「なんか気に入らない」
「すげぇ理不尽!!」

 しばらくドウセツと他愛ない会話? 私が理不尽に罵られる会話を挟みながらやりくりして今日は別れることにした。

「それじゃあ、私はこれで……」
「あ、うん。じゃあね」
「またね、キリカ」

 ドウセツは別れを言うと、転移門に入ってどこかえと転移して行った。
 さてと、明日の危機をどうやって回避しようと思った時、一通のメールが届いた。

「メール?」

 てっき兄からだと思いきや、

「お……」

 送り主は過去に出会った“竜を友とする妹似の少女”からのメールだった。

「行きますか」

 送り主にメールで返し、今日は彼女と久々に会うことにしよう。
 私の数少ない……友達にね。



 それはまだ最前線が五十五層の時のこと。
 いろいろと訳が合って、私は兄と一緒に行動するようなことはなくなった。それでも兄との交流は続いている。だけど前みたいに兄が隣にいてゲームクリアを目指して攻略することはなくなった。
 この時、私はとある事情から一時期最前線から離れ、中層プレイヤーの主戦場となっている三十五層の主街区に来ていた。
 そこに目に映ったのは、数名の男たちが一人の少女に声をかけている光景だった。
 遠目で見る限り、声をかけられている少女はかなり可愛かった。世の男性が声をかけられるのは仕方がないと思うほどルックスは高い。あと、ツインテールがすげぇ似合っていて可愛かった。
 そしてその少女はどこか困っている感じがした。少なくともちやほやされてほしい感じではない。ナンパされていて困っている感じか、それともパーティーの勧誘を受けているって感じなのかな?
 ならば助けるか?
 そう思った時、少女が頭をペコペコと下げながら早足でその場から去ろうとしていた。その時に少女は一人の男性プレイヤーが身に着けているコートの袖の部分を引っ張っていた。その肝心な男性プレイヤーは意外な人物だった。

「あ、兄?」

 少女と共にこの場から去ろうとしていたのは、私と同じ攻略組の一人でもあり、私の兄でもあるキリト。その実の兄が何故、中層にいて私の知らないところで可愛らしい少女と一緒にいるのだろうか。
 …………とりあえず深く考えずに追いかけてみるか。
 私は兄と少女を追うことにした。とはいえ、追いかけながら声をかけるのもあれなんで、立ち止まったところで声をかけるよう調整はした。
 転移門広場を横切り、北へ延びるメインストリートへ足を踏み入れると、そこには兄と少女が会話をしていた。
 
「キリト」
「ん? げぇっ」

 私は兄に声をかけると、それに反応した兄がゲゲッと怪訝な顔をして驚いていた。さてはここで会うとは微塵も思わなかったな。

「な、なんでお前がこんなところにいるんだよ!」
「いや、それはこっちの台詞でもあるんだけど……まあ、事情があるからかな」

 兄との会話をしていると、兄の隣にいるツインテールの少女が不思議そうな目で私を見ていた。

「ねぇ、その子は誰っすか?」
「ああ、この子は……」

 兄が話し始めようとした時、ツインテールの少女の口が開いた。

「あ、あの、あたしシリカと言います」

 シリカちゃんか。可愛いな。

「あの、その……」

 シリカちゃんは何か躊躇いつつおどおどしながらも踏み込んだ言葉を投げかけてきた。

「き、キリトさんと親しい様子でしたが……ど、どう言ったご関係なのですか?」
「婚約者二号」
「ふぇっ!?」

 私が即答で言った嘘にシリカは顔を真っ赤にして驚いていた。ああぁ~その反応が可愛らしい~。
 なんて裕福感を味わっていると兄がどついてきやがった。

「いったっ! 実の妹にどつくとか、そんな非情なこと良くできるね!」
「うるせぇ、マジな顔して嘘つくんじゃねぇよ」
「ひ、酷いわキリト君! もしかして私のことは遊びだったのね!?」
「悪ノリもするな」
「あだっ」

 再び兄にどつかれた。そんな兄はやれやれ系主人公みたいなため息をつきながらシリカに訂正の言葉を送った。

「すまんな、シリカ。こいつはキリカ、俺の双子の妹ではっきり言えば変人だ。関わらない方が身の安全となる。それとこいつの発言は嘘しかないから気にしない方がいい」

 やれやれと言った具合にかっこつけですかお兄様ぁ? モテる男は辛いっすねぇ。なんて茶化してやりたいところだけど、なこういう会話でシリカちゃんが置いてけぼりになるのは目に見えているので、ここらで区切りをつけるために黙ることにした。私っておっとなー。

「えっと、その……双子なんですか?」

 戸惑いながらもシリカちゃんは私と兄を見比べる。

「そうそう。ごめんね、嘘ついちゃって。いやー実の兄が一緒に女の子といるからやきもきしちゃって、思わずからかっちゃった」
「やきもきなんかしないだろ」

 シリカちゃんと一緒にいたことにやきもきしながったけど、私だってヤキモチぐらい妬きますー。
 兄は呆れて断言するようなこと言うから、私も呆れ顔で返してやったさ。
 無意味に突っつき合いしているやり取りを見て、シリカはクスクスと笑っていた。

「お二人さん仲良いですね。なんだか羨ましいです」
「だってさ、キリト君」
「なんでお前は他人事みたいに言うんだよ……」

 兄は再び呆れているものの、クスクスと笑っているシリカちゃんを見て兄の唇の両端が吊り上がっていた。
 ……兄ってロリコンなのかな?
 他愛のない会話のやり取り、そこに気づかない幸福が満ち溢れそうな空気に緊張が走る声が聞こえた。

「あら、シリカじゃない」

 その声をかけられたシリカは反射的に顔を伏せた。
 私はその方へ顔を向けると、真っ赤な髪を派手にカールさせているのが特徴の女性がいた。
 私は人目見ただけで、その人に悪意を感じた。

「……一応聞くけど、シリカちゃんの知り合い?」
「いえ、違います……あの、ロザリアさん何の要ですか?」

 シリカちゃんはロザリアという真っ赤な髪をした女性に視線を逸らしながら訊ねた。

「べっつにー。ただ、森から脱出できたんだって思ったわよ。良かったわね」

 森から脱出できたってことは、通称『迷いの森』と呼ばれる北部に広大な森林地帯のことかな。確か、あそこは一分経つと隣接エリアがランダムに入れ替わる仕組みになっているだけではなく、転移結晶も迷いの森では街に戻れないどころかランダムに森へ飛ばされてしまう厄介なところだよね。
 
「でも、今更帰ってきても遅いわよ。ついさっきアイテムの配分は終わっちゃったわ。残念ね」
「いらないって言ったはずです! あたし、急いでいますので……」

 シリカちゃんは怒り気味にロザリアとの会話を切り上げて去ろうとしていた。私と兄の腕を掴んで歩こうとした時だった。

「そういえばさ、あのトカゲはどうしちゃったの?」

 ロザリアの発言にシリカちゃんは思わず立ち止まってしまう。ふと顔を覗いてみれば、唇を噛みしめていた。
 
「あらあらあら、もしかしてぇ……?」
「死にました……っ。でも! ピナは絶対に生き返らせますよ!」

 シリカちゃんはまるで悔しい思いを握りしめるようにロザリアに向けて発した。
 ……なんとなく状況を察すると、兄がシリカちゃんと一緒にいる理由も結びつけられそうだね。
 シリカちゃんとロザリアとの関係性はともかく一緒にいた。ロザリアの言動からして、いざこざとか合ってパーティーから離脱もしくはペアを解消したってところだろう。その時にトカゲであるピナが死んでしまった。
 アイテムを使ってプレイヤーが蘇生できる方法は数秒の間で使うしかない。
 そういうことを含めると、シリカちゃんはモンスターを使い魔にできる『ビーストテイマー』である可能性が高い。
 そして出会いはわかんないけど、そのピナを生き返らせる方法を兄が知っているはずだから一緒に行動しているってところだろう。この辺に関して言えば本人から詳しく聞くとしよう。
 つまりロザリアはシリカちゃんにとっての敵なんだね。
 
「つまりシリカは『思い出の丘』に行く気なんだ。でも、あんたのレベルで攻略できるわけないよね?」
「できるさ」

 嘲笑うロザリアに、兄が一歩前に出る。そしてシリカちゃんを庇うようにコートの陰に隠した。

「そんなに難易度の高いダンジョンじゃない」

 兄は問題ないけど、シリカちゃんってどれくらいあるのかな? 兄が言うってことは大丈夫でしょうけど。
 それに対してロザリアはあからさまに値踏む視線で兄を眺め回した。

「へーあんたもその子にたらしこまれた口かした? 見たところ、そんなに強そうじゃないけど」
「…………はぁ~」

 あからさまに聞こえるようにため息をついた。
 私が。

「えっと……ロザリアババァでしたっけ。ちょっといいかな?」

 私のあからさまな暴言にロザリアは当然の様にギロッと私の方へ睨んできた。

「この世界に置いて見た目で決めるもんじゃないと思うんだけど。シリカの言う通り、ピナは絶対に生き返るから。的外れで残念だったね、おばさん」

 私の挑発にロザリアは食いついた。そして今度は私に対して値踏む視線で私を眺め回すと、嘲るような笑みを浮かべて対抗した。

「絶対なんてあるのかしら? それにそんな薄い装備でダンジョンを突破できるのかしらね、お子ちゃま」

 このババァ一発殴っていいかしらね。誰がお子ちゃまだ、ボケェ。
 誰がどう見てもロザリアが悪役だし、ここはクールにかっこ良く去ることで私達には余裕があることを示し優位に立っていることを知らせようじゃないか。
 なんてバカなこと考えているけど、ここらで去った方がシリカのメンタル的に良いんだろうな。ロザリアと会話したくないから立ち去ろうとしたのに、ババアのせいで食い止められたんだし。
 とりあえず行先は宿屋で良いのかな? とりあえず宿屋に行けばなんとかなるだろうし。うん、そうしよう。

「行こう、二人共」
「だな」

 同意してくれた兄はシリカを連れて宿屋へと向かうことにした。

「ま、せいぜい頑張ってね」

 後ろでロザリアが応援してくれているんだろうけど、それは皮肉を込めて言っているのだろうか。そうだとしても、振り返る必要なんてないか。 
 

 
後書き
前回の変更点。

まずキリカのユニークスキルの性能。前よりかは使いやすくなっています。

次にドウセツのユニークスキルの名前の変更と新たに追加されたユニークスキル。その能力はまだ先になるのでその時に書きます。

そして原作でいうと黒の剣士のところにキリカも参加するという形にしました。ロザリアさん可哀想ですね(笑) 
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