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没ストーリー倉庫

作者:海戦型
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ダン梨・H

 
 これはランクアップ後の、俺とヘスティア様のちょっとした話。

「ランクアップ祝いになっちゃったね。ミノタウロス戦までに間に合ってればよかったんだけど……」
「こればっかりは、無茶な注文した自分を恨むことにしますよ」

 仰々しく受け取ったそいつは、ベルにとってのヘスティア・ナイフと同じ眷属への特注の贈り物。便宜上ガリアンブレードと呼ばせてもらったそいつは、俺の予想を一回り上回る精度で目の前に現れた。全面『不壊属性(デュランダル)』のため剣としての切れ味は特級とは言い難いが、俺からすればこれは「切れ味のある鞭」。構造故に振るえば先端の刃の速度は通常の斬撃を遥かに超えるため、技量次第で相当斬れる筈だ。
 ベルのそれと同じく神聖文字が刻まれているが、これは本人に合わせて強度が増すといベルのナイフと違い、伸縮の度合いが俺の意志と連動するというこれまたオーパーツな代物だ。その場でヘスティア様と剣の儀式を終えた剣は、名実ともに俺の物となった。

「名前はさしずめヘスティア・ソードってな!」
「ガリアンつけなくていいのかい?」
「ドッキリ武器なので、自分からネタバラシしないでもいいじゃないっすか」

 そう言いながら、家を破壊しない程度に簡単に振ってみる。瞬間、連結部分が次々に分離してガリアンソードとしての真の姿を現わした剣は、しばらく腕の動きに合わせて宙を舞ったのち、かしゃりと元の形状に収まった。芸術的なまでの出来栄えに、思わず顔が綻ぶ。

「お、ご満悦の顔だ。付き合いが短くてもそれは分かるよ?」
「ご満悦ですよ。大好きです、神様」
「お、おぉう。今日は情熱的じゃないかバミューダくん。不覚にもちょっとドキっと……いや、だいぶドキッとしちゃったぜ………もう、こんな時だけ調子のいい事言ってるようで、嘘は言ってないんだから」

 ちょっとだけいじけたような顔でそうぼやいたヘスティア様が可愛かったのは、流石に言わないでおいた。俺だって可愛い人を可愛いと思ったり美人を美人と思うことはあるが、大好きだなどと歯が浮くような事を言えるのはたぶんヘスティア様くらいだ。

 これでも、尊敬してる。本当だ。何がどうとは言えないが、この神はすごいなと思う事はそう少なくはないのだ。でも家族でもある訳だから、言いたいことだってある。

「ヘスティア様……俺たちの主神はあなただけです。だから、ベルと俺のスキル、本当の所を教えてくれるまで俺『ら』待ってますから。そんだけ伝えときます」

 そう、俺らは待っている。いつか時が来れば話してくれるだろうと思って、ヘスティアの善意を信じて、しかしいつまでも黙っていられるのが決して心地よいという訳ではない意味を込めて、俺はそう言った。ヘスティア様は一瞬ツインテールがビクンと跳ね、そして振り向いた。

「二人とも、かい?」
「前から薄々でしたけど、流石に無茶したとはいえ一か月でレベル上がったら、もう疑いを通り越すでしょ」

 ベルだって具体的にどう、ではないが「何かあるな」とは感じている。ステイタスの伸びについてエイナさんとかと話してからは多分核心に近づいてるし、そうなれば疑うべくは消された痕跡のあったあのステイタスペーパーだ。俺とて原作知識を抜きにしても、疑うべき可能性の段階は過ぎてると思う。

「………バミューダ君」
「はい」
「主神として、アドバイスだ。キミは…………」
「俺は…………」

 ごくり、と唾を飲み込み、俺はヘスティアの言葉を待った。

「梨を食べ続けるんだ!それが、君のスキルの源泉だ!」
「………工工工工エエエェェ(´゚д゚`)ェェエエエ工工工工!?」

 レアスキル『梨得人生』
・梨を食べ続けると長所のステイタスが伸び続ける。
・梨を食べなくなると効果が途絶する。
・梨の育成能力が高まる。

「という嘘だよ」
「嘘でよかったです」

 ぺろっと舌を出して悪戯っぽい笑みを浮かべるヘスティア様の両手を掴んで目を回すまでジャイアントスイングした。そのまま追及を続けることも出来たのだが……まぁ、たまにはしてやったりな顔した神様に華を持たせるとしよう。



 = =



 それからまた暫くして。

「な、なんだってー!ヘファイストス・ファミリア所属で将来有望な鍛冶師に専属契約を頼まれたから二つ返事でイエスって答えただってー!!」
「言ってない言ってない。まだ『あのさ、話があるんだけど』までしか言ってない。あと二つ返事でイエスもしてないから。一応お伺い必要でしょ。というかバミューダは何で説明してないのにそんなコト知ってんのさ!?」
「あ?俺の情報網ナメんなよ。ダイダロス特務隊に小銭渡せばその程度はティータイム楽しみながらでも耳に入るわ」
「そんな、まさかあの『ギルド職員1ダースより彼ら一人の方が優秀』と称される幻のダイダロス特務隊と契約を交わしていたなんて……!!」
「知っているのかいリリ!?」
「はい!ダイダロス特務隊とはその名の通りダイダロス街に住まう情報屋紛いの集団で、契約に値する人材を独自に見つけては自分たちと契約し、お金と引き換えに契約者に有益な情報をどこからともなく盗み出してくる謎の集団です!実はファミリアとも裏派閥とも噂される彼らの情報網を手に入れたのならば、確かに……!!」
「ヘイ、バミューダ君。専属契約の是非をファミリアに持って帰ったベルくんと違ってキミはなにを勝手に得体の知れない人たちと刺激的な専属契約してるのかなぁ?」
「なに、情報網がマジで優秀だったので逆に断る方が怖かったんですよ」

 原作要素と違いすぎてビビったのはほかならぬ俺なので勘弁して欲しい。まさかそんなホームズが雇ってたベイカーストリートチルドレン的な子供たちがいるだなんて誰も思わないじゃないの。

 さて、ベルの話に移る前の俺の話を聞いて欲しい。

 ダイダロス特務隊が俺に接触してきたのは、俺の二つ名が世間に流布されてファミリア活動が微妙にやりにくくなった頃だった。外見でベルの方が目立つからヘイト稼いでくれると期待していた俺の認識は少々甘すぎ、むしろ二人同時の最速記録ということで俺も余計に目立ってしまっていた。ファミリア入団希望が増えたのは有難い話だが、俺特有の単独行動に制限が入り始めていた。

 そんな頃だ、ハンチング帽を被った少年が俺の前に現れたのは。

『ごきげんよう、『運命の車輪(ルー・デ・フォルトゥン)』。お困りならば猫の手は如何?』

 で、興味があったのでホイホイついてくと、ダイダロス通りのとある一室に辿り着いた。居たメンバーは老若男女様々な人々。そこで俺は彼らの代表を名乗る女性と出会ったのである。彼らは驚くべきことに、俺のオラリオに入ってからの全経歴、人間関係、果てはなんと俺が『ソーマ・ファミリア』の権力闘争の裏で糸を引いていたことまで調べ抜いていた。そのうえで、言ったのだ。

『どうかな、バミューダ氏。我らの情報網、使ってみないかい?貴方がこれから出世すればするほど個人での調査は難しくなっていく以上、替わる手足が必要だろう?我々は君を高く買っている』
『ん~、その辺が分かんないよねぇ。悪用するにこれ以上ない便利情報網をさ、俺みたいな得体の知れない新人冒険者に態々売り込むの?金儲けするにしても裏で絵図を書くにしても、も少し戦力があるファミリアか、或いは大口のファミリアだって君らを欲しがってるだろ?』
『ふふ、予想通りの返答だけれど、同時に尤もな疑問だ。いいな、情報量での差に物怖じしない態度といい、実に『我々』向きだ。冒険者を辞めて尚好奇心の虫が元気なら、ぜひメンバーとしてスカウトしたいな』
『そりゃ魅力的な転職先だ。しかしまぁ、今は互いに今の話もしましょーや。俺も多大なる興味はあるんだ。当然、その気にさせる説得材料だって持ってるんだろ?』

 曰く、彼らは自分たちが情報を提供するに相応しい『条件』をそろえた人物を顧客とするが、その行動指針は「情報」というもの行き着く先を追及し続ける者だという。その過程でいずれは「情報」を発進する新世代のメディアとなりたいそうだ。その情報媒体には貴賤がないため、特定の大型ファミリアに加担することで情報の平等性が失われるとかなんとか。要約すると、手伝ってやるから未来のスポンサーになれやという事だった。同時に、断れば『断りたくなくなるようにする』であろうことを臭わせていた。
 で、悪い話ではないので乗ったのだ。
 
 ちなみにそこまで詳しい話にはヘスティア様にはしない。彼らの信頼を損ねない――というよりは俺からの義理なのだが、言葉に嘘はなかったと判断したヘスティア様は「キミに任せるよ」と疲れた顔で告げた。

 で、鍛冶屋だ。名前は言わずもがなのヴェルフ・クロッゾ。魔剣作れる魔剣嫌いである。彼とベルが契約する事に関してはメリットしかないので俺が断る理由などありはしない。ヘスティアとしても神友(しんゆう)の子供故に特段疑う様子はない。よって何事もなく普通に専属契約OKの方針で決定した。

「ちなみにヴェルフの事、どこまで掴んでるの?」
「多分、ヴェルフが心を許したら教えてくれるであろうこと全部だな。言おうか?」
「ううん、いいよ。心許してくれた時に本人から聞くし」
「じゃあリリは遠慮なく聞かせて貰いましょうか。バミューダ様のチェックに不安はありませんが、念のためです♪」
「駄ぁ目。個人情報は必要以上にバラまくもんじゃありませんっと」
「ぶぅ。けちんぼです」

 上目遣いでぶーたれるロリっ子リリのその顔は、自分の顔がどういう効果をもたらすか分かってる顔だった。悪い子だわぁ、元々悪い子ではあるけど。とりあえず梨味の飴ちゃんをプレゼントした。

「そういえばヴェルフの件に絡めてだけど、パーティどうする?引き抜きしようとする神も増えたけど、眷属希望の人もそれなりに来ちゃったんでしょ?ダメ元で出してた募集にさ」
「ん、そうなんだよなー。一応応募した連中の身辺調査をダイダロス特務隊に依頼してっから、その結果が出てから良さげなのがいたら引き抜こう。ただ、話題性で来た面子だから過大な期待はせん方が賢明だと思うがね」
「さっそく情報整理ブン投げてるね………出費はお小遣いで賄えそう?」
「将来の事を考えれば安いモンさ。何より情報の質が違う」

 ――原作にいない奴、増えたらどうしようか。などと恐れはしない。
 これはベルの物語でもあるが、俺の物語でもある。俺が変えられる部分は、そりゃ変えるさ。
  
 

 
後書き
H=ホームズはワトソンと推理合戦をやった結果二人とも推理がハズれたことがある、のH。

実はこの辺から先のダンまち知識がかなりあやふやなのでそろそろ手を引こうとか考えてたりして。 
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