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聞いた話

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第三章

「好きだ」
「職業野球の方も」
「好きだけれどな」
「そうですよね」
「それがどうかしたのか?」
「いえ、何でもですよ」
 宮家は少し小声になって水野に話した。
「水原が戻って来るそうですよ」
「ああ、シベリアにいた」
「水野さんもシベリアでしたね」
「最近までいたんだよ」
 それでこの前就職したのだ、実際に。
「寒かったぜ」
「こっちは暑かったですよ」
 フィイリピンはと言う宮家だった。
「逆に」
「そっちはそっちで大変だったな」
「食いものもなくて」
「そうだったな」
「はい、それで水原がなんですよ」
「こっちに戻って来るんだな」
「それで野球の方にもです」
 日本に戻って来るだけでなくというのだ。
「戻って来るみたいですよ」
「そうか、それはよかったな」
 水野は宮家のその話を聞いて笑顔になって言った。
「俺は実は巨人は好きじゃないがな」
「あっ、そうなんですか。俺もですけれど」
「明治だからな」
「大学がですね」
「あそこは早稲田とか慶応が多いからな、しかし慶応でも水原は見ていて恰好よくてな」
 それでとだ、水野は宮家にも話した。
「水原は好きなんだよ」
「じゃあその水原が帰ってくるならですね」
「嬉しいな、あいつは何しても絵になる奴なんだよ」
「リンゴ事件とかですね」
「御前もそれ知ってるんだな」
「俺法政なんで」 
 宮家の大学はそこだった。
「山本さんの」
「ああ、南海のか」
「それで南海も応援してますけれど」
 宮家は自分のことも話した。
「それで巨人は嫌いなんですよね」
「俺と一緒だな」
「はい、そうですね」
「まあそれは阪神か」
「あそこ応援してますか」
「藤村見てたら気に入った、あいつも絵になる」
 それでというのだ。
「好きなんだよ」
「藤村もいいですよね」
「そうだよな」
「東京にはあまり来ないですけれどね、二人共」
「それは仕方ないな」 
 どちらも本拠地は関西にある、それでは仕方なかった。
「大阪とか甲子園じゃな」
「仕方ないですね、それで水原に話を戻しますと」
「戻って来るんだな」
「はい、巨人に」
「そうか、見に行けたら見に行きたいな」
 水原の試合をとだ、水野は心から思った。だが彼はこの時期多忙でありそのせいで球場に足を運ぶことが出来ず。
 その話をだ、また宮家から聞いたのだった。
「戻って来たそうですよ、水原が後楽園に」
「遂にか」
「はい、それで」
 宮家は自分が聞いた話を水野に話した。二人共会社のビルの中で話している。空襲を生き残ったコンクリートのビルの中で。
「水原只今戻ってきましたって」
「言ったのか」
「復員したその恰好で」
「そうか、それは絵になるな」
 水野は宮家のその話に笑って言った。 
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