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ロボスの娘で行ってみよう!

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第56話 ヴァンフリート4=2


リーファの悪辣で外道な作戦が炸裂します。

ヤンは険悪感を得るでしょうけどね。
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第56話 ヴァンフリート4=2

宇宙暦794年3月31日

■自由惑星同盟領 ヴァンフリート星系 ヴァンフリート4=2

3月27日グリンメルスハウゼン中将旗下のグリンメルスハウゼン艦隊はヴァンフリート4=2の北極氷床を持続性核融合弾で溶かした後、流体金属で覆いその海に着水した。その後陸戦隊指揮官の進言で発見された同盟軍地上基地への攻撃に10万人を超える陸戦部隊を進撃させた。

此は同盟軍基地が地下深くに隠されているために、衛星軌道上からの攻撃が不可能で有るとの見解が出たためで有った。指揮官は帝国へ逆亡命した元ローゼンリッター10代目連隊長、ホルスト・フォン・ヴァルデック少将であった。

午前6時22分ヴァルデックが号令を出し同盟軍基地への攻撃が開始されたが、散発的な反撃は有るが、殆どの攻撃は帝国軍に損害を与えられない状態で有った。暫くの戦闘で同盟側の戦闘車両は殆どが撃破され、破壊された車両からは黒こげの遺体が飛び出していた。塹壕でも吹き飛んだ兵の遺体が見受けられる状態である。

ヴァルデックは、地上での反撃が少ないのを怪しんで通信傍受を行った結果、平文で『地上施設を放棄し地下施設にて防戦せよ』との命令が出されているのが判った。

午前7時50分、地下施設を探すべく、10万の兵員の殆どが基地周辺に集まった直後。基地のある大地の地下150mに円筒状に埋められた6発の水爆が起爆した。次の瞬間突然地面が揺れたかと思うと、大地が引き裂かれ地上の全てが吹き飛び、其処居た10万を超える帝国兵や付近にある物の全てが数億度の猛火により一瞬で焼けただれ蒸発した。

その上空には巨大なキノコ雲が不気味な傘を広げていた。後に残ったのは巨大なクレーターのみであり、此処にヴァルデック少将率いる帝国軍グリンメルスハウゼン艦隊陸戦部隊は完全に消滅した。生存者は皆無であり、しかも一瞬で起こったためにグリンメルスハウゼン艦隊にすら全く連絡が行くことは無かった。尤もグリンメルスハウゼン艦隊もその時連絡を入れられる状態では無かったのであるが。

極地湖に着水したグリンメルスハウゼン艦隊は、勇戦する陸戦部隊の戦闘報告を聞きながら、優雅に朝食を食べていたが、殆どの艦隊員がそれが最後の食事になったのである。

午前7時50分核攻撃と同じ時間、同盟軍秘匿監視所からの指令により湖底に埋められていた核魚雷ランチャーから2万を超すスーパーキャビテーション核魚雷が時速200ノットで次々に放たれ、水面に浮かぶ帝国軍艦艇に襲いかかった。

まさか帝国軍も水中からの刺客が来るとは思っておらず、センサー類も水中攻撃を想定していなかったために対応が遅れ、更に着水状態からの浮上も直ぐには出来ないために、次々に核魚雷の餌食となっていく。

次々に命中する核魚雷の威力に駆逐艦や巡航艦は次々に艦体を裂かれて水中へと沈んでいく、無論人員も生身で外へ放り出されるのであるから即死である。また防護服を着た兵でも核魚雷爆発による大波や猛熱で数秒と生き残れない。ヴァンフリート4=2では、阿鼻叫喚の地獄が再現されていた。

戦艦は辛うじて生き残りが出るが、それでも艦体が穴だらけになり、多数の兵員が放射線で死んでいく。更に追い打ちをかける如く、隠匿式レーザー水爆発射機から数千発に及ぶレーザー水爆ミサイルが発射され上空からグリンメルスハウゼン艦隊に降り注ぐ。

グリンメルスハウゼン艦隊旗艦オストファーレンは相当な老朽艦が故の脆弱さが祟り核魚雷の直撃により機関部が誘爆し爆炎に包まれながら水中へ引きずり込まれていった、無論生存者は皆無であった。結果グリンメルスハウゼン艦隊1万2000隻のうち無事といえるかは判らないが取りあえずもヴァンフリート4=2から脱出出来た艦は僅か300隻程度であった。

更に最悪は生き残り艦も攻撃が次々に来る中で早急に逃げ去ったために奇跡的に地上に生き残った将兵を救助することが無かったのである。

彼等は次々に倒れていった。そして同盟軍により彼等が救助されたのは、艦隊決戦に勝機を得なかった、ミュッケンベルガー元帥率いる帝国軍艦隊がヴァンフリート星系から撤退した後であり、その時には生き残りは僅か100名足らずに減っていた。撃破時には数千人が居たが殆どが味方同士の殺し合いで命を落としたのである。彼等は、冷たい方程式に基づいた生存競争により殺し合いをしたのであった。

この後、ヴァンフリート星域会戦は後半へと移っていくのである。


宇宙暦792年9月15日

話は、リーファ・L・アッテンボロー中佐がシトレ統合作戦本部長に話を持ちかけたときに遡る。この時は未だロボス姓であったが。態々ヤン中佐の居ない日を狙っての進言だったのが不思議だったが。

「ヴァンフリート4=2ですが、彼処に基地を作るのは止めた方がいいかと思うのですが」
「中佐。何故かね?」
「確かにヴァンフリート星系はイゼルローン要塞に近くあの星系独特の条件で基地の存在を発見できないでしょう」

「ならば、尚更基地化するのが良いのでは無いかね?」
「本部長、たとえ話ですが宜しいでしょうか?」
「貴官の事だから関係あるのだろう」

シトレの言葉にリーファは頷く。
「それでは、ワイドボーン中佐に質問です。塀も門扉も無い家の玄関先に大金の詰まった金庫を放置しておく事ってありますか?ましてや隣家の住民が泥棒だったとしたら」

「まあ、普通の人じゃしないだろうな」
「と言う事です」
「なるほどな、ヴァンフリート4=2基地は帝国軍に餌を与えるような物だと言う訳か」

「本部長。そうです、態々敵に知られかねない位置に基地を作るのは壊して下さいと言うようなモノです。それにあの星は酸素が殆ど無いですし気圧も低いので、基地設営に多大な予算がかかりますからね」
「すると何処に基地を作れば良いと思うのかね?」

「一番良いのは、エルゴン星系かシャンプール星系の基地を強化し補給敞や造修敞を増設した方が帝国軍の攻撃に晒されないですし、彼処は有人惑星ですから、地上基地設営はそれこそプレハブ建築でも良いぐらいですから、同一予算でもより上の設備が構築できます」

「イゼルローン要塞から些か離れているのが難点ではないかね?」
「仰る事は尤もですが、要塞の目と鼻の先に置いて年中攻撃を受けるよりは遙かに良いかと」
「確かにそうだが、補給線の長さを問題視する者も出るやもしれんな」

「それですが、二十世紀のアメリカ海軍がマーシャル諸島マジェロ島に後方基地を作り後方支援艦隊で洋上補給した様に後方支援艦隊を増設して後方星域で補給を行えばいいでしょう」
「うむ。コスト的にはどうなるのかね、説得力のある資料があれば上を説得できるが」

「コスト的には、第一に完全気密システムや炭酸ガス浄化システム等の大気システムが最低限度で良い事。第二に即在の施設の流用が出来ること。第三に雇用問題、無人星系に基地を作っても、働くのは軍人軍属だけです、しかも衣食住を全て軍で賄わなければならない、その点有人惑星上の基地であれば、民間人の雇用も可能ですし、自宅からの通勤も可能であります」

「うむ。この資料を見る限り、同一予算であれば、かなりの基地が出来上がる訳か」
リーファの提出した資料を見ながらシトレは唸る。

「更に、余り言いたくはありませんが、利権屋共や選挙票を気にする方々にもアピールできる点が大きいのです。エルゴン星系やシャンプール星系選挙区の代議員は地元産業の活性化で相当票を取れると皮算用するはずですからね」

「つまりは、政治屋共も利用しろと言う訳か」
「そうなります。彼等だって、我々を四六時中利用しようとしているのですから、こんな時ぐらいは、精々我々の役に立って貰いましょう」

リーファは、凄まじく悪人の笑みを浮かべる。
その話を聞くシトレも悪人面である。
ワイドボーン達は呆れ顔でその二人を見ている。
此が統合作戦本部の一日である。

「では、ヴァンフリート4=2は放棄状態で良い訳だな」
「いえ、其処も使います」
「中佐、それは矛盾していないか?」

「矛盾していません」
そのトンチンカンな答えに、シトレ達の顔に困惑が見える。
「矛盾してないとは?」

「小官は別に基地としてヴァンフリート4=2を使うとは言っていません」
「おいおい、ロボス中佐、トンチのような受け答えじゃないか?」
「ワイドボーン中佐が帝国軍の指揮官だとして、ヴァンフリート4=2南半球に基地らしい地下施設が存在するとして、しかもそれが衛星軌道上からの攻撃でも破壊不可能だとしたらどうなさいますか?」

リーファが基地の位置を地図に示して質問する。

「そうだな、小官なら基地を無視して、艦隊戦で敵艦隊を星系から追いだした後で降伏勧告するが」
「質問が悪かったようですね、ワイドボーン中佐とかの一部しかそんな方法取らないですからね。ごく一般的な帝国軍の貴族指揮官だとしたらですよ」

「そうだな、ごく一般的に言えば、北極の極氷を持続性核融合弾で溶かして其処に着水させ、其処から地上部隊で攻撃かな」
「中佐、当たりですよ」

ワイドボーンとリーファの掛け合いにシトレもハッとし気がつく。
「つまり中佐は、ヴァンフリート4=2を囮にすると言う事か」
「そうです。囮も囮、帝国軍ホイホイですね、基地は吸引材と言う訳です」

そう言いながら、リーファが新たな資料をスクリーンに映す。
それには基地の規模や配置する車両や塹壕等の位置が示されている。

「なるほど、しかし、帝国軍が来なかった場合はどうするのかね?」
「その時はその時ですが、あからさまに自宅《イゼルローン》の目の前に軍事施設を作られたら潰しにかかるのが軍人と言うモノですから。引っかかるはずです」

「予算はどうするね?」
「その点は大丈夫です、基地と言っても、岩山に出入口を少し掘って基地があるように見せるだけですし、地上施設はそれこそ映画のセット状態で良い訳ですから、それに基地付近に隠匿してあるように見せる戦闘車両も廃棄車両や解体予定の車体を使えば、要るのは輸送費だけですし、地上部隊にしてみれば解体費用が浮きますから一石二鳥です」

「しかし、敵をおびき寄せて後はどうするのかね?」
「まあ、此は敵を完膚無きまでに叩き潰すので、基地の地下に核、或いはゼッフル粒子を仕掛けて攻略部隊ごと吹き飛ばします」

その言葉に皆が驚愕の表情を浮かべる。
「地上で核を使うなど無茶苦茶じゃないのか?」

「戦いは非情ですよ、敵兵の命まで考えて戦うほど同盟に余裕はありませんから。見逃した敵が次には我々の同胞を殺すのですから、完膚無きまでに叩き潰すのがセオリーです。それに有人惑星ではなく、居住不可能な星系の衛星での核爆発ですし、核地雷として使うのですから、タブーには成りませんよ」

リーファの言葉に皆が絶句する中、シトレが話し出す。
「確かに、我々は妙な軍事ロマンチズムに罹っていたようだな。中佐その他にもあるのだろう」

「はい、北極氷床についても、ボーリング或いは一度溶かしてその湖底に長期自己保存型核魚雷ランチャーを2万程設置します。此れは、同盟軍海上部隊の不良在庫が有りますので、魚雷の整備費用と設置費用ぐらいしかかかりません」

「つまり、着水した敵艦隊を下腹から狙う訳か」
「そうです、海上部隊が帝国領侵攻を考えて溜め込んだ物ですが今の所不良在庫です。しかも消費期限がそろそろ切れかけですから。解体するより遙かに利用価値がありますし、例え敵が来なくても、居住不能恒星系なら不法投棄しても誰も文句は言いませんから」

「ロボス中佐の怖さが判る話だな」
「更に念には念を入れるには、北極に近い位置に隠匿式レーザー水爆発射機を設置して、少数の人員が居る隠匿式基地からの指令で一斉攻撃を行うのが理想です」

「確かに良い策だが、無人基地、無人陣地、無人戦車が破壊されて中に人が乗っていなければばれるのでは無いか?」
「いえ。人間は配置します」

その言葉に、皆が驚く。
「ロボス中佐、貴官は将兵の命を囮として使うつもりか?」
グリーンヒル統合作戦本部次長の言葉に多くの者がいくら何でも酷いという顔で見る。

「勘違い為さらないでください。私は人間は配置すると言っただけで。将兵を配置するとは一言も言っていませんが」
「では、民間人を使うというのか?それとも捕虜かね?」

「いえいえ、そんな非人道的な事をする訳がないではないですか」
「では、どうするというのかね?」
「発想の転換です。何も生きた人間を配置する必要がないのです。つまりは宇宙空間に浮かぶ帝国軍人の死体に同盟の故障等で廃棄予定の装甲服を着させて配置すれば良いだけですよ」

その言葉に、更に皆が絶句する。
「しかし、余りに酷くないかね?」
「ナチスドイツの様に死体から石鹸作るより遙かにマシな利用法だと思いますよ」

「ヤンが聞いたら、憮然としそうな外道な作戦だな」
そう話しながら、ワイドボーンは態々ヤンの居ない日にこの話をした意図を察したのである。
「そうです、ヤン中佐なら無用な恨みを買う必要は無いと言いそうですけど」
「此は戦争だからと言う訳か」

リーファとワイドボーンの言葉にシトレが頷きながら呟く。
「確かにロボス中佐の意見が正しいと思う」

「此は戦争です。武士の情けなどしても、敵は喜ばずに馬鹿にされたと、益々敵愾心を煽るだけです。敵は同盟を滅ぼすつもりなのですから」
「そうだな」

「敵は確かに同じ人間ですが、攻めてくる以上完膚無きまでに叩き潰すのが、トータル的に犠牲を減らす方法だと思います。殺気《やるき》のある相手に友愛の心で向かい合っても一方的に殺されるのがオチですから。敵に犠牲を強いて侵攻することが不可能な状態まで持って行きます。私は鬼と言われようと悪魔と呼ばれようと、この作戦を完遂するべきだと思います」

シトレは暫く考えた末に作戦案を採用することを決めた。
「うむ。判った。その作戦案を持って帝国軍の誘因と撃滅を行おう」
このシトレ元帥の言葉により、ヴァンフリート星系は帝国軍の阿鼻叫喚の地獄とかしたのであった。

リーファは、心の中で、ラインハルトを消し去るためなら、『自分は血まみれでも悪魔で良いよ』と呟いていたが、この翌月の結婚式で本当に血まみれリーファになったのである。
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57話がヴァンフリート星域会戦後編です
現在執筆中ですが、明日以降になりそうです。
 
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