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98部分:イドゥンの杯その四


イドゥンの杯その四

「彼女が来た時と同じ様にな。影を残さず」
「去ったと」
「今そう考える。どうやら逃げられてしまったようだ」
「ですがまだ」
「ここに潜伏している可能性も」
「それもあるのもわかっている。ここは警戒及び捜査を続けよ」
「はっ」
「そしているならば何としても探し出すように。いいな」
「わかりました」
 こうして再び捜査が為されることになった。だがトリスタンにはわかっていた。クンドリーはもうここにはいないということに。そして次に何が起こるのか考えていた。
「私の技術を使って何をするつもりなのか」
 それをまず考えていた。
「おそらくよいことには使わないだろう」
 まずそれははっきりとわかった。よきことに使うならば資料を持ち逃げして逃走したりはしないからだ。ここからしてよからぬものを感じていた。
「では何に使うか」
 次にそれを考えた。
「生物兵器か」
 第一に考えたのはそれであった。
「それが妥当か」
 それ以外にも考えてみたが思いつかなかった。どちらにしろクンドリーの持ち去った資料がよからぬことに使われることだけはわかった。そしてそれを防ぐにはどうすればよいのかも考えはじめた。
 皇帝のいるバイロイトに赴き事情を話そうとも考えていた。その矢先であった。
「王よ、一大事でございます!」
「どうかしたのか」
 執務室で政務をとっていると家臣の一人が慌てて部屋に入って来た。
「バイロイトが滅亡しました!」
「何っ」
 それを聞いて思わず声をあげた。
「滅亡だと」
「はい」
 家臣はまだ慌てていた。落ち着きを取り戻してはいなかった。
「文字通り。惑星ごと」
「馬鹿な」
 これはトリスタンにとっても信じられないことであった。
「惑星ごとだと。崩壊したというのか」
「はい、バイロイトは完全に破壊されました」
 慌ててはいたが嘘を言っているのではないことはよくわかった。彼の目にも様子には嘘も芝居も全くなかった。それでこのことが事実であるとわかった。
「完全に跡形もなく」
「どういうことなのだ」
「ニーベルングが反乱を起こしたのです」
「ニーベルング元帥がか」
「はい、突如として。そしてバイロイトを襲ったのです」
「艦隊による攻撃ではないな」
 それはすぐに察しがいった。
「艦艇による攻撃では。惑星の地表を破壊することは出来ても惑星そのものを破壊することは出来ない」
 科学者としての知識がそう語らせていた。
「今我々が持っている艦艇ではな」
「その通りです」
 家臣もそれを認めた。
「では一体どの様にして」
「新しい兵器によってです」
「要塞か?移動式の」
「いえ、違います」
「では何だ」
「竜です」
 家臣は震える声で語った。
 
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